64、伝説の歌姫
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「おい、なんかコイツら様子がおかしくないか?…」
「やっぱりランバスもそう思うか…」
「そりゃそうだろ。明らかに勢いが増してるんだからよ!」
「それに数も増えてる。これじゃいくら倒したってキリが無いよーー!」
力の限り、迫り来るモンスター達を退け続けるカイゼル達冒険者一向。しかし、長期戦故に疲れの色も見えてくる冒険者達に対し、モンスター達は疲れるどころか、勢いを上げながら次から次へとやってくる。
そしてそれは、王子率いる騎士団達も同じだった。
「数と力では厄災の方が上…やはり人間には勝ち目が無いとダメ押しされているような気分だな」
「王子。我ら騎士団も押されています。このままではジリ貧です。何か方法を考えなければ……」
「スミレ達の方はどうなってる?」
「食事も半分以上が済み、デザートも完成間近。ただもう少し時間はかかるかと」
「我らが滅びるのが先か、竜が完食するのが先か。どちらにせよ今は耐えるしかないということか……スミレ、もう時間は無いぞ」
一方、災竜を必死で食い止める白龍も防戦一方の時期を強いられていた。
「…これだけ戦ってもまだこんな力が残ってるなんて、どんな化け物よ!いい加減疲れなさい!」
「ワレに限界はナイ。そういうコトダ」
災竜は全身に纏う漆黒の闇が一点に集まり発射された炎は白竜の体を焼き尽くす。
「ぐああああ!!……」
黒い炎の中で悶え苦しむ白竜。だが、ゼノヴィアの目はまだ死んでいなかった。
「ゼノヴィアさん!!」
このままじゃカイゼルさんやゼノヴィアさん達も助からない。
みんな必死になって戦っている。なのに私はみんなに守られながら見ているだけでいいの?
料理は殆ど終わって後は仕上げだけ。他に私が出来ることといえば……。
「何迷ってんのよ私。私が出来ることなんかもう一つしかないでしょ!」
するとスミレは覚悟を決めた面持ちで、エプロンを脱ぎ捨てる。
「ダグラスさん、インバスさん!後の仕上げは任せます!」
「え、師匠!?」
「待て!どこに行く気だ!」
スミレは大急ぎで人影の少ないに物陰に走っていく。
「……誰に何を言われようが、私にはもうこれしかできない。だったらそれを全力でやってやる。それが私の仕事だから!」
スミレがとった意味不明の行動が第一線で戦うカイゼル達にも伝わる。
「スミレちゃんが逃げた!?」
「もう勝てないと踏んで潔くオレ達を見捨てたわけじゃないよな……?」
「なわけないでしょ!スミレちゃんがそんなことするわけがない!」
当然、それに戸惑っているのはカイゼル達だけではない。
「スミレさん!」
「どうしたライナ。何があった」
「スミレさんが急に何処かへと消えてしまったようで」
「なんだと!?料理の方はどうなってる!」
「それは何とかなりそうですが、こんな時に一体どこに……」
「我の見る目が無かったのかもな。元々そういう奴だったのかもしれん」
「王子……!」
不安は次第に膨らんでいき、疑いの目だけが鋭くなっていく。
積み上げてきた信頼が音を立てて壊れていく。
「スミレお姉ちゃん!!!」
だがその音は、想いのこもった少女の大きな叫び声によって掻き消される。
「コモモちゃん?」
「コモモ……」
たった一人でも応援してくれるファンがいる限りどんな逆境に立たされたとしても、何があってもアイドルで居続けろ。
アイドルになった時、私はそう誓わされた。
私は知っている。
ファンはアイドルを応援するものだ。そしてアイドルはその応援を真正面から受けて、ファンを何倍にも応援するものだと。
どんなにかわいいアイドルだってファンがいなければただの素人。プロならプロらしくどんな時も己を貫くべきだ。
「呼ばれて〜飛び出て〜にゃにゃにゃにゃーん!!」
だから私は応援する。応援しなきゃならない。私がアイドルでいる限り。
「す、スミレちゃん!?」
「スミレさん、その格好は……」
只今絶賛戦闘中。モンスターは暴れ、それを食い止めるべく冒険者や兵士達は命をかけて戦っている。上を向けば厄災と呼ばれる竜が世界を滅ぼそうと空を飛んでいる。
そんな戦場のど真ん中で南雲純恋はフリフリのアイドル衣装に身を包み、とびっきりの笑顔で笑っている。
