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小さな魔王様  作者: ひなたぼっこ
第1章 勇者の章
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第5話  勇者の誕生

「お前!どうしてくれる!死ぬと思ってたから私財とか家財とか全部売って財産を全部孤児院に寄付しちゃっただろ!文無しで生きたところでどうすればいいんだ!」



 泣き笑いで怒る貴族には「孤児院に入れば?」っておすすめしといた。

 ぶっちゃけ適当に流してる。

 でも騎士は未だに自分の現状を理解出来ていないのだ。騎士にとってはそっちの方が大問題だった。



 曰く騎士は魔王を討伐した勇者になったらしいのだ。



(・・・よくわからないんだが。魔王って死んだのか?1回サクっていっただけだったぞ?あいつ元魔王が攻撃してもビクともしなかったんだろ?それが俺程度の剣が放つ一撃で死ぬなんて考えられないんだけど。しかもなんでよけなかったんだ?)



 騎士には訳が解らなかった。



(・・・しかも魔王はすごいって言っていたのか?死んだとは思えないが、死にそうな怪我を負わしてきた相手にか?)



 確かに勇者は魔王を討伐したのかもしれないとは理解している。


 だがあれはたぶん油断したところに攻撃が入ってしまっただけではないかとも理解していたのだ。

 それで怪我を治す為かはどうかは解らないが、そのまま魔王は何処かに転移したのではないかと思った。


 そう自分で結論づけて国の魔術師に話したが、転移の呪文は無詠唱で光に包まれるだけでは起こらないらしい。

 しかも死にかけのような精神状態では絶対に不可能だと言われたのだ。



(でもすげー余裕そうだったぞ?)



 確かに起き上ってはこなかったが魔王は無表情のまま敵を誉め、ただ倒れていただけだった。



(あれで死んだとか言われた方が驚くことないか?)



 騎士は絶対にそれを簡単に認めることなど出来なかった。

 確かに人間の常識ではあり得ないのかもしれない。

 確かに人には絶対に不可能な事なのかもしれない。

 だがあの魔王なら無詠唱でも絶対必要とか言ってくる大型の魔法陣だとかも何もなしで転移位しそうだと思った。


 それくらいのことなら簡単に出来そうな力を、あの魔王に騎士は感じたのだった。



 しかしそんな勇者の事情なんかは関係なく、重要なのは『魔王が討伐された』事だったのだ。



 国民は勇者の誕生に喜んだ。

 国に帰ったらすぐに皆は酒を浴びるほど飲んだのだった。

 そして今まで魔王に味あわされた雪辱を発散させるかのように歓喜した。


 唄を歌い、楽器を鳴らし、皆で踊った。


 収穫祭とか国民の祭りなんて比較にならないほどみんなで騒いだのだった。



 徐々に帰ってくる国民を見ながら勇者は確かにそんな事はどうでもいいか、と思うようになっていった。



 貴族も最後だからっていろいろ馬鹿なことをしたようだがこの国を守ったのは間違いようもない事実だ。

 今はすかんぴんかもしれないが絶対に悪いようにはならないだろう。

 だがまだ泣いてる貴族に今日明日助かるための提案をする。


「金なら俺の貯金やるよ。どうせ使わないしな」


 そう言いながら笑ってやった。その時やっと貴族は素直になったのだった。


「金なんか本当はどうでもいい!お前が無事でよかったんだ!」


 騎士はそうして涙でぐしゃぐしゃの顔で笑われたのだった。

 だから素で貴族のことを「馬鹿みたいな顔だな!」って笑ってしまっていた。

 ちなみに騎士もその時泣いてしまっていた。

 騎士自身、最近感情がセーブできてないと思う。


 だが感動のシーンかもしれないが、騎士は貴族の馬鹿に鼻水をつけられたので貴族の頭を若干本気で殴っておいた。


(これは俺が悪いんじゃない。確実に鼻水野郎が悪い。ちょっとじゃないぞ?チーンってやるって馬鹿だろ。服でやるかふつう?)



