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ハーフェン王国の恋愛模様

逃亡させていただきます!

作者: 瑠璃華

───ずっと、ずっと昔から、わたしは第二宰相であり、侯爵である彼を想ってきた。

恋い焦がれ、手を伸ばし………たくさん努力もしたけれど、所詮わたしは彼にとって、妹のような存在。

叶わないことは知っていた。

───だから、わたしは逃げ出すの。

───────愛なんてない結婚から。


**********


「わたし、逃げることにいたします!」



「はああぁぁぁあ!?ちょっと待て、ファティマ!お兄ちゃんに理由をいってごらん!あと何から逃げるのかを!!」

気持ちのよい初夏の午後、わたしは兄と向かい合ってアフタヌーンティーをいただいていました。

そして、ここ一週間ほど毎日悩んでいたことを告白します。

「勿論、第二宰相でありアークライド侯爵である、わたしの結婚相手───ルーファス様からに決まっています!」

「いやいや、決まってないからね!?何で逃げようとしちゃってんの!?我が愛しの妹よっ!お兄ちゃんの友達がきらいかい?」

自信満々に言い切り、ふふんとわたしは笑いました。

何で得意気なのかは、自分でもわかりません!

テンションがおかしいですね、ハイ。


「きらいではありません。むしろ好きです。殺したいくらい愛してます!」

「じゃあ何で!?」

デリックお兄様が叫びます。

わたしは、一応侯爵令嬢です。

このたび、同じ侯爵でありデリックお兄様の親友である、ルーファス・アークライド様と結婚することになりました。

ですが、わたし見てしまったのです。

彼が美しい女性と抱き合っているのを………。


怒りと悲しみで、闇討ちにいってしまいそうです、ハイ。

オールディス侯爵家は武門と暗殺がお家芸の一族ですから、ルーファス様とお相手の女性をほふるくらい、朝飯前です。


デリックお兄様よりも強いですが、なにか?


「ルーファス様には、心に決めた女性がいらっしゃるのです。あぁ、思い出したら泣けてきました………」

と い う こ と で 逃 亡 し ま す 。

ここにいれば、最悪ルーファス様を殺しかねません。

式は来月ですけれど、いいですよね?


「ということで、わたしはほとぼりが覚めるまで地方にいらっしゃる、おば様の元へと参りますので、破談の手配と両親への説明をよろしくお願いします!」


「ということでって!なにもまだ説明聞いてないよっ。その思い込みの激しさと、自己完結っぷりは誰に似たのかな!?」

動揺するデリックお兄様を無視して、そばに隠していた大きめの旅行カバンを取り出しました。

執事に言って、馬車をまわしてもらいます。



「あぁ、お兄様。ルーファス様になにか言われたら『浮気は見えないところで』と『愛人は寛容できません』とお伝え下さいませ」


そうしてわたしは旅立ちました。



「最悪だ…………セバスティアン、すぐさまルーファスに手紙を!」

お兄様が、こんなことを執事に言っているのも知らずに─────────。

**********


「んまぁ、まぁ!よく来たわね、ファティマちゃん!」

半日馬車に揺られ、夜におば様のいるリアトールにつきました。

手燭の炎に照らされて見える、白い漆喰の壁が美しい屋敷は、おば様の趣味ですね?薔薇園も綺麗に手入れしてあり、おちついた雰囲気です。

突然押し掛けたわたしにも、優しくおば様とおじ様は迎えてくれました。

「お久しぶりです、プリシラおば様!アーヴィンおじ様!」

手土産の薔薇型飴細工のお菓子を渡し、仲良く屋敷に向かいます。

プリシラおば様は、お母様の姉で、隣国との国境警備をしている騎士隊の、隊長をなさっていたおじ様に偶然出会ったときに一目惚れして、この地に移住したそうです。

────── 押し掛け嫁として。


うちの一族は代々女が強いですが、なにか?


ハイ、変人なども多いのです。仕事柄。


「今日はどうしたんだい、ファティマ?一人で来るなんて珍しいね」

「はい。わたしは、今回結婚相手の浮気を見つけてしまったので、逃げてきたのです!ふふふ………お兄様は、魂抜かしているところでしたので、置いてきました!事後処理はお兄様がします」

