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「元ぐうたら令嬢のいやいや王妃生活記」を書きなおしました。

初めから変更点があるので、一度読んだという方も最初から読み直していただければ幸いです。



※人物紹介を下に入れました。


 

 王妃は国王の寵愛をほしいままにし、さらには宝珠の力を借り、権勢をふるったと言われている。力を欲するがあまり、自らが女王とならんとしたのではないかとも。

 だが、これは事実とは異なる。国史とも。


「女王? いいえ、わたくしはあくまでも「宝珠が選定した王妃」でしてよ」

「聖女? いいえ、わたくしはあくまでも国王陛下を補佐する身でしてよ」

 周囲の甘言にも耳を貸さず、あくまでもつつましく、王国を支え続けたという。


 言葉に乗らず、結果、甘い汁を吸おうと思っていた者たちからしたら、思惑が外れて面白くない。王配であるだけなのにも関わらず、周囲が自然と女王陛下と呼ぶ王妃を、彼らは宝珠の力を意のままに操ったと噂した。

 よって、彼女は稀代の悪女とも、聖女とも言われている。


 敵対勢力もいたが、王妃のことを過大評価したのは、自分たちを負かした相手がちっぽけな存在だと具合が悪いからである。すごい人間だったから及ばなかったということにしておかなければならない。大したことのない人間に負けたとあっては、自分たちはもっと程度の低い人間だということになる。




「暇~。暇やわあ。わし、暇すぎて死んでしまいそう!」

 悪戯妖精なだけあって、虫かごのなかからそんな風な声がときおり聞こえる。

 妖精が暇すぎて果てる前に、アランは回復の兆しを見せた。


 涙ながらに手を握っていきさつを話したクリステルは、うっかり妖精がちっさいおっさんだったとか、「なまりのきついおっさんの喋り」をするとか、なによりも宝珠が妖精の一種だったという信じられない事実を述べるに至り、少々興奮してしまい、病人に心配され、宥められた。


「随分、心配を掛けたね」

 アランのしっかりとした話し様に、クリステルは安堵する。

「ええ、ええ、本当でしてよ。フレデリク殿下たちもとても頑張ってくださったの。早く回復して、彼らにお褒めの御言葉をくださいませ」

「そうしよう。それに、君だ」

「わたくし?」

「そう。君こそ、もうひとりの身体ではないのだから、大切にしなくては」

 横たわりながら穏やかにほほえむアランは、やはりクリステルの目には輝いて見えた。この輝きを失わずに済んだことに、クリステルは感謝するのだった。



『にいちゃんが完治したのって、薬草のお陰ばかりじゃないんとちゃう? にいちゃんが根性で跳ねのけたんちゃうかな。ねえちゃんひとりにまかせてられるかってな。あれやね、愛の力やね』

「愛……! まさか!」

『なに言うてんねん。めっちゃ好かれとるやん』

「でも、わたくし、ぐうたらで、」

『それはあれや。あばたもえくぼっちゅうやつやな』

「なるほど!」


『え、納得してしまうん? ちゃうねんで? ちゃうねんで? にいちゃんはちゃんとねえちゃんのことが好きやねんで?』

「そうですわね。うっかりどうしてかわたくしのことを気に入ってしまわれたから、わたくしのぐうたらも受け入れてくださったのですわ」

『いや、うっかりっちゅうか、めっちゃ執着されてるやん! 焼きもちやかれまくっとるやん! やめて! ちゃんとわかってあげて! にいちゃんが報われてくれへんかったら、なんか寂しい上に申し訳なさすぎてやってられんわ!』


 これほど宝珠が同情してやまないアランは眉目秀麗、文武両道、賢王の誉れ高い人間だった。どれほどの優れた資質を持っていても、欲するものはそう簡単には手に入らないものだ。ままならぬものである。


 さて、アランが回復し、バダンテールの体制が持ち直した後、ひそやかにゴデルリエ公爵とその腹心アレオン伯爵は失脚し、閑職に追いやられた。不満はあれど表立って声は上がらなかった。

 偽聖女を担ぎ出したことと国王に異物を摂取させた咎により、ブロンデル侯爵は降爵された上で後継に譲り、その令嬢は修道院へ送るよう命じられた。

「奪爵され絞首刑にならなかっただけ、温情ある沙汰です」

 そう冷たく王妃の補佐官に申し渡されたという。その仕儀を聞いた公爵と伯爵は震え上がった。




 さあ、これで丸投げ体制は整った、と思ったところで子供ができた。

 王妃は健やかな世継ぎを生むために、集めた有能な人材に多くを託し、余計な口を出さない。それが慎ましいと受け止められる。

 王妃を慕う者たちは互いにけん制し合いながらもなんとなく抜け駆けできない。国王もまた、王妃の心情をおもんぱかったと知りつつ、恋敵ライバルでもある重鎮たちが自分のために尽力してくれたことに感謝している。


