63.「生き残ることができたのならば、などと無粋なことはもう言いません」
※私は猫が好きである。私の書く小説によく猫が登場するのもその影響である。奴らは人間のことを大きい猫程度にしか思っていなく、実に気紛れである。名前を呼んでも鳴き返すことは最初の一度だけ。あとは尻尾をぱたりと動かして返事代わりにするのだ。だがそれが良い。人間はひょっとして猫の下僕なのではないだろうか。「神と和解せよ」⇒「ネコと和解せよ」
※『ELDEN RING』DLC 2024年6月21日発売予定! 乞うご期待! 待ちきれねえ!
「生き残ることができたのならば、などと無粋なことはもう言いません」
私の手を握りながら彼は言った。続けて。
「私もあなたに惹かれておりました。あなたが淹れてくれた一杯の珈琲が、あの日どれだけ私の心身に染み入ったことか。今、此処に誓います。必ずや生きて戻ることを。あなたの夢を守るために最後まで戦い抜くことを。聖女の騎士が決して破れはしないことを」
述べるなり、彼はその場に傅いて、私の手の甲にそっと接吻をした。
その衝撃たるや凄まじいものであった。
いつ夢が覚めたのか、夢と現の境界はどこにいったのかという戸惑い。想い人が、私が思う以上に私を想ってくれていたことへの望外の喜び。兄を喪って以来、心の一部が毀れてしまっていたにも関わらず満たされる感覚――。
茫然自失とする私を余所に、彼はすっくと立ち上がる。そして私から手を放し、部屋にひとつしかない入口の側に置いてあった手甲と兜を装着して、盾を背負い、直剣を佩用する。初めて出逢った時と同じく上級騎士一式の装束である。
そこで私は、此処が砦の一室、それも彼の私室であることに気付く。特にこれといった根拠はない。強いて言うなら、寝台だけが置かれた殺風景な部屋でありながらも、私が寝かされていた寝床に、彼が日頃から纏う、月の如し穏やかで甘い残り香を感じたからである。
窓から差し込む斜陽の紅が色を増した気がした。もうすぐ夜を迎える。砦を囲う城壁から、あの不気味な月が顔を覗かせるだろう。
「夜になれば、また帝国の兵士が押し寄せてくるでしょう。この部屋も絶対安全とは断言できませんが幾重にも厳重に護らせておきます。くれぐれも明日の夜明けまでは外へ出ないようにお願い致します。内側から閂を掛けるように」
今の話、聞いていたな――と彼が扉越しに声を掛ければ、分厚い木板を隔てた向こう側から、承知致しました――と複数名の返事がくる。私も、顔と名前を知っている団員の方々である。
此処が前線の基地であり、日本とは違って必ずしも安全の保障がない不安を。私などのために貴重な人手を費やしてしまうことに申し訳なさを抱くが今更であった。私は、最初からそうと知りながら自分の意思で此処にいるのだ。そしてそれを彼も承認してくれた。だから、これはこれで割り切らねばならない。
私はまだ、何も間違えていない。流石に精神力と持久力を摩耗させた結果、昏倒して運び込まれることまでは想定していなかったけれども。
では皆が待っているのでこれで――と退室する彼を呼び止める。
私は、枕元に置いてあった(一体誰が置いてくれたのだろう)自分の肩掛け鞄から、淡い水色をした液体の閉じ込めたる硝子瓶を取り出し――『秘めた祝福』という名の精神力を回復させる秘薬である――唇を湿らせる程度に、ほんの少しだけ呷る。残量は既に半分を割っている。ここ数日、奇跡を使っては服用を繰り返していたせいであろう。
「どうされましたか」
「お礼と言えば良いのかお詫びと言えば良いのか分かりませんが――これから戦いに出るならば、これで少しは月光を浴びても平気になるのかもしれません」
壁に立て掛けられた大杖を持ち上げ、あの少女が使っていた奇跡『太陽の光の恵み』を発動させる。彼が不倒の戦いを果たせるように。生きて戻ると誓った彼を嘘吐きにさせないために。
――お婆さま。今一度、お力をお授けください――。
――彼を月光からお守りください――。
太陽の名を冠する奇跡は消耗が激しいが、今迄休息していたこと、そして『癒し』よりも『恵み』の方がまだ軽いようで、今度は倒れはしなかった。
「この光は――」
驚いたように彼が呟く。
「あの子が――天使様が私に教えてくれた太陽の奇跡です。もしかしたら気休めに過ぎないのかもしれません。ですから、どうか無理だけはなさらないでください」
「聖女様。あなたは目を離す度に、本当に聖女らしくなっていきますね。いいえ、私にとってはあなたが。あなただけが私の聖女だ」
噛み締めるような言葉であった。
果たして聖女などという称号に真実も贋作もあるのだろうか。そもそも私がなりたいのは。本当に欲しているのは。聖女という大それたものではなくて、ただの喫茶店の店主なのだが――という思いが一瞬過るが、それは野暮というものである。
きっと今だけは。
これで良いのだ。
これが良いのだ。
外でもない彼に、私の聖女と言われて嬉しかったということは否定しない。
「もう引き留めはしません。行ってください、私の騎士様」
私が少しばかりの諧謔と悪戯を込めてやり返せば、彼は『静かなる意思』を示した後、今度こそ退室していった。
