66.残された精神力と持久力にそう余裕がないことは分かっていた。
※近衛師団の代表は「フィンレイ」という名前を採用しております。確か、私の記憶が正しければ金髪とか英雄とかを意味する言葉だとか。他意はありません。ゲーム『ELDEN RING』に同名の遺灰(お助けキャラ)が登場しますが一切関係ありませぬ。腐敗おばさんをミケラの聖樹にまで運んだ戦犯でしょ彼女は。
残された精神力と持久力にそう余裕がないことは分かっていた。今『太陽の光の癒し』を放てば、また昏倒してしまうだろうことも。だが加減して使えるほど状況が甘いものではない。寧ろ全力を出さねばカイル君を人間に戻すことなどきっとできない。そう考えれば覚悟が決まるのも早かった。
なり損ないが怖いとも思わなかった。あれは姿形が少々異なるだけで、カイル君であることに変わりはないのだから。その証左に、あれだけ派手に暴れたというのに、騎士団や近衛師団の方々に死者は一人も出ていない。生きているのならば、言い方は悪いが後でどうにでもなる。
私は警戒を続けるオスカーさんの横を素通りして、地べたに這い蹲るなり損ないに近付く。相手は、夕陽よりも赤い瞳で私を見るだけであった。その目に敵愾心は宿っていない。
「これより『太陽の光の癒し』を使います。範囲回復ですので、怪我をされた方は私の側に来てください。ああ、それとオスカーさん」
「……何だよ聖女サマ」
自分は無傷であると。奇跡など不要と言わんばかりに距離を取ったオスカーさんは億劫そうに振り向く。当然、その表情は面頬に覆われて分からないが、とても嫌そうに顔を顰めているだろうことは分かった。
「きっと私は、奇跡を使ったらまた倒れてしまうでしょう。もしもそうなったら私をどこか安全な処まで運んではいただけませんか」
「……随分前のことだが、精神力を枯らすなと忠告したと思ったがね。忘れたのかよ。それに副官殿から『秘めた祝福』まで譲り受けたとも聞いているが」
「既に服用しております。他に術がありません。お願いします」
私が再び頼めば、睨むなよ俺が悪者みたいじゃねえか――とやはり低い声でオスカーさんは呟いたのち頷いた。続けて。
「この砦で一番安全な場所まで届けてやるよ。だからあんたは何の遠慮もなくぶっ放せばいいさ」
と言い、先刻私が飛び降りた部屋を親指で指し示す。きっとオスカーさんなりの意趣返しなのだろう。まあ、ウィリアム様への好意を自覚した今となっては――そして店主と賓客という関係が良いのだと分かった今では――狼狽することもなかったが。
オスカーさんの指示で負傷者が私達を取り囲むように集まってくる。
発動させても良いかと視線で尋ねれば、オスカーさんは頷く。
私は、大杖を夕闇の空に掲げて。
奇跡『太陽の光の癒し』を――。
…………。
……………………。
聖女が持ち上げた儀式杖から、真昼の陽光を思わせる温かな光が奔流となって溢れ出し、近傍一帯を余すことなく照らしつけた。
光が収まると同時に杖が地面に落ちて、聖女の躰がぐらりと揺れた。頭部から転倒しそうになったところを、オスカーはその襟首を引っ掴むことで留めることに成功する。おい立てよ大丈夫か――と声を掛けるも、返ってくるのは呻きとも寝言ともつかぬ言語未満の譫言ばかりで、据わらぬ首が揺れるだけであった。
精神力が枯渇した者に特有の、極度の疲弊である。
回復するまでに、また一日は眠ることになるだろう――とオスカーは聖女を地面に、やや乱暴に横たえながら思う。
――どうして、この女は。
家族でも何でもない赤の他人のために、ここまで尽くせるのだろうか。どこかしら何かしらが歪んではいやしないだろうか。あの矮小くて口喧しい侍女もそうだが、過度な献身など自傷の代替行為でしかないのだ。そも、見返りを求めない他人への献身そのものが異常であるのだ。そうと分からぬこと自体が。違和を抱かぬことがおかしいのだが――。
――俺が口を出せることじゃねえか。
大昔に、惚れた娘のために満月を撃ち落とそうとしたこの俺が。
オスカーは口の端だけで自嘲する。
