9、アイドルは負けず嫌い
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私はカイゼル達にエスコートされながら商店街の中を巡っていた。
「ここか?いや、どうせならここよりあっちの方が」
「ならこの前行ったあそこはどうだ。案外味も悪くなかった」
「ダメ。あそこは味の割に高かった。それより、初めてなんだからあそこの方がいいわよ」
カイゼル達は私そっちのけで色々と露店を見て回り、どこがいいか物色しているようだ。
そんな3人を差し置いて私はバラエティー豊かな店の数々に夢中だった。
武器屋があれば服屋もある。雑貨から食べ物に至るまでありとあらゆる様々な物この通りに集まっている。商店街というよりは雰囲気は繁華街のようだ。
雰囲気だけで何故か分かる如何わしい店もちらほらあるしみたいだしね。
「じゃあやっぱりあそこか」
「だな。あそこしかない」
「そうね。そうしましょう!」
他にも店の前に置かれた果物はいつ崩れ落ちてもおかしくない程山盛りに盛られているし、得体が知れず使い道も分からない物ばっかり売ってる謎の店もある。
どれも日本の商店街ではあまり見かけない光景だ。やっぱりどこか海外の市場みたいだ。
「スミレちゃん今日はここで食べよう」
炭火の香りと肉の焼ける香ばしいに匂いが鼻を直撃する。この香りは間違いない、私の好きなアレだ!
「もしかしてここって」
「そう。串焼き屋よ!!」
焼き鳥だ!!
厳密に言えば焼き鳥では無いのかもだけど、匂いは正に焼き鳥そのものだ。
「実はこの店、オレ達がずっと前から贔屓にしている馴染みの店なんだ」
「お、カイゼル達じゃないか!いつ帰ってきたんだ?」
「ついさっきです。相変わらず繁盛してますね」
「おかげさまでな。注文はいつものでいいか?」
「ええ。でも今日は一人前追加で」
「はいよ」
カイゼル達が言う通り店の中にも外とでも大勢のお客さんがこの店の串焼きを楽しんでいるようだ。
真昼間から串焼きを片手に酒をかっくらう男達。なんて羨ましいのだろう。
ここだけの話、実は私もこう見えて結構の酒飲みだったりする。
私が料理を始めたきっかけはアイドルとして売れる為だったけど、料理が上手くなりたいと思ったのは自分で美味しいつまみを作ってそれで一杯やりたかったから。お店や買ってきた料理で一杯やるのも悪くないけど、自分で作った料理でやる晩酌はまた格別なのだ。
「はいよ。お任せ4人前だ」
私達の前に運ばれてきたのは鶏らしき肉の串焼き盛り合わせ。
「これがこの世界の焼き鳥……」
様々な部位が分けられないまま雑に串に刺さっている。
見た目で直ぐに分かった。やはり日本の焼き鳥とは訳が違うようだ。
「さあ、スミレちゃん、熱いうちに食べてみて」
それにしても、肉が無駄に黒くなっているのはは気のせいだろうか?香ばしいを通り越して、匂いもどこか炭臭い。
日本でも敢えて焦がしてその香ばしさを味わう料理があることも知っているけれど、それともまた違う気がする
「どうしたの?もしかして嫌いだった?」
「あ、いえ。ただこの手の料理を食べるのが初めてで」
「大丈夫。きっとスミレちゃんも気にいるから」
「ああ。オレ達も色々な店の串焼きを食べてきたがこの店より美味い串焼きを出す店をオレ達は知らない」
「絶品だぞ〜」
ランバスが私に見せつけるように目の前で美味しそうに串焼きを頬張っている。
あんなに美味しそうに食べるってことはよっぽど美味しいのかな?見た目より大事なのは味だもんね。食べたらきっと美味しいに決まってる。
「じゃあいただきます。!!……」
口に入れた瞬間、広がるのは見た目通りの焦げた炭の味だけ。しかも肝心の肉はバーベキューの時に忘れ去られ永遠に焼かれた肉のように硬かった。
噛んでも噛んでも噛みきれない。そのくせ、噛むたびに炭の焦げた嫌な香りが染み出してくる。これはもう肉ではない。炭よりちょっと柔らかい食べれる炭だ!
