激カワさんを連れてきた!!!
閲覧感謝です!
貴重なお時間に見合いますように……
そして私は進藤さんと共に事務所に向かった。
進藤さんに案内されて部屋に入ってみると、そこには一人の可愛らしい女性が私を待っていた。
当然、俺はその女性に見覚えは無い。
ただ、何かが頭の中で引っかかっている気がして、とてもむず痒い。
私が頭の中をひたすら掻き乱していると、進藤さんが彼女の側に近づき私に紹介してくれる。
「紹介するわね。新人の仁科翼よ」
「仁科翼です…。宜しくお願いします」
「……こちらこそ宜しく」
名前を聞いても心当たりがあるわけでは無かった。
ただ、気になる事が無いわけでも無かった。
「実は彼女ね、ウチの事務所が主催の全日本美少女コンテストで優勝した期待の新人なのよ。…って、聞いてる?」
「……えっ。あっ、もちろんです。あのう、一つ質問してもいいですか?」
「うん。いいわよ」
「その名前って本名です?それとも芸名だったりします?」
「いきなり何でそんな事聞きたいのかよく分からないけど、でも良い質問ね。実は、両方なのよー」
「両方?」
「そう、仁科が本名で翼が芸名なの。でもそれにはちゃんと理由があってね、この子の本名ね、皐月っていうのよ」
まさか…………
「流石にスターの貴方と名前が一緒なのは色々と面倒事になるかもって事だから名前だけ芸名に変える事にしたのよ。でも、最初は驚いたわよ。今後、事務所を背負って立つかもしれない人物が貴方と同じ名前なんだから。まぁ、本名だから仕方ないんだけどね。ウチの事務所、皐月って名前に縁があるのかしらね?」
「そうなんですね…………」
やっぱりそうか~。
正直、これといった確証があるわけじゃない。
名前だってたまたま俺の知ってる人物と一緒だけなのかもしれない。だけど、ここまでくるとそうとしか思えない。顔だって、そう思ってみれば似てる気がするし、ってかそのまんまな気もする。
間違いない。
彼女は俺の妹だ。
妹と言っても、前にも話した様に義理の妹だ。しかも一緒に暮らしたのは1年程しかない。彼女は母方の親戚に拾われて、縁も無い俺はそのまま施設に預けられたから、今では戸籍上も他人でしかない。それだけでしかない関係の娘を妹と呼んでいいのかは分からない。それに、その頃の彼女は5歳と、とても幼かったから俺の事なんて覚えてる訳がない。
だから、アレの事だってきっと偶然に違いない。
それにしても、また彼女と会える日が来るなんて考えてもなかったな。
12年越しの再会と言ったところか。普通なら涙涙の再会でもおかしくないのだろうが、肝心の俺がこの格好だからな……正直、気持ちは複雑だ。
今までどんな生活をしてたかとか、親戚の家族と上手くやれてる?とか、好きな食べ物は何?とか色々と聞きたい事は山程あるけどそういう訳にもいかない。
俺にとって彼女が顔見知りでも彼女にとっては同じ事務所の先輩でしかないのだから。それに、会って間もない奴にいきなり質問責めなんてされたら、嫌われるに決まってる。
12年ぶりにようやく会えたんだ。
それなのに、嫌われて話も出来なくなったら俺は、姫乃皐月ではいられなくなると思う。
「でも、そんな事聞いてどうしたのよ?」
「いや、何となく気になって……。ごめんなさい。変な事聞いちゃって」
「いや、いいのよ。寧ろ、貴方が彼女に興味を持ってくれた様で何よりよ」
「エッ?それって、どういう?」
「実は、彼女に貴方の付き人として着いてもらおうかと思っているの」
「付き人ですか……?」
「そうよ。幾ら、彼女が将来有望だとはいえ、今はただの素人。このまま、現場に出すなんてとてもじゃないけど出来ないわ。だから、暫くの間付き人として貴方の側で学ばせようかと思ってね。それに、喜びなさい。彼女、姫乃皐月の大ファンなんですって。ね、そうよね?」
進藤が仁科に問いかけると食い気味で答える。
「ハイッ!そうなんです!私、姫乃さんの事、一番の推しなんです!!」
「推し?そうなんだ…。それってファンって事でいいんだよね?」
「勿論です!!だから、私、姫乃さんの付き人になれるって聞いた時本当に嬉しくって……もう、今も……こうやって、話してる事すら信じられないっていうか、そもそも推しとこうやって同じ部屋で同じ空気を吸えてるって事だけでも、私、優勝して良かったって思えるんです。
だから、これ以上もないくらい嬉しいご褒美であり、修行だと思って頑張りますのでどうぞ宜しくお願い致します」
「いやいや、ちょっと待ってね。…進藤さん。私、誰かに教えるなんて、そんな大層な事出来ませんよ。それに、付き人っていってもどんな事させればいいかも分からないですし……」
「そんな心配しなくても大丈夫よ。貴方が特別にする事なんて何もないんだから。貴方はいつも通り完璧に仕事をこなしていればいいの。それを見て彼女が勝手に貴方から学ぶものなんだから」
「いや、でも……」
「いい?付き人ってのは、人によってもね考え方が違うのよ。弟子の様に厳しく接する人もいれば、自分にとって都合のいいパシリみたいに扱う様な奴だっている。どう接するかは、あなた次第。貴方が決める事なんだから好きにやってみればいいから。ね。そういう事だから、明日から二人で上手くやってみなさい」
「……進藤さん……」
「私、これから今日中に済ませないといけない仕事があるから先に行くわね。姫乃、今日の打ち合わせ遅れない様にね」
「分かってます……」
そう言うと、私達二人を置いて進藤は部屋を去る。
半ば強引に決められた付き人関係。私は正直、どう接すればいいか分からなかった。
事務所の先輩としても、彼女の憧れの存在としても。
そして、一番の心配は12年ぶりに再会した妹とどんな会話をすればいいのか。
俺からも話しかけられず、部屋にはなんとも言えないジメーッとした空気が流れる。
ただ、こうなった事に少しだけ感謝もしている。
俺が姫乃皐月になってなければこうして会う事もできなかったのだろうから。
そんな事を考えながらどうすれば正解なのかと戸惑っていると、体感10分の沈黙の間は突如として終わりを迎える。




