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「元ぐうたら令嬢のいやいや王妃生活記」を書きなおしました。

初めから変更点があるので、一度読んだという方も最初から読み直していただければ幸いです。


※人物紹介を下に入れました。


 

『ねえちゃん、にいちゃんがきらきらしているって言うけどさあ、それって恋に落ちているから、そう見えるんとちゃう?』

「え?!」

『いくら、イケメンやからって、そうそうずっときらきらしてへんやろ!』

「なんですって?! アランはいつでもどんなときも輝いているわよ! 眩しくて目が潰れそうよ!」

『ほらあ。恋しているからそんな風になるんちゃうの?』

 まさか。実は恋していたなんて。


「ど、どうしましょう。わたくし、夫に恋をしているなんて!」

『え、いや、なんでやねん。ええやんか。夫ではないほかの男に恋しているんとちゃうんやで?』

「あ、そっか。いいのか」

『納得すんのかーい』


 本当に? 自分は本当にアランのことを好きなのだろうか。でも、そう思えば、スパルタの王太子妃教育、引き続いての王妃教育に歯を食いしばって耐えていることも理解できる。

 いやいや、ぐうたらのため。すべてはぐうたらな生活のためである。


 アランの病床に付き添いながら、クリステルは不安でしかたがなかった。

 このままだと、アランが逝ってしまうかもしれない。

 とっさに後を追おうという考えが浮かんだ。でもしなかった。なぜならすぐに、お腹のなかの子も巻き添えを食うという考えが追い付いてきたからだ。


 アランは立派な国王だ。有能で容姿麗しく、公正で完ぺきだ。

 その血筋を残す。

 彼もそれを望んでいた。


 そう、彼は完ぺきだった。

 たまたま宝珠の声が聞こえただけの自分が隣に立つことなんておこがましい人だった。

 スパルタに次ぐスパルタ教育にも耐えた。がんばってはみたけれど、まったく足りない。だから、王国のために人材を集めた。すぐにぐうたらしたくなる自分ではきっと支えきれないから、王太子の時に見かけた侍従のように、彼の助けとなる者たちが側にいてくれたらと思った。


 なのに、なぜだ。

 これから、アランの治世が始まるというのに。

 完ぺきな彼に見られるのが恥ずかしくて、ぼろが出たら困るから、誘いを断り続けてきた。

 それでもアランはクリステルを欲した。

 だから、正直に自分のことを打ち明けた。そしてふさわしい側室を持つように言った。

「そうしたら、わたくしは存分にぐうたらできますわ」

「いや、いらない。君が集めた人材がいるからね。君に接触するすきもないくらいこき使おう」

 アランはいたずらっぽく、でも、どこか意地悪げな笑みを浮かべた。

 完ぺきなはずの彼が見せた悪い一面にどきりとした。


 アランはなんでもできる人間特有の、できない人間への無理解にはほど遠かった。

 王妃となった後も続くスパルタ教育に、慣れたと思って油断していたら、一度決壊(けっかい)したことがあった。アランの目の前だというのに、クリステルは吐き戻したことがある。とうとつにこみあげてきたものに、クリステル自身もとっさにわからなかった。

 終わったと思った。こんな汚らしい駄目なところを見たら、愛想もつかされる。

 しかし、そうならなかった。アランはひたすらクリステルの身体の心配をした。自身にも汚れがつくのを気にせず、クリステルの口周りをぬぐってくれ、ゆっくりと座らせ楽な姿勢を取らせてくれた。


「教育が厳しいなら、もっとゆるやかにしてもらおう」

 やさしい。

 クリステルは泣きたくなった。

 アランのやさしさと自分の駄目さ加減で。

「いいえ、わたくしは全く足りていないので、頑張らなければならないのですわ」

「しかし、人にはそれぞれの許容量がある」

 自分の許容量が少ないと突き付けられた気がした。けれど、アランの懸命な表情や言葉、雰囲気でそうではないのだと知る。あざけったり見下す感はかけらもない。

「当たり前のことだよ。みんな違う人間なのだから。確かに、できる人間はすごい。ただ、それだけのことだよ。君が駄目という話ではない。君は自分にないものを得ようと努力している。十分にがんばっているよ」


