55、運命の相手
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人気の無くなった時間。明るく輝いていた街の光も徐々に闇に呑まれていく中、ワイルドキャットだけはまだ灯りを灯していた。
「……」
王子は約束通り、一人も護衛を引き連れずワイルドキャットの前までやってきた。
運命の相手は意外と近くにいるかもしれない。その言葉の真意を確かめるべく、意を決して店の扉を開く。
「お、おかえりなせませ、ご主人様……!!」
迎えてくれたのは、これまた意を決して覚悟を決めたメイド服姿のライナであった。
「ライナ、どうしてお前がここに。それにその姿、今度はメイドの真似事か?」
いつもならなんてことないのに、恥ずかしくて目も合わせられない。
「お席ご案内いたします…」
戸惑いながらも案内された席に座ると、ライナと入れ替わるようにスミレがやってくる。
「こんな時間にも関わらず、来ていただいたこと感謝いたします」
「気にするな。我と婚約する気にでもなってくれたか?」
「それは絶対にありません」
もう可能性が無いのは何となく分かっている。だけどもしかしたらそう思っていた。しかし、その僅かの望みすらあいも変わらず即答されてしまった。
「だったら、我の護衛にまであんな格好をさせて一体どういうつもりなのだ?」
「今日、ご主人様に特別にご奉仕させていただいくのはライナさんです」
「ライナが!?」
想像出来ない。いくらメイドの格好をしたからって誰もがメイドになれるわけでは無い筈だ。
ライナの事は幼馴染だったからよく知っている。昔から男まさりで、よく男の子に間違われることも多く、そのせいか周りにいる我らでさえも男友達のように接していた。
暇があれば武術や剣術の特訓。休日でさえも、休んでいる所を殆ど見たことがない。家事掃除が出来るイメージも無ければ、そんな噂も聞いたことがない。
何だか嫌な予感がしてならない。
「まさかと思うが、ライナが何か料理を作ったりはしないよな?…」
「作りますよ。てか、今作ってますよ。王子の為にとっておきを」
「なっ……!」
なんてことだ。あのライナが料理だと!?腹でも壊すんじゃないのか?いや、腹だけで済めばいいのだが……。
「悪いが、用事を思い出した。今日はもう遅いしこれで失礼し」
「お待たせしました」
間に合わなかった……。
「王子もそんなこと言わずに、せっかくだから一口くらい食べてってくださいよ」
「いや、だが、」
「いいから」
席を去ろうとする王子をスミレが涼しい顔で力一杯引き留める。
「ほら、見てくださいよ。美味しそうでしょ〜?」
「ま、まぁ、見た目はな……」
これは確か、この店の名物のオムライスと言ったか。イメージしていた物より形が崩れているような気はするが、まぁ、こんなものだろう。
上に赤いソースなようなもので、これはハートか?所々線が途切れていて少し不恰好だが、多分ハートだ。
「ライナさんが王子の為にって、一生懸命作ったんですよ。もちろん食べてくれますよね〜?」
「ライナが我のために?」
ライナは恥ずかしそうにしながらずっと俯いている。
よく見るとライナの指の至る所に切り傷が見える。モンスター相手にも怪我をしたことなど見たこともないのに。
「王子。男でしょ」
「…分かった。食べればいいのだろ。丁度小腹が空く時間だからな」
茶はある。もしもの時は噛まずに流し込めばそれでいい。
「では、食べるぞ」
「あ、待ってください!」
口に運ぶ寸前、ライナが叫ぶ。その声は緊張からかうわずっていた。
「(助かったのか?……)」
「王子。食べる前に、美味しくなる魔法をおかけしてもよろしいですか?」
料理が美味しくなる魔法だと?そうか。だからあのライナでも料理を作れたのか。だが分からないことだらけだ。それにそんな便利な魔法があるだなんて聞いたことがない。
「お前、魔法が使えるようになったのか?」
「は、はい。先程、スミレさんに教えていただいたんです」
あり得ない。スミレは生まれながらの魔力量が極端に少なく、魔法への素養も無かった筈だ。それに魔法を教えるなんて、どんなに腕の立つ魔法使いでも簡単に出来ることでは無いぞ。
「それは本当なのかスミレ」
「はい。でもこれは王子が思っているような特別な魔法じゃありません」
「なに?」