「………」

「まぁまぁ、大変だったのねぇ!ところで、結婚してないのに浮気なの?」

「当たり前です!」

おじ様は、なにか疲れたように笑い、おば様は要点の違う質問をなさっています。

おば様は、天然なのです。ハイ。

クリーム色の薔薇の飾られた、アンティーク調の家具のおいてある上品なリヴィングで、穏やかにお話しします。

夕食は、お二人はもう食べたそうなので、わたしだけ頂きました。とても美味しかったです。

今日は夜遅いこともあり、あてがわれた部屋のベッドに飛び込みます。

馬車の旅は、精神的にも肉体的にも疲れるのですよ。えぇ、それはもう。

その日は、死んだように眠りました。



「……ティマ、ファティマ!」

なんなんですか、朝早くから……。

わたしは、まだ太陽の光もうっすらとしかない朝早くから、何者かによって起こされました。

咄嗟に暗器を投げなかったことや、殴らなかったことをほめてほしいです。

朝には弱いんですよ、わたし。

「なんなのですか、こんな朝早くから…………ファティマはまだお休みなので、午後から出直しなさい、非常識な人」

意味のわからない言葉を言った気もしますが、知りません。

というか、乙女の寝室に勝手にはいるとは何事ですか。


あぁ、夢の世界よ、こんにちは………。


「ファティマ!?寝ないで下さい、起きて!!」

「んぅ………もう、なんなのですか!!」

激しく体を揺らされて、わたしは一気に覚醒しました。

安眠妨害は、犯罪だと思うのです!

眠たい目を擦りながら、犯人を見ます。


「………ルーファス様?」

「おはようございます、ファティマ。デリックから話は聞きましたよ。私の浮気を疑っているんですね?」

「いいえ?」

「……………ではなんなのですか?」

寝起きに質問は、頭が働かないのでやめてほしいのですけれど。

「浮気を疑っているのではなくて、浮気を見てしまったのと、愛人を発見したので、婚約どころか結婚も破棄してしまおうかと。疑う過程は通っておりません……………ということで、お幸せにぃ。わたしは寝ます─────」

「は?」

ルーファス様は、絶句しておられますが、わたしには関係ございません。

泣きはらす過程はとっくにすみました。

所詮、ルーファス様はお兄様の友人。わたしのことは妹かなにかとしか見ていなかったのでしょう。

いまだって、もう十九歳になった、立派なレディーの部屋に無断ではいっているのですから。


────というか、なぜここにルーファス様がいるのでしょうか?


まぁ、どうでもいいですね。


「誤解ですファティマ!というか、いい加減起きてください」

五月蝿いですね………。

仕方ありません。ここまで騒がれれば、起きるしかないではありませんか。

「はいはい、わかりましたので」

「わかってくれたんですね、ファティマ!」

「で、なぜここにいるのですか?ルーファス様」

ゆっくりと布団から起き上がったときに聞けば、ルーファス様はうなだれました。


なんなのでしょうか?もう。


「ファティマ、よく聞いてください」

「はぁ」


「あれは、男です。お と こ 。正真正銘、人間の雄なんです」


「結婚の話が流れるからって、そんな苦しい言い訳はしなくていいですよ。気にしてませんから。しかも彼女、ばっちり胸あったじゃないですか。わたしより大きかったですよ」

「そう言うと思ったので、連れてきました」

愛人と修羅場ですか。

ちょっと殺さない自信がありませんね………善処いたします。


「メリル!!」


ルーファス様が、その方を呼ぶ前に、わたしは全身をすっぽりとシーツにくるまれました。

嫌がらせですか、ルーファス様。

わたしをミノムシにして楽しいんですか。


「はぁ~い?入ってもいいんですか、先輩」

「いいです。むしろ早くしてください。張り倒しますよ」

「わぉ」

扉越しに、少し低めの声が聞こえました。低いとい言っても女性としては、やや低めなくらいです。これは絶対に女性でしょう。

カチャリと扉を開け、入ってきたのは、グラマラスで大人の色気をもつ、赤毛の迫力美人です。

間違えなく、あの日、ルーファス様が王宮の片隅で抱き合っていた女性です。

紫のドレスがとても似合っています。


「メリル、脱げ」

「え~……というか、先輩。敬語抜けてます~?」

「いいから」

ちょっとルーファス様!?女性にたいしてなに言っちゃってるんですか!!

「はいはい。誤解解くのが先決ですもんね~」

パサリ。

………

……………

…………………ぬ、脱ぎましたね────。

美女は、躊躇いもなくドレスを脱ぎました。


「嘘でしょぉぉぉぉぉおおおぉ!!!!」


ポロリと胸元から落ちる詰め物。体の線をあまり出さないドレスだったからなのか、今まで見えなかった部分についているのは、しなやかな筋肉。


胸はペッタンこでした、ハイ。


トラウマになりそうですよ…………眠気も完全に吹き飛ぶほどの衝撃です。

まさか──────


「まさか、ルーファス様が、男性がお好きだったなんてっ」


「………ファティマ────」

「先輩、がんばって。うん」

「確かに、若い娘の間ではそのような趣向の本が流行っていて、秘かにご令嬢方も、マダムの皆様も侍女のみんなも、ルーファス様のことを疑っていましたが、まさか本当だったなんて!!!」

興味もなかったから、忘れていました!

