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小さな魔王様  作者: ひなたぼっこ
第1章 勇者の章
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第7話  勇者の現状

残酷な表現が入っていきます。

苦手な方はご注意ください。

ただ大切な部分でもあるのでよろしくお願いします。

 ――――俺って勇者だよな?




 騎士だったが勇者になった彼は、調子にのっているわけでも自慢しているわけでもないがそう思った。

 彼は今アルドレート王国の隣国にあたるレインクルス王国の牢獄に監禁されている。


 よくわからないがアルドレート国王・・・いやもう豚でいいや。

 豚になんかブヒブヒ文句言われて気が付いたら拘束され、いつの間にやらこの牢獄にいた。

 豚のくせに機敏な措置だったと思う。



 そういえば貴族の野郎もまた投獄されたと聞いた。

 どうせあいつのことだからまたいつものように口先三寸で逃げ出して仕事に戻るだろう。

 ・・・そう想いたいと思った。

 こんな風にあいつを心配するのは『私を馬鹿にするな!』と怒られそうだ。


 だが今回は今まで様にはいかないだろうという気がしたのだった。



 とりあえず勇者はここで自分は死ぬのだろうなと実感していた。



 勇者がこの牢に入って3日ほどになる。

 此処に入ってから今まで飯も水も与えられていない。

 そしてずっと魔王の情報を吐けだとか国の情報を吐けだとか尋問・・・は超えて拷問をしてくる。


 だが勇者にとってしたら知らないものは吐きようがない。

 それが事実で勇者は何も知らないのに、ずっと情報を吐かせようとされていたのだ。


 魔王のことは知らないというより勇者の方が聞きたかった。


 とりあえず彼が戦った時の現状は全て話したが弱点は?とか殺し方は?とか聞かれても明確な理由は一瞬で消えたから勇者も知らないのだ。

 倒した時の攻撃方法も案山子を用意されて行ったりもした。

 フェイントや動き回りながら軌道上の交差などのテクニックはあったが人間にできない動きではない。

 単なる勇者が得意とした動きから始まる何の変哲もないただの刺突だった。


 国のことを何も知らないのは貴族に感謝した。


 勇者は豚の国は貴族がどんなに頑張ったとしても豚の国である以上はそのうち駄目になるだろうと思っていた。

 だから国に対してはそれほど愛着もないし、民に被害が出ないような情報なら話してもよかった。

 だがこういう時に下手に何か知ってると情報がこじれてとても面倒くさいことになってしまうらしいのだ。


 本当は貴族が頑張っているから勇者も政治に関与してもよかった。

 だが貴族は「わざわざお前も狙われる必要はない」と笑い、勇者を全く関与させようとしなかったのだ。

 貴族が多くの圧力を受けるのをただ見ているしか出来なかったのは歯がゆかったが貴族だからこそ切り抜けられたわけで何も知らない自分は足手まといだと自覚していたから何も言わなかった。

 しかしそのおかげで情報と呼べるようなものを勇者は知らなかったのだ。



 だから本当に何も知らない勇者に尋問する意味などないのだとすぐに理解されるはずだった。

 勇者が絶対に何も知らないということはこの国の尋問官も本当はわかっていると言える。

 なぜなら真偽の魔法を使っているから勇者が嘘をついていないことが確定しているはずだからだ。


 話さなければいけない内容があって難しければこの魔法もあまりうまく使えないだろう。

 だが「今話したこと以上に魔王について知っていることはあるか?ないか?」とか聞かれたら2択しかないのだ。


 魔術師の魔法を無視しなかったらもう聞くことは本当にないのだ。



 だが尋問官は1日目に聞き終わったことを同じようにして永遠とこの2日間聞いてくるのだ。



 なんでも勇者は親善大使という名の奴隷としてめちゃくちゃ高い値段で買ったらしい。

 だと言うのに買った意味がまったくなかったからどうにか元を取ろうとしているらしい。

 そしてどうにかして元を取るためにも今は情報が出ないから拷問をきつくすることで情報を引き出すのだそうだ。



 頭おかしいだろ?