そうだ。己のことなど、どうでも良いのだ。何なら他人のことすらも。問題は、この聖女を安全圏にさっさと押し込んで、足許に転がる少年の具合を診て、敵軍の襲撃に備えなくてはならない。こういう時に仕切りたがる冷徹な副官も今日ばかりは本業の隠密工作のために出払っており、団長は既に配置に着いている。この場は自分が指揮するのが適任であろう。
「――おい、フィンレイ。この女を任せても良いか?」
オスカーは、一歩退いた処で事の推移を観察していた近衛隊の総長――筆頭騎士フィンレイに話し掛ける。砕けた口調になるのは、王都にいた時分からの知己であるためである。対する騎士は、驚いたように片眉を釣り上げる。
「何だよ鳩が豆鉄砲を食らったような面しやがって。公の場だから敬語を使えって言いたいのかよ」
「いや、君と僕との間柄だ。そんなものは必要ないよ」
「なら何だよ」
手前、最初から警戒してやがったな――という文句を呑み込み、オスカーは簡単な質問に留める。
「いや、なに。僕にそこまでの信用があったのかと思っただけだ。確かに聖女殿をお運びすることはこの上ない名誉なのだが。僕の、こと女性関連における評判は君の耳にも届いていることだろう。この僕に任せて本当に良いのかい?」
「そんなことかよ阿呆くせえ。逆に尊敬するぜ、こんなものに欲情できるとはな」
「聖女殿に向かってそんな言い草はないだろう。奥ゆかしくありながらも芯の通った素敵な姫君じゃないか」
「もう一度言うぜ。阿呆くせえよ馬鹿が。平たい顔には見飽きているんだよ」
「平たい顔? ああ、そうか。君は法皇に師事していた時機が――」
「煩えよ馬鹿。言っておくが、この聖女を運ぶ部屋はウチの団長の私室だ。この意味が分かるな。手前が何か下手を打てば、その次点で俺以外の団員は全員手前の敵だ。何て言ったって『俺達の聖女サマ』だからな。少なくとも今のところはな。特に副官殿は怖ろしいぜ。学院の隠密――要は暗殺者だからな。『致死の白霧』には気を付けろよ」
オスカーが喉を鳴らして笑えば、降参と言わんばかりに両手を挙げたのち、フィンレイは聖女の身体を軽々と抱きかかえる。
「分かったよ。今日ばかりは自重することにしよう。流石の僕も命が惜しいからね。必要以上に触れないことを約束しよう」
「ああ、頼むぜ。それが終わったら裏門の警護を頼む。面子はなるべく月光を浴びていない者を中心に組んでくれ」
「言われずともそのつもりだよ」
「そうかい。じゃあ、またな」
「うむ。武運長久を祈るよ」
聖女と共に円塔に入っていったフィンレイを横目で見送りながら、オスカーは仰け様に倒れた少年に近付く。先刻まで、人の膿が暴れ回っていたというのに、周囲には結晶化した黒い血に似た何かが飛散するだけであった。
少年に目立った外傷はない。脈拍も呼吸も、弱いながらも正常の範疇である。放っておけばそのうち回復して戦線に復帰できると診断したオスカーは、医務室への運搬と、月光の当たらぬ城館で休息を取ることを命じて、その場を去ろうとする。
「――お待ちを。貴公はどちらに向かわれるのだ?」
大盾と長槍を持ったひとりの近衛騎士に呼び止められる。他の面子は、一足先に持ち場へ戻ってしまった。この場に立つのはオスカーと騎士だけであった。
「ウチの団長へ報告と救援だよ。いくらあの女が月蝕病を治せるとはいっても、頼り切りってワケにはいかないからな。それにいちいち倒れられるのも燃費が悪い。だから月光に耐性のあるこの俺が」
オスカーの言葉は断絶した。
騎士の長槍が閃いて、詰め襟ごと喉笛を貫いたので。
騎士は、槍の穂先を抜き去ると、大盾でオスカーの躰を弾き飛ばす。致命の一撃を受けたオスカーは大の字になった儘動かない。否、動けなかった。
首を捻ることで脛骨の貫通はどうにか免れたものの、頸動脈を破られており、加えて穂先に神経毒まで塗られているらしく指一本動かせない。流れ出る血液が気道を塞ぐが、咳き込むことすらできなかった。
――畜生、油断した。
