真夜中の訪問者
【第三章】真夜中の訪問者
この時代にはもちろん電灯などはなく、あるとしても油を灯すだけの街灯ランプだけだったので夜になると暗闇がトゥナーを覆うのでした。星空も雲で隠れてしまえば暗闇の時代です。しかし、今日にいたっては満月で月明かりもよく、晴れた天気だったので、ニコラスも仕事をいつもよりも遅く続けていました。北国の日没は冬でも19時、ニコラスが仕事を終えて、そろそろ帰ろうと馬車を用意し、乗り込むと真っ白な服を着た女性が宿舎の前でたぶん宿がみつからないのだろう。探し彷徨っているようだったのです。その女性は東洋人のようで、黒くて長い綺麗な髪をしていました。あまり東洋人がいなこの国でこれだけ綺麗な女性はとても目立ちます。宿を探しているこの女性を学校の帰りにニコラスが馬車から声をかけた。
「お嬢さん。宿をお探しでしょうか?」
「はい。ですが、なかなか宿が見つからないのです。」
彼女を馬車の上から間近で見た瞬間ニコラスの胸の鼓動は波打った。だが、困っているであろう女性に対して紳士的に話しかけた。
「わたくしは、このトゥナーの町で、子どもたちに勉強を教える教師をしているのですが、もしよければ、わたしの屋敷へ今日は来ませんか?さほどのおもてなしは出来ないですが、部屋をお貸することはできますよ」
その優しい雰囲気に彼女も安心したのか、ニコラスの馬車に優しい声でお礼を言いながら乗り込み、邸宅へと向かったのです。
真夜中にチリーンと玄関の鈴が鳴ったのをラースが耳にして弟が来たと思い扉のをあけるとニコラスの隣に、見た事も無いような綺麗な女性を見て一瞬ラースの時間が止まりました。彼女の西洋人には無い温かさを感じるような容姿にニコラス同様心が動かされ言葉を一瞬失ったのです。
「兄さん、町で宿を探してた子だよ。困っていたようだから、今晩泊めてあげるからね。」
ニコラスの言葉に我をとり戻しラースは心とは裏腹な言葉で返した。
「ふん。どこの誰かも分らない人間をお前泊める気なのか?ちゃんと注意しろよ」
そんなラースの言葉を聞いて、あわてながら彼女が言った。
「申し訳ありません。わたしの名前はスネグー・ラチカといいます。一晩だけでも泊めていただけませんか?」
彼女の声は心地よくその名前ラチカという響きは耳に残った。この寒い町に住み、両親を亡くした二人の兄弟の心を不思議と温かさで包んでくれるような錯覚さえするようだったのです・・・
ニコラスはラチカを玄関の中へ案内した後、ブレーキをかけていた馬車を解いて、納車にトナカイたちを連れて行った。
【第三章】完