し、衝撃の事実です…………………。

唖然とルーファス様を見れば、ガックリうなだれていました。

せっかくの、涼やかな美形が台無しです。

緩く結ばれた、長めの水色がかった銀の髪が肩から力なく流れ、蒼色の瞳は光を失っています。

ばれたのが、そんなにショックだったのでしょうか。


「大丈夫です!偏見などはありませんから!」


さらにうなだれてしまいました。

なぜなんでしょう?

そのとなりでは、美女────もといメリル様が、声もなく体を震わせています。

なぜ、爆笑なんでしょうか…………。


「ファティマ────メリル、席をはずせ」

「は~い!」

「あとで覚えていろ。お前が悪戯で抱きついたことがすべての原因なんだからな」

低い、地を這うようなルーファス様の声が聞こえ、メリル様は、いそいそと部屋から出て行きました。


「ファティマ……………君は、私が浮気していても平気なのですか?私は、私は………浮気を疑われるだけでもこんなに心中穏やかではないというのに」


その瞬間、温かな腕につつまれました。


「メリルとは、なにもありません。それどころか、ファティマ以外には興味もありません」

「ルーファス様………」

必死で、余裕のない声が、鼓膜を甘く震わせます。

ルーファス様の、こんな声を聞いたのは初めてです。

懇願するように抱き締められ、頬を寄せられます。


「平気なのでは、ありません────」

「ファティマ?」


「わたしは、デリックお兄様の妹で、歳も六歳も違うから、きっと妹みたいなものだろうと思って………本当に好きな人がルーファス様にできたのならば、結婚は、なしにしようと思って。でも、それをルーファス様の口から聞くのは怖くて、だから、逃げてきたのです」


わたしの言葉に、ルーファス様は目を丸くなさいます。


「妹だなんて思ったことは一度もないっ!好きなのは、ずっと、ファティマだけだ。ファティマの両親とデリックから婚約と結婚の承諾をもらうのは、大変だった。ここにいれてもらうのも。全部、好きじゃなかったらしていない!!」


敬語の抜けたルーファス様は、わたしを抱き締める腕に力を込めて、言葉を紡ぎます。

いつもの余裕がまったくないルーファス様は、必死なのがよく伝わってきて、わたしと同じだったのだなと、改めて実感しました。


「ファティマ、愛している。家同士の事情や、デリックの妹かなどは関係なく、君自身が好きなんだ」

「わ、わたしもお慕いしております!殺しちゃいたくなるほどに!」


思い切りルーファス様に抱きつき、その頬にキスしました。

まだミノムシなので、軽くではありますが───




「誤解は解けたかしら、ルーファスちゃん?必死だったものねぇー。ふふふ。夜中に女装した男の子引き摺って来たときには驚いたのよぉ!」

「幸せそうで何よりだ」

昼頃、笑顔でそう言ってくれたおば様方に見送られ、わたしたちはお兄様のいるお屋敷へと帰りました。


メリル様は、先に帰っていたようで、ルーファス様はにっこりと、絶対零度の微笑を浮かべています。

まぁ、わたしには関係ないのでいいですが。




その後は、慌ただしい毎日に追われながらも、無事結婚することができました。


「愛しています、ファティマ」

「わたしも、貴方だけを愛しています」


そう、にっこり笑って、キスを交わしました。




────わたし、もう逃げません。

**********

「で、結局なんでファティマはおば様のところへ行ったのですか?」

「そ、それは…………ちょっと………」

「答えてはくれないんですか?」

────怖いんですけど、ルーファス様!どうしましょう。これは、言っておくべきですか?



「─────………をしに」

「え?」

「押し掛け嫁をして、見事おじ様の心を射止めたおば様に、恋愛相談をするために行ったのです!!」

「………」

────(両者無言)


「あぁもう、可愛いですね!もう、逃がしませんから………」


ちゃんちゃん♪


**********


ありがとうございました。


瑠璃華

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンション高く突き抜けてて良いですね。 一気に読みました^^ 勘違い全開な奥様を貰うことになってこれからどうなるのかも気になりますね。
2013/07/24 16:06 退会済み
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