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※人物紹介を下に入れました。

 


 

 クロードの弟妹は最初、自分たち兄弟を窮地から救った王太子妃という存在に、うさんくさげだった。

 親代わりの兄を慕う彼らには「宝珠」という切り札は通用しない。

 これが案外難敵だった。

 自分たちを守って来た兄が守る対象を変えた。違う種類の守護なのだが、幼い子供たちには理解わからない。嫉妬と心配とであいまって、クロードの弟妹はクリステルに辛辣しんらつだった。


 弟妹は元気を取り戻したあと、クロードに連れられてクリステルと面会した。開口一番、ぶちかました。

「なによ、大したことないじゃない」

「ちんちくりんだな」

「こら、お前たち! 王太子妃殿下に助けて頂いたのに!」

 クロードはあわてて弟妹をいさめていたため、クリステルの引きつる笑顔を見逃した。


「ふん」

「はん」

 弟妹はクリステルに向けて鼻でせせら笑う。


「兄上、目を覚まして下さい!」

「恩を売ってお兄様を良い様に使うつもりなんですわ!」

「そうですわよ」

 目を吊り上げて口々に言うのに、クリステルはあっさり認める。クリステルは最初からクロードの前でもつくろわないし、甘さを見せない。


「ほ、ほら、本人がそうだと言っていますよ」

「馬脚を現したわね!」

「わたくしはデシャン子爵の重しとなっていたあなたたちを助けました」

 いきりたつふたりに、クリステルはしらりと返す。

「「ぐっ」」

 ぐうの音は出たのね、と内心思いながら、クリステルは淡々と続ける。


「ですから、デシャン子爵にはわたくしのために権力を握り、軍部を掌握して頂かなければなりません」

「はあ?!」

「なんですってぇ!」

「良いですか。あなたたちがそう感情をむき出しにしていては、デシャン子爵のためになりません。足を引っ張ることになります」

 ふたりは黙り込んだ。

 呑みこみは良さそうだ、とクリステルは考える。


「大したことがない」、「ちんちくりん」。

 出会いがしらの暴言で、クリステルは決めた。

 ジスランと同じく、彼らも教育を受けてもらおうではないか。

 スパルタ、スパルタ、そしてスパルタの礼儀作法その他の教育を!

 わたしと同じ苦しみを味わわせてやる!


「あなたたち、若いから回復が早いのね。では、これから、お兄様のためにできることを考えなければなりません」

 それはふたりも感じていたことだったからか、反対の意見は出なかった。

 行ける! このまま押していく!


「デシャン子爵は武術に優れてはいても、不得手としているところがございます。それは社交界と宮廷政治です」

 自覚があるのか、クロードが身をすぼませる。


「でも、それは!」

「お兄様はそんな些末さまつなことをせずとも!」

「そうです。人には向き不向きがある。ましてや、デシャン子爵は類稀な才能がある。それを伸ばす方がよほど国益に繋がります」

 相手の言葉を肯定しつつ、自分の狙う主張に持って行く。

 王侯貴族として宮廷社会を渡って行くのに必要な手法を、クリステルは身につけつつあった。

 クリステルとしてはそういう腹積もりだったが、クロードと彼の弟妹は違う風に受け取った。クリステルがクロードをかばったと思ったのだ。態度が軟化すれば自然と聞く耳も出来上がる。


「ですから、あなたたちが補うのです」

「ぼくたちが?」

「お兄様のために?」

 弟妹たちは今まで兄に助けられっぱなしだった。それが、兄の不足分を補えるという。

 クリステルは知らず知らずのうちに、弟妹の弱点をついていた。それは願望とも言い換えられる。そして、人は願いを叶えるためならばどれほども努力することができる。


「そうですよ。あなたたちがお兄様の不得手を補い、そうすることでクロード卿は得意分野で活躍するのです」

「「やります!」」

 やった! 落ちた!

