64.どうしてこれ程までに落ち着かないのだろう。
※頭痛発作(not群発頭痛)×過敏性腸症候群×脆弱な精神。こんなボロボロのゴミクズみたいな状況でも万年筆だけはせっせと動かせるのだから習慣というものはありがたいものである。
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どうしてこれ程までに落ち着かないのだろう。私は一体何を見落としているのだろうかと考える。この違和と焦燥は、かつて兄が自殺する前日に感じた胸騒ぎと酷似していて、私はいても立ってもいられなくなる。
私の髪は土埃や皮脂で汚れている。躰も膚も同様に。自分が酷く穢れた存在のように思えてならなかった。祖母の遺品であるという純白の外套を何度も擦りながら深く思案して――漸く違和の正体に思い至る。
現在も私をじろじろと不躾に眺めている斜陽である。
この夕陽が、私が此処に訪った日と同一のものであるとは限らないのだ。
寝台から立ち上がり、扉を指の裏で三度叩く。
「すみません。どなたか、いらっしゃいませんか」
この部屋には暦札がない。私の腕時計も、日付のない簡素なアナログ式である。疑問を解消するためには他人に尋ねるしかなかった。
「はい、此方に。どうされましたか」
ややあって、返事がくる。
「つかぬことを聞きますが、私はどれだけ眠っていたのでしょうか」
「どれだけと仰いますと」
尋ね方が悪かったのか逆に聞き返される。
「いえ、ですから――今日この日が、私が此処に来た日と同じであるかを知りたいのです。長い夢を見ていたせいで時間の感覚が狂ってしまったものですから」
事情を説明すれば、成る程そういうことですか、と納得したように番人は言った。続けて。
「聖女様は丸一日眠っておいででしたよ」
と告げられる。
「丸一日、ですか。私はそんなに寝ていたのですか」
「そうです。団長を始め、皆が狼狽えておりました。何はともあれ、回復されたようで何よりです。お姿を拝見できないのは残念ですが」
「……そうですか」
「どうされましたか。もしや体調が優れませんか」
「いえ、そういうわけではありません。驚いてしまっただけです。二三時間程度だと思っていたものですから。それよりも皆は大丈夫でしょうか。私が倒れている間に怪我をされた方はいますか。もしいるなら治療させてください」
「有り難いお言葉ですが、それはご遠慮ください」
「どうしてですか」
「もうすぐ夜だからです」
夜だから?
だから何だというのだ?
「月蝕病のことでしょうか。私なら心配はいりません。月の光を浴びても平気ですから。寧ろ、月光に晒された皆を癒して差し上げなければ――」
「違います。夜になれば帝国が攻めてくるからです。今宵ばかりはお控えください。どうか我々にあなたを護らせてください」
ぴしゃりと反論を封じられ、私は何も言えなくなってしまう。
その沈黙を相手がどう捉えたのかは分からないが。
「聖女様には、明日の朝以降に働いていただきたいのです」
番人は慰めるような声で言った。
「明日の朝ですか」
私は、彼ら騎士団の皆を懦弱と思ったことはただの一度たりともなかった。だが、それは悠長に過ぎるのではないかという心配の方が勝っていた。それが声色に出ていたのだろう。
「なあに、心配は要りませんよ。我々の士気は依然高い儘です。何せ、聖女様が授けてくださった御守りや太陽の奇跡が残っておりますから。今夜とて乗り切れるでしょう」
と陽気な声が返ってくる。
「それに、仮令誰かが怪我をしても回復の奇跡を使える者が二人もおります。ですからそう心配されずとも結構ですよ」
「分かりました。今日は、皆様の武運を此処で祈らせていただきます」
きっと、二人というのは、オスカーさんと女性騎士のことであろう。何にせよ、こうまで言われては引き退がるしかない。無理を通しては、きっとこの優しい番人だけではなく、多くの人に面倒を掛けてしまうだろう。否、面倒で済めばまだ良い。士気や戦況に影響を及ぼすことにもなりそうで、急に怖くなってしまった。
だが、こうして諭された今でも嫌な予感は消えてくれなかった。それどころか、私をせせら笑うかのように胸を掻き回す。
何故だろう。
何だろう。
私は、何をこんなにも憂慮しているのだろう――。
裡に問い掛けて、今度こそ気付く。
――そうだ、カイル君だ。
此処に来てから、あの朗らかな少年を見ていない。話を聞いた限りでは、重い怪我をして(それも隔離されてしまうほどの)いるようであった。だが、あの医務室と呼ぶに呼べない暗い部屋に彼はいなかったように思う。それとも、単に私が気付かなかっただけのか――。
願わくば、後者であってほしい。
再び、扉の向こうにいる番人に尋ねようとした時である。
「うがあああああぁぁぁぁッ――!」
言語にすればそのような音であっただろうか。
金属と金属が擦れるような。
或いは怪鳥の啼き声のような。
耳障りな、無機質かつ硬質でありながらも、生命の咽頭から発せられた断末魔が周囲一帯に響き渡った。
――今のは?
