腹を割って話そう
支部長との賭けに勝った日の夜、俺は宿の一室で召喚獣たちのブラッシングを行っていた。
「よーしよしよし。気持ちいいかー?」
『ちゅうー』
『樹ノ幼鼠』がリラックスした感じで鳴く。
昨日『導ノ剣』は、俺が撫でたりすると召喚獣たちは喜ぶと言っていた。
なんでも俺からは召喚獣やら召喚武装やらが好む気配が出ているから、と。
今日は支部長にぎゃふんと言わせた記念すべき日だ。
ゆえにオークたちを倒すのに頑張ってくれたお礼がてら、俺は召喚獣たちにブラッシングを行っていた。
『……すぴー』
力が抜けて眠り始める『樹ノ幼鼠』。
どうやら俺との触れ合いが本当に癒しになっているようだ。
『……ロイよ』
「どうした、『導ノ剣』?」
『……いや、なんでもない』
「? そうか」
『導ノ剣』が何かに耐えるように口を閉ざす。
『――いいなあ……他の召喚獣ばっかり……』
「『導ノ剣』、今何か言わなかったか?」
『何でもないと言っているだろう』
切れ気味にそう言われた。なんであんなに機嫌が悪いんだ。
その後も俺は召喚獣たちのブラッシングを続け、それが終わったところでベッドに入って寝た。
▽
ロイが眠った後、『導ノ剣』は歯を食いしばるような思いで唸った。
『ずるいずるいずるいずるい! なんで他の召喚獣ばっかりロイに撫でられてるの!? 私だって頑張ったのに~~~~!』
『導ノ剣』のような召喚武装もロイとの触れ合いは癒しになる。
しかし『導ノ剣』の方からそれを求めるのは格好がつかない。
そうなるとロイは『導ノ剣』の世話をしてくれない。
昨日、撫でられた時に『導ノ剣』が悲鳴のような声を上げてしまったから、という理由もあるのだが……
『……こうなったら』
『導ノ剣』は最後の手段に出た。
パアアアアアッ。
『導ノ剣』が青い光を放つ。
そしてその光が収まった時、『導ノ剣』があった場所にいたのは一人の少女だった。
目鼻立ちは整っており、髪色は『導ノ剣』を彷彿させる、青みがかった銀髪。
彼女は『導ノ剣』が人に化けた姿である。
「うーん……やっぱりメルギスに似てる。なんか若いけど」
召喚武装である彼女は、製作者に性格同様、外見も似ているのだ。
しかしそんなことはどうでもいい。
『導ノ剣』は足音を殺して、そーっとロイの眠るベッドに近付く。
そしてロイの手を借り、自分の頭に乗せる。
「~~~~!」
途端に『導ノ剣』を幸福感が襲った。
(さ、さすがロイ……すっごい神気の量……! 癒される~~~~っ!)
『導ノ剣』はしばらくロイの手を借りて自分の頭を撫でていたが、だんだん物足りなくなってくる。
そして彼女は禁じ手を行うことにした。
こっそりと寝ているロイの隣に潜りこんだのである。
(あああ、これすごい。撫でられるよりすごい)
ちょっとだけならいい、と思って『導ノ剣』はロイとの添い寝を楽しむ。
しかしあまりにリラックスし過ぎて、ロイの隣で『導ノ剣』は眠ってしまった。
重要なことが一つある。
……それは少女の姿になった『導ノ剣』が、一糸まとわぬ裸だということである。
▽
……なんか暑いな。
目を覚ました俺はふと隣を見る。
「すう……すう……」
「……は!?」
なんか女の子が俺の隣で寝てる!
年齢は十代半ばくらいだろうか?
眠っていてもわかるほど綺麗に整った顔立ちをしている。髪は青みがかった銀髪。
そして彼女は服を着ていなかった。
裸の状態で、まるで恋人のように俺に抱き着いている。
いや……何だこれ。誰なんだこの子。
「……んん、ふぁあ」
女の子が起きた。
それから寝ぼけた目で俺を見て、ふにゃりと笑った。
「おはよう、ロイ~……」
「だ、誰だ?」
「へ? いや、私『導ノ剣』だよ」
「『導ノ剣』……? 嘘つけ、お前剣じゃないじゃないか」
「え? ――あ」
そこで少女は何かに気付いたように顔を青ざめさせた。
おい、なんだその『やってしまった』みたいな顔。
それから少女は諦めたように項垂れた。
「言い訳が思いつかないから白状するけど……本当に私、『導ノ剣』だよ。ほら」
少女は青い光を発する。
数秒後、少女のいた場所には『導ノ剣』があった。
「お、お前、本当に『導ノ剣』だったのか? 人間の姿になれるのか」
『まあね。あー……しまったなあ。寝るつもりなんてなかったのになあ……』
「しかも喋り方も違うじゃないか」
『……気のせいだ。我の喋り方は変わってなどおらぬ』
「もう手遅れだろ」
突っ込みどころが多すぎる。
「お前、俺に何か隠してないか?」
『……はあ。わかったよ。もう全部話すよ……』
『導ノ剣』はそう呟くのだった。