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76.精神力と持久力を枯渇させてしまった私は寝台に倒れ込むと……。

 精神力と持久力を枯渇させてしまった私は寝台に倒れ込むと、緊張の糸が切れたのも相まって、深みに引き摺りこまれるように眠ってしまった。


 脱いだのは――正確には言えば脱がされたのは――兜と手袋だけである。胸当ても着けて、軍靴だって履いたままだというのに重苦しさは感じなかった。夢すら見なかった。

 気付いた時には、四角い窓から差し込む陽光は緋色に染まっていて――自分が長い間眠っていたことを自覚する。


 私は飛び起きた。

 左腰には『ブロードソード』、右腰には腰袋(ポーチ)があることを確認してから、傍らに置いてあった大杖を引っ掴んで寝室を飛び出す。


 途轍もない不安に駆られたために。

 自分が暢気に眠りこけている間に誰かが傷付いて、その結果手遅れになったら悔やんでも悔やみきれないと思ったのだ。もしそうなったら、私は私を赦すことができない。精神的にも身体的にも疲労は残っていたのだが――。


 城館の入口にウィリアム様はいた。

 声を掛けようとして――止めた。

 壁に背を預け、鞘に収めた直剣を抱くように座っている。

 兜の覆いは上げられているが、私の立ち位置からでは口許しか窺えない。だが、穏やかな呼吸の度に肩が上下して、脱力した四肢から察するに眠っているのだろう。少なくとも怪我を負っているようには見えなかった。また近傍(あたり)で戦闘が繰り広げられているような気配もない。


 わざわざ起こすこともないだろうと思った私は、彼のすぐ隣に腰を下ろす。

 衣擦れや多少の物音はしただろうが、それでも彼が気付くことはなかった。やはり、彼は深く寝入っているようであった。


 当然と言えば当然である。

 昨日からずっと戦い詰めだったのだから。

 他の者から話を聞く限り、彼はずっと先頭を務めていたらしい。奇襲を成功させた二番目の砦でも、真正面から戦わざるを得なかった一番目の砦でも。


 改めて思う。

 彼が無事で良かった、と。

 そして、このような戦い方をしていれば、いつか死んでしまうのではないのか、とも。


 そもそも、私達は一体いつまで戦えば良いのだろうか。

 私達の戦果によって、交渉の結果が和睦となるか降伏となるかが変わると弟は言っていたが――その戦果とやらは一体どの程度を想定しているのだろう。また、私達はこれから死に物狂いの突撃をするらしいのだが――正式にそうと聞かされた訳ではない。ウィリアム様から、今後は実力勝負となるという推察を聞いただけ。ただ、それだけの話である。


「…………」


 できることなら、行ってほしくはなかった。

 死ぬと理解した上での出撃など、まるで特攻隊である。自分の生命と引き換えに、数多かつ様々なものを――市民や国家の名誉と尊厳、長きに渡る平和と安寧を――守ることができるのかもしれない。

 だが、それはきっと正しい行いではない(はず)である。間違っているとまでは言わないが、少なくとも私の価値観では納得のいかない話であった。

 日本で生まれ育った私の見解を述べるなら、やはり突撃など、殉職など「違う」と思うのだ。仮令(たとえ)、一矢報いた先に平和な将来が約束されていたとしても。


 私は、ウィリアム様や騎士団の皆が生きるこの世界が好きなのだ。この世界だからこそ、喫茶店を開きたいと思ったのだ。だから、死にに行くなど止めてほしかった。


 皆が無事でいられる方法はないかと考えて。


 ――するり、と。


 私の中に、天啓にも似た発想が舞い込んできた。


 嗚呼、私は。

 なんて無駄なことを考えていたのだろうか。

 私が、ウィリアム様についていけば良いのだ。きっと、そのために私は日本からやって来たに違いない。祖父だって、私に助勢させるつもりで奇跡や魔術が認められた巻物(スクロール)を送りつけたのだろう。


 無論、従軍するにあたっての不安や恐怖というものはある。人を殺すかもしれないという生理的な忌避感だってある。だが――今更であった。何より、ウィリアム様を喪うことに比較したら、私の迷いなど些事そのものでしかないのだ。


 私が己の葛藤に決着を付けたとき。


「……葉月殿?」


 ウィリアム様が私を呼んだ。

 起こしてしまったのだろう。

 それならそれで良いと開き直った私は。


「はい、何ですか」


 と答えながら、彼に(もた)れ掛かる。

 当然、防具を着込んでいる都合上、互いの体温は感じ得ないが――それでも、彼が今、此処にいるという存在が(しっか)りと伝わって――安堵と歓喜を覚えた。いつまでもこうしていたいという名残惜しさも。ともすれば、この春の陽だまりのような暖かな想いが、人を愛することなのか――などという益体もないことまで考えた。


