サファイアワイバーン
カナタと別れたあと、イオナに乗せてもらってアルムの街からヒルデ山地まで移動する。
降りたのは山の八合目あたりだ。
サファイアワイバーンは山の頂上に素を作るらしいが、イオナに乗ったまま頂上まで行くといきなり戦闘になりそうだからな。
「到着! 眺めがいいね~!」
シルは山からの景色を楽しんでいる。
「イオナ、運んでくれてありがとな。疲れてないか?」
「ふん、このくらい余裕よ」
「そうか。頼もしいよ」
「……ん」
労う意志を込めてイオナの頭を撫でる。イオナはまんざらでもなさそうにされるがままになっている。
それじゃあさっそく頂上に――って待て!
「召喚スポットがある!」
俺は思わず駆け出した。
いつもはシルに頼んで探してもらっているが、何の補助もなく素で見つけたのはシルの召喚スポット以来だ。
サイズは五十センチほどで、記憶にある限りだと『大地ノ穴土竜』と同じくらいだろうか。
「ロイ、試練を受けるの? サファイアワイバーンを先に倒したほうがいいんじゃない?」
シルが聞いてくる。
確かにイルブスとの約束の日までは時間がない。
ゆえに金策を始めてからは召喚スポットは泣く泣く無視してきた。
しかし今回は理由がある。
「サファイアワイバーンって名前からして、空中戦になる可能性が高いだろ。けど俺は空中戦がほとんどできない。けど、この召喚スポットの宿主と契約できれば何とかなるかもしれない」
要は空を飛ぶ系のスキルが得られるかもしれない、という話だ。
いちおう勝算は低くないと思う。召喚獣は場所によって出るものが決まるらしいから、この高地なら鳥系である可能性は高い。
召喚スポットのサイズも大きめなので、スキルを持っていることも期待できる。
「ロイがそう言うなら従うよ!」
「さっさと片づければ問題ないでしょ」
シルとイオナの同意を得て俺は召喚スポットに触れた。
「【我は汝との契約を望む】」
俺たちは試練の間へとやってきた。
場所は……俺たちがさっきまでいたヒルデ山地に近い。
『キュアアアアアアアアアッ!』
現れたのは緑色の大きな鳥。
大きいとは言っても、鷹や鷲より一回り大きいくらいだが。
戦意をたぎらせて睨んできていることからすると、戦う必要がありそうだ。
『キュアアアアッ!』
緑色の鳥が勢いよく突っ込んでくる。速い!
俺はしばらく防戦に徹した。
そうしているうちにだんだん目が慣れてくる。
――今だ!
「ふっ!」
『キュアッ……!?』
横から飛び込んできた緑色の鳥に、カウンターで裏拳を叩き込む。緑色の鳥は吹き飛び、地面へと転がっていった。
ここで試練が終わり、現実世界に戻ってくる。
「やったね、ロイ!」
「私たちが手を出す前に勝っちゃうなんて……さすがだわ」
シルとイオナが口々に褒めてくる。
まあ、相手はそこまで強くなかったからな。
よし、確認だ。
<召喚士>
▷魔術:【召喚】【送還】
▷スキル:【フィードバック】
▷召喚獣
煉獄ノ雌竜イオナ(力上昇Ⅲ/魔力上昇Ⅲ/スキル【火炎付与】/スキル【火炎耐性】)
水ノ重亀(耐久上昇Ⅱ)
水ノ幼蟹×2(耐久上昇Ⅰ)
水ノ幼井守(敏捷上昇Ⅰ)
水ノ幼蝦蟇(敏捷上昇Ⅰ)
天空ノ翔鳥(敏捷上昇Ⅱ/スキル【飛行】)
風ノ子蜂(力上昇Ⅰ)
風ノ幼梟(魔力上昇Ⅰ)
大地ノ穴土竜(力上昇Ⅰ/耐久上昇Ⅰ/スキル【掘削】)
地ノ子蟻(力上昇Ⅰ)×2
地ノ子甲虫(耐久上昇Ⅰ)
樹ノ蔓茸(スキル【蔓操術】)
樹ノ幼鼠(敏捷上昇Ⅰ)×3
樹ノ子百足(力上昇Ⅰ)
▷召喚武装
導ノ剣:あらゆるものへの道筋を示す。
よし、狙い通り!