 フレデリクは外務大臣となる。外交官として諸外国とのつながりを持っていたことから、外国から歓迎された。ほどなくして生まれてきた甥を殊の外可愛がった。

 王位継承権の高い王家の血筋の持ち主であるから、子供好きであるのであれば、と数多の縁談が押し寄せた。

 けれど、自分には心に決めたひとがいるのだと言って、生涯独身を貫いた。


「ずるい。血族を残すのは王族の義務でしてよ」

「天職を捨て、この身を王国に捧げたのです。そのくらいは許してください」

 せめて心だけは。自由に思い続けていたい。


 外務大臣をはじめとする有能な人材が王室を支え、国の統治はうまく機能した。

 熱意ある財務大臣ジュストはその職務にしてはあり得ない程の人望を集め、国庫は潤った。

 大臣就任後しばらくして結婚し、なんと六人もの子供の父親となった。全員が赤毛で、一家は常に賑やかだという。


「子供が熱を出したので、今日は午後から帰ります。後のことは補佐官に伝えておきますので」

「子供の学校行事があるので、明日は休みます。引き継ぎの打合せをお願いします」

 六人もいるものだから、いつも子供のなにかしらのイベントがある。なるべく参加しようとする父は効率よく仕事をこなすように工夫し、また、後任を育て、仕事を抱え込まずに割り振るようにした。隙あらば子供の話題を持ち出すために、財務部では子育てがしやすいということで、女性職員も増えた。


「あら、ちょうど良いわ。すべての行政機関でその姿勢を見習いましょう」

 同じく子育て中の王妃が賛同したものだから、バダンテールでは男性の育児参加が推奨された。そして、女性職員が増え、後に重職に就く者も出た。


 トマは建設大臣となり、国全体のインフラ整備を管轄した。

 もう結婚はこりごりだと思っていたトマに、年下の押しかけ女房ができた。料理上手な妻は、掃除が苦手だが、それはトマが担った。


「あなた、この服!」

「あー、悪い。現場で汚れちまって」

 新妻がトマに突き付ける服はほこりまみれというよりも泥まみれで、さらには袖が大きく裂けている。

「そんなことより、こんなに破れるなんて、怪我はなかったの?」

 怒っているのではなく、心配しているのだと知り、トマのいかつい顔は綻ぶ。

「かすり傷程度だ」

 安心した妻は掃除は苦手だが裁縫は得意だったらしく、服の修繕をしてくれた。


「トマ、あなた、大臣となったのだから、ちゃんと休まなくてはだめよ。あら、ジスランはいいのよ。わたくしの側にいて補佐していただかなくてはならないのですから」

 トマは使い倒そうとする上司とは打って変わった言葉に感動し、ジスランは自身の能力を頼りにされて心震わせた。ジスランは女王に抜擢されるまでは能力を認められることはなかった。


『ジスランは嬉しすぎて、過労死しても死んだことに気づかずにそのまま働き続けていそうやんなあ』

「縁起でもないこと言わないで」


 そんなジスランもまた、フレデリク同様、降るように縁談が持ち込まれたが受け取ることもしない。

「忙しいのです」

「夫が心置きなく職務に勤しむことができるよう支えるのが奥方というものです」

「わたしはすでにバダンテール(の王妃殿下)に添っております」

 ジスランは本音を括弧の中に隠してしらりと言う。

 国に身を捧げ、国が伴侶であると言うのだから、それ以上、勧めることはできなかった。


 クロードもまた、縁談が山のようにあったが、弟妹の行く末が気になると言って、見向きもしない。そんな彼は、妹の結婚祝いの催しで号泣し、弟の結婚祝いの催しでやはり大泣きした。

 お忍びで出席したクリステルがうっかりもらい泣きしてしまったほどだ。

 さて、弟妹が伴侶を得た後、大分経ってから、クロードは未亡人と暮らしだした。幼い子供を抱えて困窮しているのに手を差し伸べた形だ。

 子供はクロードを父と呼び、ちょっと困った顔をしながらも受け入れている。





●人物紹介

・クリステル・バダンテール

 怠惰な(元)令嬢。すべてはぐうたら生活のために。

・アラン・バダンテール

 賢王。眉目秀麗。

・ジスラン・オラール

 王妃の有能な補佐官。繊細な美貌。生涯独身を貫いた。

・クロード・デシャン

 武術に優れ戦略にも長けている。ぼんやりで気が付いたら一児の父になっていた。

・ジュスト

 財務大臣。六人の赤毛の子供の父親。

・トマ

 建設大臣。大分年下の女性と再婚した。

・フレデリク

 王弟。外務大臣。国王との兄弟仲は良く、兄を支えた。生涯独身。

・ゴデルリエ

 公爵。

・アレオン

 伯爵。ゴデルリエ公爵の腹心。

・ブロンデル

侯爵。野心溢れる。

・フェリシー・ブロンデル

 侯爵令嬢。宝珠選定の最有力候補だった。


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