正直言って不味い!とても食べれた物じゃないわ。出来ることなら直ぐに吐き出してしまいたいくらい。
しかし、私もプロだ。不味いからって顔には絶対出さない。
「どう?」
「凄いです。私、こんな凄いの初めて食べました!」
だからって嘘は吐けない。
「でしょ〜!美味しいよね〜!」
「…凄いです〜!」
美味しいとは一言も言ってない。それに私は嘘も付いてない。実際こんなに凄く不味い料理は初めて食べたもの。
「良かった〜スミレちゃんが気に入ってくれて」
「いやーおじさんも嬉しいな。君みたいなかわいい子ににオレの作った串焼きを褒めてもらえるだなんてまるで夢のようだよ」
褒めてくれるのは嬉しいけど、別に串焼きは褒めてない。
「そうだ!せっかくだからリューちゃんに食べさせてあげたら?」
「え!?」
「なに!?」
あからさまに嫌な顔をしながら首を凄い速度で横に振る。
「遠慮する。我は腹など空いてない!」
「そっか。なら仕方ないね。こんなに美味しいのに」
「(助かった……)」
安堵したからかリューの腹の音が店中に響き渡る。
「!!…」
「(あーあ。せっかく食べずに済んだのに)」
直ぐにミレーヌがギラっと目を輝かせるとリューの口元に串焼きを持ってくる。
「なーんだ。あんなこと言っても、本当はお腹空いてるんじゃない」
「よ、よせ!食べたくない!」
「別に遠慮なんてしなくていいのに〜ほら、あーん!」
待てよ。これって結構マズいんじゃ。リューがとても嘘を吐けるようには思えない。そうなったら最後、修羅場一直線。
「ヤダ!イヤダー!!」
「まって!あ……」
リューの抵抗虚しく、とうとう口の中に入ってしまう。
「マズっ!!」
口の中に一瞬入った肉は直ぐに外へと吹き飛び、店主の額にクリーンヒットする。
「……今、なんて言った?」
ヤバっ、完全に怒ってる。
「おいそこの嬢ちゃん。その肩に乗せてる小さいドラゴンは嬢ちゃんの従魔かい?」
「ええ。まぁ……」
ドラゴンだってことには驚かないんだ。寧ろそれどころじゃないって事かしら。
「さっきのはオレの幻聴か?不味いって聞こえた気がするんだが……」
「そうですよ。多分、幻聴なんじゃ、」
「じゃあなんで足下に俺が焼いた肉が落ちてるんだ!!」
やっぱり気づいてるじゃん。
「おい!どうしてオレの肉を吐き出した?」
「…お前はバカか!?」
「なにっ!?」
「ちょっと!」
「スミレは黙っていろ」
これっぽっちも悪ぶれる様子もないままリューは喋り続ける。
「そんなのは決まってる。それが不味くてとても食べれた物では無いからだ!!」
「なんだとっ!?」
「待て。落ち着けって!!」
怒りのあまりリューに掴みかかろうとするが、慌ててカイゼル達がそれを止める。
「お前、もう一回言ってみろ!」
「お望みなら何度でも言ってやろう。まずい、不味い、マズすぎる!!」
「このっ……!!」
「どうやったら肉をこんなに不味く出来るのだ。それなら生で食べた方がよっぽどマシだ!!」
リューのバカ。気持ちは分かるけど流石にやり過ぎよ。もう〜どうすんのよ……。
「そんなに不味いって言うならお前が作ってみやがれ!」
「なに?」
「出来ねぇんだろ。ドラゴンだもんな!料理なんか出来るわけがねぇ!!」
「いいだろう。だったらやってやる!」
「え!?」
リューのヤツ何言ってんのよ。今まで、獲物をそのまま生で齧り付いてたヤツが料理なんて出来るわけがないじゃない。
「言ったな?」
「言ったとも。作ってやる、これよりもっと美味い料理をな」
「じゃあ作ってみやがれ。その体で出来るもんならな!」
「それは無理だ。お前の言う通り我では料理は作れない」
「ほら見ろ。結局は口だけじゃねえか!だったらせめて謝ったらどうなんだ?」
「それは断る。だから我の代わりにスミレが作る。こんな物より遥かに美味い料理をな!」
リューは自信満々な面持ちで私を指差す。
「私!?」
「もしもスミレがそれより美味い料理を作れなかったら、その時は何でも言うことを聞いてやろう」
ちょっと待って。これはリューが勝手に売った喧嘩でしょ。私は別に関係ない。
「この子が料理を?ハハっ!!笑わせてくれるじゃねえか」
別に面白いことは何も言ってないと思うけど。
「料理を舐めるなよ。こんなかわいい子にに料理なんか作れるわけがねぇだろうが!」
かわいいって言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。でもなんかちょっとムカつく。
「そうよ。スミレちゃんに料理なんか出来るわけない。だって私だって出来ないもん!」
「そうだスミレちゃん。無理する必要は無い」
「従魔の失態は主の責任。今の内にお嬢さんが謝れば済む話だぜ」
カイゼル達の言う通りだ。ちょっとムカつくけど、私が黙って謝れば済む話だ。これでトラブルが丸く治るなら安いくらい。
だけどさ、さっきからなんか気に食わないのよね……。
かわいいからって見た目だけで料理が出来ないって決めつけられるのはちょっと。それに悪いことをしたわけじゃないのに謝るのも癪に障る。
確かに一昔前の私はこの人の言う通りだった。外食、コンビニ、残ったロケ弁。正直、生きてくだけならそれだけでも十分。
確かに料理は大変だし面倒くさい。それは私が良く知ってる。
だけど料理の楽しさを知って私はちょっと変わったのだ。
「(このまま舐められたままでいいのかスミレ?我はこんな物で腹を満たしたくは無いぞ)」
「(…良いわけないでしょ)」
「(お前の考えてる事が我には分かる。見せてやれ。そして食わせてくれ!)」
何よりそれを否定されるのか一番気に食わない。
「どうした。謝るのか?謝らないのか?」
「スミレちゃん……?」
私がアイドルでセンターを目指そうと思ったのも、同期の奴に挑発されたから。
私が料理をしようと思ったのも、誰よりも目立ちたかったから。
「謝りません」
「は?」
実は私もリューと同じで売られた喧嘩を買わずにはいられない。そしてアイドルは負けず嫌いじゃないとやってられない。
「その勝負、私が受けて立ちます」
私とリューは案外似ているのかもしれない。
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