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ロイの過去

「「乾杯!」」


 ランクアップしたその日の夜、俺とシルはグレフ村の酒場で祝杯を上げていた。


「むぐむぐ……んーっ、ロイ、この煮込み料理すっごく美味しいよ!」

「そうか? ん、確かにこれは美味いな」


 山あいの村ということでここの酒場の料理はアルムの街とは異なっている。近くに大きな川や泉があるようで、上質な川魚を用いたものが多い。また、猪や熊といったクセの強い食材を活かした肉料理も魅力の一つだ。


 しばらく酒場の料理を食べ進めていると、シルがふと尋ねてきた。


「ねえ、ロイ。ちょっと聞いてもいい?」

「なんだ?」

「ロイはどうして冒険者になったの?」

「……急にどうした?」


 俺が訝しむと、シルはこう答えた。


「昼間にギルドのお姉さんが言ってたことを思い出して。ロイみたいな<召喚士>は、他の冒険者と比べて大変なんでしょ? なのに、ロイは冒険者を続けてた。……何か理由があるのかなーって」


 ああ、普通の<召喚士>はEランクになることすら難しいっていうあの話か。

 それでシルは俺がきつい思いをしてまで冒険者をしている理由が気になったらしい。


「言いたくなかったら別にいいけど、ロイのことは何でも知りたいから」


 そう言ってまっすぐな視線を俺に向けてくるシル。


「別に面白い話じゃないぞ?」

「うん」

「……わかった。何から話すかな」


 俺は冒険者になる前のことを思い出しながら、シルに語り始めた。


「簡単に言えば、育ての親の遺言がそれだったからだな」

「遺言? それに、育ての親って?」

「俺の両親は子供の頃に殺されてる。いきなり村にやってきた盗賊たちに、他の村人もろとも皆殺しにされた」

「――!」


 俺の言葉にシルが目を見開く。


 俺にとってもっとも古い記憶は、家に武器を持って乗り込んで来る盗賊たちの姿だ。


 村に掠奪目的でやってきた盗賊たちに村人は惨殺され、咄嗟に親に物置へと押し込められた俺だけが生き残った。物置で俺はがたがた震えながら一晩過ごした。両親の断末魔と、盗賊たちの下卑た笑い声を聞きながら。


 生き残った後も地獄だった。


 盗賊たちが去ったあとに俺は逃げ出し、近くの街のスラムへと入り込んだ。ゴミを漁り、どぶ川の水を飲み、ぎりぎりのところで生き続けた。


 唯一救いだったことは、村を襲った盗賊たちが騎士団によって討伐されたことだ。

 両親はもう戻ってこないが、多少溜飲は下がった。


「そんなある日、たまたまスラム街を訪れた旅人の爺さんに拾われた。元冒険者だったけど、腕を片方なくして引退したとかで、要するにヒマだったんだろうな」


 爺さんに拾われた俺は、スラム街での生活から脱出することができた。


 山の中に小屋を建て、畑を作ったり、罠を用意して獣を狩ったりして過ごす。


 そんな生活を十年以上も続けた後、爺さんが倒れた。

 病気でも何でもない、ただの寿命だ。


「死ぬ間際、爺さんは俺に『冒険者になれ』と言った。自由に世界を旅して色んなものを見るのは楽しいから、って。俺は言う通りにすることにした。他にすることもなかったし、色んな場所に行くのは楽しそうだったからな。けど――」

「……けど?」

「一番望んでいたのは、誰かとパーティを組むことだったかもしれない」


 両親に続き育ての親である爺さんを亡くした俺は、どうしようもなく孤独だった。


 故郷はなく、身寄りもない。

 そんなときに思い出したのは、爺さんが話してくれた冒険者だった頃の思い出話だ。力を合わせて強大な敵に挑むパーティの在り方は、俺にとって羨ましかった。


 そんなふうに誰かとつながりを持ちたいと思った。


「まあ、結果としてはさんざんだったけどな。<召喚士>ってだけでパーティを組むどころか、依頼も受けさせてもらえずギルドで雑用やらされてたわけだし」


 笑い話にもならない。


「ロイは寂しかったんだね」

「……そうかもな」


 俺が自嘲気味に呟くと、くしゃり、とシルが俺の髪を撫でた。

 身を乗り出して、至近距離から俺と目を合わせて言う。


「ロイは一人じゃないよ。私がいるから」

「ああ」

「ロイの育ての親は死んじゃったけど、私はずっとそばにいる。契約者であるロイのそばに、ずっとずっとい続ける。だから、もう寂しくなんてないよ」

「……ああ」


 シルの言葉は優しく、温かかった。

 ずっと見ないふりをしてきた心の傷を癒してくれている気がした。


「シル。……ありがとな」

「えへへ、いいよー。ロイのこと、教えてくれてありがとね」

「何だよそれ」


 気を遣われたのはこっちなのに、シルがお礼を言う理由がわからない。


 けれど、初めて契約した相手がシルでよかったと、俺はそう思った。


「って、なんか湿っぽくなったな。景気づけにもう一回乾杯するか?」

「いいねいいね! それじゃあ乾ぱ――ッ!?」


 瞬間。

 シルが固まり、次いで、シュバッ! とすごい勢いで視線を窓の外に向けた。


「う、うそ、こんなことあるの? でも、そんな」


 何やら混乱したようにシルがうめく。


「お、おい。シル、急にどうした?」

「……召喚スポットが出た」

「は? 召喚スポット?」

「うん。それも……今までにないくらい強い。私が能力を使わなくても、気配が伝わってくるくらいに」


 そう言うシルの表情は引きつっていた。


 シルがそこまで言うほど強力な反応があるだと……?


「シル、宴会は後日改めてでいいか?」

「う、うん! さすがにこれは私も気になる……!」


 俺とシルはテーブルに並んだ料理を勢いよく食べきり、慌ただしく店を出るのだった。

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