第8話-「彼女がいるって悪いもんじゃないぜ?」①
午後の授業。篤はやりきれない感情を持て余していた。
前を向いていれば当たり前のように優月の後ろ姿が目に入るのだが、それを無視できないでいる。たまに小刻みに揺れるお団子頭からすっかり目が離せないのだ。
こういう時の篤はすこぶる目つきが悪い。たまに目が合った教師でさえ、そそくさと目線を外す。おかげで今日は授業中、一度も答えを求められていない。
それに改めて考え直すと理不尽な点が多すぎる。なんだかんだ優月に対して付き合うことを認めてしまったわけだが、なぜそんなことしなくちゃならない。そもそも一ヶ月だけ付き合う理由がわからない。それならここで彼氏ってのを作る意味がない。
ならば遊びか? いや、でもあの時に見せた真剣な表情の優月はそんなふうには思えなかった。それに俺が一番良かったって……どこがだよ。
極め付けはあのナースだ。篤は机の下でぐっと拳を握る。しかし、これは優月と理不尽な状況に対する怒りとは違う感情だった。
得意技を一発もあてられなかったという不甲斐なさ。情けない容貌の女にしてやられた屈辱。そして、もし中野があのまま掌底を自分に叩きつけていたら……という敗北感。認めたくない実質上の負けという概念がヘドロのごとく篤にまとわりついていた。
「……くそっ」
小声を漏らす。竜也が驚いて振り向き、隣の女子はびくついて机を反対側に少しずらした。