 そう思った。

 実際まだ拷問といっても最初の2日は食事は出ないが尋問だけでおわっていた。

 そして今日はまぁ顔とか身体を殴られただけだ。

 正直鍛錬とあまり変わらずそれほど苦ではなかったが意味もなく殴られるのは腹が立つ。

 そして痛いものも痛い。

 明日は鞭を使うと言っていたから馬鹿じゃないかとも思ったが普通に嫌だった。

 そして無駄に攻撃されるだけなのもつまらない。

 むしろこの尋問は解りきった八つ当たりでしかないのだと思う。


 流石に知らないものを殴ったら思い出すとかは思っていないと思いたい。

 それほど馬鹿だったら人間が終わってる。


 だから話せる情報を考えてみた。

 あの馬鹿達は勘違いしてるかもしれないが、殴っても出てこないと証明するため殴られていない今のうちに自分で考えてみることにしたのだ。



 考え付いたのは魔王の殺し方だった。



 魔王は死んでないだろうことは勇者は確実ではないか思っている。

 あれが死ぬとは思えないのだ。

 たしかに心臓に剣は刺さっていたが魔王はめちゃくちゃ余裕そうだった。

 だから魔王は心臓なんかなくなった所で治癒するんじゃないだろうか?って思った。


 この事実はあの鼻水貴族がなんだかんだでしぶとく生きてるだろうなーと思うのと同じだ。

 ただの勇者の感だ。

 でも生きているのは間違いないと自信を持って言えた。



 勇者はとりあえず馬鹿尋問官に武器は聖なる剣がいいのでは?とは言ってあるがそれ以上の内容の話だ。

 確実といえる殺し方・・・それは『首をはねること』だ。



 生き物とは、脳が物事を考え心臓が命を動かす。


 どちらも欠けたら生物として生きてはいけない。

 そして魔力を持つ者の脳には更に具体的に言うと魔玉と呼ばれるものがある。

 玉とよばれているがそれは心臓と対をなすものだ。


 心臓は身体に血を送り出す。

 魔玉が魔力を身体に送り出す。


 その2つが魔力を持つ者には生きていくうえで重要になってくる。


 血液は質量があるため傷つけばある程度の血があふれ出すだろう。

 だが怪我の度合いにもよるが、痛みは怪我をしていた間だけのことがほとんどで治れば問題はないはずだ。


 しかし魔力はそれと違うのだ。

 魔力に質量などない。そのために魔力は無限ともいえるほど広がるのだ。


 どういうことかと言えば、一般人といわれる者でも魔力の潜在的な蓄積量は都市1つ分とも国1つ分ともいわれている。

 ただ人間は自分の魔力を自分の身体から溢れるだけしか使えないのだ。

 結果的に溢れだす魔力の量が、即ち魔玉の強さであり、生物が使用することが出来る魔力量なのである。


 その溢れる魔力量で魔法を使える者の力量は変わるのだ。

 だから魔力の潜在的な量は大魔術師も一般人も一緒なのでは?と言われている。

 図ろうにも大規模すぎるし使えないのでわからないがな。



 そこで何が問題になるかというと魔玉が行う魔力の循環方法だ。


 魔玉は身体を魔力に循環させないと魔力を溢れさせ辛くなる。

 つまりもともと溢れていたものが体に溜まるのだ。

 どんどんと『膨大』な量に蓄積されて。


 魔力がたまるとどうなるかというと筋繊維や神経に傷をつけるということはないが、原理はわからないが循環し辛くなったぶんに相当する『精神的な苦痛』を伴うのだ。

 だからこの世界での拷問は『魔力を身体に循環させない』ということだ。


 身体を傷つけていないのに傷つける以上の拷問を行う事が出来るのがそれだ。

 後遺症が身体には残らないように魔法で魔力を遮断するのが一般的だが、頭のいかれたクソ野郎共は実際にも四肢を切断するらしい。

 確かにそれは絶望だろう。

 苦痛は傷自身と精神に負担をかけることになる。

 だが人はそれを耐えるよりは死を選ぶだろうと言える。