私は暫くの間、赤い斜陽を浴びながら、彼が出て行った扉を何をするわけでもなく見詰めていたが――そんなことをしていても意味がないことを悟ると、諦めて寝台の淵に腰掛けて物思いに耽る。
――私は、いつ目が覚めたのだろう。
喫茶の夢を見ていたことは確かである。私がカウンターにいて、知人友人の大勢が来てくれた。お客様としても応援としても。いずれせよ幸せな――私の理想を詰め込んだ夢であったが、その幸福さ故に、現実に引き戻されるのも早かった。
そこまでは良いのだ、そこまでは。
問題はそれからである。
暗い世界に私と彼だけが取り残されてしまった。そして彼が私に触れた途端、世界は崩れ去り、いつの間にか私は此処にいた。だが、彼との遣り取りは断絶することなく地続きで繋がっていた。夢想と現実の境界が酷く曖昧であった。
ともすれば。
今この瞬間も夢ではないのか。私の願望が見せる幻にしか過ぎないのではないのかという不安に駆られもするが――考えても詮無きことである。
私と彼の間には確かな感情の遣り取りがある。
私が聖女で、彼が騎士。
それだけは真実である。
何故、店主と賓客ではないのかと思わないでもないが、こればかりは、そうなってしまったのだから致し方ない。開き直るしかない。
「…………」
先刻までの会話を思い返す。やはり照れもなく誇らしさもない。さりとて無感情というわけでもなくて。今度こそ、言いたいことを、伝えたいことを伝えられたのだという清々しい気分であった。
奇跡を使ったばかりで精神も身体も疲弊していたが。
人間性を少しでも取り戻せたような気がして。
決して、悪い気分ではなかった。
どれだけ思索に集中していたのか。私の意識を現実に引き戻したのは控え目な叩音であった。私が扉に向かって返事をすれば。
「聖女様。食事の用意ができたとの報せが届きました。お持ちしても宜しいでしょうか」
と質問される。
「いえ、結構です。食欲がないものですから」
「しかし団長からは、聖女様は長らくお食事をされていないため、できるだけ提供するように指示されているのです」
「心遣いはありがたいのですが、お気持ちだけ頂戴いたします。鞄には軽食も入れてありますから大丈夫ですよ」
ウィリアム様には私から伝えておきます、と言えば、分かりましたお願い致します、と護衛は退いてくれた。
食欲がまるでないのも事実であったが。皆がこれから死地に赴くというのに、私だけが暢気に食事をすることに良心が異を唱えたのだ。それに兵糧等の物資にも限りがあり、元々は此処で戦う者達のために用意されたものである。飛び入りで参加した私が手を付けて良いものではない。
まあ、腹が減っては戦はできぬというように空腹を凌ぐのにも限度はある。だが少なくとも、今日くらいは鞄に収めたパンや菓子類で乗り越えられるだろう。
私は嘆息したのち上半身を寝台に横たえる。この時間まで眠っていたせいか眠いとは全く感じなかったが酷く疲れていた。それは果たして、慣れぬ振る舞いをした気疲れのせいか、先刻使った奇跡の反動なのか、或いはその両方なのか――。
自然と瞼が重くなる。
眠るつもりはなかったが、今日はこのまま身体を休めることにしよう――と思った時。
奇妙な胸の騒響を覚えた。
私は、何か大切なことを見落としてはいないだろうか。
第六感が警鐘を鳴らし、私は飛び起きた。
夕陽ばかりが、煩いほどに照っていた。
以下、本編とはまるで関係ないゲームの話。
* * *
エルデンリングがDLC発売されるとなって、また新たにキャラクターを作ることにした。
各種ステータスは以下の通り。
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・生命40……HP1.450
・精神35……FP200
・持久22
・筋力12……『名刀月隠』要求値
・技量70……最速詠唱
・知力60
・信仰06
・神秘09
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コンセプトないしテーマは『SL175×技魔ビルド×カーリア騎士』である。
右手の表は『カーリアの騎士剣』、裏は『カーリアの輝石杖』。左手の表は『カーリアの騎士鎧』、裏は『獣避けの松明』(装備枠の三つ目は信仰上の都合で空白にしている)。防具は『カーリア騎士の兜』『カーリア騎士の鎧』『ブライブの手甲』『鱗の足甲』で強靱の閾値51を確保。こだわりポイントは持久力22という数値。バーの長さがFPと同じになって美しいのだ。分かり易いほどにコスプレ寄りの魔法剣士が出来上がったワケだが。ワケだが……。
……うん。はっきり言って弱い。
メインのカーリア騎士剣が。
「これなら『名刀月隠』とか『暗月の大剣』握った方が良くね?」
「『カーリアの騎士剣』のガードポイント使うなら持久22は少ないだろ」
「生命40でDLC行ける程のプレイスキルないだろ」
という疑念が消えてくれない。というか名刀月隠と暗月大剣が強すぎる。しかし強すぎる厨武器はどうしても食指が動かない。これなんてジレンマ。う~む、どうしたものか。




