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小さな魔王様  作者: ひなたぼっこ
第1章 勇者の章
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第4話  魔王と初戦

 騎士は今途方もなく焦っていた。



 そのしばらく前の時間のこと。

 彼は国にある大きな広場で魔王を待っていた。

 実際に魔王を倒すことを考えたのなら物陰に隠れ、障害物が多いところで待つべきだと言える。

 そこで障害物を壁にしてセコセコと遠くから不意を突かなければ、魔王に攻撃はあたらないだろうと誰にも予想できる。

 だがそれを行っても魔王を相手に不意をつけるなどとは思えないのだ。


 なにより魔王と戦うのに障害物が多い所で待つなど、一緒に破壊してくれと言っているようなものだと思う。

 だからこそ騎士は何もない大きな広場で待っていた。

 よく見えるこの広場だったら気配で察知する以前に目視ですら簡単に認知出来るはずなのだ。


 実はこの場所に来る少し前に魔王がこの国に来た。そしてそれは騎士にもすぐ解った。

 ありえない量の魔力を肌に感じたからだ。


 本来なら魔力というものは、これほど明確だといえるほど感じとる事は常人には出来ない。

 まぁ上級魔術師なら感じることが出来るだろうが、騎士は一部の魔法を極めているだけでそれほど魔法に敏感なわけではない。


 その彼でも溢れる魔力を感じたのだ。



 これほどの魔力を発しているのなら騎士は魔王の存在の有無を連絡などしなくとも良いはずだ。

 もし騎士がすぐに殺されたとする。

 そうなると以前なら誰も魔王が去ったことを伝える手段がなくなる。

 だがもしこの魔王が其処に居座ったとしても、これほどの魔力なら遠くから魔術師が魔力を伝って魔王が去るのを気づく事が出来ると確信を持って言えたのだ。



 だから騎士は自分の果たすべき枷が少しだけ減ったことに安堵したと言っていい。



 本当は普通にビビッていた。

 無理だろコレって思っていた。

 まず数か月前まで元魔王と共に歩いていた小さな魔王は聞く話によるとこんな魔力を持っていないはずだった。


 曰く『魔王の強烈な攻撃にも傷一つつかないくらい頑丈だったが、身体から溢れる魔力量は魔王ほどではなく人間にもいるだろうと言える程度』という話だった。

 こんな魔力は持っていないと思っていたのだ。



 騎士は内心で今回攻めてくる魔王は魔法はそんなに使わない武闘派に特化した魔王なのだと思っていた。

 それなら少しは何とかなるかもとも思ってしまっていたのだ。


 だが結果は予想なんかしなきゃよかったとか嘘情報が半端ないとか思ったのだった。


 打ち砕かれた彼の楽観的な余裕は粉々どころか新しい壁を作り出していた。



 絶望しかけたが貴族達の顔を思い出したことで騎士は少し冷静になる。


 情報は魔王が出現してから何年も経ったのに変わらなかったのだ。

 ならば情報が間違っていたのではない。

 魔王は今まで姿を見せなかった数か月という間にこの変化をしたのだろうと判断出来る。


 それ以外にも考えられるのは、今まで魔王は魔法を使わなかったから判明していなかっただけで、本当はこんなに凄まじい魔力を持っていたのかもしれないということだ。

 またその凄まじい魔力を駆使して絶大な魔法を身にまとい、攻撃魔法用の術式か何かを展開しているからこのような膨大な魔力が馬鹿みたいに溢れているのだろうと結論付けたのだった。


 まず結果的にコレと戦うのは自分だけなのだから相手が今更どうであろうと関係はない。


 だからこそ騎士はやることに変わりはないのだと潔く納得して魔力を感じる方向を睨んでいた。



 ・・・本当のことを言えば遠くから攻撃魔法で一瞬でやられないかドキドキだった。



 結果的には杞憂していた攻撃もなく魔王の魔力がすぐ近くまで来たので騎士は心底安心して臨戦態勢を取る。

 このような場所に不自然に1人だけいる騎士が持てる限りの殺気を魔王に向けているのだ。

 どれほど魔王が周りを気にしなかったとしても絶対にすぐ気づくだろうと身構えた。


 そして騎士は徐々に近づいてくる魔王に興奮とも恐怖とも言えない大きな感情を湧き上がらせながら剣を構えた。


(もうそろそろ見えてくるはずだ・・・)


