リモート・オブ・ダディー
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貴重なお時間に見合いますように……
私達を乗せたタクシーは仁科の家の前で停まる。
「いい加減覚悟決めなさい。大丈夫。少しは自分の推しを信じなさい」
「……」
「今日は私以外におまけで彩華もいるんだから、何かあっても彩華がなんとかしてくれるわよ。きっと」
「え、私も一緒に行くんですか?」
「当たり前でしょ?それに、私とならどこにでも一緒に行くんでしょ?それとも私の側にはいられないのかしら?」
「そんな訳ないじゃないですか!もう、姐さんの頼みを私が断れないの知ってるくせに。もう、分かりましたよ。私も付き合います」
「ヨシ。準備は出来たみたいね。さぁ、降りるわよ」
私達はタクシーを降り仁科の家をじっくりと見上げる。
「それにしても、仁科ちゃんの家って大きいですねー。まさに勝者の家って感じがしますね」
「本当だね」
最後に妹と別れた時も丁度この家の前だったけ。
あの時も思ったけど本当にデカい家だ。でも不思議とこんな豪華な家で暮らすことになる妹の事を羨ましいとは思わなかったんだよな。なんでだろう?今の私でも流石にこのレベルの家は建てられないだろうな。
「あの、引き返しません?私、やっぱり」
「仁科。大丈夫だから。」
「……分かりました。行きましょう」
私達は門を通り、仁科が自分の持っている鍵で玄関の扉を開ける。
「…………ただいま。…誰かいたりする?」
すると声を聞き慌てて駆けつけてきたのは母親らしき女性だった。
女性は仁科の目の前に近づくと、突然、何も言わずにいきなり仁科の頬を平手打ちする。
私と彩華は突然の出来事に思わず唖然とする。
帰る前、私はなんとなーくだけどイメージはしていた。家出していた娘が突然帰ってきたら親はどういう反応をするのかと。もちろん、怒られるパターンは想像していた。
それなら私が合間をとって話をすればなんとかなると完全にたかを括っていた。
が、現実はそう簡単にはいかないらしい。
「……早く着替えてきなさい。そんな格好お父さんがみたらただじゃ済まないわよ」
まさか、家での服装まで指定されているのか。これは、色々と想像以上だな…
「もしかして、今日お父さんいるの?」
「貴方のあの写真を見てから、近いうちに必ず帰ってくるってそう言ってから仕事は全部リモートで済ませていて、貴方の事をずっと待ってたのよ」
やっぱり写真を見ていたらしい。これは予想通り。でもそれ以外は想定外。
話を聞くに父親は何よりも仕事を一番に考えているとの事だったから、平日にいきなり家に行けば父親ではなく母親とだけ話ができると思っていた。この手の話は父親より母親の方が許諾を得られやすいと勝手に考えていたからだ。だけど母親の方も話が通じる感じじゃないしまさか、父親の方もいるなんてのは結構な予想外だ。考えられた気もするけど…
「……あのね!実は、私、話さないといけないことが…」
「いいから早く着替えてきなさい!話はそれからよ」
「……うん」
仁科は言われた通り自分の部屋に向かってしまう。
「それと、他所のお二人はお帰りください」
マズイ。
なんとかしてこの場に残らなければ。ここを離れたらもう二度と皐月とは会えない気がする。
「いや、そう言うわけには」
「これは私達家族の問題ですから他人を巻き込むわけにはいきませんので。どうぞお引き取り下さい」
「だからですね、もう、巻き込まれてるんですって…」
「そんな事は知りません。いいですから、さっさとお帰りください!」
「ですからっ!……」
私が仁科の母親と文字通り体と体で押し問答をしていると、後ろから子連れの女性が出てくる。今度は少し若い。妹よりは10歳ほど違うかもしれない。
「ねぇ。どうしたのお母さん、騒がしいけど誰か来てるの?って……。え?その隣にいる人ってもしかして!ウソ、どうして!!」
今度は私の方に母親を退かしてこの女性が私の前に来る。
もしかして、次は私が打たれる番?そう思った瞬間、顔に当たると思った手は私の手を優しく握る。
「モデルの姫乃さんですよね。私、大ファンなんです!握手して下さい!ってもう握っちゃってるけど。わーー本物だー。テレビとかで見ても十分綺麗なのに本物はもっと美しいですね。同じ女とは思えない。やっぱりリアルは違いますねー。…ウソ。後ろにいるのって樹さんですよね?」
「ええ。そうですけど…」
「マジですか。え、お二人揃って会えるなんて私感激ですよ!だってね、私お二人が出演してるドラマ大好きなんですよー。あのコンビをこれまた間近で見れるなんて、本当に嬉しくて、とにかく最高です!!」
この人もしかして…
「ゴホンッ。涼音、落ち着きなさい」
「あ、スミマセン。ちょっと興奮しちゃって」
「娘が申し訳ございませんでした。要件が済みましたならこれでお帰りください」
「いいえ、まだです!とにかくお父様と直接お話する事は出来ませんか?無茶を言ってるのは分かりますがそこをなんとか…お時間はいただきません。少しで構いませんのでお願い出来ませんか?それが済みましたら直ぐにでも帰りますから」
「それは出来ません。ッとにかくお帰りください!」
「いいんじゃない?別にそのくらい」
「涼音。そんなのお父さんが許す訳ないでしょう。そんな事したらあなたにだって何を言われるか分からないわよ」
「大丈夫だって、お母さん。この人達は私達の知らない皐月の事を知ってるんだよ。せっかくそれを聞くチャンスなんだからさ。そんなの私も気になるしお父さんだって興味がない訳じゃないだろうし…それに、宏太と舞雪も気になるよねー?」
「「うん!」」
涼音のそばにいる子供達も同時に頷く。
「ほらね」
「でも……」
「大丈夫。お父さんの所には私が連れていくし、話もしてみるから。だからお母さんは心配しなくていいから」
「……もう、好きにしなさい」
それだけ言うと母親はリビングらしき場所に戻って行く。
「宏太と舞雪もおばあちゃんと一緒に行って遊んでもらいな」
「「うん。分かった!」」
2人は本当に仲が良さそうだ。可愛い。
「それでは、行きましょうか。父の部屋までご案内しますので」
私達はお姉さんの案内のもと進んで行く。




