番外編1.帝国の一輪華、バダンテール宮廷において、そのうつくしさを見せつける
評価、感想、いいね、誤字報告、
ありがとうございます。
二年越しに加筆したところ、
以前読まれた方にもふたたび読んでいただけたようで、
とても嬉しいです。
加筆部分の兄弟のやり取りから、
「イケメンたちがひとりの女性を取り合う」状況をもっと書いてみたくなり、
番外編を作成しました。
長くなりすぎたので分割します。
お楽しみいただけたら幸いです。
後世の史籍は語る。
「帝国の一輪華と称された美姫が、バダンテール宮廷において、そのうつくしさを見せつける」
バダンテールの名高い賢王アランが病から回復し、しばらくしてクリステル王妃は出産した。
国を挙げての祝賀会の招待客の中に、その名はあった。
「バルバストル帝国の姫君が?」
「はい。皇帝のご令孫であらせられます」
外交官としてバルバストル帝国にも赴いたことがある王弟フレデリクがクリステルに説明する。
耳を傾けつつも、クリステルはアランの浮かない表情が気になった。
「陛下、どうかなさいまして?」
「いや———」
珍しく歯切れが悪い。
「バルバストル帝国は兄上にアルレット姫との結婚の打診をしてきたことがあるのですよ」
「もちろん、断ったよ」
にこやかに言うフレデリクに、アランはすぐさま付け加える。
「まあ! バルバストル帝国の姫君でしたら———」
「受ければ良かったのだなどと言わないでほしい。そのとき、すでにあなたは宝珠の選定を受け、王太子妃に内定していたのだ」
クリステルが言いそうなことを先回りしてアランが封じる。
「しかし、アルレット姫は類まれな美姫との噂ですよ」
フレデリクは気品のある王族の微笑を浮かべているものの、その目がにやにやと笑み崩れている。対するアランは苦い表情を浮かべる。
「そのとき、姫は十を過ぎたかどうかの幼子だ」
「兄上とはひと回りも離れておりませんでしょう。王族の結婚ならば、その二倍ほども歳の差があってもふつうです」
「ならば、君が結婚すれば良い」
アランは攻撃に転じた。
「わたしがですか?」
「そうだ。わたしはすでに愛しいうつくしい妻を得た。ぜひとも、君もそうして欲しいものだ」
アランは殊更「愛しい」に力を入れる。少しでも隙を見せれば、妻は自分に側室を勧めてくるのだ。油断ならない。
「アルレット姫はうつくしいだけでなく、才女だそうだ。君とはいつつくらいしか変わらないだろう。王族としての結びつきを持つ格好の機会だぞ」
兄にやり込められて、フレデリクは早々に退散するほかなかった。
バルバストル皇帝の名代として現れたアルレット・バルバストルの姿に、バダンテールの宮廷は感嘆のため息をついた。
ローズブロンドを結い上げ、きらびやかな衣装に身を包んでいる。ヘーゼルの瞳には知性が宿っている。華やかで品のある佇まいに、一斉に注目が集まる。
王族として式典や夜会に出席することに慣れているらしく、堂々とした振る舞いをするアルレットに、あちこちから招待状が舞い込む。
しかし、当の本人はそっけない。
「姫さま、また招待状が届いております」
「捨て置いてちょうだい」
侍女が差し出す銀盆の上に載った封書を手に取りもしない。
アルレットはバルバストルの一輪華と称された美貌と高い知性、磨き抜かれた社交術、そして方々への伝手を持っていた。
バルバストル皇帝はこの賢くもうつくしい最年少の孫を大変可愛がっている。周囲もそれを熟知していて、下にも置かぬ待遇が常に用意されていた。
そんなアルレットは一度だけ、否定されたことがある。
それが、この国の王アラン・バダンテールとの婚儀である。そのとき彼はまだ王太子だったが、今や賢王の誉れ高く、文武両道でとても麗しい容姿をしていると聞く。そう、アランの噂はバルバストルにも頻々と届いていた。
ちやほやされるのは嬉しいものだが、少々飽きていたアルレットはふと思い立ち、アランの子の誕生を寿ぐ祝賀の催しへ、自身が出席すると挙手したのだ。
王族として国外でも公務を果たすアルレットは、バルバストル宮廷の威信をかけて豪奢な装い、立派な仕立ての馬車を用意されて送り出された。
そして、華やかかつ品のある佇まいでバダンテールの宮廷を圧倒し、寿ぎの挨拶を済ませ、祝いの品を渡した。
謁見したアラン国王は噂に違わぬ麗しさ、威容を誇っていた。
「なにより、妃殿下に対する言葉の端々に溢れんばかりの愛情、視線に込められた熱量!」
アルレットが掴んだ情報によれば、バダンテールでは少し前、偽聖女が現れたり、王弟を担ぎ出そうという一派が暗躍したりと難事が続いたそうだが、世継ぎも生まれ、その祝賀の場で盤石な体制を諸外国に披露した。
数年前に即位したアラン王はまだ年若いものの、素晴らしい人材に囲まれ、バダンテールは発展を遂げるだろうことは想像に難くない。それを確信させる祝賀会となった。
アルレットは自国の社交に積極的であったし、公務として様々な国へも赴いた。そして、見目麗しい殿方たちとたくさん出会ってきた。
いずれにおいても、アルレットは称賛の目を向けられ、愛を乞われることも多かった。
しかし。
「このバダンテールにおいては素晴らしくうつくしい殿方がたくさんおられましたわ」
しかも、才長けた者ばかりだ。
そして、なにより。
「そんな桁外れのうつくしさと才知溢れる殿方たちが、クリステル妃殿下を取り巻き、寵愛を競い合っている!」
情報収集の重要性を知っているアルレットはバダンテールの中枢が逸材揃いであること、それら人材を王妃が王太子妃の時代から集めていたと聞いて興味をかきたてられていた。
しかし、アルレットがバダンテールの宮廷で見たものは想像を絶するものだった。
アルレットは新たな世界の扉を開いてしまったのだ。
「な、なんですの、なんですの! うつくしい男たちが王妃殿下を巡ってしのぎを削っているなんて! たまらない恍惚さ! なんて甘美な状況なの!」
胸の奥から熱が込み上げてくる。それは活力へと変わる。生きる喜びになる。
この瞬間、この場面を見聞きする僥倖に、あらゆるものに感謝したい気持ちになる。
今、祝福の鐘が軽やかに響き渡る。アルレットの脳内に。
『なんで? なんで、わしの出番がないん?』
『「元ぐうたら令嬢のいやいや王妃生活記」いうたら、イケメンに囲まれる王妃サマというのと、王妃サマと宝珠の丁々発止のやり取りが目玉やん!』
『いわば、目玉のひとつを出さんってどういう料簡やねん!』
『だから、あとがきへ登場やて!』
『なんなん?! なんなん?!』
『あまりな仕打ちやん!』
『こうなったら、どかんと応援したってや!』
『そして、わしの復権を! 出番を!』
『面白いと思ったらポチっと評価、いいねしたってや!』