『天空ノ翔鳥(敏捷上昇Ⅱ/スキル【飛行】)』というのがさっきの緑色の鳥だろう。
さっそくスキルを使ってみる。
「【飛行】!」
ふわり、と俺の体が浮き上がる。
「うおっ……」
最初は驚いたが、別に空中でバランスを崩したり、どこかに飛ばされるようなこともない。
空中を泳ぐ感覚で身体を動かすと、イメージ通りに体が空中を移動する。
おお、これは便利だな。
「ロイ、楽しそうだね! 私も一緒に飛びたい!」
シルがそんなことを言い出した。
よし、練習がてらシルを背負って飛んでみよう。
「ほら、シル。背中に乗ってくれ」
「うん!」
シルが勢いよく背中に飛び乗ってくる。軽い。ついでに、むにょん、という幸せな感覚が発生した気がする。
自分で言っといてなんだが、こいつって本当に隙が多いよなあ……
いや、別に人間じゃないから普通か。
「うわー、すごーい! あはははは!」
右に移動、急上昇、急降下などするたびにシルが後ろから歓声を上げる。
楽しそうで何よりだ。
「……」
地上に降りたらイオナが何か言いたげな目で見てきたので、今度はイオナを背負って飛ぶ。
「きゃーっ、きゃあーっ! ふふっ、あははっ」
自分も飛べるイオナだが、人に背負われるのはスリルがあるらしく、楽しげな悲鳴を上げていた。
そうこうしているうちに【飛行】スキルにも慣れたので、練習は終了だ。
本来の目的を果たすため山頂に向かうとしよう。
▽
『ガァアアアアアアアアアアアアッ!』
「さっそく出たな」
山頂に足を踏み入れた途端、青色の飛竜が怒りの咆哮を上げてきた。
サファイアワイバーン。
その名の通り鮮やかな青色の鱗を持つ飛竜である。
その鱗は高い魔術防御力を誇るほか、とても頑丈かつ美しいので貴族の屋敷の内装なんかに重宝されるそうだ。
しかし戦闘のうえで一番厄介なのが、尻尾の棘から発される毒である。
うっかり一撃でももらえば毒で弱り、サファイアワイバーンにたちまち食い殺されることになるだろう。
今の俺でも解毒に関するスキルはないので、尻尾には注意したいところだ。
「シル、頼むぞ」
「うん」
シルに剣の姿になってもらう。
「来るわよ!」
イオナの警告が響く。
『ガルァアアアアアアアアアアアアアアッ!』
サファイアワイバーンは空中に飛び上がり、ブレスを吐く構えを見せる。
山頂は狭いので逃げ場がなく、普通の獲物なら簡単に焼き殺せるだろう。しかし今の俺なら対処できる。
「【飛行】!」
スキルで空を飛びサファイアワイバーンに肉薄する。
『ガアッ……』
サファイアワイバーンは驚いたように一瞬動きを止めたが、すぐに迎撃してくる。
サマーソルト。
空中で一回転し、その遠心力によって縦に尾を振り回す攻撃だ。これを食らえば殴られるダメージはともかく、尾の棘に触れて毒をもらってしまう。
「くっ!」
咄嗟に剣を盾にガードする。
『ガアアアアアアアアッ!』
この機を逃すまいと攻めかかってくるサファイアワイバーン。
くそ、強いな!
さすがに空中戦はまだまだ飛竜に及ばない。
なら<召喚士>らしく戦うまでだ。
「【召喚:『天空ノ翔鳥』】!」
『キュアアアアアアアッ!』
『グルッ!?』
さっき契約した緑色の鳥型召喚獣を呼び出す。サファイアワイバーンの周囲を飛び回らせ、集中力を分散させる。
よし、隙ができた!
「はああああっ!」
『――ッ!?』
サファイアワイバーンの翼を斬りつけ、頭上を取ってからのかかと落としで叩き落す。
地面にはイオナが待ち構えており、すかさずパンチを見舞う。
「落ちてきたわね! 食らいなさい!」
『ガアッ!?』
脳天を殴られたサファイアワイバーンは目を回す。
「とどめだ!」
『グギャアアアアアアアアアッ!?』
最後は地面に降りた俺が、サファイアワイバーンの喉元を突いて絶命させた。
一番価値の高い鱗を傷つけずに倒せたので、きっといい値段がつくだろう。
『勝てたねー!』
「ああ。イオナ、ナイスアシストだ」
「ふふん、当然よ」
イオナがドヤ顔を披露する。
「でも、あたしが竜の姿でやっつけたほうが簡単だったんじゃない?」
「それだと傷を少なく倒すのが難しいだろ?」
ブレスも爪や牙も、サファイアワイバーンの体を大きく損傷させてしまう。
素材を売るのが目的である以上、剣で倒すのが正解のはずだ。
「それもそうね」
「わかってもらえて何よりだ。それじゃああと二体、狩るぞ!」
『「おーっ!」』
俺たちはその後しばらく、ヒルデ山地の頂上付近で他のサファイアワイバーンと戦闘を繰り広げるのだった。
「すみません、サファイアワイバーンの素材の買い取りをお願いします。三体います」
「――ええええええええええええええっ!?」
その後サファイアワイバーンを三体狩り終えた俺たちは、竜に戻ったイオナにくわえてもらって死体をふもとの街の冒険者ギルドに持ち込んだ。
サファイアワイバーンを三体も仕留め、おまけに損傷のほぼない状態でギルドに持って来たのは俺たちが史上初めてだったという。
現地のギルドの支部長がえらく興奮しながら教えてくれた。
査定額は目標額を超えて一億ユールちょっと。
素材の状態がよかったから通常より高く値がつけられた。
これにより、目標金額は達成。
ついでにもう一つ。
「<召喚士>ロイさん! あなたをCランクに認定します! <召喚士>としては現在トップですよ! おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
サファイアワイバーンを倒した功績で俺は冒険者ランクがCに上がったのだった。
Cランクといえば冒険者の中堅クラスの上位層。
頑張りが認められるのは、悪くない気分だ。