 こうして、クリステルの思惑通り、こまっしゃくれた生意気な子供ふたりはスパルタ教育を味わうこととなる。


 はじめは泣き言ばかり言っていたふたりは、けれど、決してあきらめなかった。

 兄のために。

 その一念が原動力となり、めきめきと伸びて行った。

 はじめは内心、こっそりと笑っていたクリステルは、しかし、ものすごい勢いで追い上げられ、あわてて自分も取り組む羽目になる。

 こうして、したくもない切磋琢磨せっさたくまをすることに相成ったのである。


 恩を売られて腹を立てていた弟妹たちは、クリステルと付き合うにつれて、だんだん彼女のことを好きになって来ていた。しかし、素直ではないお歳頃である。

 クリステルももはやかぶっている猫を脱ぎ捨て、弟妹たちとギャアギャアやり合うのがちょうど良いガス抜きとなった。


 そして、クロードはそんな飾り気のない(というよりも淑女らしからぬ)クリステルに惹かれていく。元々、ぼんやりな上に病人ふたりを支える生活に疲れ果てていたクロードは、付き合うためになんだかんだと金銭がかかる貴族のご令嬢とは縁遠かった。

 クリステルにはそれがない。

 クリステルにとっては面倒な、そして、クロードにとっては金銭がかかるお出かけよりも、部屋でまったりと茶菓を楽しむ方を好む。なんなら、弟妹と好き勝手言い争う。

 楽し気な三人にクロードは未だかつてない幸福感、家族の心置きなさを噛みしめた。


「迷惑ばかりかけて、ごめんなさい」

「生きていて、ごめんなさい」

 咳込みながら弱々しくそんな風に言う弟妹の姿は、そこにない。

 活き活きとした生命力にあふれていた。

 ああ、もう大丈夫だ。

 そう思えたのだ。


 クロードの弟妹たちはクリステルの腹いせの教育によって立派な礼儀作法や知識を身に付け、のちに宮廷の侍従頭侍女頭にまでのぼりつめる。そうして、宮廷の奥向きのことを牛耳る。彼らは自分たちの命を救うことで兄をも救い、さらには自分たち三兄弟に活躍の場を与えてくれた王太子妃、のちの王妃に深謝と敬愛を抱く。

 王太子妃、のちの王妃に仇なすもの、王室に対して良からぬ考えを持つものの情報はクリステルの陣営に筒抜けとなるのだった。




 さて、クロードは武術に優れ戦略にも長けているが、それ以外のことはおおむね「ぼんやり」だ。人事もからっきしである。

 だから優秀な補佐役を部下に持つ必要があるとクリステルは考えた。

「目端が利く者を配して、人事を掌握する必要があるわ。酒と女に溺れていない人にしてよね!」

『注文が多いなあ』

 宝珠から聞きだした者を抜擢してようやっと肩の荷を下ろしたクリステルは、次の荷を背負い込むことになる。

 ジスランから深刻な話を聞いたのだ。


「王宮で不正が行われている?」

「はい。王太子妃殿下に命じられてデシャン子爵の御身内の生活環境を整えさせた商人が関与している様子です」

 王宮に出入りする商人ともなればそれなりのうま味もある。

「その商人の名は?」

「ジュストと申します」


 クリステルは弱みを掴む好機だとばかりにジスランに調べさせることにした。だが、ジスランは難色を示す。

「こういうことはやったことがなくて」

「あら、なんでもかんでも自分で背負い込もうとしなくても構わなくてよ。人を使えば良いの」

 クリステルが今まさに「丸投げ」として実践している。

「そういうのを得意としている人はいないかしら?」

「では、探して手配します」

 この時の経験を活かし、次期宰相はさまざまな伝手を使いこなすようになる。


 のちに宰相となった男は賢者と賞賛されるたびにこう言う。

「王妃殿下が命じられることを遂行して来たからこそ、今のわたしがあるのです。真の賢者は殿下です」

 過大評価極まれり。




●人物紹介

・クリステル・バダンテール

 怠惰な(元)令嬢。すべてはぐうたら生活のために。

・アラン・バダンテール

 王太子。眉目秀麗。

・ジスラン・オラール

 オラール男爵家の三男。下っ端管理で役立たずと言われていた。

・クロード・デシャン

 子爵。騎士。身体の弱い弟妹を支える。

・ブロンデル

 侯爵。野心溢れる。

・フェリシー・ブロンデル

 侯爵令嬢。宝珠選定の最有力候補だった。



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