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77.私達の行軍が始まったのは深夜、満月が空の中央に昇ってからだった。

 私達の行軍が始まったのは深夜、満月が空の中央(まんなか)に昇ってからだった。理由は至極単純、奇跡『太陽の光の恵み』の効果により、私達は月光の影響を受けないためである。


 (ほとん)ど最後尾と言っても良いくらいの位置に私はいた。周囲にはカイル君を筆頭とした魔術部隊がずらりと揃い、万に一つのことがあってはならないとばかりに目を光らせている。


 負傷者が出た際は此方(こちら)まで後退してもらい、私が治療した後、また戦線に復帰するという手筈となっている。

 良く言えば継続戦闘に長けた粘り強い部隊、悪しきように言えば、ただの力押しである。それも私の奇跡に依存した、どうしようもないくらいの。さりとて他に術がないのも確かであった。


 参謀のアルフィー様であれば、もっと良い戦術を編み出すのではないかとも思ったが、敵の兵糧庫を焼き払うため、僅かばかりの麾下を連れて日没と同時に出立してしまった。故に、この場にアルフィー様はいない。


「葉月さん、大丈夫ですか。辛いようなら行軍の速度を緩めますよ」


 アルフィー様の代わりに頭目を務めるカイル君が尋ねる。


「……ううん、大丈夫だよ。ごめんね」

「無理だと思ったら遠慮無く言ってください。少々遅れる分なら許容範囲ですから」

「本当に辛くなったらお願いしようかな」


 正直、既に辛かった。

 行軍の速度は徒歩と疾駆の中間くらい。しかもそれを夜間、月明かりの届かない原生林の道なき道を、兜や防具を装備して、その上履き慣れない靴でぐんぐんと進むのだ。

 ただでさえ体力のない私にとっては、ついていくだけで精一杯であった。


 だが、弱音を吐くことはできなかった。

 私はいざという時に駆け付けなければならないのだから。衛生兵が最後尾を鈍々(のろのろ)とついていくことしかできないなど――しかも贅沢なことに護衛までついて――それなら最初からいない方がましである。


 そうは思っているのだが。

 脚は鉛のように重く、鼓動は煩く、流れ出る汗のせいで酷く寒かった。既に最前線のウィリアム様は見えなくなってしまった。


 ――頑張れ、私。


 ここで足を止めて誰かを救えなかったら一生後悔する。

 額の汗を拭い、己を鼓舞して、無心で歩き続ける。


 ……………………。

 …………。


 森林地帯を抜けた私達を出迎えたのは、眩いばかりにの望月と、馬防柵に囲われた広大な野営地、(そび)え立つ二つの櫓に設置された大型弩砲(バリスタ)、そして両軍の兵士達が殺し合う(とき)の声と剣戟の()であった。

 団員の中にも、既に何人もが倒れて動かないが――戦況を観察するカイル君は慌てない。


「どうやら僕らの攻撃は読まれて誘い込まれていたようですね。いずれにせよ、あの大型弩砲が邪魔だな」


 カイル君が言い切らぬうちに弩砲から槍の如し大弓が吐き出され――幾本が命中、間髪入れずに爆ぜた。氷雪の混じった土煙が晴れる頃には、敵も味方も関係なく、複数の者達が倒れるだけであった。


「カイル君っ」

「葉月さん。落ち着いて、落ち着いてください。今無策に行っても狙い撃ちにされるだけです」

「でも――」

「魔術部隊。いつでも『魔術の槍』を放てるように『追加詠唱』を。発射の合図は僕が出します。『クロススナイパー』は持ってきているか?」


 カイル君が隣の兵士に問えば、兵士は台座に単眼鏡の取り付けられた(いしゆみ)矢弾(ボルト)を差し出す。それを受け取ったカイル君は、手と脚を使って弦を引っ掛けると、矢弾を装填して慎重に狙いを定めて――引き(がね)を絞った。


 発射された矢弾は一直線に飛翔して、見事、弩砲に齧り付いた兵卒の眉間に命中する。兵卒は櫓から落ちて――地面に激突して昏倒してしまう。

 相方の落下に気付いたもう一基の弩砲が私達を認識した時には、カイル君は既に二射目を放っていた。『スナイパーボルト』に額を打ち抜かれた兵士は弩砲に覆い被さるように斃れる――。


