最終回、竜王の推しはたった一人
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ゼノヴィアの必死な治癒のお陰で意識を取り戻したコモモ。しかしその顔に笑顔はなかった。
「スミレお姉ちゃん……」
力を使い果たし、それを回復するためリュードヴルムは再び小さな姿に戻る。
「ごめんリュードヴルム。私の力でも、失った命までは取り戻せない……」
「問題無い。まだ方法ならある」
リュードヴルムの手には残された二枚の短冊が握られている。
「それって…」
「ダンジョンで手に入れた願いが叶う短冊だ。これを使う」
「そうか。その力でスミレちゃん生き返らせるってことね。確かにダンジョンで手に入れたアイテムなら可能性はあるかも」
「そういうことだ。スミレの作った料理を一度食べてしまっては、二度と他の物など食えんからな。こんなところで死なれては困る」
これでスミレが生き返れば、きっと奴は残りの一枚を使って消えてしまった人々を復活させようとする筈だ。
他人の為に貴重なアイテムを使うのは少々癪だが、今となってはスミレさえ生き返ればどうでもいい。
「ちょっと、書くならもうちょっと綺麗な文字で書いたら?」
リュードヴルムは自らの血を使って短冊に「スミレを生き返らせろ」と書き殴る。
「我は腹が空いたのだ。さっさと生き返らせろ!!」
「リュー様、見てください!スミレお姉ちゃんの体が!」
スミレの体が光に包まれると、傷ついた体が回復していく。
「やったわ!」
「どうやら上手く行ったようだな」
まもなく、光は消えて願いの書かれた短冊も消えて無くなる。
「起きろスミレ!」
「スミレちゃん!」
「スミレお姉ちゃん!」
どんなに声をかけてもスミレが起きてくる気配は全く無い。
「何故だ。傷は治り、願いは叶ったはずだ。なのに何故目覚めない!」
「その答えは簡単だ。もう彼女の魂はこの世界には無いからさ」
リュードヴルム達の突然姿を現したのは謎の男、イナリであった。
「イナリ…今のはどういう意味だ?」
「言葉通りの意味さ」
「その意味を詳しく話せと言っているのだ!願いは叶い生き返る筈だろ!」
掴みかかるリュードヴルムを誰も止めようとはしなかった。
「冷たいなみんな。だから生き返ったじゃないか、ほら」
「なに?」
「君がその短冊に願った通り傷ついた肉体は生き返った」
確かに肉体は完全に回復している。だがなぜ肉体だけなのだ。
「それなら何故魂は肉体に戻らないのだ?」
「やっぱりそこ気になるよね」
普段通り飄々とするイナリにはもう怒りすら湧いてこない。
「それは彼女が異世界人だからさ。この世界で死んだ異世界人の魂は元の世界に戻る決まりなんだ。だから肉体は生き返っても魂までは蘇らないってわけ。わかったかな?」
「私いいこと思いついた。だったらさもう一枚の短冊に魂を戻るようにに願いを書けば」
「確かにそれなら」
「それはやめた方がいいかな」
ゼノヴィアが見つけた希望も即座に否定されてしまう。
「なんでよ!?」
「魂ってのはとてもデリケートな存在なんだよ。肉体と一緒ならまだしも魂だけを異なる世界へと行き来させようとしたら、その途中で消えて無くなってしまうかもしれない」
「そんな……」
泣かないと決めた筈のコモモの目には再び涙が浮かぶ。
「それでもやるって言うなら止めはしないけどさ、本当にそれで彼女を喜ぶのかな?」
「そんなの喜ぶに決まってるでしょ!だって生き返られるんだから」
「彼女が元の世界に帰ろうとしていたことを忘れたのかい?」
「それは……」
「彼女のことを思うならそっとしておくべきかもね」
リュードヴルムを始めここにいる誰もがスミレには戻ってきて欲しいと願っていた。だが、イナリが発したその言葉が彼らに迷いを生じさせる。
「スミレの魂は元の世界にあると言ったが、このままだとそれはどうなるのだ?」
「実はそれもちょっと厄介なことが起きててさ、」
「話せ」
「さっき言った通り、異世界人が死ぬと元の世界に魂が戻る。そして異世界にある肉体が滅ぶと、その肉体も引き寄せられるように元の世界に戻り、再びそれは結び合い、何事も無かったかのように蘇るんだ」
「蘇るだと!?」
