都医者ヨグリとその娘 後編
「ヨグリ君、今度の調査隊に君が選ばれた。新婚の人間にこんな任務を与えるのはなんだが頼む」
その2週間後
「第1隊、第2隊、共に信号ロスト。いや、1名残っています。まだ生存者が」
その一ヶ月後
「あの場所、火の海にされたよ。ウイルスは君のおかげで火に弱いことが判明したからね。君は・・・・」
あまり憶えていないが私は研究者だった。ある地域でたくさんの人が次々に死ぬという怪現象が起こった。国はすぐに調査隊を派遣しそれが魔術ではなくウイルスであること、ウイルスは火に弱いことを発見した。私以外の調査隊の命と引き替えに。その後私はとりつかれたように人の命を救うことを学んだ。都医者となったがベットをあけることしか考えない体制に疑問を持ち、その結果追放ということになった。
そのずっと後
娘がこの現象の原因だった。娘がウイルスの苗床だった。ウイルスは心拍数で人間を見分けているようだ。だから若者が多く死んだ。ならば対策は一つしかない。
ホユトウニアノコナノカ
「なんだこれは」
さっき見たオオクボとは大分変わっていた。たくさんの人が死んでいる。その横で泣いていた老人さえも倒れていく。あっけにとられていると何者かに後ろから殴られた。
「なんで・・・」
お父さんが伝道士さんを殴った。伝道士さんは気を失ったようだった。
「ユキ、悪かった。この街をこんな風にしたのは私のせいなんだ。」
私はユキを抱きしめる。そしてユキから見えないようにしてナイフを取り出す。
そしてユキの心臓めがけて深々とナイフをさしこんだ。
ユキは私の腕の中で死んだ。
ウイルスは宿主が死ぬと死んでしまう。ユキは苗床だったので今まで何ともならずにいた。しかしユキが苗床になってしまったのは私のせいだろう。これも全て私の・・・
「ごめんな、ユキお父さんが研究者ではなく最初から都医者として働いていたたらこんなことには・・私がウイルスを持ってこなければ」
「本当にそうなのか?元テロリストのヨグリさん。」
ヨグリのことを伝道士仲間から聞いたのは彼を見た最後の時だった。彼はベットから俺に語った。彼は目を覚ましたとき絶句したらしい。目を覚ますと自分を世話していたのがかつてヴェルフィン国首都でテロを行い多くの死傷者を出したテロリスト、ヨグリだったからである。ヨグリはバイオテロを起こした。ヨグリは菌類の魔法を得意とした。彼が生み出したウイルスは相手の抵抗力を奪うというウイルスだった。その結果ヴェルフィン国は遷都することになった。ヨグリのウイルスは火に弱く、ウイルス対策のため都を火の海にしたらしい。彼はヨグリの治療後このことを国連に報告した。しかしウイルスが彼の体に入っていたらしく彼はすぐに倒れた。国連は彼を殺す為に俺を送りこんだ。俺がヨグリに会い分かった、ヨグリは狂ってしまっていた。いや、テロリストなんだから元から狂っているといえるがヨグリはかつての自分を忘れ自分を本当にかつて都医者だった男だと思っているらしい。
さらに俺はヨグリの日記を見た。内容は全て原因をウイルスによるものとし最近たくさんの人が死んでいくというのは娘がウイルスの苗床になっていることが原因だとするものだった。一応調べたがユキは苗床などではなく単なる女の子だった。
ヨグリを殺すにあたり彼の家で戦うのはさすがに危険と判断し、まず国連職員ひとりを犠牲にした。リーダーを殺されたことを恨んだ不良グループのふりをした職員がヨグリの家に嫌がらせにいく。そして引越のためと称して人の多い街という餌を用意した。ユキのような年頃の女の子が買い物にしばらく行けずようやくそのチャンスがきたらきっと一緒に買い物に行きたいというとふんでいた。読み通りユキは買い物に行きたいと言った。
ヨグリは資料によると殺人狂だったらしい。彼の元にくる患者も調べてみると良くなるのは一時で皆すぐに死んでいた。ならば大きな街がありそこにユキがいくとなると行動を起こすのは分かっていた。
しかし想定外のことが起きた。伝道士仲間を襲った、魔獣を連れた男達が襲ってきたことだ。しかしそれも撃退することが出来た。他の奴らも街に来てしまえば簡単にはみつけられないだろう。
俺はヨグリを撃ち殺すため近づこうとした。しかしこちらにどこからかナイフが飛んできた。ナイフを避けて後ろに下がるとそのすきに男がヨグリをつかまえると空間に穴を開けそこに逃げてしまった。
「くそっ」
上司にこのことを報告した。以外にも叱咤は受けなかった。かわりにこんなことを言った。
「ヨグリは子供の頃にベットを空かせるため母親を医者が見捨てるのを見たらしい」
正直どうでもよかった。それよりも問題なのはヨグリを連れ去った奴らのことだ。国連が今、調べている。
寒気がした。もう枯れ葉が舞う季節だ。ゲルニカは自分が食ったものに何か入っていないか心配だった。