オスカーは自身の甘さを呪う。今迄、砦に侵入した敵の間諜がいないからと。仮令いたとしてもあの優秀な副官が真っ先に始末するだろうと高を括っていたのだ。
――それがこのザマかよ。情けねえ。
この怪我では間違いなく死ぬ。
だが、悪い気分ではなかった。
今迄、数多の屍を積み重ねてきたのだ。その因果が自分に跳ね返ってきただけのことである。オスカーは最後の力を振り絞って目を開けた。昏い空には、真っ青な満月が浮いているように見えた。だが、それは錯覚であった。月は出ていなかった。
オスカーは己の血に溺れて死んだ。
…………。
………………。
オスカーだった者の死に様と、その下手人である騎士を、隔離塔の物陰から目撃していた者がいた。白銀の甲冑に身を包んだ女騎士である。仲間の報復に走りたい衝動を堪え、音を立てずにその場を後にした。
※書き溜めが尽きたので充電期間にまた入ります。くぅ疲。多分復帰は来月頭ぐらいになるかと思われ。期待せずに待っててください。しかしまあどうしてこうも真面目寄りになるのかねえ。もっと緩い話を書こう書こうと思っているのにこれだもの。こんな小説よりも『ELDEN RING』やりましょう。え? ダクソⅢの方が面白い? うん、それはそうだよ。だってエルデンはバランス悪いし「敵だけ楽しそう」とか「戦技ゲー」などといった悪評を払拭できずにいるんだもの。DLC入る前に一度大型アプデ入ってくれないかなあ。まあ開発で修羅場だろうし無理だとおもうけど。……あ、最後にこれだけは言わせて。『蛇骨の刀』と『ツリースピア』の戦技を変更できるようにしてください。前者はR2と二連斬りが役割被ってんのよ。せめて『毒蛾は二度舞う』でしょ。というか通常鍛石強化なのに戦技変更できないのはなんで??? 光る楔石なら分かるけど。それか出血つけるとかもっと色々あったでしょ。後者についても、戦技変更できる大槍が『ランス』しかないのよ。その次点で可笑しいと思わなかったのかよ。こっちも付け替え不可なら光る楔石強化にして、戦技も固有にしないと納得できないのよ。そのあたりの曖昧さというか「は? 何で?」と感じる部分が多すぎてもうね。どちらとも好きな武器だけに結構失望。あと回避ボタンのリリースでローリング開始も、ぶっちゃけ操作性クソ悪くてゲームスピードに追いついていないのよ(低スペックPC&中年親父並の感想)。毒沼作ってる暇あったらそのへんのテコ入れと簡悔精神を修正しなきゃダメなのよ。ゲームでも現実でも嫌がらせはダメ。複数ボスは本当に気を遣わないとダメ。ポン置きして「はい難易度あげました」じゃ誰もついていかないのよ。何回やってもボス戦闘が面白くない。いや真面目に聞きますけど今作「また戦いたいなあ面白かったなあ」って感想を抱いたヤツがいた? 玩具にできて遊ぶことはできないでもないけれど(初狩おじさんとか腐敗おばさんとか四股踏みギラギラ兄ちゃんをパリィだけでしばいたり)そういうのじゃなくてもっと緊張感があってテンポの良い戦闘を楽しみたいのよ往年のファンとしては。理想を挙げるなら大型ボスの完成形はダクソⅢのミディール君かな。中型とか人型とかはゲール爺ちゃんとか双王子になるのかな。過去に作れたボスのノウハウはいずこへ? どうしてこうなった??? いずれにしても今作は敵だけが強すぎるのよ。システムやらムーブの強さ、あるいはカメラワークの劣悪さを押しつけられてもこっちは悲しみやら呆れを通り越して無感情になるわけでして……。エルデの害獣についてはもう淡々と処理するだけ。その匙加減が今作ヘボ過ぎて感性を疑うのよ正直。ダクソⅢにいた有能スタッフはどこに行ったの??? 人材育成大丈夫??? 「意図せぬ~」とか「NPCイベントにフェーズを追加しました」で誤魔化せるような商売に誠意を感じないのは私だけ??? あ~オルディナに居るしろがね人滅ぼしてえなあ(カッコウ騎士並の感想)。一応これだけぼろっかすに言ってますけど、僕としてはエルデン好きですからね。多分、今のところは。そこだけは勘違いしないでくださいね。




