表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな魔王様  作者: ひなたぼっこ
第1章 勇者の章
9/65

第9話  豚王の最後



 国王は勇者を呼び戻すことに四苦八苦していた。



 自身はもはや逃げることもできず震えるだけだ。

 だが此処に勇者が来ることは出来る。

 レインクルス王国にある専用転移魔方陣を使えば友好国である我が国に転移を行うことができるのだ。


 儂だって王宮にあった魔法陣が無事だったらすぐ逃げてた。

 魔王が強いってわかった瞬間に絶対に東の果てにある友好国に高跳びしていたはずだった。

 だが安心していた儂はこの国から逃げ出さなければいけない脅威をなにも考えていなかったのだ。

 だから王宮は作らせていたが転移魔方陣はめんどくさくて後回しにしていた。


 何故なら転移魔方陣は簡単に作れるものではなく運ぶ者の血液やら溢れだす魔力を魔法陣になじませるためそこに何日もいる必要があるのだ。

 使い込まれた魔法陣なら魔法陣に血を数滴たらすだけでだいたい使うことができるが、新しく作るとなると自分も確実にその魔方陣の上で何日も飯など以外は出来るだけ動かず、ただ座ってすごさなければならない。



「今はやりたくないんじゃ」



 そんな子供みたいな拒否をした自分が馬鹿だと生まれて初めて思ってしまった。

 貴様の権限は全て剥奪すると言っておいたのに最後まで口ごたえしてきた貴族を思い出す。

 本当は「魔法陣はすぐ作るべきです」とかいろいろめんどくさいこと言ってたあの貴族が正しかったのだ。

 めんどくさすぎて投獄したがあの貴族は間違っていなかったのだと初めて認めてしまった。



 豚は命の危険を感じ素直になっていた。



 先ほども若い側近貴族が思わず「黙れ豚が!今勇者を呼ぶ交渉してんだ!」と我を忘れて叫んでしまった。

 貴族は(ヤバい殺される!)とすぐに顔を蒼白にしたが「す・・・すまぬ」と逆に謝られていた。


 吃驚したがそこにいる皆に王がある姿が見えた。

 ふんぞり返ったペットの豚が家畜用のいつ出荷されるかわからないような豚に変わったかのように見えたのだ。



 そして交渉が終わった。



 レインクルス王国は足元を見まくってきた。



 レインクルスにとって元々勇者は何の役にも立たなかった此方の馬鹿な買い物だった。

 それをあのアルドレートのケチ豚が「今すぐにこちらに転移してくれるなら買った値段で買い戻そう」と言ってきたのだ。

 普段のケチ豚ならまず買い戻さない。

 いらないものを買い戻すのは馬鹿のやることだと言える。

 そこまで豚王と呼ばれる奴も馬鹿ではないはずだった。

 もし周りになにか言われたから買い戻すにしても奴なら出して3割だ。

 それ以上は絶対ださないだろうという確信を持てたくらいだ。

 それがいきまり売値でしかも早急にだ。


 絶対に何かがあったのだろうことがわかる。


 だから吹っかけた。


 いきなり2倍にしたのに交渉人は言い淀んだがすぐ了承したので全ての財産までいけることがわかった。

 だからこそ3倍にして売り戻すことにした。

 完全に国家予算並みの額なので奴らに何があったか知らないが、これ以上無理なのは直感とかでなく事実として普通にわかった。



 友好国?なにそれ?おいしいの?



