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63、ミラクルスミレ

閲覧感謝です!


 恐る恐る目を開けると、私の前に立っていたのは一人の男。嫌いだった筈のその声や言い草も、この瞬間だけは違っていた。


「王子……!!」


「待たせたな」


 飛びかかってきたゴブリンを叩っ斬ると、その勢いのまま剣に力を込める。


「見せてやる。これが王家に伝わる宝剣の威力だ!……エクスキャリバー!!」


 剣から放たれた斬撃は一直線にモンスター達の群れを貫いた。


「ま、こんなものか」


 王子は得意げに笑うと剣を鞘にしまう。


「王子がどうして…誰よりも早く逃げたんじゃ……」


「人では倒せぬ厄災が相手。だから逃げるしかないと思っていたのだがな、気が変わった」


「なんで?……」


「愚問だな。民がまだ諦めず立ち向かおうとしていると知った以上、王の座を継ぐ者が背中を向けて逃げ出すわけがないだろ!!」


 前にライナさんが言っていたっけ。王子はあんな性格でも、この国の未来を背負う王子なんだと。それを聞いた時は他に相応しい人間なんかいくらでもいると思っていたけど、こうして行動で見せられちゃうとね…。ライナさんが長年片思いしていた気持ちがほんのちょっとだけ分かった気がする。


「王子も案外やる時はやるんですね。ちょっと見直しました」


「惚れてももう遅いぞ。既に我には心に決めた女がいるのでな」


「それってもしかして」


 その時、油断していた王子を狙って空から2体のネビュラホークが襲ってくる。


「王子、上!!」


「心配無い。我には優秀な護衛、いや、ライニャンが付いているからな」


「ら、らいにゃん?」


 偶然かしら。なんかどっかで聞いたことがあるような気がする。


 そんな事を考えていると、瞬く間に2体のネビュラホークが地面に落下する。


「今は職務中ですよ王子。ここではプライベートな呼び名は控えてください」


「そうだったな。でもいいだろ、内輪的にとはいえ婚約も済んだのだから。な、ライニャン?」


「だ、だからそういうのは二人だけの時にしてくださいっ!!」


 武器をしまい、恥ずかしそうに頬を赤く染めるライナがとても微笑ましく思える。自分の気持ちに正直になれたおかげかも。


「あのー、お二人さんイチャイチャは後でしてくれません?」


「!!……失礼」


 慌てて我に戻ったライナは咳払いをすると、いつも通りクールな表情に戻る。


「ご無事で何よりですスミレさん。間に合って本当に良かった」


 さっきまでデレデレしていた人とは思えない冷静振りだ。


「ど、どうしたんです?その顔は?」


「…良かったですね。文字通り一緒になれて」


 こっそりと耳打ちすると、ライナは照れながらも静かに頷いた。


「王子お待たせしました!!」


「良いタイミングだヴェルダン!全員配置に付け!!」


 執事のヴェルダンが連れてきたのは総勢500人超えの王家直属の騎士団だった。


 王子の掛け声と共に兵士達は四方八方それぞれを囲むように整列する。


「この危機を乗り越える為にはお前達の力が必要だ。時間は我らが稼ぐ。皆の衆、存分に料理の腕を振るうがいい」


 王子の鼓舞を受け料理人達も湧き立つ。


「俺達もいるぞ!!」


 更に迫り来るモンスター達を突破して、やって来たのはカイゼル達率いる冒険者達。


「カイゼルさん!」


「人々の避難誘導は済んだ。この街にいるのはもう俺達だけ。全員覚悟は出来ている」


「つまり、オレ達はキミと一緒に戦う為に戻って来たってわけだ」


「冒険者同士、助け合わなきゃ!ね、みんな!!」


「「「おう!!!」」」


 ランバスやミレーヌに続いて威勢のいい冒険者達それに続く。


「あーあ、どうしていつも冒険者という人間は私達のギルドの言うことも聞かず無茶ばっかするんでしょうね〜。後で協会のお偉いさんから怒られるのはいっつも私だって言うのに…」


 愚痴を呟きながら冒険者達の集団を掻き分けて前に出てくる。


「シュナイダーさん。本当、申し訳ないです。でも、私達がやらないと」


「そう、私達がやらないといけないんです」


「え?」


「ここにいる冒険者達は皆、命を賭けてこの街を守ろうとしている。冒険者達のそんな気持ちを尊重し、冒険者達を守るのがギルドマスターである私のやるべきこと」


 シュナイダーは大きく深呼吸を済ませると自分の髪の毛に手をかける。


「…お偉いさんがなんだ、規律がなんだ、そんなこと知ったことか!謝って済むなら、幾らだって頭下げてやるよ!!だからお前ら…好き勝手やりやがれ!!!」


 シュナイダーは甲高い声で絶叫しながら自慢のカツラを投げ捨てた。


「「「(えーーーーー……!!!)」」」


 それを一連の様子に一同は唖然としながら心の中で叫んだという。


「それ、取っていいんだ……」


 思わずポロッと溢れてしまったスミレの心の声に一同揃って頷く。


「こうなれば見栄なんて張るだけ無駄ですから。これが私の覚悟ということです」


「覚悟ね…こんなの見せられちゃ俺達冒険者も中途半端な無茶は出来ないな」


「カイゼルの言う通りだ。プレッシャー上等。期待に応えられなきゃ冒険者じゃねえ!」  


「よーーし。みんな〜いっくよー!!!」


「「「「おおおおっ!!!」」」」


 ミレーヌの合図を皮切りに冒険者達は各々の得意武器や得意分野を活かしながら、迫り来るモンスター達の群れに突っ込んでいく。


「全員戦闘開始!!騎士団として、冒険者達に遅れをとるな!!」


「「「「おおおおっ!!!」」」」


 それに続くように王子の期待を真っ直ぐに受けた兵士達も負けじと戦闘を始める。


 なんか、凄いことになってきた。こんな展開まるでドラマの最終回みたい。そう思ったら私も不思議とテンション上がってきた!