 そう考えた直後に銀髪の小柄な男が姿を現す。

 当初に想像していた以上に小さなその姿に、騎士は多少驚きながらも走っている魔王に啖呵を切ろうとした。


 その瞬間というか数秒の間に魔王は目にもとまらぬような速度で騎士に近づいてきたと思ったら、魔王は何も見ていないというようにそのまま騎士を放置して素晴らしい勢いで王宮の方に走り去っていった。




「・・・え?」




 思わず間抜けな声をだしてしまっていたが騎士はすぐに慌てて気づいた。


(魔王を追わなければ!)


 だが問題もあった。

 はっきり言って騎士は走るのが遅い。

 足の怪我のせいともいえるが魔法で補助しても持久的に走るのなら普通の大人が走るのと同じ速さだ。

 しかも言動は完全に若作りしているが騎士はこれでも40過ぎのおっさんだ。



(あの速さに追いつくとか・・無理だろ・・・)



 突然のことに緊張感がほぼなくなっていたがそれでも騎士は自分にできる限界で走り始める。


 そしてその直後に膨大な魔力の爆発を感じた。



(うわ・・・絶対これ王宮破壊してるよ・・・)



 凄まじい音とともに強い光を放っている王宮に向けて騎士は全力で走っている。

 だがはたしてこの規模の攻撃を受けて王宮は自分が到着するまで持ち堪えてくれるのだろうか?

 凄まじく疑問に思った。


 そして魔王は王宮を破壊し終わったらまた次を壊しに行くというのだろうか?



「・・・また走って行くとかないよな?」



 思わず呟いてしまったがまさに切実な問題だ。

 そんなことをされたら戦うのだとか作戦を立てるのだとか完全に必要なかった。

 まず追いつけなかった。



 だから今騎士は必死になって若干というか・・・かなり焦りながら走っていた。



 騎士は皆にあれほどかっこつけたのに結果は「無視されて追いつけなかったので生き残りました」では嫌なのだ。

 それではやっぱり怖くて逃げましたよりかっこ悪いと思う。


 本当はかっこいいとかかっこ悪いとかの次元の話じゃないんだろうことは理解している。

 だがそれを認めてしまえば騎士は自分の人間としての尊厳とかがいろいろ崩れ去ってしまう気がしたのだ。


 騎士はそうして若干魔王にイラつきながら全速で走った。


 全力過ぎてもう鼻水とか涙とかいろんな液体が出てきていたが何振り構ってられないほどの全力だ。

 これほど全力で走ったのはいつ以来かわからなかったくらい全力である。


 そしてその努力の甲斐あってか魔王の元に辿りついたのは王宮がほぼ崩れ去っているっぽい見るも無残な形になった頃だった。




「・・・もう走らないで下さい!本気で無理です!」




 騎士は一瞬で絶望して素で叫んでしまっていた。

 ギャグではない。言った本人が一番びっくりしている。


 こんなに走るための体力がなくなっている事にも本当にびっくりしていた。

 いや、俺はまだ走れる・・・若いんだ!という考えは思い浮かぶ寸前に何かに負けた気がして吹き飛ばした。


 すると魔王は手を止めるとゆっくりと騎士の方を向き、何も映してないような瞳で騎士を見つめる。

 そのまま何も言わずにコクリとうなずいたように見えた。

 だが向き直ると魔王はそのまますぐ破壊活動を再開させる。



(・・・え?了承した?)