 限度があれば精神を疲弊させるだけで効率がいいかもしれないが、限度を超えればそれは人を壊すのだ。


 四肢の1本でも魔力を遮断されれば人間は苦痛により日常生活をうまく送れない状態になる。

 2本目で心の弱い人間は苦痛で発狂してしまうか、まったく動けなくなる。

 3本目で発狂しない人間はほとんどいない。


 最初からもって生まれた身体なら溢れだす量が決まっているため問題はない。

 だが戦争で手足を失ったものは手足がないため生活云々が難しいという理由だけではなく、様々な理由で早死にしてしまうか『すること』になる。



 そこで話は戻るが『首を断つ』とどうなるかと言うと、魔玉が脳にあるため頭にすべての魔力が溜まるのだ。


 そして循環も出来ないのでもともとの魔力がすべて頭に満ちる。

 魔力というものは魂のようなもので実際には触れないし存在しないようになっている。

 だから純粋な魔力だけでは精神を疲弊させても身体に傷や何かを起こすことはありあえない。

 その例外がこれだ。



 切断された人間は即刻ではないがそのうち光に包まれて消える。



 魔力が爆発するのか大気に吸収されるのかは解らない。

 だが現実として身体が光に包まれた後、流れていた魔力が共鳴しているのか離れているはずの全身も光始めると跡形もなく消えてしまう。

 何も残さず消え去ってしまうのだ。




 それがこの世で勇者がもっとも憎む最悪な殺害方法だ。




 魔力は物理世界には存在しないものとされる。

 だが実際に魔力は其処にあり、感じることができる。

 魔術師によれば視認することもできるようになるらしい。

 それと同じように物理世界には存在しないが魂という形無いものを呼び出すことができる祈祷師という者がいる。


 祈祷師は巫女などと協力してたゆまぬ祈祷・・・言い換えれば祈りをささげることで神からの神託を受けることもできると聞いている。

 そして魂を呼び出すことのできる祈祷師の数は少ないが人々は死んだ者を恋しく思い彼らを頼るのだ。


 魂はそれほど自我を保つことは出来ず3年もすれば記憶は全てなくなっていく。

 そしてある者は小さな精霊になり自然に吸収されていき、ある者はそのまま世界に吸収されていく。

 それを輪廻と呼ぶ者もいるが正確なことは俺にもわからない。



 ただ亡くなった者と少しの間でも意思の疎通ができるのは残された者の癒しとなる。

 祈祷師にしか声は聞こえないし、故人によっては話ができる状態にないものもいるが祈祷師の努力によって小さな会話だけでももたらされるのだ。

 その力に人々は感謝するのだった。


 ただ祈祷師の善悪によっては金儲けや嘘の情報など悪用されたりすることもあるだろう。

 しかし祈りが邪な者は神に愛されることはない。

 つまり祈祷師にはなれないのだ。

 偽物も存在はするだろうが金儲けを考える者は確実に祈祷師ではないと誰にでも断言出来た。



 ・・・しかし人間はそれほど綺麗なものなどではない。

 人間には絶対に欲がある。

 それがほとんどないと言ったらそれははっきり言えば頭がずれてる人間だ。

 だからこそ祈祷師やそれに属するものは聖人と呼ばれ敬われる。

 更に彼らはそれにおごることなど全くない。

 そして彼らは豪華できらびやかな街に住むことはなく、小さな村で質素に生活し人々に笑顔を与えようとする。


 そんな馬鹿みたいな人間達なのだ。

 だからこそ世界が現実である限りその絶対数は限りなく・・・ものすごく少ないのだ。



 少ないが故に祈祷師との接触は難しかった。

 だがそれでも勇者は一時期彼らを必死に探した。



 勇者は妻や息子と話がしたかったのだ。

 魔王に連れ去られた彼女らは絶対に生きていないと言えた。

 そのためにもしも気がふれていたとしても、もしかして勇者を心から呪っていたとしても話したかった。

