60、猶予は30分
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ワイルドキャット2号店の前には開店を心待ちにした大勢のご主人様達が行列を作り開店を待っていた。
「いよいよですね…」
「もしかして緊張してる?」
「は、はい……」
まるで二世代前のコンピューターグラフィックのようにカクついた動きをしているのは新人メイドのシロナーデちゃん。私が直接スカウトした期待の新人だ。今回の2号店は本店と違い所属するメイドは私以外全員が新人。全員がフレッシュでとても初々しい。
「研修で私が教えたこと覚えてる?」
「は、はい」
「じゃあ、困ったときはどうしろって教えたっけ?」
「ピンチの時こそ笑顔……」
「ほら笑って?」
固く強張ったシロナーデの顔を崩すように、スミレは彼女にだけ見えるよう渾身の変顔で笑わせる。
「ふふっ。何ですかその顔…!」
「それよそれ。笑顔は最大の武器よ。それを忘れないで」
「はい!」
因みに今回の2号店にはリュードヴルム用の席も用意していて、こちらの見る目も気にせず特別に用意したふかふかのクッションに我が物顔で寝転んでいる。
「ほら、リューからもみんなになんか言ってあげて」
「……ま、上手くやれ」
「ありがとうございます!」
普段は無味無臭で素っ気ないリューだけどこういう時は案外気が効くのよね。この数ヶ月でリューも大分変わった。
「そういえばさっきからなんかやけに外が騒がしくありません?何かあったんでしょうか?」
「きっとご主人様達が待ちきれないのよ。ちょっと早いけど、もうオープンしちゃおうか」
「!!」
するとさっきまでやる気も無さそうに寝転んでいたリューが何かに気づいて飛び起きる。
「びっくりした。急にどうしたのよ?」
「おかしい…」
「だから何が?」
「我を祀っていた民達の気配が突如消えた。こんなことは初めてだ。まさかな……」
その時、地響きのような大きな音が鳴り響く。
「な、なに今の音!?」
「いくら何でも早すぎる……外へ出るぞ!」
「ちょっと!」
慌てて店を出た私達の目に飛び込んできたのは、悲鳴をあげながら逃げ惑う人々の姿だった。
「なにこれ……」
それは正に地獄絵図のようでとても現実のようには思えなかった。
ついさっき私が外を覗いた時はこんなことになっていなかったのに……。
「落ち着いて。みんなこっちだ!!」
「カイゼルさん、一体これは何が起こってるんです!?」
「避難勧告だ。バレイシアの森が一瞬で壊滅状態に。俺達冒険者にも一斉退避命令が出た。ランバスやミレーヌ達も各所で避難誘導してる」
「やはりそうであったか…」
そういえば私とリューが最初に出会った森もバレイシアって呼ばれていたような。ということは私を生贄にしようとしてた人達はもう……。
「でもなんでこんなことに……」
「災厄だ」
「さいやく…?」
「人の力では決して敵わないと恐れられる伝説の魔獣が現れたらしい。俺達も早くみんなを連れてここから移動しないと」
それってもしかして、さっき言ってたやつ!?
リューは何も言わず私を見て頷く。
「ウソでしょ…だってまだ時間はあるって」
「イナリのヤツ。こうなることが分かっていて話すのを躊躇ったな……!」
「スミレお姉ちゃん!」
「リュードヴルム!」
家で留守番していたゼノヴィアとコモモも騒ぎに気付いたようだ。
「遅いぞゼノヴィア。早速ヤツがちょっかいを出してきたらしい」
「今回の目的は王都ってことかしら?」
「恐らくな。バレイシアの森をやったのは邪魔をする我らへの宣戦布告だろう」
「たった一つの根城を失ったってのによく平気でいられるわね。根城が無ければもう蘇ることも出来ないのに」
「だからって喚く時間があるとでも?」
「……そうね。やるべきことをやりましょう」
今、しれっととんでもないことを言っていた気がする。
ゼノヴィアは片手を掲げると、白い炎が天高く発射される。
そしてゼノヴィアが指を鳴らすと、炎は花火のように巨大で美しい大輪の花を咲かせると王都一帯が白いモヤで覆われる。
「キレイ…でも今のって?」
「結界よ。これで暫くは被害を抑えられる筈」
「王都一体を一度で囲う結界だなんて聞いたことがない。アナタは一体何者なんだ?…」
「詳しいことは後よ坊や。この結界もそう長くは持たない」
普段味わったことのない大人の魅力に翻弄されるカイゼル。
そういえばゼノヴィアさんに会うのは初めてだったな。ゼノヴィアさんは根っからのインドア派で滅多に外に出ないから紹介も出来ていなかった。いつかタイミングがえばと思ってたけど、流石にこれは想定外だった。
「猶予は?」
「長くて1、いや、30分持てばいいかもね…」
「まぁ良くなった方か」
「そうよ。昔はどんなに頑張っても10分が限界だったんだから」
たった30分。たかが30分。されど30分。状況を考えればとても短い時間のように思えるけど、短い連続ドラマだったら1話分。リアルタイムでCMをきっちりと見てもまだ余裕があるくらいの時間はあるということだ。
つまり、やりようはあるってことだ。30分あれば犯人も捕まえられるんだから。
「スミレ、ここからは時間との勝負だ。種類はなんでもいい。とにかく大量に料理を作れ!」
「料理!?」
「そうだ。こうなれば力の出し惜しみはしてられん。その為にも腹を満たさねばならぬのだ」
「腹が空いてはなんとやらってやつか。よく分からないけど分かったわ」
「スミレお姉ちゃん、私も手伝う!」
「うん」
私に出来ることがどれだけあるかは分からない。でもそれが料理だと言うのなら私は喜んで腕を振るおう。それが私の竜王の料理番の役目だと思うから。それに、リューやゼノヴィアさんだけに良いところを独り占めにだなんてさせない。
「カイゼルさん、ウチの子達のこと頼めますか?」
「それはいいけど、スミレちゃん達は一体どうするつもりだ?」
「買い出し」
アイドルの私より目立つだなんて絶対に許さないんだから!
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