「はーい自己紹介します!WONDER31パープル担当、南雲純恋です!呼ばれたいあだ名はすみにゃんです!今日は精一杯歌いますのでよろしくお願いしまーす!!」
アイドルスイッチ全開のスミレ。笑顔を振り撒きながら思いっきり手を振る様子に思わず、戦闘中の兵士や冒険者達も手を振り返してしまう。
「す、すみにゃん?……」
「いきなりいなくなったと思ったら、あの子、今度は何するつもりだ?……」
「でもさ、スミレちゃんなんか楽しそう。それに見てるこっちまで自然に笑顔になっちゃう!」
突然の奇行に思わず唖然とするカイゼル達だったが、戦闘中にも関わらずその目は釘付けになっていた。
「なぁ、師匠の使い魔、ちょっといいか?」
「使い魔では無い。いいからさっさとよこせ」
インバスが完成したデザートの特大パンケーキを持ってくる。
「師匠は一体どうしちまったんだ?こんな時にあんな格好してよ……」
「さあな?我にも分からん」
「何だよそれ……」
「だが、アレがスミレの本当にやりたかったことらしい」
「あ、あれがか?……」
「それによく見てみろ。あれは何か企んでるって顔だ。放っておけ」
竜王にかかれば眷属の考えてることなど全てお見通し。リュードヴルムは構わずデザートの百層にも重なった巨大パンケーキにかぶりついた。
「一生懸命戦う皆さんのために私も一生懸命歌います。聞いてください、春色エール」
音楽も無い、戦場のど真ん中でスミレは地声を張り上げながら歌って踊る。宣伝の為、雨の時も雪の時も、あらゆるステージや路上を舞台に歌って踊ってきた彼女にとってアカペラなんてなんのハンデにもならなかった。
「スミレちゃん、今度は歌ってるぞ……」
「とうとう気でも狂ったか……?」
「でもさ、なんか、よく分からないけど元気が出てきた気がするよ!」
「言われてみれば確かに、妙に力が入るような…。こんな感じ初めてだ!」
「もしかしてこれがスミレちゃんの力なのか?」
自らの異変を感じ取ったのは王子達や、更に前線で戦う兵士達も同様であった。
スミレの歌声とパフォーマンスによって鼓舞された兵士達は疲労など忘れて前へ前へと迫り来るモンスター達を押し込んでいく。
「ただの歌なのに不思議と力が湧いてくるみたい…それに、この昂る感情は一体?」
「まさか本当に実在したとはな……」
ぼそっと呟く王子の言葉をライナは聞き逃さなかった。
「どういうことです?」
「昔、父からこんな伝説を聞いたことがある。こことは違う世界にはアイドルと呼ばれる歌姫が存在して、彼女達の姿と歌声には不思議な力があるらしい」
「アイドル…それって前にスミレさんが言っていた、」
「そうだ。あの時は我も聞き間違いだと思っていた。そもそも父が言っていたこの話だって今の今まで我は信じていなかったからな」
子供の頃から父はこの話をずっと自慢気に話していた。
アイドルはいいぞ。アイドルを見ると元気を貰える。またいつかアイドルに会いたい。そうやって口癖のようにずっと言っていた。
父は昔からアイドルが好きで、アイドルの為に生きていたと言っても過言では無かったらしい。
「でもそれってただの伝説なんですよね?」
「それがどうやら違うらしい。父の名前がなんだったか覚えてるか?」
「国王の名を忘れるわけがありません。アルバ・ダイジロウ様です」
「そうだ。ならば父が王家入りする前の家名がなんだったか知っているか?」
「いえ、聞いたことがありません……」
それもそのはずだ。このことを他の誰かに話したことは無いからな。
「父の本当の家名はタナカ。別世界ではよく知られた家名らしい」
「え、それってつまり国王は」
「ああ。この世界とは別世界から来たってことだ。恐らくスミレと同じ世界からな」
「ええぇ!?」
全力全開のパフォーマンスで踊り続けるスミレ。
「(みんな、頑張って!!)」
今私が歌っているのは3枚目のシングル曲である春色エール。題名にエールと名のついた通り、新学期や進級、新生活など新たなことに挑戦する人々にエールを送る応援歌だ。
センターにはなれなかったけど、この曲は私がメインボーカルを務めた最初で最後のとても思い出のある大好きな曲だ。
でもこれがメインボーカルを務めた最後の曲だということは私も納得いっていない。センターの夢だって諦めてないし、もっともっと歌って踊りたい。てか目立ちたい!!