 勇者はただ1つだけ彼女達に伝えたいことがあったのだ。


 彼女らは魔王に連れ出され暴行を受けたとしても、最後まで勇者に向かって自分達は大丈夫だと微笑んでいた。


 絶対に恐怖も痛みも絶望も感じていたはずだ。

 それなのに必死に勇者を気遣ったのだ。


 魔王の攻撃を受け、勇者は血で真っ赤に染まったゴミ虫の様に地面に転がる。

 彼女達はそれを見て勇者が自分を責めないようにと何度も大丈夫だと叫んだのだ。


 勇者は次第に動けなくなった。

 それを見た魔王は去ろうとする。

 動けない勇者は血反吐を吐きながら魔王を必死に地面を這いずって追おうとする。


 まだ自分は戦えるのだ。

 まだ終わってなどいないのだ。

 誰にも最初から無理だと解っている戦いに勇者は自分が生きてると言うのに諦めることなど出来なかった。

 それなのに身体が動かない。

 血は吐くことが出来るのに待てと言う簡単な言葉すら吐くことが出来ない。



 その姿を見て彼女達は叫んだのだ。



『私はずっと ずっとあなたを愛しています!

 あなたが生きて下さるなら!私は生き続ける限り何の憂いなくあなたを愛し続けます!

 だから生きて・・・あなたは生きてください!』



『僕は誇り高いお父さんの息子なんだ!

 それをずっとずっと誇りに持って生きていられるよ!

 これからもずっと大好きだよ・・・お父さん!』



 そう最後の言葉を笑顔で叫んだのだ。


 その笑顔にどんな意味が込められていたか。

 勇者はその言葉をただ受け止める事しか出来なかった。

 それに答えることは血が限界まで滴る自身の身体が許さなかったのだ。

 全てを見すえる様な穏やかな笑顔を向ける母子を見て、勇者はただ血で濡らす顔を透明な液体で洗い流すことしか出来なかったのだ。


 勇者は自身の全てを失っても彼女達は失いたくなかった。

 だが最後まで立ち上がる事も言葉を発することも出来なかった脆弱な身体を呪うしかなかった。


 ただそんな事より筋肉しかつけてこなかった何の役にも立たない馬鹿な自身を呪う事なんかよりやりたいことがあった。

 悔やむ前にやりたいことがあった。

 ただ最後の言葉を残してくれた彼女達に伝えたかったのだ。




『俺もお前達を永久に愛し続けるよ』




 ただそれだけを伝えたかった。



 それから勇者は1年という歳月をかけ世界を回り、ついに祈祷師に会うことができた。

 勇者はもてる全ての財産をかけ彼に妻達と話がしたいのだと頼んだ。

 彼は「別に何もいらないよ」と笑い快く承諾してくれたのだった。


 勇者はついに彼女達に伝えることが出来るのだと実感した。

 もしかしたら彼女達の話を何か聞けるかもしれないのだと期待した。

 あまりに過度な想像をするのもどうかと思ったが、やっと祈祷師に逢えて勇者は興奮したのだった。



 だがそんな希望を打ち砕くように祈祷師がつらそうな顔をして言い淀んでいるのを見てしまった。

 勇者は瞬間的に頭の中で何かが暴れまわっているような鈍い痛みを感じていた。

 更にそれとは別の思考と思える様な冷静な頭が聞いてはいけないという警鐘を響き鳴らしていた。


 しかしどんなことだろうと聞かないわけにはいかなかった。

 必死に嘘は言わないでくれという勇者に彼は重そうな口を開き言う。



「彼女らの魂は・・・・断たれている」



 そう、これこそが勇者がこの世でもっとも憎む最悪な殺害方法なのだ。



 身体の全てを消滅させ何も残さないうえに存在すらしない魂までズタズタにするのだ。


 いや、それだけなら勇者もここまで憎まなかった。

 一瞬でズタズタにして終わりなら身体が死ぬのと同じだ。

 それなら嫌だとは思ってもここまで憎く思わなかったかもしれない。


 ただ魂はこの世に存在しないのだ。

 誰も触れることが出来ないものにどうやって傷をつけるのか?