「魔術部隊、援護射撃だ。放て!」


 カイル君の号令と同時に、自軍から青白い光を纏った槍が次々と発射されて、ウィリアム様達先発部隊と戦っていた敵兵達を、文字通りに刺し貫いていく。


「前方、後方、左右共に罠および伏兵の気配なし。これより先発部隊と合流。支援に移る。――葉月さん」

「は、はい」

「残酷な光景であることは分かります。ですが気を確かに持ってください。今から負傷者の回収と救護を行います。その時に回復の奇跡をお願いします」

「分かりました」

「どうして敬語なんですか。普段通りで良いのに。――皆、もたもたしていると包囲されて退却もできなくなる。急ぐぞ!」


 行軍が再開される。

 負傷者の元に行き、回復の奇跡をかける。

 幸いなことに、私達の中では、死者は出ていなかった。


 ……………………。

 …………。


 安心したのも束の間。

 本当の地獄はここからであった。


 カイル君が口走った通り、私達の突撃は察知されていたらしく、ほどなくして敵の騎兵部隊が現れて、私達の後方を襲撃したのだ。


 それだけではない。

 敵陣のあちこちに設置された大型弩砲(バリスタ)投石器(カタパルト)が一斉に稼働して、槍や石が雨のように降り注ぐ。その度に誰かが動かなくなる。それを助けようとも騎兵の妨害が入り――きっと私が奇跡を使う回復役(ヒーラー)であることを知られているのだ――思うように動けない。そうしている内にも、また誰かが倒れていく。


 ウィリアム様に続かんとする者が。

 私を護ろうと身を挺してくれた者が。


 まさに多勢に無勢であった。

 なす術がない。


 黒馬に跨がる騎兵が駆けてきて。

 私自身、死を覚悟したときである。


 ――ずるり、と。


 分厚い積乱雲が月を覆い隠し、一面が常闇に呑まれた。


 獣の遠吠えが聞こえた。

 荒々しい、獰猛なる咆哮であった。

 他のどんな動物とも似つかない、しかしそれでいて人間らしさを秘めた――。


 その数秒後には、雲が風に流され、辺りは月光に照らされるが。


「…………?」


 最初に聞こえたのは、ぐちゃりぐちゃり、という湿った咀嚼(そしゃく)音であった。


 私の目の前に、一匹の巨大な獣が居た。此方に背を向けて、何かを――おそらくは騎兵だったものを――一心不乱に食い漁っているような気配であった。


 私はおろか、私を庇って重傷を負った者も、『スナイパークロス』で弩砲の兵士を狙っていたカイル君も、私達を囲う敵兵すらも――あまりのことに身動きができずにいた。


 驚きのあまり硬直する私に獣が振り向いた。

 口許は赤黒い血で(けが)れている。

 毛並みは灰交じりの銀色。

 長い鼻先に、深く避けた大きな口、並んだ数多の鋭利な牙は鰐か狼を彷彿とさせる。

 何よりも異質だったのは、左右対になった計六つの血走った眼であった。

 異形の化生であった。


 ――けれども。


 私は、それが誰であったのかを悟ってしまう。

 まだ、そこに、彼の自我が残っていることも。


「……ウィリアム様、ですね」


 だから呼んだ。

 特筆すべき根拠はない。

 強いて言うなら、月の光を反射する鮮やかな銀色と、すっと延びた鼻梁に、彼の面影を見出したからだろうか。何より、これほど時機(タイミング)の良い時に登場してくれる英雄(ヒーロー)など、彼を除いて他にいないと思ったからである。何故、そのような姿になってしまったのかという疑問はすっかり抜け落ちていた。


 だが獣は何も言わなかった。のしり、のしり、と四本の脚で私まで接近すると、静かに頭を下げた。炯々(けいけい)と光る六つの眼が私を睨み付けるが――そこに込められたる光は、人間らしい、どろりとした温かさを(はら)んでいて――やはり怖いとは思わなかった。

 がちがちと歯を鳴らしながら『ダガー』を構えるカイル君を見ても、そんなに怖がらなくても良いのに――と思うくらいには余裕であった。


 ――私が時間を稼ぐ。その間に、皆を頼む――。


 獣が唸ったと思ったら、身を(ひるが)して生き残りの敵兵に襲い掛かる。

 弩砲や投石器を操る兵士達も、味方への誤射を恐れてか、(ある)いは俊敏に動き回る獣を捕らえられないのか、動けずにいる。


「カイル君。落ち着いて聞いて」

「は、はいっ」

「あれは味方――ウィリアム様だから心配しないで。彼が敵を引きつけている内に、私達にできることをやりましょう」

「――了解っ!」


 カイル君は頷くや否や、『クロススナイパー』を構えて狙撃を再開する。百発百中とまではいかないが――弩自体が大柄で弦も固いらしく、扱いが難しいらしい――櫓の上の兵士を手際よく撃ち落としていく。


(凄い。今度は、私の番)


 護られているだけじゃない。

 私は、私にしかできないことを。

 為すべきことを、為すのだ。


 杖に意識を集中させて――奇跡『太陽の光の癒し』を発動させる。そうすれば、私のために戦ってくれたくれた者達が起き上がり、武器を再び手に取る。

 集中力と持久力がごっそりと喪失する感覚に襲われるが――寸前のところで踏みとどまる。皆が戦っている中、自分だけが倒れるわけにはいかぬという自戒が働いたのだ。最早意地であった。