魂が世界に漂う話は我も聞いたことがあるが、それが再び元の形で蘇るなど聞いたことが無い。
「コモモちゃんのママもあっちでは元気にやってる筈だよ」
「ママが!?」
「スミレちゃんもそうなる筈だったんだけどさ、君が彼女を眷属にしたせいでそうは行かなくなってしまった」
眷属の契約は我の魂と汝の肉体を結びつけることで契約される。眷属になった肉体は我と繋がっている。それが原因か。
「そういうこと。君の魂と彼女の肉体が眷属の契約で結ばれたことでこの世界から離れられなくなってしまったんだ。だから、いつまで経っても彼女の魂は再び肉体と結びつくことは無くなってしまった」
「ねぇ、このままだとスミレちゃんの魂はどうなるわけ?……」
真剣な面持ちでイナリを問い詰めるゼノヴィア。
「ゼノヴィア。君が与えた加護のおかげで奇跡的に時間は稼げてるけど、このままだといずれ魂は帰る場所を見つけられないまま消えて無くなるだろうね」
「何よそれ。じゃあもうどうしようもないってこと……?」
「そんなスミレお姉ちゃん……」
現実は絶望となり突きつけられた。
しかしリュードヴルムだけは諦めてはいなかった。
「おい…」
「なんだい?怖い顔して?」
「お前ならなんとかできるんだろ?だからこうして姿を現した。違うか!」
「……さっすがー!!やっぱ君にはお見通しだね。そうだよ。僕の力ならなんとかできる」
空気が読めない程に笑い飛ばすイナリ。普段ならぶっ飛ばしたくなるほどイラつくが、今はそんな気にもなれない。
「やれるなら早くやってくれ」
「でもいいのかい?彼女が蘇るのはこの世界とは全く関係ない違う世界だ。それに彼女は君達の事は何一つ覚えていないだろう。それでも僕に願うと言うのか?」
「構うものか。どうせ死んでしまえば二度と会えない同じ。それならどこの世界でも生きていくれた方がよっぽどマシだ」
即答。あれだけの面倒事を嫌っていて、人間など自分の餌程度にしか思っていなかった奴が、迷いは無しか。
「お前達もそれでいいな」
「うん!」
「断る理由なんかないでしょ」
「だそうだ」
ゼノヴィアとコモモも全く迷う素振りを見せず頷く。
「推しが生きててくればそれでいいってことか…本当スミレちゃんはいいファンに恵まれたな」
すると現代的な服装だったイナリの格好が豪華絢爛麗しい着物姿に変わる。
「ならば願え。儂もその短冊と一緒で願いを聞かねば叶えられん」
ガラッと雰囲気が変わったイナリの姿に動揺する間も無くリュードヴルムは共に願いを捧げた。
「スミレを生き返らせてくれ」
「スミレちゃんを生き返らせてちょうだい」
「スミレお姉ちゃんを生き返らせて!」
それぞれの願いを聞き届けたイナリは深く頷く。
「承知した。数多の世界を繋ぎ、神の名においてその願いを叶えてやろう」
神々しい光にあたりは照らされ鈴の音色が鳴り響いた。
「すみにゃん。君が大切にしてきたファンからの恩返しだ。受け取れ!!」
真っ白な光に包まれながら、スミレの肉体は元の世界へと消えていった。
「またなスミレ」
◇◇◇◇◇◇
「もうすぐ本番です。よろしくお願いします」
「はーい!」
スタッフの声が聞こえて私達はゾロゾロとスタジオに向かう。
メイクもバッチリ、衣装は本日は初披露の新衣装。今日の収録はいつもより気合が入ってる。
なんてったって今日は、子供の頃からずっと好きだった音楽番組の生放送に出演するからだ。ついに憧れたこの舞台に私達も立つことができる。
しかも私のポジションは初めてのセンターだ。ずっとこの時を待っていた。今でも夢なんじゃないかとちょっと疑ってくるくらいだ。
夢といえば、最近妙に変な夢を見る。
アニメのような世界で小さな竜にこき扱われながら生活する夢だ。
メイドになったり、宝探しに出かけたり、王子様みたいな変な奴に抱きつかれたりと、とにかくむちゃくちゃだった。
挙句の果てには何故か小さな女の子を庇って私は死んでしまう。
最近仕事も増えてて、疲れてるのね。自分が死んでしまう夢を見るだなんて本当についてない。
まぁ、夢は夢だ。気にするだけ時間の無駄。そんなことより、今日はマジで頑張らなくちゃ。私のアイドル人生をかけて最高のステージにしてやるわ!