 そんなアランだから、いつの間にか好きになっていても当然のことなのかもしれない。いつもきらきらして見えた。

 でも、今、その輝きはクリステルの元から去ろうとしている。


 今思い返せば、意地を張らないでもっと早くに心情を打ち明けておけばよかった。

 初めは王太子妃になるのなんて嫌だった。

 王妃になり、いつしか、アランを好きになっていた。彼はずっと自分に歩み寄ろうとしてくれていた。どうしてもっと早くその手を取らなかったのか。

 こんなに短い間しかいっしょにいられないと知っていたのなら、そうしていたのに。


 過酷を極める王太子妃教育、王妃教育に耐えた。

 それ以上に国王教育は大変だっただろう。


 いやなこと、つらいことがあって必死に耐える。

 歯を食いしばって、踏ん張る。そうして、徐々に慣れる。

 いやなこと、つらいことから自分を守るために、感覚が鈍くなる。いやだ、つらいという感じが薄まっていく。

 クリステルもそうだった。


 彼は物心ついたときからそうやってきたから、「慣れる」という感覚ですらなかったのかもしれない。「当たり前」のことだったのだ。

 でも、そこにつけこんで、さらに無理をさせられてきた。

「大丈夫だろう」

「優秀だから」

 そうしているうち、唐突に終わりが来た。精神か、身体かはわからないが、もはやすべて失われた。


 その時になって「国王の重責が彼の命を縮めた」と周囲の者は言う。

 自分たちがもっと、もっととさらに多くの要求を押し付けていたのに、「知らなかった」と言う。

 とんでもない鈍感力である。優秀であるから押し付けた。ただそれだけである。


 クリステルも同じようなものだ。

 愛しているというのなら、なぜ、大切にしなかったのか。ないがしろにしておいて、「愛している」なんてよくも言えたものだ。

 結局、みんな、自分だけがかわいいのである。自分さえ良ければいい。そのうえで「愛している」対象があることが重要なのだ。




 うっかり、アランの病のことが頭から抜け落ちてしまいそうになるほどの衝撃を受けたクリステルではあったが、宝珠は上手く悪戯を解消する方策を聞き出した。

「なあ、薬草のことを教えてあげたんやから、もう放してくれるよう、言ってくれへん?」

 クロードに掴まれたままのちっさいおっさん、もとい妖精が上目遣いになる。可愛さのかけらもなかったので、クリステルは動揺することなく言ってのける。

「まだよ。真実、アランが本復するまではこちらに滞在していただくわね」

「いただくわね、ってそれ、逃がさへんで、ってことやろう?」

「そうね。あなたが嘘偽りを言っていなければ、すぐに自由にして差し上げてよ」

『さすがはねえちゃん。揚げ足取りが好きな宮廷を渡り抜いてきただけはあるわ!』

「褒められている気がしませんわ」


 さて、クロードもずっと妖精を握っているわけにもいかない。また革袋に突っ込もうとするのに、ぎゃあぎゃあと喚いて抵抗し、結果、虫かごに入れられることとなった。

「かごて! こういうときはせめて、鳥かごちゃうん?」

「格子の隙間が大きいとすり抜けられるでしょうが」

 妖精の言葉は聞こえるジスランが冷たく切って捨てる。


「君、なにを食べるの?」

「果物食べる?」

 フレデリクとジュストがあれこれと世話をする。リンゴの薄切りを入れたらしばらく静かになった。





●人物紹介

・クリステル・バダンテール

 怠惰な(元)令嬢。すべてはぐうたら生活のために。

・アラン・バダンテール

 国王。眉目秀麗。

・ジスラン・オラール

 王妃の有能な補佐官。繊細な美貌。

・ジュスト

 新進気鋭の商人。

・フレデリク

 王弟。流行に敏感。反国王派に担ぎ出されようとしている。



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