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俺の愛するスマホがメタモルフォーゼして、女の子として世界の真理とやらを語り始めた  作者: とかふな
第1章 朝起きたら女の子がぐーすか隣で寝ていた。
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第2話 小悪魔フェイスをこっちに向けてくる。

 一瞬、耳が消滅したかと思うほどの静けさが、部屋を占拠した。

 耳なしホーイチ、もとい、耳なしリョータ爆誕。


「いや、ちょっと意味わかんないんだけど。。」

「意味も何もさ、ずっとワタシのこと使ってんじゃん。去年から」


 使って、って何だよ。おい。俺は覚えず泣きそうになる。なんか、とんでもない冤罪に巻き込まれそうだ。


「な、な、なに言ってるんだよ。初対面じゃないか!」

「リョータ、どっか頭でも打ったの? 大丈夫?」

 女の子に心配されるのは少し心持ちがいいけれど、今はそんな感傷に浸る暇はない。一刻も早く事実究明せねば。


「なに、君は、俺のケータイ、なの? 俺のケータイって、形態、継体、敬体……やっぱ携帯のことなんだよな」

「ハハっ、ウケる」

 ウケねーよ。

「そうだよ。君の携帯電話だよ」

「携帯って、その、スマホ…」

「そう。私はスマートフォン。まあ、なんか自分でスマートって言うの恥ずかしいから、あんまりそう言いたくないんだけど」

「あ、ゴメン」

 なんだか、責められた気がして謝ってしまったが、そんな必要はなかった気がする。

「いやあ、謝ることじゃないさ。まあ、リョータよりはスマートなんじゃないかな?ハハハ」

 軽くディスってんじゃねーよ。俺だって、俺なりに頑張ってんだ。

「いやー、まあ、そんなことより、今日も1日、よろしくお願いしますよ」

「ええ、こちらこそ」

 正解かよくわからないが、挨拶はちゃんとするものだろう。


 で、だ。

 

「でさ、未だによく信じられないんだけど、君は僕のケータイが何やら変化しちゃったってことでいいのかな?俺はまだ夢を見てる気分なんだ」

「ヘンゲ? んまあ、どう捉えようとリョータの勝手だよ。夢じゃないよ、ハハハ。現実から逃げちゃいけない。今日もワタシゃ、ワタシの仕事をする。そんだけさ。いつもどおり、LINEのチェックから始めるかい?」

「え、ああ、うん」

 完全に相手のペースだ。展開についていけてるわけではなくて、なんでお前は俺の寝起きルーティン知ってるんだと言いたかったけど、結局「だってワタシ、あんたの携帯じゃん」と言われるのがミエて、言葉を呑んだ。


「えーっと、フラ語20組グループで新規3件、ユースケから新規2件だね」

 ほんとに携帯みたいだ。

「どっち見たい?」

「えっと、ユースケはなんて?」

「ほいよ」

 オッサンのような掛け声すんなよ。

 と突っ込みかけたその刹那、俺の脳内に突然LINE画面が現れた。


 9:30

 Yusuke:おはすー。今日昼飯食わねえ?

 10:11

 Yusuke:寝てんのかー


 俺は当惑した。女の子は女の子で目の前にいるんだけど、俺には頭の中でLINEのイメージが見えている。何が起こっているかわからなかった。例えば授業を聞いているとき、別のこと考えて脳内で映像で再生したりすることがあるけれど、まさにそれが起こっているような感覚だった。


「え?え?どうなってんのこれ?」

「どうも何も。LINEの画面を君の視覚野に展開してあげたのさ」

 俺の知ってるスマホと違う。

 何これ?何がどうやってこうなってるの?

「何か返信するー?」急かすな。

「え、えーと」

 しばし逡巡。

「既読消すのって無理?」

 少し悩んで、こう切り出した。ぶっちゃけユースケといつもつるんでいる食堂までは、電車混みでドアツードア20分なんで、いまからでも余裕で間に合うのだが、俺はなんだか、今日、昼飯をあいつと食う気分にはなれなかった。というかしばらく引きこもる覚悟ができ始めていた。なにせ今俺に降りかかりつつある災厄が全く飲み込めない中、メシを冷静沈着に咀嚼して嚥下できる気がしない。ユースケの昼飯の誘いを反故にするため、未読ってことでスルーしたかった。

「ふふ。そりゃ無理よ。返信、返信♪」

 小悪魔フェイスをこっちに向けてくる。


「えっと、じゃあ…「すまん、ちょっと今日別件あるから、またな」ってどうだろう」

「うい」

 女の子が答えるか否か、という瞬間に、俺の視界が更新された。


 Ryo_N:すまん、ちょっと今日別件あるから、またな


「え、え、え、え、え、ええええええええええ」

「何だよ、うるさいなあ。落ち着きたまえよ。君、慌てたもうことなかれ」

「ど、ど、どうなってるの?俺、ゆ、指一本動かしてないぞ?」

 あまりのことに俺は当惑する。俺の頭の上には、雄鶏のトサカよろしく大きなクエスチョンマークが屹立している。

「いや、君の言語野に回答文章が現れたから、日本語ベースで返信したのよ」

「げ、言語野?」

 どこ、それ。

「まあ、いいじゃないか。ごめん!のスタンプでも押すかい?」

「あ、うん」

 と頷くか否かのうちに、***が頭をさげるスタンプが投下された。


 なんだこれ…。

 考えただけで返信できるって…。

 めっちゃ便利やん。

 確かに、十分に推敲しないまま相手に送られちゃうのはちょっと怖い気もするけど、アホな変換機能とかと格闘したり、フリックでミスったりするイライラがなくなるのはありがたい。


