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小さな魔王様  作者: ひなたぼっこ
第1章 勇者の章
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第2話  勇者が勇者になった訳

 今からすると昔の話になるが勇者は昔から勇者と呼ばれていたわけではない。



 彼は当初ある王国でとても強いと有名なだけの普通の騎士だ。

 彼はその強さから近衛騎士の団長を務めていたが、それ以外は本当にただの騎士でしかなかったのだ。



 彼の転機は1通の手紙だった。



 話は過去に遡るが、その手紙が届く数か月ほど前の話になる。


 その当時に生きていた人々の盛り上がりは凄まじいものだった。

 何故なら人々を恐怖させ『悪夢を現実にする者』と畏れられていた恐怖の魔王が死んだのだ。


 その魔王は人間には考えられないほどとてつもなく強かった。


 それまで魔王を倒そうと我策されたことは何度もある。

 しかしどんな数の兵を用意しても、どんなに強いと言われた剛の者を用意しても、膝をつけることも疲れさせることもまるで出来なかったのだ。


 そんな恐怖の魔王が死んだのだ。

 自分達には倒せなかったのが勝手に死んでくれたのを喜ばない理由がなかった。


 その事実は言動こそ適当だが必ず当たるという稀代の予知者の言葉で死んだと発表された。

 なんか「あ、たぶん魔王が死んだっぽい」とか言っていたらしい。


 そして各国の人々は適当さはさておきこの予知者には絶対の正確さがあることを知っている。

 だからこそ魔王の死を知った皆は喜び、歓喜に震え、昼夜を問わないでずっと宴を開いたのだ。



 忘れていたのだ。


 その悪夢のような魔王に息子がいたことを。



 ・・・正確に言えば忘れていたわけではない。


 今回死んだと言われる魔王だけではなく、人間の歴史が始まる前から脅威として知られてきた魔王は代々と世代を変えている。

 そしてその歴史の中でも、魔王の世代が交代するという時期は特にひどかったと書物に記されている。

 数百年単位で魔王は世代を変えるらしいのだが、だいたい親と子がそろうとその被害は2倍にまで及んだらしいのだ。


 何故なら親と子が馬鹿みたいに暴れるからだ。


 それはとても恐怖と言える事象だ。

 だが民にとって救いと言える事は悪夢も永遠に続くと言うわけではなかった事と言える。

 世代交代の時期は数百年という寿命を持つ魔王にしても、それほど長く続く事がなかったのだ。

 何故かは解っていないが子供が出てくると親は10年ほどで消えると歴史が語っているのだ。

 それも長いが何百年も一緒に暴れられたら目も当てられない。

 当てられないというか当てる人が残るかどうか疑問だ。


 そして今回も悪夢と呼ばれた魔王も近年暴れるときに時々だが子供を連れて来た。


 

