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謀(はか)りごと

 【第十一章】はかりごと

 物乞ものごいの様な身形みなりの男は豪邸から出てきた男を見ると、しめしめとばかりに大きく分かるように手を振った。それに気付いて近づいて来た男はラースだった。

 ラースに対して男は気持ち悪く笑いながら言った。


 「あんたあの豪邸の主のラースさんだよな ?」


 ラースはめたような顔で男をにら


 「なんのようだ ?」


 「ケケケ・・・あんたにいい事を教えてやるよ。この前あんたの連れの女トゥナーで、馬車にかれそうになったろ ?あの時おれは見たんだよ・・・」


 「・・・・?」


 「馬車が突っ込んでくる前の地面は何もなかったのに、急に地面に曲がったような線の氷が2本、地面から出てきやがった。その上に馬車が乗ったから普通なら馬車は二人にぶつかるところ、その氷のおかげで馬車は急カーブが出来て、二人をよけてたんだ。そんな事を出来るのはやっぱりあれだろ・・・?」


 ラースはもったいつける男に怒鳴どなった。


 「何が言いたいんだ。お前!!」


 「だから、お前のつれの女は・・・国々が追ってる生き物なんだよ!国々に大雪を降らす元凶げんきょう災いの元なんだ。いいか聞けよ。あの女をおれによこしな。そうしたらお前たち兄弟のことは誰にも言わずにおいてやる。だが、渡さないというならトゥナーの町中に大声で言いふらしてやるぞ。あの女は化けものだ!!ってな。ケケケ」


 その事実を聞いたラースは、少し振り向き屋敷をみながら思いを巡らせた。たしかに、ラチカがこの町に来た時から積雪が増したようにも思える。だが、それはこの寒い国に生まれ育ったものなら今年の雪が激しいことに気付くぐらいのものだった。だが、あの馬車の不自然な動きあれは確かに普通ならぶつかっていた。だからラチカを失ったと感じたのだ。ラースは男の顔をみて言った。


 「20枚か ?金貨20枚でいいのか ?」


 それを聞いた男はニカーっとさらに気持ち悪く笑った。


 「おう。いいぞ。20枚よこすなら国からもらうこともない。くれるというなら誰にも言わずにおいてやる。」


 ラースは屋敷から20枚の金貨を持ってきて男へと渡した。男は金貨を見て喜びながら去って言った。その様子を遠くから見ていたニコラスはどうしたのかと聞いてきたが、ラースは何でもないと答えるだけだった――――



 その夕方近くもうあたりは暗くなったころだった。ラース兄弟の屋敷のまわりにものすごい数の火がともされた。その火は屋敷を全部囲むかのように整列された。中にいたラースたちはそれに驚き窓からのぞき込むとそれは町中の男たちが屋敷を逃がさぬようにバリケードをいているかのように松明たいまつを持ち囲んでいたのだった。


 「あの男・・・裏切りやがったな・・・」


と、ラースが小さくつぶやいたのをニコラスは聞いた。


 「兄さんどういうことなんだ !?これは一体何が起こってるんだ ?」


 ラースは事の次第を弟に仕方なく全て話した。それを聞いたニコラスは驚いた顔をしていたが、すぐラチカの事が気になり探すがラチカは玄関から一人出て行こうとしていたので、ニコラスは走り寄り呼びとめつかまえた。


 「ラチカ !やめろ。どこへいこうとしてるんだ 

!!」


 呼びとめられたラチカの目からは悲痛な顔をしながら涙が一粒流れた。


 「行かせてください !わたしが一人行けば済むことです。あなたたちは、わたしにだまされていた。何も知らなかったとそうおっしゃってください。」


 それを聞いてニコラスは


 「バカなことを言ってはダメだ。おれたちが君を守るから絶対に勝手なことはしないでくれ」


 ニコラスがそう言っている間にラースは玄関から一人出て二人に言った。


 「お前たちここで待ってろ !何があっても出てくるなよ。」


 ラースが一人外へ出て屋敷を囲む村人たちの中心へと向かって行った。ラチカは必至で止めようとしたが、ニコラスはそんなラチカを決して放さなかった。

 ニコラスとラチカは窓からラースの様子をみた。しばらくラースは話をつづけていたが、たぶん話をしても通じなかったのだろう、ラースは話しかけていた一人に殴りかかりその他大勢に取り押さえられた。それを見たラチカは


「あぁぁぁ・・・」


と、行ってラチカがニコラスの腕を振り払い外へ出ようとした時だった!!


 トゥナーの町から火の手が上がったのをみなが気付いた !すると、町から子どもが走って来て・・・肩で息をしながら叫んだ。


 「夜盗だ。夜盗がトゥナーの町を襲ってる!」


 それを聞いた。町の男たちはラチカどころではなく驚いて、急いで町へと向かって行ってしまった。取り押さえていたラースも放され屋敷を囲んだ男たちは一人残らずいなくなった。三人は少し落ち着いたが、ニコラスは町の子どもたちのことが気になり馬車に乗って止めるラースの言葉も聞かずに一人トゥナーへと行ってしまったのだ。


 【第十一章】完 


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