 そんなベタな感じだった。



 勇者を戦えるようにとのことだったので少し弱っていたが魔法やドーピングなどを使って戦えるようにしながら気持ち的には速やかに準備を進めた。

 金を受けとるためにアルデレート王国に滅んでもらっては困る。

 だがそれにも限度があるのだ。

 たぶんまた魔王が来て苦戦しているから勇者を呼ぶのだろうが、今度こそ情報も金も全て一緒に吸い尽くしてやるのだとレインクルス王国の国王は不敵に笑っていた。


 彼の見た目はゴリラだった。




 そしてアルドレート王国では勇者が転移されると分かって其処から変身した豚がすごかった。



 まずさっき彼を『豚!』と言ってしまった貴族を順番に騎士に殺させた。


 ・・・覚えてたんだ!ってちょっとびっくりした。


 ほぼ皆が調子にのって言わなくてよかった・・・と思った。



 そうこうしているうちに魔王がこの屋敷についたことがわかったが豚も最初より幾分冷静に判断できた。

 魔王の戦闘状況を聞くこともできたし、置いて行った奴らは全滅する前提で置いて行ったからだ。

 だが依然として危機である魔王が迫ってきたので、まずそこでしたのは防衛部隊を半分に分け、できるだけ時間稼ぎをさせることにした。

 自分達は馬車や馬で勇者が転移されるまで逃げ回るだけでよいのだ。


 魔王は馬鹿みたいにトコトコ歩いている。


 そのままでは追いつかれるはずがないのだ。



 なんて思いながら馬車を走らせると魔王は馬を何か想う様に見ていたかと思うと、何かを思い出したように1人頷いて魔法を詠唱している。

 そして数瞬後には魔王は宙に浮き、素晴らしい速さで馬車を破壊していったのだった。



 そりゃそうだろ!って豚と一緒にのっていた貴族は吹き飛ばされる馬車の中で思った。

 逃げる相手が歩いてないのに歩いて追いかける義務なんてないのだ。

 魔王が戦っている間ずっとただ歩いていたという報告から馬鹿な安心をしてしまったのだ。

 そこからは絶望だった。

 もう何もかも訳が分からず突っ込んでいった騎士や貴族はだいたい燃えた。

 その後にはもはや交戦するような気概がある者はおらず、魔王が王の前に立ったのだ。



「まだ勇者はこないのか!貴様なぞ早く死んでしまえ!!」



 ガキかこいつは?と仲間であるはずの貴族が思ってしまうくらい豚はブルブル震え訳のわからないことを呟きながら魔王に叫ぶ。

 静寂の中に響くのは虚しい豚の叫び声だけだ。

 しかしそこに別の音が混じった。

 涼しい声で魔王がそこで初めて口を開いたのだった。



「勇者・・・?」



 そう魔王は問うてきたのだ。

 一瞬皆が呆然としたが豚はすぐに気を取り直したようで捲し立てた。



「そうだ!前お前を倒したやつだ!儂らが頼んだんだ!またお前を倒しに来るぞ!脅えへつらうのだ!そしたら助けてやらんこともないぞ?!」



 脅えてるのはお前だろ!と突っ込むどころか俺も脅えてるわ!と言いたい貴族はもう全てが終わったと思った。

 この状況でそれはない。

 まず勇者の方が強いってことはこの状況でありえないし、強かったとしてもここにまだ居ない。

 完全に殺してくれって言ってるようなものだった。



「勇者ワタシ倒す? みんなが頼む・・・みんなが喜ぶのか?」



 訳が分からないことを言い出した魔王にびっくりしながらも豚は少し冷静さを取り戻してきたようだった。

 ブルブルと震えていた身体が次第に収まっていく。

 そして真っ青だった顔も多少よくなり、恐怖を感じているが自身にいい方向に進んでいると判断したようだった。


 でも豚は豚だった。



「なんじゃ・・・?魔王が死ねば皆が喜ぶのは当たり前だろう。おびえて頭がおかしくなったか?まぁいい、お前が降伏するのなら恩赦を与えて儂の下で働かせてやらんこともない。それなりに金もやろう。ただし儂の言うことは全てたがわずやるようにな。まぁ儂のまわりの役立たず達は気に入らんかったら適度に殺したところで別に構わん。あぁ女もやるぞ。ただ儂の気に入りは飽きた後になるがな。さぁどうだ?いい条件じゃろ?儂と組まんか?」



 なんでさっきの会話でそこまで饒舌になれるのか解らなかった。

 なんでそこまで図にのりながら上から目線で話せるのかも解らなかった。

 しかも条件って豚のためだけの条件だった。


 この豚は本当に人間っぽい豚だろ!

 無理だ!俺はもう抜ける!そう思いながら豚が語り始めてすぐ数人の貴族は逃げ出していた。


 逃げたら助かるとかじゃない。ただもう彼らは逃げだしたかったのだ。



「お前ヘン めんどくさい もういい・・・間違えた もうダメ」



 魔王はそう言いながら豚の頭に手をかけたのだった。

 「ひっ!」短い声をあげたかと思うと豚は青い炎に呑まれ絶叫と共に消えていった。



 残された貴族達はもう何も言葉を発することもできなかった。

 だから最初から最後まで表情を全く変えず何も映していないように見える瞳を持つ銀髪の魔王を馬鹿みたいにずっと眺めていた。



 貴族達には今回魔王が来たことでわかったことが幾つかある。

 まず魔王は恐ろしいほど強くて人間が相手にできるような強さではないことだった。

 そして言葉がその見た目に反して恐ろしいほど不器用でへたくそということだった。


 あとちょっとばかじゃないか?とも思ったが恐ろしくて言えなかった。



 そして魔王は貴族たちに目もくれずさきほど突入した屋敷に向きを正したと思ったら莫大な魔力を放出しだした。



 貴族達はあぁこれが噂の王宮粉砕の破壊活動なのか・・・と激しすぎる魔力の余波のせいで吹き飛ばされる意識の中で考えるのだった。



(勇者遅いよ・・・遅すぎるよ・・・・)



 魔王はすぐ壊し終えると次の標的に向かい飛翔すると破壊活動を開始する。




 その顔は今だ無表情だったが少し俯いているようにも見えたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