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小さな魔王様  作者: ひなたぼっこ
第1章 勇者の章
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第8話  魔王と兵士



 アルドレート王国は一部の建物を除いて静寂に包まれている。




 数刻前までは国民も皆のんきにいつも通り過ごしていた。

 だが今は外に出る者は誰もいない。

 それは昨夜の手紙をほとんどの者が知らなかったとかいう伝達ミスなどではなく、魔王が来てもその状況は変わらない予定だった。



 貴族が投獄されておらずこの事実を知ったのなら「なんて馬鹿な真似を!」と眩暈を覚えていたのであろう。



 ちなみに貴族は脱出のための根回しを1人で我策している。

 結局文無しのまま投獄されてしまったから勇者の財産を勝手にパクって自己資金としてワイロとかいろいろやったりしていた。


 (くれると言っておりましたし、お金って便利ですよね勇者様!)


 普段おべっかなんて死んでも使わない貴族が勇者にまでおべっかを使っていたくらいだった。



 ・・・それほどまでに今の彼の状態は窮地に立たされ死にかけていた。

 余裕を見せたいところではあるが、妻達の安否も気になり余裕なんて微塵もない。


『貴方を助け出すことは今はまだ出来ないが、彼女達の安全は私達が死んでも守る!』


 そう友人が言っていたので彼らを信じるほかない。

 貴族自身も実際のところ自分がまだ生きていられていること事態が不思議なくらいの状態だった。



(頼むから自ら命を絶ってくれるなよ・・・)



 自らの命の灯火が消えそうな今、普段なら考えられないほど彼は衰弱していた。

 こんなこと考えてしまったらいつもならすぐに自分を殴っていさめるがそれもやる力が残っていない。

 彼女はどうだろうか。

 彼の妻は貴族の考えをその腫れた頬も見ずに気配で悟ってくる。


 そして貴族は貴族令嬢のくせにグーパンチしてくる妻にしこたま殴られて・・・最後には泣かれるのだ。


 でも彼女達が死んだら俺も死ぬのを止めることは出来そうにないな・・・そう笑ってしまった。

 俺はもうこの身体はそう長くは持たないだろうことは確信している。

 だが身体が動かなくてもこれほど頭が動くのだなと自嘲しているのだ。


(・・・あいつにも死んで欲しくないなぁ)