右手の薬指に嵌めた指輪が効力を発揮して、私はそれを声として認識してしまう。裡なる欲望に侵食され、己を見失いながらも、己はまだ人間として在り続けたいと願うが故の、必死な抵抗であると。その発露なのだと。
扉の向こうにいる番人達も、動揺したようで。
「今の音は何事だ」
「隔離塔から聞こえたぞ」
「待て、持ち場を離れるな」
「隔離塔ならばオスカー殿と近衛隊が近い筈だ」
などといった遣り取りが交わされる。
――隔離塔?
奇妙な符合を覚えた。私は何となしに窓辺に寄り、見下ろして――今更ながら、この部屋が高い位置にあることに驚く。建造物でいうなら三階か四階程度だろうか――後悔した。見なければ良かったと思った。思ってしまった。
視線の先は開けた空間となっていた。
その中央に、ひとりの少年が――カイル君が佇んでいた。
正確に表現するなればカイル君だった者が。
オスカーさんを筆頭に、青い陣羽織を纏った甲冑の騎士達が遠巻きに取り囲んでいる。彼らの得物である直剣、長槍、大薙刀は既に鞘から抜き放たれている。
それもそのはず。
カイル君の背から左肩にかけて得体の知れぬ巨大な黒い化物が生え出していたので。体表は滑々(ぬらぬら)と光沢を纏い、菱形の細長い鱗をもつ様は蛇宛らである。頭部と思しき箇所からは象牙色の拗くれた角が生えている特徴は山羊の如し。巨躯でありながらも、腕も脚もない寸胴な形状は蟲のようで。しかし赤色に発色する血走った左右一対の眼は地球上のどの生物にも似ていない――。
まるで竜であった。
もしくは竜のなり損ない。
その生物と非生物の狭間に位置する「なり損ない」に意識を奪われてしまったのか。人間であったカイル君に自我は残されていないように見えた。覚束ない足取りで、感情の篭もらぬ視線を周囲に這わせるだけであった。
――寄生虫だ。
しかも、冬虫夏草や寄生蜂のような。
宿主を必ず殺す類型の捕食寄生だ。
あまりにも不気味で不可解で、目を背けたくなる光景であったが、私は目を逸らすことができなかった。そのなり損ないも私も見ていたので。
激しい恐怖を感じたのは確かであった。こういう状況を、蛇に睨まれた蛙というのだな――と心の片隅で思った。そんな冷静な自分を滑稽に感じる程度の余裕は残されていた。
だが、それ以上に私を釘付けにしたのは。
私が察し得たのは。
――執着、だろうか。それとも懐古だろうか。
喪ったものを懐かしむような。
或いは慈しむような。
どこまでも人間らしい感情であった。
だからこそ、私はもうあれを化物とも不可解とも思わなかった。
「姉貴! 隠れろ、そいつは姉貴を狙っているッ!」
だが状況は待ってくれなかった。
どこからか、弟の声が聞こえたと思った時。
なり損ないが――深淵に呑まれた人間のなれの果てが――暴れ出した。
以下、本編とは全く関係ないゲームの独り言。
* * *
私は魔法剣士の他にDLCに向けてもう独りキャラを作った。具体的なステ振りは省くが、ロマン武器『ツリースピア』をメインに扱う上質バサである。賢明な褪せ人諸兄は「なぜツリスピ? 戦技が『聖律』固定の地味武器ではないか」「そも上質バサは、他ビルドの劣化になりがちだろう」と嗤笑されるかもしれないが待っていただきたい。
私は、今回のDLCの内容を「聖属性が活躍する」と一点読みしている(何せ本編でサッパリな扱いであったため)。もっと言えば霊馬にも焦点が当たり、馬上戦闘が求められると。更に、死の鳥も関わってくるであろうため『聖律』や『聖律共有』が必須レベルなものになってくるであろうと。これら全てを満たすのは『ツリースピア』しかないと思う。まあ、山勘だけど。
それはそうと、武器『ランス』の馬上特攻機能していなくね?