「皆さん逃げるの中止!最後まで力を貸してくれますか!?」


「「「おう!!!」」」


 騎士団500名、冒険者500名。総勢千名がここに集い、スミレ達料理人を守る為に力を貸す。


 そしてそれは竜と人が協力し合うことを意味した。理由や道は違えど竜も人目指す物は同じ。厄災を倒すことだ。


「まさか、人間が私達の為にに力を貸してくれるだなんてね。数百年前ならこんなこと絶対にあり得なかった」


「本当にな。再び人と竜が同じ方向を見る時が来るとは。長く生きてみるものだ」


「本当よ。これもスミレちゃんのおかげね。彼女無しじゃこんな奇跡は起きなかった」


「これがスミレのいうアイドルの力か……」


 恐らく、スミレ本人はこれがどれだけの事を成し得たのか、分かってはいないのだろう。これがどれだけの奇跡なのか。


 人と竜は一度道を違えた。二度とその道が一つになる事などあるはずが無かった。それが運命だと、人も竜も誰しもがそう思っていた。

 それをたった一人の人間が変えてしまったのだ。種族を超えて、運命すらもその掌とそのあざとい笑顔で転がしてしまう。


 きっとスミレはこれを聞いたら当たり前のようにこう答えるのだろうな。


「アイドルにとって奇跡を起こすなんて普通のことよ」そうやって笑顔で笑うのだ。


「……ったく、奇跡とはまた面倒なことを起こしおって、アイドルとはなんて厄介な存在なのだ!」


 こんなこと死んでも口には出せないがな、感謝してるぞスミレ。


 おかげで勝たなきゃいけない理由が増えた。


「さて、反撃と行こうか。こうなった以上我も黙ってはいれんからな!」


「バカ」


 災竜からの縛りを抜けたゼノヴィアはリュードヴルムの頭をこつく。


「な、何をする!?」


「動けるようになったからって調子に乗らないで。アンタのすべきことは戦うことでも私の援護をすることでもない。アンタが信頼する料理番達が作った料理を思いっきり食べることよ」


「お前……」


「暴食なんだから、暴れる前に食べなくてどうすんのよ?時間稼ぎなんて私に任せておけばいいの」


 ゼノヴィアは再び羽を羽ばたかせる。


「でも、出来るだけ早くしてよね。私は別に死ぬつもりなんて無いからさ」


「…当たり前だ。今度こそ死なせんさ、誰一人とな」


 互いに頷きあうと、リュードヴルムはスミレ達の元へと空を飛んだ。


「そういうことだから、お前の相手はもう少し私がしてあげる。こんな美竜を独り占めに出来るんだから感謝してよね?」


「……ブスが」


「ぶっ潰す!」


 溜まりに溜まった怒りを力に変え、再び白竜は災竜に立ち向かう。


「スミレ!」


「いいところに。メインは殆ど完成してるわ。出来てるもんから食べ始めちゃって!」


 リュードヴルムの前に広がるのは折りたたみの長テーブルいっぱいに並べられた料理達。一つ一つが大盛りでこれでもかって程の量が皿に盛られている。


「よくやった。これだけあれば足りるかもしれん」


 これだけの量があるのに、まだ足りない可能性があるらしい。リューの力を取り戻す為にはどれだけのカロリーが必要なのよ。


「まだメインのおかわりはあるし、デザートも残ってるわ。それより問題は量じゃなくて、食べるスピードが、」


 私が全てを言う前にリューはテーブルに並べられた料理を端から豪快にかき込んでいく。


「間に合うかどうかだと思ったけど、その心配は無さそうね」


 しかも小さな両手を使って見事に皿を傾けている。初めて会った時は皿ごと噛み砕いていたことが懐かしい。


「師匠!パンケーキの方はこんな感じでよろしいでしょうか!?」


「どれどれ…」


 巨大な鉄板の上で焼かれた巨大パンケーキ。焼き色もこんがりと美味しそうな焼き色が付いている。

 真っ黒に焦がした肉こそがやきとりだと、自信満々に言い切っていた人とは思えない焼き上がりだ。


「いい感じですね。やればできるじゃないですか」


「だって私は師匠の一番弟子ですから」


「弟子にした覚えはありませんけどね〜」


 師匠と呼ばれるほどこれといったことは何も教えていない。ただ私がワイルドキャットで働くようになってからはよく店に顔を出しては料理の研究をしていた。気になることは何でも質問してくるし、メモに書き留めることも欠かさない。


 この人の料理への熱意は誰よりも真っ直ぐで熱かった。そんな人に師匠だって呼ばれるのは悪い気はしないけど、やっぱり私はそういう柄じゃないのよね。アイドルだし。


 順調に料理を進め、いよいよデザートも完成間近となった頃。


 今までの勢いも無くなり戦況は悪化の一途を辿り始めたのだった。


ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。


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