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67.オスカーの死は第一騎士団および近衛隊の面々に多大なる影響を与えた。

※書き溜めは74部まで保有。推敲校正が済み次第順次投下予定。

※本小説はフロムソフトウェア製ゲーム『DARK SOULⅢ』および『ELDEN RING』の影響を多大に受けていることを此処に明記いたします。パクリでもオマージュでもなくてステマもしくはダイマ。

※2024年6月21日に『ELDEN RING』DLCコンテンツ『ShadowTree』発売決定! 皆さん是非プレイしましょう!!! 楽しみで夜しか眠れません。

 オスカーの死は第一騎士団および近衛隊の面々に多大な影響を与えた。


 即刻開かれた主要人物のみによる軍議においても、翌朝全員に通達された集会においても、皆が言葉を失うばかりであった。その重苦しい沈黙は、オスカー個人を悼むものというより、個としての強大な実力者を喪って尚、戦い続けることができるのかという不安そのものであった。


 また、その報せが真に事実なのかという懐疑もあった。

 オスカーが凶刃にたおれた瞬間を見た者は、法皇直属の監視者――暗月の女騎士ひとりのみである。そしてオスカー当人の骸も、近衛隊の甲冑に身を包んだという下手人も忽然と姿を消していたためである。

 事件の直近、女騎士が、不要かつ未熟な奇跡『中回復』を少年兵士に施したがために月蝕病を助長ないしは発症に至らしめ、少年の人間性が暴走――その尻拭いに奔走した聖女が昏睡に陥ったという失態もあり、全員が鵜呑みにしたわけではなかった。


 しかしながら女騎士の言う現場には致死量の血痕が残されており、一定以上の信憑性は有しているのだと。生死は兎も角、オスカーを頼るわけにはいかなくなったことを騎士団長ウィリアムは悟った。


「皆、何か策はないか。何でも良い。思い付いたことがあれば言ってくれ」


 軍議の場。監視塔最上階にてウィリアムは幹部達に問い掛ける。その精悍なる顔立ちには、連戦に次ぐ連戦により疲弊が色濃く浮き出ている。


 ウィリアムだけではない。全員が消耗していた。


 こういう時にこそ聖女を頼りたいのだが――とウィリアムは、自身の婚約者の愚行を恨めしく思うが、考えても詮無きことであり、ゆっくりとかぶりを振る。むしろ、聖女の奇跡が月蝕病を治療できると判っただけでも収穫であると思い直す。


「発言、宜しいですか」


 副官アルフィーが手を挙げる。有効打を思い付いた参謀らしい表情であった。もっとも、一昨日から昨日に渡って敵陣の偵察、そして隙あらば敵将の暗殺を任せていたために疲労の色までは隠せなかったが。


 ウィリアムは頷いて続きを促す。


「この中の誰かを王都まで遣わせて、和睦を急かすしか路はありますまい」

「和睦、ですか」


 真っ先に反応したのは、銀と薄絹からなる頭冠を被り、重刺剣エストックいた女性騎士である。


「そうです、和睦です。何か問題が?」

此方こちらにとって都合が良すぎるのではありませんか。戦況は未だ此方が劣勢、現に砦はふたつ陥落して、それを覆すために私達が喚ばれたのです。これでは降伏と同義ではありませんか」

