66、少女の竜儀
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「もうお前の好きにはさせない」
風で揺れる桃色の髪を押さえながら、女は災竜ヴェルトゥガの前へと歩みを進める。
「人間でも、竜でもナイ、中途半端なソンザイがイキガルナ」
その言葉を遮るように、一瞬で懐へと入ると災竜のみぞおち辺りに強烈な一発が炸裂する。
「ナッ……!」
その一撃は何十倍もある巨大な体を吹き飛ばすほどの威力だった。
「言ったはずよ。好きにはさせないと、黙ってて」
コモモは跳躍するように更に空高くへと飛び上がる。人の身では決して届かぬ高度へ、竜の血が彼女を引き上げる。
煩いほどに高鳴る鼓動が迫り来る恐怖を不思議と静まらせる。
頭の中にあるのは、ただ目の前にいる仇をその手で討つことのみ。その真っ直ぐな気持ちが女の背中を押す。
「(パパ。私に力を貸して!)」
その気持ちに応えるように、彼女の右腕に激突の座を表す紋章が現れる。
「そのモンショウは……忌々しい、ソレヲ我の前にミセルナァァ!!」
「激突の座において、今から私がお前をぶっ潰すッ!!」
連発される災竜の息吹を真正面から受けながら、構わず前へとひたすら突き進む。
「ナゼダ、ナゼダ!!」
「この程度が何?もう私の勢いは誰にも止められないのよ!!」
目の前で爆発する火炎をその拳が切り裂くように吹き飛ばす。そして拳はそのまま、災竜の顎を打ち砕く。
「お前のせいで、私の大切なものが全部傷ついた。お前さえいなければ!!」
熱風に煽られながら、未熟な翼を強引に広げ、勢いを増しながら災竜の肉体が朽ちるまで連打を続ける。
余裕だった竜の巨大な瞳も、その勢いに押されるよう細められた。
「……半端モノガ、我を、ナメルなァァ!!!!」
「それは私のセリフだ!!」
どんな相手にも自分の意思を曲げず、自信満々に言ってのけるその姿は、スミレと重なるものがあった。
「私は進む。お前をこの手でぶっ飛ばして、失った大切な人達の想いも全部背負って、笑顔で前へと私は進み続ける!!」
彼女の角が淡く光る。それに共鳴するように血が湧き立ち眠る竜の力が覚醒する。
狙うは顔面。災竜を睨みつけながら大きく振りかぶる。拳に宿るのは桃色の雷光。その光はやがて巨大な竜へと形を変える。
「ももいろドラゴンパーーンチ!!」
子供のような可愛らしいネーミングからは想像出来ない、強大で鋭い一発が災竜を地面へと叩き落とした。
「倒した……のか?」
「当たり前だ。それに見てみろ。あれだけ騒いでいたモンスター達が一目散に逃げていくぞ」
「ということは……」
「すごい、凄いよコモモちゃん!コモモちゃんが厄災を倒したんだ!!」
倒れたまま動かない災竜を見て、一同は歓喜の雄叫びをあげ、勝利の余韻に酔いしれる。
「やったわよヴァルギルス……。アンタが命懸けで繋いだ希望はちゃんと未来になった!!」
喜びの声が溢れる中、ドスの効いた悍ましい声が小さく囁く。
「やはりお前達は滅びる運命だ」
「え、」
さっきまでカタゴト気味だったその声の主も今では悠長に話している。
気づいた時にはさっきまでの溢れていた喜びや笑いの声は沈黙へと変わりやがて何も聞こえなくなる。
それどころか、倒れたままのスミレを除いた人間達の姿はもうどこにも見当たらない。
「……ヴェルトゥガ!!!」
「その名は捨てた。これからはヴォラメサイアと呼べ。まぁ、二度とお前達がその名を口にすることは無いだろうがな」
蛹が蝶へと羽化するように、その姿を捨て新たな姿へと生まれ変わったヴォラメサイア。初めこそ子供のようだった小さな体は、猛スピードで急成長し直ぐに以前の姿を超える巨大な肉体へと生まれ変わった。
「ふざけないで!!」
怒りに任せて飛び立つと、再び桃色の雷光を拳に纏わせる。
「フン」
もう見飽きたとでも言わんばかりに鼻で笑う。
「ももいろドラゴンパーンチ!!」
「カッコいいとでも思っているのか?」
「なんで……」
災竜の強靭な肉体を軽々と貫いた一撃も、今のヴォラメサイアにとってはなんの脅威でもない。故に避けることすら必要ない。
「今度は我の番だな」
余裕綽々といった様子で微笑むと、コモモ痛ぶるように殴り続ける。
「人間はこういうのを倍返しというのだろ?」
望みを絶つと書いて絶望。放たれたそれはその名のようにコモモを暗黒の闇に飲み込んだ。
「滅竜壊」
「ち、力が……!」
力を吸い尽くされ抜け殻のようになったコモモはそのまま空へと放り出され、ただただ地面に向かって落ちていく。
「父も娘も同じ運命を辿る。呆気ない終わりだな」
「コモモちゃん!!…やっぱ、アイツには勝てないの……!?」
大人のように成長していた姿も元に戻り翼も無くなった。
もう叫び声をあげる力も無い。
「(結局私は一人ぼっちだ。自分の大切なものすら私には何も守れない……)」
倒せなかった敵に悪口の一つすら言ってやる事も出来ない。
「(くやしいな……パパ、ママ、スミレお姉ちゃん、みんな、ごめんね……)」
流す涙も残ってはおらず、残っているのは悔しさだけ。
「(いたいのはいやだけど、きっといたいのはいっしゅん」
薄れゆく意識の中で迫り来る自らの運命に身を委ねるように、コモモはそっと目を閉じる。
「陽は昇っている。寝るのはまだ早いぞコモモ」
地面にしてはゴツゴツしててザラザラしている。それに、どこか優しくて、なんだか暖かい。
「リュー、さま……?」
「待たせたなコモモ」
巨大な竜の手のひらは傷ついたコモモを優しく包み込んだ。
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