バーター&マーガリン
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貴重なお時間に見合いますように……
その後、私達は見事に2時間の出演と番宣を終えた。
役目を終えた私は一度控室に戻る。
すると中には、用意していた道具を片付けている仁科の姿があった。私が目に入ると慌てて片付けを済ませて帰ろうとする。
「待って、仁科さん」
「はい…」
呼び止められた仁科はこちらを見ずに足だけ止める。
「あのさ、今日の事なんだけど。…………実はさ、」
「分かってます。ダメなんですよね」
「……いや、ダメって訳じゃないんだけど……気遣ってもらうのも悪いしさ。それに、私の事より自分の時間をもっと大切にして欲しいから」
「はっきり言うんじゃないんですか?」
「えっ、いやさ、コレ結構本心のつもりなんだけど」
「はっきり言えばいいんですよ!!私はダメだって。才能が無いって。はっきり言ってくださいよ!こっちだってその位覚悟してるんですから……」
「ん?」
いやいや、ちょっと待って。
なんでそんな答えが返ってくる。
私、なんかやらかしたか? いや、楽屋の話でそんな訳がない。
だったら、私が生放送に出ていた間に誰かになんか言われたりでもしたのか?
この様子を見るに間違いない。
どこの野郎だ、皐月にちょっかい出したやつは。
こうなったら、姫乃皐月の全てをかけてでもそいつを見つけて、私が、そいつを、ジ・ゴ・クに落としてやる。
俺の中の炎がメラメラと燃え上がる。
「何があったの?」
「…………私、聞いちゃったんです」
「うん」
「別に聞くつもりはなかったんです。ただ、偶然近くにいて……」
「うん」
「それ聞いて私、納得しちゃったんですよね。自分が認めたくなかっただけで、そんなの分かってた筈の事実なのに」
「……で?」
「…………私聞いたんです」
「うん。……誰に?」
ソイツの名前を……名前さえわかれば私が必ず……
「姫乃さんと樹さんが仲良く話してるところを偶然聞いちゃったんです」
「うん。……ウェッ?」
「私はダメだって。私に才能なんかないって分かってたつもりだったんですけどね……いつの間にか勘違いしてたみたいです」
いや、俺、そんな事言ってないぞ。ってか俺が言う訳ない。
二人で話してる時だってそんな話題になった事は一度もない。なのになんで?
「ちょっと待って、私は……」
「いいんです。私も、もうちょっと早く気づくべきだったんです。姫乃さんが私に何もさせなかったのも、私を早く帰らせるのも、そういうことなんですよね?私には何を教えても無駄だから」
そんな訳ないでしょうが…………。
これは二人して何か盛大な勘違いしているような気がする。ちょっと待てよ。
一回、落ち着け。今まで私がしてきた事、全部落ち着いて思い出すんだ。
まず、彼女は私に何もさせなかったと言った。それは私の妹に変な事や余計な手間をやらせたくなかったからであって、そこに他意はない。
でも、その行動が誤解を招いたのだとしたら……。
おいおい。もしかしてだけど……勘違いしてたのは私の方なんじゃないか?
嘘だろ。
でも、よくよく考えてみるとそうとしか思えなくなってきたぞ。あの時のメモも、私を見ている時の雰囲気も風じゃなくて本気なのだったとしたら。
そして勘違いしているのはきっと私だけじゃない。
彼女も今日の会話がきっかけで勘違いしてしまっている。
あの時、私達が話していたのはあくまでも彼女の楽屋での準備に対してだ。そのとき発したダメって言葉が彼女の才能や存在を否定した発言だと思っている筈だ。
まあ、改めて私の今までの言動を振り返るとそう思うのも至極当然な気がする。
妹の一番の敵は私だったなんて……とにかく、誤解は解かなくては!
「いや、だから、私はね……」
「もう、いいです。今日でこの仕事も辞めさせていただくつもりですから。幸い、本格的に仕事する前に気づけてよかったと思います。短い間でしたがお世話になりました」
彼女は私に頭を下げると逃げるように部屋を出て行く。
「ちょっと待って!…」
私は急いで彼女を追う為、部屋の扉を開けると、同じタイミングで開けようとしていた樹とぶつかってしまう。
「ッ!姐さん!どうしたんです?そんなに慌てて?でも、慌ててくれたおかげでこうして、カラダとカラダがぶつかれたんですけど」
「彩華!皐月どこに行ったか分かる?」
「え?……………ああ。あの、付き人の事ですか?」
「そう!どこ行ったか分かる?」
「あの子ならさっき走って出ていったところをすれ違いましたけど……何かあったんですか?」
「理由は後で話す。で、どっち向かったの!?」
「私が来た方向に向かいましたから、あっちだと思いますけど…」
「あっちね。よし、ありがとう」
私は急いでその方向に向かおうとすると、手をつかまれる。
「ちょっと待ってくださいよ。何があったかは存じませんけど、この後姐さんはお昼の生放送に私と一緒に出演するんですよ。今から移動しないと間に合いませんって!」
「それは……彩華。あなたに任せたわ!」
「ヘェっ!?いやいや、無理ですよ。自分で言うのも悲しくなりますけど私は姐さんのバーターで呼ばれてるだけなんですから、私だけじゃダメですって。姐さんがいないと……」
「頼む。彩華。無茶言ってるのは分かる。でも、任せられるのはアナタしかいない。もし、なんとかしてくれたなら一つだけ、なんでも好きな事叶えてあげる」
「……なんでも?」
「ええ。私に出来る事ならなんでもする。だから、お願い!!」
「…………分っかりました。進藤さんとも協力してなんとかしてみます。でもその代わり、約束は絶対に守ってくださいね!」
「本ッ当にありがとう!」
私は彩華に抱きつき感謝の言葉を伝える。
「姐さん?!…………もう、人前ではこういうの控えなきゃいけないんじゃないんですか?……そんな事されたら、無茶な事でも頑張りたくなっちゃうじゃないですか!」
頬を赤くして照れながら私の体から離れる。
「じゃあ、後、頼んだわよ」
「ハイ」
私は樹と別れ、急いで妹の後を追う。
「よし、じゃあ姐さんの分まで頑張りますか。あ、そういえば、あの付き人の子の名前って確か皐月じゃないよね?皐月は姐さんの名前だし。なのになんで?慌ててたからただ単に間違えただけ?でも、自分の名前と他人の名前を間違えるかなぁ?姐さんがそんなミスする訳ないし。あの姐さんが仕事を飛ばして追いかけるって事はそれだけ彼女が大事って事なの??もう、あの子一体なんなのよーーー!!」
樹の声に驚いた周りのスタッフが全員コチラを向く。
「……ごめんなさい……」