「いつから、そこに?」

「ほんのつい最前(さっき)です」

「休憩するならば寝台の方が。このような場所では気も休まらないでしょう」

「休憩ならばもう十分です。覚悟が決まりましたので」

「覚悟、ですか?」


 怪訝そうにウィリアム様が尋ねる。

 やはり、その表情は兜に遮られて分からない。


「私は、ウィリアム様について行きます。どんな危険なところにでもです。怪我をされたら、奇跡でも何でも使って治して差し上げます。ですから、生きて帰りましょう」

「葉月殿。それは――」

「お願いします。それとも、私はいない方が良いですか。一人で死にに行くつもりでしたか」


 ウィリアム様はすぐに答えなかった。黙殺したのか、(ある)いは沈黙を(もっ)て肯定したつもりだったのかは分からない。


「危険であることは承知しております」

「死ぬかもしれません」

「それも、分かっております」

「ならば何故」

「私は」


 ウィリアム様の発言を遮って私は言う。


「あなたと一緒にいたいのです。それは勿論、あなたに対する想いもありますが――それがどういうものかは訊かないでください。野暮にしかなりませんので――それ以上に、役に立てると思ったからです。あなたに生きて帰ってほしいと思ったからです」

「それは。それだけは約束できません」

「なぜですか」

「戦に絶対などないからです。そして、私はあなたをこれ以上巻き込みたくはないのです。あなたに何かがあればと思うだけで私の心は落ち着かなくなるのです」


 どうかご理解ください――と彼は言うが。


「もう手遅れです。私は既に、決めてしまいました」


 私も譲るつもりはなかった。

 自分はこんなにも頑固な人間だったのかと驚く自分がいたが――仕方ない。好きになってしまった殿方(ひと)を死地に送り出せるほど、私は達観も諦観もしていない。


「あなたは喫茶店を開きたいと仰っていたではありませんか。夢だったと聞いております」

「ええ、そうです。私は、そのために騎士団で働いております」

「ならば何故――私は、あなたの夢を叶えるためならば死んでも良いと思っていたのです」

「馬鹿にしないでください」


 気が付けば、私は立ち上がってウィリアム様を睨み付けていた。


「確かに喫茶店を開くことは私の夢です。目標です。それを叶えるために、騎士団で働き始めたことも事実です。ですが、私は騎士団の皆が好きなのです。その好きな方々がいるからこそ――お客さんとして来てほしいなと思ったからこそ――私は今、他の誰のものでもない自分の意思で此処に立っているのです。もしも、仮に。騎士団の皆やウィリアム様がいなくなったら喫茶店なんてやりたいとも思わないでしょう。それとも――何ですか。私は足手纏いでしょうか。私がいない方が良いのですか。それなら納得しないでもありません」


 答えが分かっている意地悪な質問であった。

 案の定、彼は口を(つぐ)んでしまう。


「ウィリアム様の優しさは、確かに分かります。ですが――もう一度だけ言わせてください。私は既に覚悟を決めてしまいました。あなたの居ない世界に何の価値も見出せません。私は、あなたが生きて帰って、あなたがお客様として来てくれるお店が良いのです」


 ウィリアム様は、長い間口を閉ざし、深く思案してから。


「分かりました。ですが、私からもひとつ」


 と静かに告げた。

 続けて。


「騎士団長ウィリアム、いつ何時(なんどき)でも、あなたを想い、そしてあなたを護ることを誓います。私は今よりあなたの騎士です。()()()()()()()姿()()()()()()()()()


 と言い、その場に(かしず)いた。


 その姿は。

 返り血と傷に塗れているのに。

 どこをどう見ても穢いのに。


 何故か私にはとても美しく見えた。

 夕陽を浴びる彼の姿に、ある種の神聖さすら感じた。


「私の騎士様。あなたの剣を見せてください。今より旧い神々の奇跡をその剣を宿します。今度は消えることがないようにしますから、どうぞご安心ください」


 雰囲気を壊さぬよう、私も聖女然と返す。


 差し出されたウィリアム様の剣は、あちこちが痛んで(こぼ)れていた。柄と刀身には()()がきているし鍔は歪んでいる。歴戦の得物と言えば聞こえは良いかもしれないが、これではいつ根元から破断してしまうか分かったものではない。


 私は、直剣に、魔術『修理』と奇跡『太陽の光の剣』を同時にかける。前者は、光と時間に関わるもので、時の流れを静止ないし回帰させる――禁忌染みたものである。これさえあれば、この剣は壊れもしないし、刀身を纏う雷も消えることはないだろう。半ば思い付きに近しいものではあったが、成功したからいいだろう。


 ウィリアム様が直剣を鞘に収めて立ち上がれば――いつの間にか、私達の周りには団員達が揃っていた。先刻のウィリアム様と同じように身を屈めて、「次は俺が」「いや俺だ」などと小声で言い争っている――かと思えば、アルフィー様のように、一歩退いたところで事の成り行きを眺めている者もいる。