 騎士はこの一瞬の出来事に驚く。

 しかし破壊を続ける魔王を止めなければいけない。

 だからこそ雑念を吹き飛ばし思考を閉ざしてむしゃらに勢いよく剣を振り上げ魔王に切りかかった。



「止めろ!これ以上壊すな!俺はこの国1番の騎士だ!俺を殺せばこの国は落ちる事になるだろう!だからこれ以上ここを壊す必要はないんだ!さぁ俺と戦え!」



 むちゃくちゃかもしれないが騎士はこれで納得して貰うしかない。


 頭の血が沸騰している。

 走ったせいで酸素が足りていない。

 だから事前に考えていた作戦も口上もすべて忘れていた。


 そしてそのまま何の予備動作もなくただ単純に切りかかっているのだ。

 それでは人間相手でも殺されるだけなのだと気づいた時には騎士は魔王の懐近くに来てしまっていた。



(くそっやられる!)



 そう思ったのだが魔王は飛びのき此方を向いた。

 意外だったがそんなことより自分の軽率さを恥じる。

 だからこそもっとこの戦いに集中するように静かに息を整える。

 そうしていると飛びのいたまま騎士を見ていた魔王が言葉を紡いだのだった。



「なぜ? 俺殺すと落ちるのか? よくわからない」



 片言で単語を切りながら話す魔王は何が聞きたいのかは解らなかった。

 だがその間に息を整え終え、少し冷静になれた騎士は魔王が話を聞いてくれるなら行幸だと言葉を返す。



「俺って・・・お前じゃないぞ?この俺だ。 お前はこの国を落とすのだろう?この国にはもう俺しかいない。だから俺を殺せばここはお前の国だ。あとは元いた国民がお前を王として迎えて暮らすこともできるだろう。だからこれ以上街を壊す必要はないんだ。この国が欲しければ俺と戦い殺せばいいのだ。そして此処を飽きて去るまでは気が済むまでゆっくりと過ごせばいいのだ」



 騎士はそうやってゆっくりと話したのだが実際に魔王を王にすると国が認めたわけではない。

 ただ表面上でもそうするから民の命を助けてくれとお願いしているのだ。

 魔王もそれくらいは理解してくれるだろうと思った。



「よくわからない。 ワタシ役目はたす」



 だが希望をぶち壊すかの様にそう言い放った魔王はまた何も無かったかのように破壊活動を始める。

 だから騎士は絶望がよぎる前に考えを改めることにする。


(やはり魔王は人間の言葉など最初から聞くつもりはなかったのだ・・・)


 そう考えを纏める。

 騎士はもはや自分から行動するしかないのだと先ほどよりずっと冷静な頭で考える。

 それならば鋭くなった頭で極力冷静に魔王に切りかかるだけなのだ。



「ならば俺がお前を殺す!この国を壊すのはもう止めるんだ!」



 騎士は決意をもってそう言い放った。

 だが魔王はそれに振り返り言うのだった。



「人間 ワタシ殺す無理 できない」


「・・・くっ!そんなのやってみなけりゃわからないだろ!」



 騎士は冷たく2回も否定され怒りを覚え叫んだ。

 本当はそんなことは魔王以上に自分がわかりきっているのだと言いたくなってくる。

 だが騎士にも小さなプライドがある。

 戦う前からそんなことを考えないように、戦いにだけ集中して考えを振り払うようにそのままの思考で魔王を切ろうとした。


 騎士が切りかかっているというのに、ガードも回避も何もしない魔王を見て『これは切れる!』そう確信しながら騎士は剣を振り切る。


 だが気づけば魔王は横薙ぎに振り切った剣の先にいない。

 気配を頼りに振り向くと無表情な顔のまま騎士の後ろの方で破壊活動しているのだ。



(こんなの・・・次元が違いすぎるだろ・・・)