「貴女の言うことは確かに正しい。ならば伺いましょう。我々はどの程度巻き返せば、降伏ではなく和睦へ至れるとお思いで?」

「どの程度――」


 考え込む女騎士を見て参謀は口許に薄い笑みを忍ばせる。付き合いの長いウィリアムにしか判らぬ嘲弄の笑みであった。


 今迄散々足を引っ張っていたくせに。オスカーが殺される様を目撃しても犯人を捕縛しなかった愚鈍が口を挟むな、とでも腹を立てているのだろうとウィリアムは推測する。


「アル。お前はどの程度の戦果を上げれば和平ができると考える?」


 ウィリアムは参謀の静かな怒りを無視して話を進める。


「砦ふたつを奪取するのは当然として。相手方が戦争を維持できぬと――これ以上戦うものなら敗北してしまうと判断する程の致命傷が必須となりましょう」

「具体的には?」

「後方の兵糧庫を全て焼き尽くすか。大将首を強引にもぎ取るか。疫病を流行らせるか。いずれにせよ平易な路ではないでしょう」

「そうだな。僕達にとっては非常に分が悪い」


 同調したのは近衛師団の師団長フィンレイである。


「おや? 流石さすがの近衛隊でも難しいですか」

「ああ。僕らは護りの戦いに慣れ過ぎてしまったからな。単騎で出撃して、あっさりと敵将の首を刈り取る死神のような――オスカーのような真似はできない。否、やってできないことはないのだろうが大半は死ぬだろう。そのような作戦に部下達を付き合わせることはできない。悪いが役には立てない」

「謝らずとも結構。もとよりフィンレイ殿には都の守備に回ってもらうつもりでしたので」

「どういうことだい?」


 考えがあるのならばまずは君の意見を聞かせてほしい、と近衛師団長が問えば。


「簡単な話です。まずは、そちらの監視者殿には王都まで戻って、法皇に直接、相手方との和睦を依頼していただきたい。次に、フィンレイ殿には、近衛隊を主軸に、月の都にて市街戦の準備をしていただきたい」


 参謀は淡々と答える。


市井しせいの治安維持が役目の第二騎士団、聖堂守護が役目の第三騎士団に対しては既に根回しを済ませております。また立地を考えれば、このような粗末な砦よりは幾分かは戦いやすいかと存じます。防衛ならば近衛隊の本領発揮できるかと」

「それは助かるが君達はどうするつもりだ。まさか君達だけで先刻の条件を満たそうとでもいうのかい」

「仰る通り。我々は敵陣に打って出ます。その戦果により、相手が痛み分けの和睦と見做してくれるのか、はたまた此方の降伏となるかは変わるでしょうが――いずれにせよ相手は交渉の卓に着いてくれるでしょう。団長、如何いかがです。いささか即興の感は拭えませんが、攻撃、防衛、交渉の全てを同時にこなすべきという案です。否、我々に残された余裕でできることはせいぜいこの程度しかありますまい」

「そう、だな」


 ウィリアムは勘案する。

 参謀が挙げた策の長所は、上手く事が運べば――第一騎士団の活躍如何によっては――比較的少ない損害で、ひとまずの平穏を得ることができる点である。少なくとも、本当に守られるべき民草の平和も、国家の矜持も、当面は心配無用となる。

 反面、欠点となるのは思う程の戦果を得られなかった場合もしくは相手は交渉に乗らなかった場合である。間違いなく泥沼の市街戦に陥り、都は戦火に呑まれる。当然、己を含めた大多数が死ぬ。名誉の討ち死か、()()()()()()()のかまでは分からぬが。


 ――面白くもない、所詮は些事だ。


 人間、遅かれ早かれいずれは死ぬ往く定めである。生きて帰ると誓った聖女のことが気懸かりではあったが、こればかりは致し方ない。


「団長? どうされました」

「――いや、何でもない」


 ウィリアムは、己が右手に嵌めた指輪――通称『法皇の右目』。黒く円い宝石で飾った呪具である――を見詰めていることを自覚する。来たるべき戦いに己がたかぶっていることにも。


「代替案がなければアルの考えを採用する。どうだ?」


 全員、すぐには答えなかった。考えながらも参謀以上のものを考え出せずにいる。さりとて肯定しては、第一騎士団の面子に死ねと言うのと同義であり答えあぐねている――そのような顔をしていた。