そして迎えた生放送本番目前。ステージの袖から覗くと、ざっと200人以上のお客さんが観覧席に集まっている。その中には私達のファンも大勢いて、私の名前が入ったタオルを掲げてくれている女の子もいる。
やばっ。普段はこんなことないのに、今日に限ってめちゃくちゃ緊張してる。
落ち着け私。生放送は初めてじゃないし、これよりもっと多くのお客さんの前でもやってきた。
フリは完璧。台本も頭に入ってる。大丈夫私なら上手くやれる。
「なに下向いてんの。あ、もしかして緊張してる?」
私の気持ちを見抜くように一番に声をかけてきたのは、最近色々あって復活を遂げた和葉だった。
トラブル起こして、行方不明になってたと思ったのに、気づいたらしれっと新メンバーとして復活していた。
「べ、別に、緊張なんかしてないわよ…」
「そうよね。だってアイドルが緊張するなんて、」
「ナンセンス、でしょ?見た目も派手になったのにその口癖は変わってないのね」
「なんだ分かってるじゃん」
昔は上品を売りにしたお淑やか系アイドルだったのに、今じゃ炎上上等の超ぶっちゃけアイドル。キャラも喋り方も大きく変わってしまったけど私との関係は変わってない。
「私も和葉を見習わないといけないかも」
「じゃあ一回俳優と不倫しなくちゃね」
「やっぱやめとく」
「なーんだつまらないの」
私は和葉みたいに強心臓じゃないし、炎上もしたくない。
「…和葉って変わったわよね。なんか強くなった」
「当然でしょ。だって私も今や娘を育てるママですから」
「娘!?」
本番前で緊張していることなんかすっかり忘れて大声を上げてしまう。
「ちょ、声が大きい!聞こえたらどうすんのよ!」
私の口を塞ぎながら小声で怒鳴りつける和葉。
「娘ってどういうことよ!アンタ、一回炎上したっからってなんでもアリじゃないわよ!」
「落ち着いて。冗談よ冗談。そういう夢を見たって話よ」
「夢!?本当に?……」
「私の目をよく見て。この目が嘘をついてる人間の目だと思うわけ?」
見える。見えるけど、和葉がこんなつまらない嘘をつけるような奴じゃないってことは私がよく知ってる。そんな和葉が夢だというならそういうことなのだろう。
「いいわ。そういうことにしておいてあげる」
「信じてないわね。私の旦那はドラゴンだったんだから」
「それも夢でしょ?」
「まぁ夢だけど」
それにしても、2人しておかしな夢を見るだなんて信じられないこともあるものね。
でもおかげで緊張もしなくなった。
「CM明けまで30秒前です。WONDER31の皆さんスタンバイよろしくお願いします」
「行くよみんな」
もうさっきのような手の震えも不安の気持ちも全くない。
「それではお聞きください。WONDER31でドラゴンLOVE」
サングラスをかけたMCの合図が私のアイドルスイッチをオンにする。
さっきまでの緊張を感じさせない最高の笑顔とセンターの重圧を乗り越えた渾身のパフォーマンスで無事生放送を乗り越えた。
「「「ありがどうございましたー!!!」」」
たった3分。あまりにも短い時間が更に短く感じた。
中継が終わり、私達はステージを去ろうとすると、人一倍大きな拍手と歓声を送る1人の少女が目に入る。
「(あの子、確か私のタオルを持ってたような…)」
私のファンだという女の子の隣には無愛想にこちらをじっと見つめる1人の男がいる。
女の子の身内だと思うけど、お父さんにしては若すぎるし、それにちょっとイケメンだ。きっと女の子のお兄さんが妹の為に連れてきたってところかしら。
出番が終わり楽屋に戻った私だったが、何故かあの2人のことが頭からずっと離れなかった。
「前に会ったことがあるような、無いような……あーー思い出せない!!」
いくら頭をかきむしたって何も思い出せない。思い出せないのは知らなかったから?それとも他に何か理由が……。
するとマネージャーが楽屋に顔を出すと私に声をかけてくる。
「純恋。お客さん来てるけど、知り合い?」
「誰です?」
「リュード、なんて言ったかしら。多分海外の人だと思うけど、その割には日本語が上手だった。ちょっと生意気だったけど」
なんでだろ。聞いたことの無い名前なのに不思議と懐かしいような。
「知らないなら追い返すけど」
「いや、知り合いです。海外にいる私の友人が今日見に来ると言っていたので」
「そう。それなら局の受付で待ってるみたいだから、顔出してあげて」