 思わず絶望が頭をよぎる。

 しかしそれと同時に魔王に何としても死ぬまでに一太刀はあびせたいとも思う。

 最初から倒せないことなど解っていたのだ。

 だからこそそのまま折れることなく騎士は今まで生きてきた中で1番の集中をみせる。


 どうせ死ぬからと余計なことはなにも考えなかったからかもしれない。

 以前1番集中しただろう妻達を人質に取られたときは体の痛みは無視したが冷静でいられるはずはなかった。

 痛みは無視出来ても体は鈍ってしまっていた。

 だからこそ今ほどの集中は生涯でしたことがないと断言出来る。


 そして頭の中は澄み切っていた。

 『ただ一太刀』そう考える身体はこれが自分の体か心配になるほど思い通りに動いたのだった。

 身体は軽く思い通りに動く。思考は澄み切り動作を考える前に身体が反応する。

 意識は全てを魔王に向けていた。



(・・・それでも・・・これでもあたらないのか!!)



 そう、それでも魔王は騎士の攻撃を無表情で気づけば難なく躱す。

 そして何も障害はないという様に王宮を破壊するのを止めなかった。

 王宮は徐々にさら地になっていく。

 その王宮を見ながら騎士は何もできなかった。


 自分の力の足りなさは理解できたが、騎士は徐々に我慢できなくなってついにキレた。



「なぜ戦わない!?俺が雑魚なのはわかるがせめて早く殺せ!壊したいのならば後で壊せばいい!だから俺と戦ってくれ!これ以上俺を馬鹿になどしないでくれ!!!」



 思わず国のことなんてどうでもよくなって必死に叫ぶ。

 それほどまでに騎士はこの戦いに熱中していた。

 だがその相手はまるで無視するように躱すだけで全く相手にしてくれなかった。

 せめて騎士は早く殺して欲しかったのだ。



 そして数瞬をおいて膨大な魔力が周りを覆ったかと思うと爆音とともに王宮が完全なさら地になった。



「馬鹿してない むずかしい でもあなた人間すごいのわかる 今まで見た1番 だからもういい」



 ・・・魔王が俺を誉めてるのか?まさかな。

 だがとりあえずは戦ってくれるようだ。

 そうだ。俺の目的はただ1つなのだ。最後に一太刀だけでも奴にあびせてやるだけだ。



 力の籠った瞳を魔王に向け、騎士は全身に力を張り巡らせる。



 王宮が跡形もなく吹っ飛んだのだとか。


 あの魔法を放てば自分もこのまま吹っ飛ぶんだなとか。


 吃驚するのも何もかもが全てどうでもよかった。


 ただ騎士は魔王の心臓をめがけて走り出す。



 身体が軽い。

 ずっと走りっぱなしだったのが嘘みたいだ。

 やっぱり俺はまだまだ走れる身体だったんだな。

 そして騎士は自分を笑顔で送り出してくれた貴族達に少しだけ感謝した。


 あぁそれに妻達にやっと会える。


 そんなことを一瞬のうちに考え、知らずに笑みがこぼれていた。



 最初と同じように魔王はガードすることも回避することもなく立っている。

 たぶんこの剣を突き刺したころには俺は気づかないうちに死んでいるのだろう。


 そしていろいろイラつきはしたが楽しかったのかもしれないと騎士は魔王に笑いかけた。



 こんな死に方もありかもしれない。

 そう思いながら剣を突き刺す。

 せめて切っ先でもあたってくれたらなぁ。

 そんな希望をもって魔王をさらに凝視する。


 自分が死ぬまで一瞬でも見逃さないように。



 魔王は俺が笑いかけたのが疑問だったのだろう。首を傾けていた。



 そしてそのまま俺の剣は何の障害もなく魔王の胸に突き刺さっていった。

 突き刺すといっても半端ではないスピードで刺し急制動したため衝撃で魔王は吹き飛ぶ。



 最後まで視線は魔王から外せなかったため魔王の口元の動きまで見えた。



 ――――ほらすごい。



 そう言われた気がした。

 数瞬後魔王は倒れたまま光に包まれていき消えていった。



 騎士は自分がしたことを呆然としたまま見ていたが意味が解らなかった。



 長い時間がたった後。



「・・・・・・え?」



 間抜けな声が出た。




 こうして歴史上初めて魔王は討伐されたのだった。



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