 ――決まりだな。


 ウィリアムが場を纏めようとした時である。


「…………」


 静観を決め込んでいた王妃の娘が立ち上がり、何事かを呟いた。


 だが、その声にならぬ声を正しく汲み取れる者はこの場にはいなかった。護衛として側に控えている『羽の騎士』ですらも何をしたら良いのか分からずに戸惑っている。今迄であれば、彼女の発言は全てオスカーが翻訳していたのだが、そのオスカーも屍すら見付かっていない。


 ――さて、どうしたものか。


 ウィリアムは顎に手を遣り、この場をどう処理すべきか考える。


 この年端もいかぬ娘は、人呼んで『天使の娘』である。王都天使信仰の源流を作った者であり――だが、この国の三柱である騎士・賢者・祭事長のいずれも異端として頑なに認めてはいないの――また王妃の実子であり、決して蔑ろにしていい人物ではない。戦力としても、奇跡『天使の光柱』を扱い、申し分のない人材ではあるのだが如何せん声と光を喪っている。故に、前々から親交があったというオスカーに万事一切を丸投げしていたのだが、それが仇となってしまった。


 ウィリアムだけではなく全員が黙した中で。


「もしかして、聖女殿についてでしょうか」


 何かに気付いたかのように女騎士は言った。

 天使の娘は頷いた後、また何事かを喋る。


「――なるほど。聖女殿が、誰の許に着くのかを心配されていらっしゃるのですね」


 その認識が合っていたからだろう。

 天使の娘は着席する。


「ウィリアム団長。先刻言った通りです。聖女殿はどうされますか。私と共に王都に行き、法皇への交渉役を果たしてもらうか、ひとまず月の都に下がり、近衛隊の援護に回って貰うか。私としては一緒に行動したいと考えているのですが」

「待て。その前に、何故なぜ王女様の御言葉が分かったというのだ」

「私の位置から王女様の喉と唇の動きが分かりました。それ故の推察です。それよりも聖女殿です」


 どうしますか彼女の処遇は、と女騎士は重ねて問うた。


「そうか。葉月殿については――そうだな。正直何も考えていなかった。アル、彼女はより安全な位置にいてもらいたいのだが――おい、聞いているのか」


 ウィリアムが尋ねても参謀に反応はない。視線を追えば、扉の傍らに仁王立ちする『羽の騎士』の足許から伸びる()()()()()()()を見詰めるだけであった。


「ああ、失敬。聖女殿については、団長の仰る通り、より安全な処にいてもらいましょう。他の皆様も異議はありませんね」


 前を向いた参謀は、どこか愉快そうに答えた。

 ウィリアムは、何か面白い策でも思い付いたのかも知れないと考える。それが何かまでは聞くつもりはなかった。


「では早速、監視者殿は王都に向かってください。議会も貴族も飛び越して交渉を急かす都合上、私達の名前を使っても構いません。王女様も、護衛の騎士殿も、ひとまずは監視者殿と一緒に王都にお戻りください。これよりこの地は死地となりますゆえ。事が済みましたら、月の都にいる近衛師団まで文を送るようお願い致します」


 参謀が掌で退室を促せば、王女と騎士達は去って行った。


「フィンレイ殿も月の都へ向かってください。第二騎士団は頭数こそ多いものの練度は低く、第三騎士団は練度こそ高いものの頭数が足りません。ゆえに近衛隊ばかりが頼りなのです」

「承知した。貴公らに月の導きがあらんことを」


 そう言い残し、近衛隊師団長は足早に退室していった。


「――では、団長。足手纏いも消えてくれたことですし、本当の軍議を始めましょうか」


 そう言った参謀は、やはり参謀らしい顔で笑っていた。

※書いても書いても終わらねえ……。さっさと完結して公募用の小説に復帰したいのだが、どうにもビジョンが定まらない……。迂闊な気持ちでファンタジーものに手を出すんじゃなかったと今更ながらに後悔。予定では100部までに完結したい。たぶん、きっと。それまで、どうかお付き合いください。

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