 私の精神力と持久力が尽きなければ良いけれど。


 私は望む者達に『修理』と『太陽の光の剣』を施して、その後に『太陽の光の恵み』を発動させる((なお)アルフィー様は隠密活動に障りがあるということで辞退された)。


 皆が、月光を浴びても正気を保っていられるように。

 不倒の戦いを果たせるように。

 月に召されることがないように。


 精神力を摩耗させて、足許が覚束なくなった私を支えてくれたのはウィリアム様だった。


「お前達がいつから私達の話を聞いていたのかは知らない。()えて咎めようとも思わんが」


 私の肩を抱いた(まま)、彼は言う。


「葉月殿は、我々のことが好きだと仰ってくれた。我々のいない世界に意味などないと。そうなれば喫茶を開きたくないとまで。いいか、全員生きて帰るぞ。そして葉月殿が開いた店に通うのだ。これは命令だ」


 そう高らかに宣言する彼の言葉を聞きながら。

 私は確かな幸福を感じていた。

以下、本小説のインスパイア元であるフロムソフトウェア製ビデオゲーム『ELDEN RING』のレビュー(というか宣伝)を述べていく。是非とも一読してほしい。そして興味を惹かれたならば購入してみてほしい。きっとその時間と費用は無駄にはならないと思うから。


     *     *     *


『ELDEN RING』の評価を端的に述べるなら「カジュアルに遊べるアクションRPG」であり、「フロムゲー未経験者にこそ手に取ってほしい作品」である(では経験者はどうなのかというと……う~ん微妙)。


 巷でフロムゲーと言えば、高難易度・死にゲー・古参ファンの声が煩い、などといったマイナス方面の評判が付きまとうだろうが、本ゲームに限って言えば、存外そんなこともない。オンボロノートPCかつ視力と反射神経が衰えてしまった私のような男でもクリアできたのだから。


 「ボスが強くて勝てない! クソがッ!」「複数ボスが面白いワケないんだよ誰だこんなの考えたヤツは!」「ディレイ攻撃UZEEEEEE!!!」などといった感想を抱きがちな初心者ないしアクションに不慣れな方(断じて私のことではない)は当然いるだろうが、このゲームは有り難いことにオープンワールドゲームである。開発者はオープンフィールドと言っているらしいが誤差だろう。

 要するに、勝てない相手がいるならば、まずは迂回&探索をして、強い武器を入手して強化するなり、自分のレベルを上げるなりするという導線がしっかり用意されているのだ。

 その自己鍛錬の時間も決して虚無ではなく、NPCイベントが用意されていたり、美しいロケーションや思わせぶりなアイテムが用意されていたりと、練り込まれた緻密な世界に浸ることができる。そして世界設定の緻密かつ意想外な構成はまさにフロムという会社にしか創作できないものだろう(世界観云々については、詳細に語りたいために後に回す)。


 身も蓋もない言い方をすれば「お助けキャラを召喚して、強い必殺技をボスの尻に叩き込む」これだけでこのゲームの九割はどうにかなってしまうのだ。


 つまるところ「難し過ぎるためにプレイを諦める」ということにはまずならないはずである。

 それだけの救済措置が容易されている。

 だからこそ、初心者にこそおすすめの「アクションRPG」ゲームである。


 ……しかしながら。

 賢明なる褪せ人諸兄は思うかもしれない。


「え? それってヌルゲーってことですよね?」

「戦技ぶっ放しゲーミングのどこが面白いの?」

「遺灰前提にボスが調整されているから単独で挑むとただの理不尽なんだよなあ」

「敵だけ楽しそう」

「褪せ人はもっさりアクションでイライラする。狩人や忍者や灰の人を見習ってどうぞ」

「中量ローリングがへっぽこ」


 それは確かにそうである。間違いない。私もそう思う。特に、シリーズ経験者ほど、そのような傾向の感想を抱きがちだろうが、少々待っていただきたい。


 難易度の調整は、我々プレイヤーに委ねられているのだと、考えてはどうだろうか。

 物足りないなら戦技でも遺灰でも縛れば良いのだ。

 難しいor理不尽と感じたならば開放すれば良いのだ。


 なぜならこのゲームは「アクションRPG」なのだから。

 プレイに正解はないし、貴賤もない。

 強いて言うなら、銘々が快適にプレイできることだろうか。

 そも、ゲームは娯楽なのだから。


 ……皮肉交じりの補足として。


 もし、このゲームの戦闘が少しも楽しめなかったという方がいるならば。戦っていて面白いボスがいないという方がいるならば。前作『DARK SOULⅢ』のプレイをオススメする。アクション特化の『SEKIRO』や素晴らしい雰囲気の『Blood born』でも良いかもしれない。こんな素晴らしいゲームを作った会社がエルデンを作ったの? という逆の意味で驚くだろうから。多分納期のデーモンが悪さをしたんだと思われ。

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