 消耗した精神力を回復させるため、腰袋から『秘めた祝福』を取り出して一口だけ呷る。何度も服用していたため残量はもう一回か二回程度であった。逆算すれば、消耗が激しい奇跡も使えて二回か三回である。


 私に向かってきた一人の騎兵を奇跡『フォース』で叩き墜とした時、周囲の敵を駆逐し終えた獣が戻ってきた。見れば、全身の至る所に剣や槍が突き立てられ、赤い血が滴り落ちている。


 ――葉月殿。済まないが、治してもらえるかな――。


 獣は転がった騎兵を弾き飛ばしながら言った。


「分かりましました。少々お待ちください」


 私が近寄り、剣や槍を引き抜いてから『放つ回復』を行使すれば、たちどころに(きず)が塞がっていく。


 この獣が、敵か味方かを測りかねている者達に対して、カイル君があれは味方であると――ウィリアム団長であると必死に言い聞かせた甲斐あって、仲間から剣を向けられはしなかった。


 ――時に、葉月殿。どうして私だと判ったのだ――。

 ――見るに堪えない醜い姿であろう――。


「直感です。あとは」


 ――あとは、何だね――。


「あなたと初めて会った日も、こうして満月が輝いていたからです」


 私が答えれば、獣は笑った――ように見えた。

前回に引き続き『ELDEN RING』のレビュー(というか宣伝)を述べていきたい。もし興味が出たよという方がいれば、是非とも購入してみてはどうだろうか。2024年6月12日にはDLCコンテンツも発売される予定であり、マルチプレイも賑わっていることだろうから。


     *     *     *


却説、前回は本ゲームにおける概要を述べた。一言で云うなら「初心者にこそおすすめのフロムゲーだよ!」という具合だろうか。


……賢明な褪せ人諸兄は下記のように思うだろう。


「初心者にこそおすすめということは、逆説的に言えば玄人向けではないことだよな」


まさにその通りである。

私が思うに、本ゲーム、カジュアルに遊ぶところまでは良いのだが、本腰を据えてのめり込むほど価値のあるゲームかというと、それは違うと思うのだ。


今回は私がゲームをしていて気になった短所を挙げていこうと思う。

まあ、所詮は個人の感想、気軽に見てもらえれば幸いである。

(尚、こう発言する私の総プレイ時間は1,500hを超えている。当然プラチナトロフィーも取得済)


①ゲーム製作側の都合があからさまに感じ取れて「萎える」瞬間があまりにも多すぎる


 このゲームは所謂「アクションRPG」かつ「オープンワールド」である。言ってみれば、どれだけプレイヤーを世界や物語に没入させるかが重要視されるべきだと私は考えているのだが……残念なことに、ゲームをプレイ中、開発の見え透いた意図を何度も感じて、没入感が削がれる瞬間が多かった。非常に残念であり、うんざりするばかりであった。具体的には下記の通りである。


 ・霊馬トレントの騎乗ON-OFF問題

 ・地下墓におけるインプ達のびっくりお化け屋敷問題しかもコピペ

 ・雑な複数ボス、過去作の雑なオマージュ

 ・NPCイベントが割と意味不明

 ・拠点「円卓」の使いにくさと閉塞感、ポン置きのマリカ像

 ・クソ長ディレイ攻撃

 ・パリィ複数回要求問題

 ・体幹ゲージは可視化されない


 呪詛になるため詳細は省くが、ぱっと思い付くだけでこれだけの欠点(疑問)を挙げることができる。製作者の都合ないし意図を、ゲームの世界設定に絡めた上で、プレイヤーに提示するということが今作は疎かになっているのだ。それすらも「過去作でウケが良かったから導入しました」と言わんばかりの態度が透けて見えてしまうのである。


②そもそもボス戦が面白くない


 バッサリ言いますけど、今作のボス連中は「これさえなければ良ボスだったのに……」と言いたくなる連中ばかりなのだ。このボスと再戦したいから周回しよう、とは絶対にならない。前作『DARK SOULSⅢ』はどのボスもエリア攻略も楽しかったのに、どうしてこうなった???


③カメラワークとロックオンシステムが使いにくすぎてストレス


 これについては論外。ノーロックで戦った方がマシなら、最初からマニュアルにそう書いておけと思う。そこまでプレイヤーの判断に委ねられるとは思わなかった。テストプレイの未熟を強く感じる。


④敵だけ楽しそう。簡悔精神を感じる。


……と、まあ色々こき下ろしてしまったが。

それら欠点を補えるほどの長所ないし魅力が『ELDEN RING』にはある。ズバリ言うと、緻密に練り込まれた世界設定が非常に魅力的なのだ。アクション面の不出来には目を瞑り、世界の謎を解くことをテーマにプレイすると、中々に面白いゲーム体験ができるのだから不思議なものである。

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