「誰かを想う。その気持ちさえあればこの魔法は誰にだって使えるんです」
ライナは緊張した面持ちをしながら手でぎこちないハートマークを作る。
「……スミレさん、やっぱり一緒に」
「だーめ。これはライナさんがちゃんとやらなきゃ意味がないもの」
ライナから生唾を飲む音が聞こえた。
緊張して完全に固まってしまったライナにスミレが優しく語りかける。
「なら、いいこと教えてあげる」
「……?」
「ダメだ、もう無理って思ったら、無理してでもいいから笑いなさい」
「わ、笑う?」
「そう。笑顔はアイドルの戦闘態勢。その笑顔は時に自分を守る鎧となって、時に自分を助ける武器となる」
私がアイドルになりたての頃、何をやっても上手くいかず落ち込んでいた私にプロデューサーが言った言葉だ。
この時私は思ったの。自分が笑わなきゃ、誰かを笑顔にするだなんて出来ないんだって。
「要するに、どんな時も笑っときゃ何とかなるってことよ。昔から言うでしょ?笑う門には福来るってね」
「笑う……これでいいのか?」
ライナは半信半疑ながらも言われた通り口角を上げる。
「いいよ。そのまま王子を見て」
「王子……!」
少々不気味にも見えるライナの笑顔。
ライナの笑顔を見るのは何年振りだろうか。最後に見たのがいつ頃だったのか思い出せない程古い記憶なのは確かだ。
体が弱かった我はいつもライナに頼りっぱなしだった。それがいつか当たり前になって、いつの間にかライナは笑わなくなった。
でも、これだけは覚えている。この独特な笑顔が我は嫌いでは無かったということを。
寧ろ…。
「美味しくなーれ……萌え、萌え……きゅん!!」
顔を真っ赤に染めながらライナは見事に魔法を唱え切った。
「(こんな大事なことも忘れていたとは…もしかしたら我はとんだ馬鹿野郎なのかもしれない)
「……どうぞ、お召し上がりくださいませ」
王子は迷うことなく、スプーンで豪快にオムライスをすくい、大きな口で頬張った。
「あらワイルド。そんなにお腹が空いてたのかしら」
「ど、どうでしょうか?……」
しかし王子は何も答えないまま次々とオムライスを口に運んでいく。
あっという間にオムライスも残り僅かになってしまう。
「あの、王子…」
「食べ終わる前に感想ぐらい言ってあげたらどうなんですか?」
「そんなもの……美味いに決まってるだろ。じゃなきゃはしたなくこんなにがっついたりはしないさ」
その言葉にライナはようやく心の底からはにかんだ。
「ほ、本当ですか?」
「我とお前の仲だろ。嘘など吐くか」
「王子……」
僅か数分でオムライスをペロッと完食してしまう。
「こんなに美味しいのは魔法のおかげかな。ライナ、今まで悪かった」
「え、」
「お前の想いはしかと受け取ったぞ」
これでようやく二人のラブコメもハッピーエンドってことかしら。
「お祝いにこれサービスです」
私が二人に用意したのは隣り合わせにするとハートマークになるラテアートが施されたカフェラテ。
私なりの二人へのちょっと小粋なプレゼントだ。
「かわいい……!!」
「こんなものどうやって作るんだ!?」
驚いてくれて何より。前に番組で一カ月かけて特訓した甲斐があったわ。こんなに喜んでくれるなら、今度は店で出したらもっと売れるかも。
「なんか、かわいくて勿体無いな…」
「何故だ。見た目以上に味も美味いぞ」
「もう王子ったら。せっかくなんですからちょっとは勿体振ってください」
本当に二人はお似合いだこと。これで王子に厄介絡みされること無くなりそうね。
「スミレのおかげで大切なことに気づけた。本当に感謝するよ」
「私からも、ありがとうございました」
「いいえ。私も二人が笑顔になってくれて嬉しいですよ」
「きっとお前にもいずれいい相手が見つかるさ。落ち込んでいては掴める縁も掴めんぞ」
「は?」
何勝手に私がフラれたみたいな空気になってんのよ。私は別にフラれた訳でも、彼氏が欲しくてたまらないわけでも無いのよ!
勘違いすんなぁーーー!!
そう。この時の私はまだ勘違いしていた。
笑顔でいられるこんな日常がきっと明日も続く筈だと。きっとこうやって愚痴を言いながらも明日笑ってるんだろうと。
でもここは異世界。異世界に平穏な日常などあるわけが無いのだ。
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