 それは悪夢の魔王と同じ銀色に輝く髪を持った小さな男の子だった。



 その子供が現れた当初人々は恐怖に慄いた。


 2人の魔王に暴れられたらこの街は終わりだ・・・そう恐怖したのだ。


 そして実際に悪夢が過ぎ去ると街は半壊した。

 だが以前と比べれば実際の所は前と同じような被害と言える。

 半壊もひどい被害なのだがそれでも住民は安堵の息を吐く。

 その理由は悪夢と呼ばれる親が暴れるのは今更な話だったが連れられてきた息子が何もしなかったためだ。


 見ていた人曰く息子はただボーっと突っ立っていたらしい。

 そのおかげで魔王が2人になってもこれまで以上の被害は起きなかったのだ。

 歴史を知る人によってはあり得ないと騒いだが、実際にそうだったので何とも言えない。

 ただ半壊という被害はさておき人々はそれを聞いてまず安堵したのだ。


 でも人々は吹き飛ぶ建物を見て逃げまどいながらも、銀髪の少年はもしかしたら魔王の息子ではないのかもしれないと思った。


 なぜなら歴史を紐解けば魔王というものは例外なく親と同じような気性を持っているのだ。

 そして何より魔王というのは基本的に皆が残虐で破壊を楽しむ者達しか見たことがないとされる。

 あの息子は本当に何もしない。

 だからもしかしたらあれは魔王の奴隷か何かなのもしれないと考えたのだ。


 だってあれ本当に何もしないし。


 ただ立ってるだけで何が楽しいかわからない。

 まず奴隷にしたって何もしなさすぎだと思う。

 そのため人々は息子でも奴隷でも何もしないならどうでも良かったが、本当に何もしないあれを魔王は何のために連れてきているのかも理解出来ないと噂し合う。

 ただ魔王馬鹿なんじゃないかって事が言いたかっただけだ。



 その結果「あれたぶん息子じゃなくね?」そういう結論に至った。



 しかしそれは度々くる親魔王によって簡単に覆された。

 奴隷かと思った少年は魔王が放つ破壊的な魔法や、建物が吹き飛ぶ余波を度々という馬鹿みたいな頻度で直撃している。

 本当に馬鹿だと思う。

 なぜならそこで発生するとてつもない衝撃を少年はモロに全身で受けているのだ。

 当たり前の様に少年はその衝撃でものすごい勢いで吹っ飛んでいった。

 何も言わないで吹っ飛んでいく姿は存外とシュールな光景だ。


 簡単に言うが、ふざけていい攻撃でない。

 建物も木端微塵に破壊されている。

 それなのに少年は何も感じていないようだったのだ。


 そう、吹っ飛ばされたとしても少年は痛がってる素振りを見せなかったのだ。


 少年は無表情のままムクリと起き上ってそのままのそのそ歩きだす。

 魔王はその小さな少年がいたところでお構いなしに魔法をそこかしこにバカスカ放ちまくって建物をぶち壊す。


 起き上ってすぐの少年はそのままあっけなく炎に包まれ瓦礫に押しつぶされるのだ。

 それなのに。

 そんなひどい被害を受けているはずなのにしばらく時間が経過すると何事もなかったかのように少年は無表情のままのそのそ出てきてトコトコと親の後をついていくのだ。


 まぁ無傷な時だけじゃなくて怪我をすることもあったがほぼ無傷で起き上り普通に歩いてた。

 だから普通にその存在に人々は恐怖したのだった。

 しかもその子供は怪我してもすぐ治ってた。

 その瞬間を見た皆は普通にガチでびびるしかなかった。



「あの魔法受けたら普通死ぬよ?ってか普通の人結構いっぱい死んでるよ?」



 誰もがそう思った。



 強い魔物の研究者がいたとしてあの子供には魔法に耐性があって、なおかつ衝撃に強いため死にはしないのだ。

 そう発表されたところで理解は出来ないだろうとも言えた。

 何故ならどれだけ強い魔物だとしても怪我をしたら痛みがあるはずだからだ。


 あれは絶対にそれとは違うのだと見ていて解った。


 まぁ世界には痛み自体を感じないのだという生物も存在はするかもしれない。

 だが身体を怪我したならばどんな生物でも何らかの支障をきたすはずだった。


 あの悪夢の魔王でさえ攻撃を受ければほんのちょっとは血が流れる。

 そして痛がる。

 まぁ痛がるというより無駄に怒ってくる。


 例えば攻撃をして、もし傷つけるとする。

 するとほとんどの場合は倍以上の攻撃でやり返されて大体の生物が死ぬ。


 あの魔王は心が狭いのだ。


 ただ魔王は大きな怪我をしないのかと言うとそうでもない。

 歴史ではそれなりの怪我をさせたこともあるらしい。

 随分と昔の話らしいが大国の大魔術師が自らの命と引き換えに魔王の片腕を落としたことがあるのだと言われている。



 まぁ落ちた腕は5分後に再生したらしいが一応落ちたらしかった。



 それを聞いたら猿でもわかるようなタフさだと理解出来る。

 更に抜群の破壊力を持つ広範囲魔法を魔王は持っているのだ。


 まず倒せないと言っていい。


 人々はそれを聞いて「魔術師様は確かに死んでしまったけどスゴイ努力して落とした腕が再生するのを見なくて良かったんじゃね?」そう思った。

 たぶん見てたら確実に絶望すると思う。

 そしてそれでもまだ戦うとしたら馬鹿としか言えないほどの規格外さを魔王は持っているのだ。



 でもそんな最強な魔王の攻撃をうけてほぼ怪我をしない上に痛がらない生物ってなんだろ?


 そう聞かれたら「息子なんじゃね?」



 そう答えるしかなかった。

 てかそうでないとあんな丈夫で人間には倒せないだろう生物を魔王が「俺が作った奴隷だ」とか言っていっぱい量産してきたら人間は滅びる。

 滅びるだろうとかじゃなくってまずは滅びる。

 確実なのである。



 それでもその息子はなにを考えているのかは解らなかったが、魔王の破壊活動には参加しなかったのだ。

 ココがすごく重要だった。

 あれは最後まで何もしなかったのだ。


 それを知った人々は馬鹿みたいに暴れる親の暴挙をあと10年ほど我慢したらいいのだと判断したのだ。

 10年したらあのでたらめに強い馬鹿な悪夢が死んで、その後は何もしない息子だけが残るんだ!もう魔王なんかに脅えなくていいんだ!

 10年の歳月は長いがそう思うことが出来た。


 そう想うことでこの10年もの期間を期待に震えながらずっと待つことが出来たのだ。



 ・・・実際魔王が死んでからここ数か月の間は何もなかった。



 元魔王がいたころ、あの馬鹿は気分によって馬鹿みたいに暴れていた。

 だから被害はひどい時もあれば、怪我人がほぼ出ないような小規模なものもあったのだが、どちらにしろ被害が何処にでもついて回るため元魔王が何処にいるのかはすぐにわかっていた。


 人外の被害がある場所に気分で暴れるどっかの馬鹿がいるのだ。


 しかし今回はまったく被害を聞かない。

 やっぱり世代交代した次の魔王はなにもする気がないのだ。

 そう確信したからこそ皆完全に浮かれていた。



 そして現在に戻る。



 ある国に1通の手紙が届いたのだった。

 その魔法手紙には一言と名前だけが書かれていた。



『風の月の5の日 アルドレートの城を落とします。  魔王』



 それを聞いた近隣諸国の人々は絶望したのだった。

 また魔王が暴れる日々が来てしまうのかと・・・。



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