「すげえ。。君、便利だね」

「ハハ、便利な女でしょ」

 何か語弊があるけど、間違ってはいない。

「いちいち驚いてくれて、嬉しいよ。今日はがんばりがいがあるね」

 ご感想をどうも。


**


 目が覚めてきたが、夢見たいなこの現実から醒めない。

 どうも俺はマジモンのやべー奴と対峙しているらしい。

 こいつは俺の携帯の機能をそっくり持っている上に、俺の脳に携帯画面を送り込んでこみ、そして俺の脳を読み取って携帯に落とし込むことまでやってのける。


 俺は生唾を飲んだ。

 冷静になろう。


 俺は布団からのそりと立ち上がって台所へと行った。昨日洗って干してある食器かごの中から、コップを取り出し、カランをひねって冷水を注いだ。コップ八分目に届いたところで水を止め、ぐっと呷る。喉の奥から、食道、そして胃へと、つーと毛筆で直線を引くが如く冷たい感覚が降りていく。ふう、と息。そして、念には念をと、もういちど水。今度はコップ半分ほど。ぐっと飲んで、ふうううう、と長く息をついた。


 そして…

 意を決して後ろを振り向いた。


 果たして、例の女がこっちを見ていた。

 女の子座りで、俺の布団に座っている。


 うーん、直近2行だけなら、長年俺が待ち望んだ風景に他ならなかったわけだが。上京以来、俺以外の人間を知らぬ我が布団に他人の、それも、女の味を知らしてやることができた瞬間だ。


 これは…

 これは、俺がリアル彼女が欲しいと願い続けたことによりうまれた幻想だ。ファントムなのだ。

 そう結論づけた。今の所論理に一点の綻びもない。スーパー堤防ばりに、水分子1つたりとも通さぬ所存だ。


 引き続き、俺は自らの脳の完全覚醒を試みることとした。

 さて次の一手は。

 こういう時はマグカップに熱々のコーシーを注いでぐっと行けば頭は冴えそうだ。

 だがリョータ名人、本案を却下する。実は俺はまだブラックが飲めない。苦い。

 じゃ、冷蔵庫にある酒か? 前部屋で飲み会をやった時の残りの梅酒と発泡酒がある。が、どうにも逆効果な気がする。

 うーむ、そうなると、シャワーでも浴びるとするか。朝シャンをキメれば、脳も起きるだろう。

 そう一人合点した。

 通常よりアッツアツのシャワーを浴びて、頭を重点的にガシガシ洗った。正直ちょっとのぼせかけた。

 シャワーを止め、ドアを開ける。梅雨時のじめっとぬるい空気が入ってくる。

 おそるおそる寝床を見る。


 果たして、例の女がこっちを見ていた。


 こうなると軽くホラーな気がしてくる。

「消えねえ…」

 俺はおもわず独り言ちてしまった。が、相手は聞き逃さなかった。

「は? 消える? ちょっと、あんた失礼じゃない?仮にもあんたの携帯なんだから、消えたら、あんたが困るわよ」

「あ、いやいや、そうじゃなくて、あの、そうじゃないんだよ」

 女に必死に釈明するタオル1枚の俺。極めて格好悪い。

 部屋から死角となるところで、身をかがめながらパンツ、タンクトップと半ズボンに着替える。

「あんた、何してんの?」

 いや、着替えてるんですよ。

「いつもここで着替えてるじゃない。なんで今日に限ってそんな変なとこでこそこそ着替えるのよ」

え、お前やっぱ昨日以前の記憶も全部あるのかよ。別に隠すものじゃないけど、なんだか、急に恥ずかしくなってきた。

「いや、お前、女の形してるし…」

「ハハ、ウケる。てか、さっきから、お前、お前、ってなんか嫌な感じだね」

「いや、だって、お前ケータ…」「あ、またお前って言った」

「ごめん」

 なんて呼べばいいんだよ。


「そんなの、リョータが好きに決まればいい話でしょ?まあ、私の正式名はGP-X-7052aだけど、もっと呼びやすくしてくれていいわ」

 是非ともそうしたい。

「なんか、もっと呼びやすい名前ないかな」

「あんた、ちょっとは自分で考えなさいよ。ほんと人間ってバカね」


 しばしの話し合いの結果、彼女の名前は「サン」となった。携帯のメーカーを少しもじった形だ。

 俺とサンとの生活が恥、いや、始まった。。

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