 そう他国に売られていった友人のことを想って貴族は動かない身体を眺めていた。




 国王達は今はもう何が何だかわからなかった。



 夜のうちに斥候部隊を派遣して偵察を行い、魔王がトコトコ歩いているのを発見したのだ。

 早朝には王国近くの平原につくことを予測しあらかじめ部隊を展開し正面をきって防衛することに決めた。

 夜闇にまぎれて殺すのもよいが魔王を大々的に抹殺したかったのである。


 国王は後方の部隊に厳重に守られながらこの戦いを酒を飲みながら楽しむ予定だった。


 魔法防壁は完璧。

 聖属性武具も完璧。

 騎士たちの士気は十分過ぎるほどだ。

 そして聖属性魔法を扱える魔術師も十分に用意した。


 負けるはずがない。そう思った。



 予定通り早朝には魔王が風にその綺麗な銀髪をなびかせながら馬鹿みたいにトコトコ歩いてきた。


 ある程度近づいたところで王の忠実な部下である、繰り上げ昇進した近衛騎士団長が魔王に向かい口上を述べる。

 我が軍がなんとかとかこの王国の歴史だとか魔王の所業だとか長々と話し始める。

 普段なら長々とつまらない話をして戦う前に士気を落としてどうすると指揮官も言いたくなるが皆が楽勝に思われる戦いを前に酔っていたのだ。

 自分たちが負けるはずがないと。


 魔王は最初は口上を聞いていたようだがすぐにまた歩き始める。


 それを見て騎士達は激怒した。

 話を聞け!だとか。調子にのるな!だとか。黙ってお前は殺されればよいのだ!とか叫ぶ。


 魔王は叫んでいる者たちの方をいちいち向いていたがそのうち真っ直ぐ前しか向かなくなった。


 最後まで何も言わず無視する魔王に騎士たちは憤慨し怒声と共に戦いが始まる。

 その時1番前に出ていた騎士団長は演説を無視された時にブチ切れた状態のまま歴戦の部下を引き連れて魔王に特攻した。


 遠距離用の聖武器もあるが彼は右手に輝く聖剣で魔王を切りたかったのだ。

 周囲もそれを良しとしてニヤニヤ笑いながら特攻を見守った。


 攻撃をうけようとしているのに魔王は構えようともせずそのままトコトコ歩いている。


 騎士団長はその態度にも激昂し、気合一閃素晴らしい勢いで魔王を切りつける。

 避けようともしない魔王に騎士団一同は一瞬で勝負がついてしまったのかと思ったが、他の意味で一瞬だった。



 騎士団長が魔王に触れた瞬間彼は青い炎をあげて燃えだしたのだ。



 絶叫をあげ騎士団長は転がるがすぐに動かなくなったかと思うと聖剣を残して彼は消えた。

 一瞬の出来事に皆は訳が分からなかった。


 魔王は魔法を使った様子はないし、魔王から溢れだす魔力は魔王相当たるも以前攻めてきた時ほど強烈ではない。

 たぶん何も魔法の術式と言えるものは展開していない。

 だから騎士達も何も警戒せずに突っ込んだのだ。


 しかも燃えるだけなら理解に苦しむが『触ると燃える魔力を感じさせない魔法』ともいえるが、燃えた団長は剣こそ残したものの何も残さず消えている。

 2段階魔法なんてものは存在しないのだ。

 騎士団長に連れ従った騎士たちは訳が分からないまでも恐怖を振り払い、その勢いのまかせ魔王に切りかかった。

 しかし切りかかったものの剣が当たった!という瞬間には皆一様に青い炎をあげて燃え、悶えるうちに倒れ消えていった。



 騎士たちは驚愕した。



 これがあの勇者が言っていた魔王なのか?と恐怖した。

 戦う以前に戦う意思さえもってない魔王にすでに20名ほど殺されたのだ。

 聖剣は残ったが後の者が持っていた名剣といわれる愛刀に聖属性付加をした剣達はなぜかわからないが消えてしまっている。

 一応魔王が聖剣を無視していたので回収兵が恐々取りに行っていたが魔王はそれも無視した。



 ――――わからないがやばい。



 そう思った騎士たちは接近戦は諦め、弓などの遠距離攻撃を始めた。


 矢や投石は魔王が小さいためあまり当たらないが一応あたることがわかった。


 矢は青い炎を上げることもあったが、あたってそのまま折れて地面に落ちることもそれなりにあった。

 投石はそれ自体が個人を狙って放つものではないので数度しかあたっていないが、青い炎に包まれることはなかった。

 物理的な遠距離攻撃はそうやって目に見えての効果はないもののあたったと感じるだけまだよかった。


 魔法は駄目だった。

 どんなものも地形を変えるだけで魔王に触れる前に消失するように消えるか、表面をなめるようにはじかれるだけだった。


 というより陣地の周囲に魔王が入ってこれないように結界魔法をこれ以上は不可能なほど厳重に幾重にも張り巡らしたのに魔王はそれに気づかずバリバリと歩くスピードを落とさずこっちに来るのだ。

 魔法は魔力の無駄だと言えた。

 そういえば奴は元魔王のそこらの王国魔術師達とは比べ物にならないほどの魔法を受けても無傷だった。

 そう思い出したのは今更な事実だった。



 そして王が叫んだ。



「もういい!物が消えないこともあるとわかったのだ!全軍無駄なことはやめさっさと突っ込め!」



 確かにそうだが嫌だ。

 だって人は燃えるのしか見てないのに接近戦とか頭おかしいでしょ。

 勇者は聖剣で刺したとか言ってたけど聖剣持ってた人1番に燃えたし。

 聖属性なら刺さるとか消えた人みんな聖属性だし。

 でもみんな燃えたし。



 勇者絶対嘘ついただろって思っても、真偽の魔法を思い出し訳が分からなくなる。



 それでもこのまま攻めなくても魔王に殺される。

 そして逃げても王に殺される。


 残された道は1つなのだからもう皆は死ぬ気でがむしゃらに突っ込んだ。

 死ぬかもしれないが死なない程度に戦えなくなって終わりたかった。

 考えたら負けだと思うことにして特攻するのだ。


 結果的にこの無謀な特攻は良かったのかもしれない。



 魔王に触れても燃えない人間はそれなりにいたし、他にも燃えない武器や装備品も数多くあったからだ。


 ただそれがわかるころには王国軍はほとんど壊滅状態となった。

 燃えなかった人間も剣がふれた瞬間切ろうとした力ごとその圧倒的な魔力に弾き飛ばされた。

 そんな反動で吹き飛んだ者はほとんど再起不能になったのだ。

 吹き飛ばされないように剣を切りつけることができる人間もいたが傷1つつけることもできずその前に剣が折れ身体には限界が来た。



 魔王は何をするわけでもなくただ前を向いてトコトコ歩いている。



 ただそれだけなのに王国騎士団はほとんどの者が死に、戦闘ができる状態ではなくなった。



 そんな騎士団が全滅したのを示すかのように魔王はようやく王国についた。

 その時には命令を出してすぐ逃げ出した国王と必死に逃げる騎士団を眺めることでもたらされた情報に国民は驚愕する。

 だから荷物なんて纏める間もなく魔王が来る正反対の地区に逃げ込み皆で息をひそめて恐怖に震えたのだった。


 魔王が踏み込んだ街は生き物がいないかのように静かだった。


 ちなみに豚は「突っ込め!」と叫んですぐ後方部隊をつれて逃げ出したのだが其処に冷静さはなかった。

 王宮はまだ出来ていないので側近貴族の一番防衛に適した館を防衛拠点にするだけの冷静さはあった。

 だが「早く魔王を殺してこい!」とか「勇者を遠くにやった馬鹿は誰だ!」などもう意味が解らないことを叫びまくっていた。

 側近貴族も「うるせぇ!豚がしゃべんな!」とかつい叫んでいた。




 魔王は静かな王国の中でひときわ賑やかなそこに向けてトコトコと昨日の夜から全く変わらない歩みを進めていくのだった。




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