その為には生きて帰らなくちゃいけないのよ!だからみんな頑張って!!
「ランバス、ミレーヌ。まだやれるよな!?」
「当然。力が湧いてきたおかげで丁度暴れ足りないと思ってたところだ」
「どーんと、ばーんと!派手にやっちゃおうよ!!」
「そうこなくちゃな。暴れて暴れて暴れまくって、全部終わったらスミレちゃんの料理で乾杯するぞー!!」
「「おう!!」」
疲労の色が見えていたカイゼル達も瞬く間に息を吹き返す。
「ナンダ…この耳障りでサワガシイ音は……!!」
スミレのパフォーマンスが彼らを勢いづける中、災竜だけはその歌声に悶え苦しんでいた。
「どうやらアイツにはこの歌声の良さが分からないみたいね」
災竜に受けた傷を自らの力で回復させると白竜は再び災竜に喰らいつく。
「人間には私達竜には無い不思議な力を持ってる」
「チカラだと……?」
「人間は決して諦めない。どんな逆境があろうとなんとかなるって心の底から信じてる。だから今まで厄災と呼ばれたアンタでも人類を滅ぼすことが出来なかったのよ!!」
白竜は今まで受けた攻撃を高出力のエネルギー波に変える。
「この数百年、ずっとこの時を待って耐えてきた」
白竜は全身を凍てつく冷気を鎧の様に纏う。
「ここだけの話、私の治癒の力は治す力じゃない。受けた傷を一度無かったことにして、それを誰かに肩代わりする力」
妖艶な程に純白に輝く鱗が逆立ち、力の充填を完了させる。
「つまりこれが……私の、とっておき!!」
力の限り放たれた渾身の一発は災竜に直撃すると大きな爆発を起こす。
「ちょっとは効いたでしょ」
殆どの力を出し切った白竜はごく僅か残った力を回復させるために人間の姿に戻る。
「ヤカマシイ……」
炎の中から声が聞こえる。その声は執念深く、苛立っていた。
「なんで……!?」
「人間のブンザイでイキガルナァァ!!」
「なんで全く効いてないのよ!!」
怒りの矛先を人間達に向けると災竜は絶叫をあげなから息吹を放つ。
「これはシメイダ。オマエタチはホロビル運命なのだアアアア!!」
出鱈目に放たれた竜の息吹は目に付くもの全てを片っ端から破壊していく。
景色、建物、人間、そして自らが呼び寄せたモンスター達すらも災竜の餌食となってしまう。
「来るぞ!!」
「くそっ…!なりふり構わずか!」
前線で戦うカイゼルや兵士達も後退を余儀なくされる。
「スミレちゃんも逃げて!!」
「こっちへ!」
「あれ、でもコモモちゃんは?」
ライナやミレーヌの呼びかけに答えるように逃げようとするスミレだったが、さっきまで側の物陰でずっと私を見守ってくれていたコモモの姿がそこには見当たらない。
「なんで、さっきまで近くにいたのに……あ!」
「……」
注意深く辺りを確認すると物陰に蹲るコモモの姿を見つける。
「見つけた。コモモちゃん、逃げるよ!!」
「……」
「コモモちゃん?」
コモモは私の声も耳に入らないほど、恐怖に身を震わせていた。
「ママ…パパ……!」
普段は私よりもしっかりしていて年齢も100歳越え。だから忘れそうになるけど、彼女はまだ幼さが残る子供なのだ。
「ヤバっ。コモモちゃん早く逃げて!!」
「助けて……!!」
出鱈目な攻撃が影響してか、側の建物が崩壊しかけていて、今にも瓦礫がコモモ目掛けて落ちてきそうだ。
「コモモ!!」
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