文学少女(仮)はこの平和な世界でただひたすら本を読みつつ『おにぎり』をコントロールする。
「いくぞっ」
「おう」
「カーブ!」
「オッケィ、次ストレートな」
スパンッと、切れ味抜群の快音。うちの野球部には、名バッテリー鬼塚くんと片桐くんが存在している。これが神。
ピッチャーの鬼塚くんはコントロール冴えまくってるし、キャッチャーの片桐くんは頭良くて司令塔だし、イケメンだし。二人の名前をくっつけて、『おにぎりコンビ』ってね。ああ、ニックネームまで神。←?
そんな神を崇めている、もとい学校の図書室の窓から眺めている私はもう、毎日のように『おにぎり』の具になりたい『おにぎり』の具になりたいって、心から願ってる。
(梅干し梅干し梅干し)
人差し指で呪文をかける。呪文はおにぎりの具と、心に決めてある。
すると「おいぃ、鬼塚あぁ、ストレートだっつっただろっ!」
「あっれえ? おっかしいなあ?」
「マジメにやれよっ! 次、スライダーいくぞ」
私は窓辺で頬づえをつく。カサカサと枯れ葉が舞い散る音と、時々、カキーン。天高く馬肥ゆる秋の夕暮れ。
(おかかおかかおかか)
人差し指で呪文をかける。スパンッとミットにジャストミートする音。
「おっしゃー良いストレート……って、ちがーう。おいオレをバカにしてんのか?」
「いやいや、ちゃうって! オレの右腕が勝手にだなあ……」
あれ?
そして一瞬、時間を止める。 私は、本棚から野球のルールBOOKを引っ張り出した。
ストレート、スライダー、カーブ、シンカー etc。
よし。なるほど。把握した。
鼻息荒く、止めていた時間を解除する。
「次は絶対カーブだからな!」
「へいへーい、そらよっと」
「お、今度は完璧いぃ」
私もガッツポーズ。よしこの調子!
私の力で『おにぎりコンビ』をなんとしてでも甲子園とプロ野球に送り出す!
つい数ヶ月前までは、あーあ大魔王なんか倒さなきゃ良かったなあ、ついでに魔王軍も面倒くさいから全滅、なんて無双やめときゃ良かったなあって後悔してたのに。ふらりふらりと人間界でヒマを持て余していたら、『おにぎりコンビ』を発見、私はもうめろめろだ。
推しが同業でなく人間だなんて。ああっ尊い。身分差っっ♡
「それよりもっと人間界のこと勉強しなきゃ! 本を読まなきゃ、本!」
私は張り切って、出しっぱだった背中の白い翼を器用に折りたたみ、人差し指で(シャケシャケシャケ)と『おにぎり』をコントロールしつつ。
今日もまた、この図書室で甘々溺愛系ラノベと『激闘! 甲子園の歩き方!』を、ひたすら読むことにする。