ピンチの声に駆けつけて~ジャスティス・バイオレンス~
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貴重なお時間に見合いますように……
その時。部屋のチャイムが鳴った。
冴島は気にする事なくそのまま続けようとするがチャイムは鳴り続ける。
一度鳴った音は二度、三度、四度、次々と合間無く押されたチャイムが多重の音色を奏でていく。
いい加減にうるさいと思ったのかやっと私の唇から離れて冴島は玄関に向かう。邪魔をされてイライラしていたからか、チャイムを鳴らした相手を確認する事なくドアを開ける。
「うるさいなぁ!いい加減に……」
冴島が怒りながら開けた途端、少し開いたドアの隙間から凄いスピードで拳が部屋に入り込み冴島の顔面を襲う。
思わぬ衝撃が冴島を仰け反らせる。
その隙に平気な顔をして部屋に入って来る一人の女。
私はその顔を知っている。
知らない筈がない。
だって、私はあの人の事が嫌いだから。
女はそっと私の前に近づくと、はだけていた姿を気にしてくれたのか、自分が着ていたジャケットを優しくそっと被せてくれた。戸惑いながらも、私はその女の優しさに縋るしかなかった。
姫乃皐月の優しさに。
「助けてっ……!!」
私の叫びに姫乃は何食わぬ顔で当たり前の様に応える。
「当然」
姫乃はクールに自らの長い髪を手でさっと靡かせる。
「お前っ、何で此処が分かったんだ?」
痛みに耐えながらここまで戻ってきた冴島が問いかける。
私も気になっていた。此処の事を知っている人間は冴島と関係を持っている人だけの筈。でも、冴島の発言からして関係を持ってたとも思えない。
「別に特別な事は何もしていないわ。今日一日、樹さんの後をつけていただけよ」
「「えっ……」」
きっと不本意なのだろうが冴島と樹は同時に呟く。
「ちょっと引かないでよ…傷つくでしょ?樹さんが近々、冴島に会いに行く事は予想できたから私のマネージャーに頼んで色々と調べて貰っただけよ。何しろ私のマネージャーは優秀ですから」
「そもそも何でキミが彩華を助けるんだ?キミにメリットなんてないだろう!……そうか、キミは俺にやきもちを焼いていたんだね!」
「はぁ……」
「だってそうじゃないか。俺の事が好きで心配だったから彩華の事を利用してここまで来たんだろう。普段俺に対して冷たい対応をするのも照れ隠しだったんだね。嫌い嫌いは好きのうちって事だ。そうじゃなきゃ彩華を助ける理由なんてある訳が無い。でも安心して。キミが俺の物になってくれるなら彼女はもう必要ない。だからこれ以上君がこの事に関わる必要はないんだ」
息も吐かずに語りかける。
さっきまでの冴島の言動と正反対な事を悪びれる様子もなく淡々と続ける姿を樹は呆れ果てた表情で見つめていた。
ただ、その顔にはうっすらと雫がつたっていた。
「冴島さん。その言葉は本当?」
「ああ!勿論さ!だから、俺の胸に飛び込んで来なよ!!」
手を大きく広げ自信満々に姫乃を迎えようとしている。
それに応える様に冴島に近づく姫乃。姫乃の身体が触れる直前、姫乃の手が勢いよく冴島の頬に当たるギリギリで止まる。
「もう一度アンタの事ぶってやろうと思ったけどやめとくわ。今のアンタはぶつ価値すら無い!それに、今の私にアンタをぶつ資格なんて無いって気づいたから」
「えっ。どういう事だよ?キミは俺の事が好きなんだろう?何でそんな事になるんだ……あ、もしかして恥ずかしがってるのかい?大丈夫。此処には俺達しかいないんだ。おい、そこの女。早く帰ってくれないか…」
冴島は用済みになった樹を雑に遇らう。
「アンタさぁ……いい加減気づきなさいよ!此処にアンタの事が好きな奴なんて一人もいないの。後、私はアンタみたいに見え透いた嘘で人を傷つける奴が一番嫌いなんだよッ!!」
俺が言えた台詞じゃ無いのは分かってる。
「行きましょう…」
樹の手を握り一緒に部屋を去ろうとするが樹が足を止め、冴島に駆け寄る。樹はにっこりと頬を緩ませその勢いのまま、自身の思いや気持ち、様々な感情がのった平手で頬を力一杯引っ叩く。
思わず衝撃に耐え切れず床に尻をつける。
その姿には目もくれずさらりと姫乃の方に向かい告げる。
「ありがとうございます。私の分とっといてくれて。さぁ、行きましょう!!」
吹っ切れた表情を見せながら今度は姫乃の手を握り部屋を去ろうとするが、
「ちょ、待てよ!!」
強く言い放った冴島の一言に思わず足を止めてしまう私達。
「何?もしかしてもう一回叩かれたいわけ?そういえば貴方って以外とMだったもん……」
「これが流出してもいいのか!?」
樹の会話を遮り見せてきたのはスマホに映る一枚の写真だった。
そこには俺が控室で着替えている様子が写っていた。
ただ、着替えといってもそれに写っていたのは服や身体の方ではなく頭の方だったのだ……