 それは不可能だという話なのだ。


 更に言えば、断たれた魂は身体と同じように魔力の流れが止まっている。

 だから身体と同じように『魂自体』は何も変わっていない。

 だが『精神的』に生身では考えることもできないような苦痛を受けている状態になっているのだ。


 祈祷師は言う。

 魂は小さいのだ。それこそ両手で抱えれるくらいだと。

 身体があるものは魔力を溢れさせることが出来なければ発狂して死ぬ。

 それこそ半身を失ってずっと正気を保てる人間などいないだろう。

 そう、半分残っていても死ぬのだ。

 小さな魂に溢れることが出来ない魔力は渦を巻き魂を傷つけ続ける。

 膨大な魔力は暴風となり祈祷師でも魂を見ることも出来ないが、その中で魂は声をあげることも出来ずにズタズタになっているのだと言う。

 その中で声をあげている者もいるが痛みを叫ぶ以外何もできないのだと言う。


 つまり死ぬという概念がない魂は、人が受けることができる苦痛の何十倍もの苦痛を『変わらぬ精神』で『変わらぬ魂』でその魂が消えるまで終わることもなくずっと繰り返すのだ。



 無理だと思った。

 勇者はこれを予想していなかったわけではない。

 考えないようにしていただけだ。

 それを知ってしまったとき、彼女に『生きて』と言われたのに躊躇することなくすぐ首を断って死のうとしてしまったし、祈祷師がその体のどこにそんな力があるのだといえるような勇者以上の力をもってして何度も何度も止めてくれなかったら確実に死んでいた。

 死にぞこなってしまってからも1年以上話すことも、自分から動くこともできなかった。

 勇者自身その時のことを覚えていないが、祈祷師達が決して見放すことをせずに優しく介護してくれたからなんとか生きていただけの状態だったのだろうと話を聞いて思った。



 そこにあの貴族の家族が現れなかったら勇者は何をせずとも衰弱死していたと思う。


 奴は骨みたいな勇者をいきなり殴りつけて3本ほど骨を折ったあと永延と泣き続けた。


 奴が3日ほど何も食べずに睡眠もとらずに涙も声も枯れそれでも泣き続けるのを見た。



 そして勇者は1年ぶりに乾いた涙を流したのだ。



 そのあとのこともあまり覚えていないし聞きたくもない。

 だが勇者は妻との約束を今も守れている。



 結果的に破ることになるかもしれないという戦場は何度も行った。

 死ぬだろうと思ったことも数えきれない。

 でも死にそうになったところで勇者は自分に出来る精一杯で生き続けた。

 必死で生き抜き、諦めずに戦い抜き、そして未だに命を保ち続けているのだ。

 妻達もこれでも勇者が死んでしまったら怒りはしても笑って自分を受け入れてくれるだろうと思った。


 ・・・彼女達に逢えればな。




「あの魔王を殺す方法はこれしかないだろう」


 考えているうちにとても感傷に浸ったが勇者はそれを尋問官達に言った。

 理由なんて話さなくとも実際それ以外にはないと思う。

 そして拷問を止めるために言ったわけではないが、どうせ何を言ったところで拷問は続くだろう。


 だからこそ此処から逃げることのできない勇者はそのうち死ぬことになる。

 勇者は生きることを諦めるつもりはないが死ぬときは死ぬだろうとは思っている。

 事実としか受け止める事しかそれは出来なかった。



 そしてふと、あの魔王は今どうしているだろうか?


 そう疑問に思った。

 考えるうちにすぐ思考を止めて暗い牢獄の中、勇者は静かに目をつぶる。

 あの話を聞かない馬鹿な尋問官の気分次第でまた尋問が始まる。

 それなら出来るだけ精一杯で生きるためにも寝れるうちに寝ておこうと意識を手放したのだ。



 勇者が想った魔王は今アルドレード王国に向かっていたのだが『走るな』と言われたことを思い出し、月明かりに照らされながらトコトコと森を歩いているのだった。



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