悪女による悪意なき物語が本当の悪人を明らかにした話
今日はとっても短いです!すみません!
明日頑張ります!
少し昔の事。
貴族の間では悪女と揶揄される一人の少女がいた。
彼女は嫉妬から、平民上がりの貴族令嬢に陰湿な嫌がらせをし続けた。
結果、それが明らかとなった彼女は大勢の前でその罪を突き付けられ、公爵令嬢としての全てを失った。
家から追い出された彼女は国の辺境へと押しやられる。
彼女は絶望した。
何故なら彼女の悪事というのは――全てが偽りだったから。
彼女は無実だったのだ。
公爵令嬢であった彼女にとって、その地位を奪われる事も、誰からも信じられない事も……そして無実の罪で辺境へ追いやられる事も、その全てが悲しむべき事であった。
けれど辺境へ着いてからというのは――存外、悲しいことばかりではなかった。
初めこそ悲しみに暮れていた彼女だったが、そこには自分を害そうとする者はいない。
生活に苦しんでいてもご近所さんが手を貸してくれたし、彼女は周りのお陰ですぐに流れ着いた村で馴染んだ。
おまけに、貴族の女性である時は諦めていた恋までも経験するようになった。
楽しかったのだ。嬉しかったのだ。
公爵令嬢でも悪女でもない、個人として自分を見てくれる。
そんな人に巡り合った彼女は、人生で初めて幸福を手に入れたのだった。
***
「社交界の悪女は、こうして幸せになりましたとさ」
狭い小屋の中、古ぼけた椅子に座って向き合う男女が二人。
女性は姿勢よく座り、男性は手帳に筆を走らせている。
彼の名はフロレンツ。作家であり女性の友人でもあった。
フロレンツは筆を走らせながらも険しい表情をしていた。
「君は怒ってもいいはずだ」
「あら、優しいのね」
視線は手帳に向けつつも強い語気でフロレンツがそう言う。
一方の女性はころころと笑った。
「怒ったし泣いたわ。とっくの昔にね」
「……」
「けれど、いつからかそんな気持ちは勝手に消えていった」
書き終えたのか、フロレンツが顔を上げる。
女性は眩しそうに目を細めながらフロレンツを見ていた。
「孤独だった悪女は、生まれ育った環境を追い出されて初めて、幸せを知り」
女性がフロレンツの手に自分の手を重ねる。
「――恋を知った」
二人きりの空間で女性が囁く。
「それで充分。私にとってはそんな日常こそ、形に残すべき物語なの。だからありがとう、私が生きる証を形にしてくれて」
フロレンツは女性の手を握り、それから彼女を抱き寄せた。
女性は驚き、目を瞬かせた後優しく微笑む。
「悪女エーファは、こうして幸せな――ただの少女になったの」
エーファはかつての苦い思い出を振り返る。
何年経とうが、当時の出来事を忘れる事は出来ないけれど、あの日、追放された事を心の底から良いことであったと思えるようになっていた。
***
一年後。
エーファの歩んで来た人生は本という形で多くの地域を渡り歩き、やがてそれは彼女の故郷にも流れ着いた。
エーファの知る所ではなかったが、その物語をきっかけに彼女を陥れた者達の悪事は明らかとなり、彼らは悪女と呼ばれたエーファですら迎えなかった真の破滅を迎える事となる。
だがエーファには関係のない話。
辺境でのんびりと過ごす彼女はそんな話を耳に挟む暇がない程、幸せで充実した日々を送っていたのだから。
本当に愛する人と共に。
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