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シル

「それで、私は何から話したらいい?」

「あー、そうだな……」


 俺は考えながら、改めて目の前の『導ノ剣』を見た。

 隠し事をしているのがバレて開き直ったのか、『導ノ剣』は人間の少女の姿だ。

 ベッドの上で女の子座りをしている。


 服は俺が貸したぶかぶかのシャツ一枚。

 裸よりはマシだが、上だけ着せたせいで逆に無防備な足が目立つようになってしまった。


 なんというか……妙にエロい。

 しかも見られることに抵抗がないのか、姿勢を動かすたびにちらちらと足の上のほうのガードが緩くなっていて、それもまた色っぽく感じる。


 ……いや落ち着け俺、相手は剣だ。無機物だ。


 そんなものに興奮するなんて色々とアウトだろう。深呼吸だ……


 俺は咳ばらいをして銀髪の少女に話しかけた。


「改めて聞くけど、お前は本当に『導ノ剣』なのか?」

「そうだよ。私の名前は『導ノ剣』。鍛冶神メルギスが十七番目に造りし星詠みの神器だよ」


 なんだかよくわからない自己紹介をされた。

 口調もすっかり変わっている。

 とりあえず質問していこう。


「ええと、とりあえずお前は『導ノ剣』で間違いないんだよな?」

「そうだね」

「何で人間の姿になれるんだ?」

「私みたいな高位の神器は、人間――というより、自分に力を与えた神と近しい姿を取ることができるの。私の制作者であるメルギスは女性だから、こんな感じ。ちなみに口調も同じ理由でこっちが素だよ」

「……ってことは、今までの口調は演技か?」

「うっ……まあ、そうだね。だって私のこの喋り方だと、威厳も何もないから……」


 そんな理由で喋り方に気を遣っていたのか。

 別にどっちでも気にしないがな。


「鍛冶神だの神器だのって何のことなんだ?」

「そのままの意味だよ。鍛冶神メルギスは私を創った偉大な神様で、神様の手で生み出された私は神器と呼ばれる特別な武器なの」

「じゃあ、お前は誰かに作られたっていうのか? 召喚武装が? そんな話聞いたことないぞ」

「いや、むしろ誰かが作らなかったら剣なんてできないでしょ」

「……む」


 何やら正論を言われている気がする。


 しかし思えば召喚獣や召喚武装の出自なんて気にしたこともなかった。


 召喚スポットから現れ、試練をクリアすれば契約できる。


 けれど、そんな召喚対象たちはどこから来たのか、そもそもどうして召喚スポットなどというものが存在するのか――そのあたりの根本的なことはまったく知らない。


 召喚獣や召喚武装はこの世界の生物・物質ではない、という説がある。

 召喚獣は単なる動物や魔物とは違う種類のものばかりだし、召喚武装には現代技術では再現不可能なものもあるからだそうだ。


「ちなみに召喚獣は、私たちの世界では神獣って呼ばれてるね」

「そうなのか」


 なんだかとても重大なことを聞かされている気分だ。


 重要そうなところをまとめよう。



・『導ノ剣』は神によって造られた神器。

・『導ノ剣』がいた世界の言葉では、召喚武装=神器、召喚獣=神獣。

・『導ノ剣』は高位の神器であるため、人間の姿になったり喋ったりできる。その際の外見や口調は製作者である鍛冶神メルギスに影響されている。



 こんな感じか。

 知らなかったことだらけだ。

 他に聞くことは……


「あ、それでお前はなんで俺のベッドに潜り込んでたんだ?」

「だ、だってロイが他の召喚獣ばかり構って私を放置するから……!」


 それから『導ノ剣』は神気というものについて説明した。


「ロイは召喚獣や召喚武装に好かれやすいって話をしたでしょ? あれはロイが大量の神気を発しているからなんだ」

「神気?」

「うーん……神界における空気みたいなものって言えばいいかなあ。私たちって神界の存在だから、基本的に神気がないと活動できないんだよ。けど、この世界には神気が少ない。そんな中、ロイみたいに濃い神気を放つ人間のそばっていうのはすごく居心地がいいの」


 そういう理屈だったのか。


 あれか。給水ポイントみたいな感じか。


 俺は無言で『導ノ剣』の頭を撫でてみた。


 サラサラの銀髪をゆっくりと撫でる。


「……えへ、えへへへ」


 すると『導ノ剣』がとても嬉しそうな表情になった。

 このリアクションは演技ではないだろう。


 それにしても……可愛いな。

 いや、落ち着け俺。こいつは剣だぞ、冷静になれ……!


「あーっ、もう我慢できない!」

「うおっ!?」

「ロイ~~~~! ぎゅっとしてー! もうずっと耐えてたんだよ~~~~!」


 俺を押し倒した『導ノ剣』がぐりぐりと俺の胸に顔を擦り付ける。


 柔らかい感触やら、すべすべの肌の手触りがダイレクトに伝わってくるが、『導ノ剣』はまったく気にしていないようだ。


 これはまずい。

 いくら正体が剣とはいえ、朝からこんな美少女に体を押し付けられたら色々とまずい。


「ま、待て。いったん離れろ」

「えー」

「そうだ、名前だ。名前を決めよう。その姿のときに『導ノ剣』って呼ぶと違和感がある」


 俺は誤魔化すように適当にそんなことを言う。

 すると『導ノ剣』は嬉しそうに目を輝かせた。


「ロイが名前をくれるの!? なになに、どんな名前?」


 俺は少し考えてから提案した。


「じゃあ『シル』でどうだ。呼びやすいし」


 言うまでもなく『導ノ剣』の最初の二文字である。

 適当と思われるかもしれないが、なんとなくしっくりきた。


「ん、いいね! じゃあ、これからは私のことはシルって呼んでね!」

「ああ」


 ふう、危機は去ったか……

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