 そうやって皆浮かれていたのだ。



 鼻水野郎は浮かれすぎだと思ったが騎士も浮かれていたのだった。

 そして忘れていた。忘れたままでいたかったとも思った。


 しかしそんな希望は届くはずがなく、忘れたころに奴が帰国してきた。




 アルドレート現国王とその側近貴族達が帰ってきたのだった。



 彼らがまずしたことはこの奇跡の立役者の勇者と貴族に請求をしたのだ。


 必要な請求だったらしい。

 それは魔王が唯一壊していったあの王宮の弁償建築の支払いと慰謝料だった。


 無理だろ?馬鹿だろ?頭わいてんじゃないのか?って騎士は思った。

 これには流石の貴族も絶句していた。


 しかし責任をとらせるのだと奴はのた打ち回っていた。


 曰く、国民の避難や防衛をしっかり『王』が『事前』に指示した通りやったのはよかったらしい。

 でも住民街ならともかく『1番』肝心である王宮を守れていないというのはその功績を軽く凌駕するほどの大きな罪らしかった。

 だから貴族に全てを託してまで信じた王の期待を完全に台無しにしたとか何とかを王に・・・いや、豚が人間の服着たみたいな奴に言われたのだった。

 更に弁償建築の上ついでにこの機会に王宮をもっと大きくしようと言って民の税を大幅に引き上げようとしていた。



 指示っていうか何も言わず丸投げしてただろ。

 それより一目散に逃げたやつが国民の補償とかではなくてまず最初にするのが自分の住まう豪邸を作るための金を寄越せって馬鹿なんだろ。



 子供でも理解する簡単な理屈だったが豚には難しかったらしい。

 そう抗議した所で最後まで聞きわけられることはなかった。

 流石にこれには何もできなかったほかの貴族も無理があると言ったのだがその時になるとこの国王のいつものパターンが始まった。



 抗議するやつを片っ端から反逆罪とか言って捕まえるのだ。



 そう、勇者も親友の貴族がいなければこの国なんか数秒で捨てていた。

 そう言っても何もおかしくないくらいにこの国は腐っていた。

 国王は本当に笑ってしまうくらい馬鹿な暴君でクズな豚野郎だった。


 だから勇者は国王を元魔王の次くらいに嫌っていたのだった。

 だが今回のことで元魔王の方が考えがある分ましだと思えたくらい揺らいでしまっていた。



 そして国民だってそれをすべてわかっていた。


 この国王は手紙が来てすぐ遠い異国に転移して責務なんか全て丸投げしていたことを。



 しかもいまだかつて誰も成し遂げていない魔王討伐を果たした勇者様さえ断罪しようというのだ。

 さらに魔王が来ることになっても冷静な判断で国民を逃がしてくれた貴族様も断罪するというのだ。


 貴族様は魔王が訪れた時など王国にいるのは騎士の邪魔にしかならないと危険度なんて何も変わらない国にすぐ近い誰も残っていない村で騎士のことを待っていた勇敢な人だ。


 勇者は1人で魔王に立ち向かい、貴族は1人で国を背負ったのだった。


 そんな彼らが断罪されると聞いて民は今までのように我慢なんて出来るはずがなかった。

 例え自分達が命を落とすことになっても落としてはならない命がそこにあることがわかった。

 学問なんて学ぶことが出来なかった馬鹿な頭でもみんなが理解したのだった。


 このまま指を咥えて見ている事なんてことは出来ないんだ。

 『魔王討伐』という夢を実現してくれた勇者に、それを支えた貴族に合わせる顔がないんだ。


 だから有権者や一部の平民が反逆者として処刑されると決まった時に国民は一致団結して国王にクーデターを起こすことを決めたのだった。


 国王の軍は強い。

 だから厳しい戦いになるだろうが彼らはそんな事よりも命を賭して助けたい者があったのだった。


 その日の夜のことだった。



 平民街や貴族街果ては近くの街にまで薄い便箋が降ってきたのだ。



 それにはこう書かれていた。




『風の月の25の日 アルドレート王家とその周囲を滅亡させます。 魔王』




 みんな「明日じゃん!」ってびっくりしたのだった。



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