「ありがとうございます」
理由は分からない。だけど嘘を吐いてでもその人達に会わなきゃ行けないような気がした。
私は言われた通り局の受付まで顔を出し、辺りをキョロキョロと見回す。
「あ!」
するとこっちを見つけて笑顔で手を振るのはさっきの女の子。
「(もしかしてこの子達が私に会いたがってた人達?……)」
隣にいた無愛想な男が女の子を連れてこっちに近づいてくる。
「あの、……」
「随分と元気そうだな」
男は随分と上から目線で私に話しかけてくる。ただのファンとは何か違うような感じだ。
「えっと……」
普通なら後退りして逃げてもいいところだけど、何かヤバいような雰囲気は不思議と感じられない。
「あれがお前の本当にやりたかったアイドルというやつか」
「すみません。私と貴方って何処かで会いましたっけ?」
「やはり覚えていないか……なら我が力づくで思い出させてやる」
男はニタっと笑うと、急に距離を詰めてくる。
「え、ちょっと!……」
咄嗟に離れようとするが、男に腕を掴まれて逃げられない。
「あの、離してください!」
「じっとしてろ。すぐに終わる」
すると男は私の額に自らの額を重ねた。
「さっきから……なんなんですか!?」
「ぐっ……!」
私は男の急所を蹴り飛ばすと慌てて距離を取る。
「おのれ……命の恩人になんてことをするのだ……!!」
「はぁ?」
「まだ思い出さんか?」
「だから一体なんの話……うっ……!」
突如頭の中に、身の覚えのない記憶のようなものが沢山流れてくる。
全く知らない筈なのにまるで自分のことのように思える。
この記憶と同じものを私は夢で見たことがある。
「なんなの……これ……」
魂に刻まれた記憶は決して消えることは無い。その思いが強ければ強いほど、その記憶はいずれ蘇る。
必要なのはたった少しのきっかけだけ。
「スミレ」
「スミレお姉ちゃん」
この声、知ってる。ずっと前にそう呼ばれていた気がする。
そうよ。あれは夢なんかじゃない。紛れもない現実だ。
「……どうして忘れてたんだろ。こんなとんでもない思い出忘れるわけがないと思ってたのに…」
だって私はあの世界で必死に生きてたから。
「コモモちゃん、随分見ない間に大きくなったわね」
「スミレお姉ちゃん!!」
コモモが勢いよく私に抱きついてくる。
「私たちのこと思い出したんだね!」
「アイツのお陰でね。リュー、その姿一体どうしたのよ?人間にはならないんじゃなかった?」
「この世界ではこの姿で無ければ何かと不都合だとイナリから聞いてな。仕方ないからそれに合わせただけだ」
人間の姿になってもやっぱりリューは変わってない。このふてぶてしさ、見た目はイケメンなのにちょっと残念。でもそれが逆にリューらしい。
「どうやってこの世界に?」
「願いが叶う短冊とやらを使った。最後の一枚だったがな」
「最後の一枚って、そうしたらどうやってあっちの世界に帰るつもりなのよ!?」
「そんなこと知るか。我にとっては二度とお前が作った料理を食べれないことの方が大問題だ」
リュードヴルムは迷わなかった。
「そんなことより腹が空いた。世界が変わろうと、お前が竜王である我の眷属であることは変わらん。何か作れ」
「私もお腹空いた〜!!」
「ふふっ」
あっけらかんとしたリュードヴルム達の様子に私は思わず笑ってしまった。
「何が面白い?」
「なんか平和だなと思って」
「意味が分からん」
「いいわよ。丁度今日の仕事もこれで終わりだし、いいもの作ってあげる」
私はアイドルであることに誇りを持ってる。
「いいものだと?」
「カレー。好きでしょ?」
「フン。当然だ」
「私もー!!」
そして、竜王リュードヴルムの眷属であることが私はとても誇らしく感じた。
「だが、決して辛口にはするなよ…」
「どうしよっかな〜私は辛口の方が好みだし」
「お、おい正気か!?」
「スミレお姉ちゃん、私も辛口がいい!」
「お、やるね〜。すっかりコモモちゃんも大人の仲間入りね。じゃあお子様の竜王様だけはまだ甘口ってことで、」
「……辛口でいい」
「無理しないでよ竜王様」
「無理などするか。我は竜王だぞ!」
「はいはい。分かったわよ」
人を笑顔にするのはアイドルも料理も同じなのだから。
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