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「元ぐうたら令嬢のいやいや王妃生活記」を書きなおしました。

初めから変更点があるので、一度読んだという方も最初から読み直していただければ幸いです。




 妖精の一件があった後、「やはり王妃殿下こそが聖女さまだ」という声があがり、クリステルが「しまった!」と青ざめるひと幕があったものの、無事にアランが回復したため、妖精を逃がしてやった。

「また遊びに来るな!」

「もう来ないでちょうだい! 悪戯もだめよ!」


 妖精は去り、本復を果たしたアランは以前にも増して妻を愛した。なにしろ、自分の子を宿している。

 クリステルはうつくしく賢くやさしい、あらゆる美点を備えているのではないかという夫の溺愛ぶりに恐れおののく。


「重い! 重すぎる! 大体、なんなの? 王妃だけでも重責だっていうのに、聖女も兼任なんて。聞いていない! 気高く清らかで美しいってなんなのよ。夫に毎日言われているわよ。そんなのになった覚えはない!」

『毎日言われているんかーい! まあなあ、その夫君こそが王サマ。この国のトップやからねえ』

「わたくしは後ろの方で眺めているので十分だわ。前面に立つなんてありえない!」


『なあ、ねえちゃん、ところでな、魔王のこと、忘れてへん?』

「あ!」

 あまりにもいろんなことがありすぎて、クリステルは魔王出現の宣託を失念していた。

『いや、そんな重要なことを忘れんといて』


 王国をおびやかす未曽有の危難である。ちなみに、前国王夫妻と国王アランはちゃんと覚えていて、クリステルが人材を集めて富国強兵にしているのは、きたる魔王出現に備えてのことだと思っていた。ここにも誤解は潜んでいたのだ。


「先回りして出現自体しないようにしましょう」

 宝珠の言葉を聞かぬふりしてクリステルは言う。

『あかんよ、そんな簡単にいかんわ』

「ええー! じゃあ、なんのための預言なのよ!」

『あほ言いなや! 当たるから予言なんやろ。っちゅうか、百発百中なんやから、ありがたがらんかい!』

「陛下の病を伝えていなかったじゃない! 役に立たない宝珠ね!」

『むっきー! なんちゅうこと言いよるねん、このお妃さまめ!』

 なまっているが、汚い言葉は出てこないらしい。「お妃さま」と呼ばれても、そうですがなにか?としか思わない。


「仕方がないわね。じゃあ、備えに備えておいて出現と同時に力をつけるまえにたたきつぶす!」

『だーかーらー!「その言い方がむかつく」ちょ、人がしゃべっているのにさえぎんなや!』

「人じゃないでしょ、宝珠でしょ」

 あくまでも妖精とは言わない。それに、正確には「妖精の一種」だ。ここは大事なポイントだ。

『揚げ足取る方がむかつくわ!』


 王妃はやりたくもない王太子妃教育、王妃教育を受け、上品ぶることを強いられてきた。素は怠惰な人間である。宝珠の前では好き勝手言えるので、会話はいやではない。それに、前もって知っておけば、面倒なことがより面倒になることを避けることができる。


 宝珠は宝珠で自分の言葉に返答があるのがうれしかった。長年、ひとりで話しかけていてむなしいことこの上なかったのである。


 つまり、互いの欲求が合致した上での漫才、もとい、会話だったのだ。それを周囲は「宝珠と王妃様との対話」「宝珠が王妃へ金言を授けている」「宝珠が王妃へ御宣託を下賜している」と受け止めた。

 誤解である。

 実情はこんなものである。


「いいから、早く言いなさいよ。細かいわね。役に立たない上に器まで小さいなんて、良いとこないじゃない!」

『むっきー!』

 宝珠から湯気が出た。

「さわったらほかほかしているのかしら」

 クリステルは鼻にしわを寄せて湯気を見る。

『いや、なんで離れんねん。なんで、さわったら、って言いつつ、手を後ろにかくすねん』

「さわりたくないから。うっかりぶつかったらいやだから」

『むっきー! 冷静に説明すんなや! ほんまに正直者やな! 本音をぶちまけているのに、あんなに男前たちに好かれているってある意味すごいわ!』

 しばらくお待ちくださいのテロップが必要なほど、宝珠はぷりぷりと湯気を出しまくった。


「水をかけたら割れるかな」

 なにかの実験のようである。

『割れるかい!』

 王妃が余計なことを言うので、湯気を噴く時間が伸びた。ぷっしゅう。


「で、いつ魔王は出現するの?」

『人間の時間で言えばあと十数年後くらいや』

「はあぁぁ?! そんな後なの?」

 このとき、クリステルは淑女教育をきれいさっぱり忘れていた。宝珠と語り合うときはだいたいこんな感じだ。


『せや! いきなり言われても困るやろ。ねえちゃんは面倒くさがりやし、がんばって先々のことを見てやったんやで。感謝せえや』

「くらいってのがネックね。どのくらいの誤差があるのかしら」

『いや、ほんま、ねえちゃん、人の話を聞かへんな! ああ、人じゃなくて宝珠な!』

 突っ込まれる前に訂正しておく。無用な被害を避けるコツだ。

 これができるかできないかがデキる人間かどうかの線引きや。いや、人間じゃないけどな。わし、賢い。

「魔王を倒せるくらいの勇者をごろごろ育成すればいいってことね!」

『ごろごろってあんたなあ』


 そうして、バダンテール王国は富国強兵の道をたどったとか。

 どうやって?

 もちろん、世にもまれな未来を知ることができる宝珠の力を、余すところなく引き出した王妃の手腕によって。

 面倒くさがりを自認する王妃は面倒ごとが起きないように先んじて芽をつぶしていったのだ。同時に人材育成に力を入れる。育てた人間が万事うまくやってくれる。


『わしは究極の怠惰な人間を作り上げてしまったんやろうか?』

「丸投げしておこう」

「さすがは王妃様。見事なご采配にございます」




 人材を集めたのは、自分がぐうたらするためでもあり、同時に、アランの治世を支えるためでもあった。

 優秀な者たちがくさびから解き放たれ、才能を発揮するのをクリステルはうれしく心強く思った。同時に、意外な結果ももたらした。風采よくなったと同時に見目良くなった。貴族社会の中では見た目は大いなる武器になる。しかし、彼らの美男ぶりは突き抜けていた。

 クリステルからしてみれば、いずれもまぶしい存在になった。だから、直視しにくい。自分のだめさ加減を突き付けられるからなおさらだ。

 彼らは知らない。彼らがうつくしくなればなるほど、クリステルの心は離れていくのだと。ちょうどよい具合でとどめておくなど、考えもつかない。


「わたくしは集めた人材に嘘はついていない」

 すべて本当のことを話して願った。ただ、隠しごとがあっただけ。

「秘密は女性を魅力的に見せるスパイスよ!」

『さよか』

「ぐうたらはする!」

 はたして、ぐうたらは女性の魅力を減少させはしないだろうか。

『おお?』

「王国は集めた人材で安泰だもの!」

 ただ、国王の描いたよりよい未来を実現させ、それを彼の子供に託すまで、自分は王妃の座に座り続けようと思う。

「ぐうたらしながらね!」


 王妃なんていやだ。

 でも、アランが望んだことをかなえようと思う。それに、アランの妻としてならば、なんとか続けて行ける。王妃ではなく、彼の妻という意味合いならば、それはクリステルが心から望んだことなのだから。





「元ぐうたら令嬢のいやいや王妃生活記」、

これにて完結です。

 お付き合いいただきありがとうございました。

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