セフィラと街を散策する
セフィラが自由に歩けるようになったので、アルムの街を散策することにした。
賑やかな大通りを歩く。
そのまま広場まで行くと、大道芸人が芸を披露していた。
「わあああ、すごい! なんであんな玉に乗ってて転ばないの!?」
「!? 待ちなさい、待ちなさい、そんな、剣を三つも投げて――四つ!? そんな、あんなことして手を切らないなんて!?」
シルとイオナが大道芸に夢中になる。
オーソドックスな玉乗りや刀剣でのジャグリングでも、人間ではない二人には新鮮なようだ。
一方、同じくこの手のものはあまり見慣れていなさそうなセフィラはというと。
「……」
相変わらずの無表情でその場に立っている。
さほど興味を引かれてはいないようだ。
ふむ、そういうことなら――
「シル、イオナ、二人はしばらくここで大道芸を見てていいぞ。俺はセフィラの服とかを買いにいってくる」
「「いいの!?」」
「ああ。終わったら戻ってくるから、この広場で待っててくれ」
シルの能力があれば、分散しても簡単に合流できるので問題ないだろう。
せっかく楽しそうなシルたちに水を差すのも悪いしな。
というわけで一旦俺とセフィラはシルたちと別れる。
そのまま商業区に行きセフィラの服を買う。
最優先なのはフードつきの上着だ。ただでさえ綺麗な顔だというのに、エルフということがバレれば絶対に面倒なことになる。
セフィラの買い物はすぐに終わった。
何しろ一切セフィラのほうから希望が出ないから、店員にオススメを決めてもらって、それで決まりである。
「似合ってるぞ」
「……ありがとう、ございます」
本気で褒めたのだが、セフィラは申し訳なさそうに視線を落とした。
自分のために金を使わせたのが心苦しい、と思っていそうだ。
気にしなくていいんだがなあ。
もう少し遠慮しないでいてくれると、むしろ気が楽なんだが。
「……」
そのとき、俺はセフィラが何か見ていることに気付いた。
彼女の視線の先にあったのは屋台だ。どうやら野イチゴをたっぷり使ったクレープを焼いているらしい。
「……食べたいのか?」
「……!」
セフィラは慌てたようにぶんぶんと首を横に振った。
うん、これも遠慮してるだけと見た。
「すみません、クレープ二つください」
「あいよ!」
屋台に行って二人分のクレープを買う。そして片方をセフィラに持たせる。
「……あの、これは」
「食べたいんだろ」
「……食べられません。こんなにきれいで、おいしそうなもの」
セフィラは困ったように硬直している。
どうしてこう自尊心が低いのか。
奴隷として扱われる中でよほどひどい目にあったのかもしれない。
このまま放置してもクリームがぬるくなってしまうので、俺はセフィラに言った。
「セフィラ、口開けろ」
「え? あの――もが」
言われた通りに口を開けたセフィラに、俺は自分のクレープを押し付けた。
「!?!?!?」
セフィラは相当驚いていたが、仕方ない。こうでもしないと食べそうにないし。
「うまいか?」
「……美味しい、です。甘くて、ふわふわしていて……こんなもの、食べたことがありません」
「よかった。それ、お前のだからな。全部食べていいぞ」
「は、はい」
セフィラは慣れないクレープに苦戦しつつもそれを最後まできちんと食べた。
「……ごちそうさまでした」
律儀にそう言ってから、セフィラは俺を見上げた。
「ロイ様は……なぜ、私なんかに優しくしてくださるのですか?」
「急に何だ?」
「本来の持ち主ではないのに私を買ってくれて、足を治してくれて、服も、美味しい食べ物を買い与えてくれて……私は、どうやってそれをお返しすればいいのかわかりません」
別にお返しが欲しくてしたわけじゃないんだが。
「せめて、夜は私を使って気持ちよくなってくださればと思います」
「そ、そういうことを街中で言うな」
ドキリとしながら俺はセフィラをいさめる。
……そうなんだよな。セフィラはまだ奴隷のつもりでいる。だからきっと、俺が情欲をぶつけようとしても普通に受け止めてくれるだろう。
この大きくて柔らかそうな胸も、くびれた腰も、形のいい脚も、俺が望めば好きなだけ味わえる。
洒落にならん。俺の理性が死にそうだ。
話題を戻そう。
「俺がお前に優しくしてる理由は、昔の俺に似てる気がしたからだよ」
「昔のロイ様に?」
「俺は盗賊に両親を殺されて、故郷を焼かれて、一人ぼっちで街のスラムで暮らしてたことがある。
生ゴミを食べて、泥水をすすって、街の人間には軽蔑されてたな。お前の目が、そのときの俺とそっくりな気がした」
セフィラの左右で色の違う目は、綺麗でこそあるが荒んでいる。
「だから、放っておけなかった。それだけだ」
セフィラは納得したように言う。
「……そうでしたか。それは確かに……似ていますね」
「生ゴミを食べたりしたことあるのか?」
「はい。泥水をすすったことも、里のエルフに軽蔑されたことも」
「そうか。案外似た者同士かもしれないな、俺たちは」
「そうですね」
ろくでもない共通点ではあるが、俺たちは謎の連帯感を得た。
まあ、多少距離が近くなった気はするし今はそれでじゅうぶんだ。
さて、ここで終わっていれば話は簡単だったんだが――
「ああああああああああああっ! ロイ、なぜきみがその奴隷と一緒にいるんですか!?」
いきなり現れ、俺たちを見て叫んでいたのはギルドの支部長だった。
なんでこんなところにいるんだ……




