極論男・3
俺は努力するのが嫌いだ。働きたくない。楽したい。だから、○○党の本部に電話を掛けた。
「はい、こちら○○党の事務所ですが」若い女の事務員だな。
『党員サポーターの者だけど』勿論、嘘。
「はい、どうされました? 投票には行かれましたか?」
『まだですが、勿論、お宅の党に入れますよ』これも嘘。投票すら行く気はない。
「ありがとうございます。あの〜、お名前は?」
『匿名で』
「与党のスキャンダルでも掴みましたか?」
『それならいいんですけどね。マニフェストについて幾つか聞きたい事がありまして』
「はい、なんでしょう?」
『お宅の党は低所得者手当て拡充、富の再分配、弱者の味方を掲げてますよね?』
「はい、子供からお年寄りまで皆が笑顔で居られる国を目指しております」
『メモの準備して。今から言う口座に10億円を振り込んで』
「えっ!? ……じゅっ、10億!?」
『俺は楽して金持ちになりたいんだよね〜。弱者の味方なんだろ? 贈与税はそちら持ちで手取り10億円にしてね』
「はい!?」
『俺はニートなんだよ。宝くじは全く当たらないしさ。お宅の党は議員定数削減や議員報酬削減を掲げてないでしょ? 内部留保ってヤツ? たんまり溜め込んでるでしょ』
「何を訳の解らない事を…………いたずら電話ですね!?」
『振り込んでくれなきゃ自殺するから。会話は録音してるよ。贈与税が勿体なかったら無利子貸付でもいいから、返すつもりないけど、アハハ』
「なっ、何を言って……しかし、公職選挙法に違反します。……大金ですし」言葉を慎重に選んでるな? それでいい。
『でも振り込んでくれなきゃ人が1人死ぬんだよ?』
「私には判断しかねます」
『上を出せ、上を』
「分かりました」
ピ〜ピピ〜ピ〜。保留ボタンを押したな。グヘへ。
――5分……10分……15分粘る。迷え〜迷え〜。
ピッ「お電話代わりました。参議院議員の××です。お話は聞かせてもらいました。どうしたら良いでしょうか?」男の声に変わる。
『今から言う口座に10億円を振り込んで下さい』
「そうじゃなくて……」
『なんだ? 濁して逃げるのか? 録音してるからな。お宅の党は自殺者0を掲げてるよね? 人の命は地球より重いんだろ? 10億円なんて端金じゃん』
「しかし、……そんな事は出来ません!」
『見捨てるんだな!? お前らはそういう政党なんだな!?』
「すみません…………すみません…………うちには無理です」
『じゃあ、2千万円で良いよ』
「分かりました、話し合いましょう! 徹底的に! 私は弁護士上がりですから」来たー!
『悪いな、そんなに貰っちゃって。票は入れるから』
「はい?」
ピッ。俺は電話を切り、ボイスレコーダーをオフにする。あとは編集だ。
――俺は音声をSNSにアップする。
「参議院議員の××です。どうしたら良いでしょうか?」
「じゃあ、2千万円で良いよ」
「分かりました」
「悪いな、そんなに貰っちゃって。票は入れるから」
「はい」
――このやり取りは瞬く間に拡散された。○○党は金で票を買ったと、ネット上で叩かれまくった。
様見ろ、内密に2千万円を寄越した方がよっぽど被害は少なかっただろうに。グヘへ。
――悪い子は真似しないように――