51、一肌脱いでやろうじゃない
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スミレは店で使っているティーカップではなく、普段から使ってカップを使って人数分コーヒーを用意する。
「お待たせしました〜どうぞ」
「ありがとう」
「甘いの入れます?」
「いや、そのままでいい」
やっぱりブラックか。イメージ通りってところね。
「あれ?飲まないんですか?」
ライナは中々コーヒーを口にしようとはしていなかった。
「…あれはやらないのか?」
「あれって?」
「もえもえ、キュンってやつ……」
ライナは恥ずかしそうに小声で呟いた。照れてる様子も微笑ましい。
「ふふっ」
「笑わないでくれ。こっちも恥ずかしいんだ……」
「ごめんなさい。でもよく知ってましたね。あの時はやってなかったのに」
「あれから色々調べたんだ。この店には料理を何倍にも美味しくする魔法の呪文があると聞いて興味があったんだ」
そういえば最近、その魔法の呪文を本気で魔法だって思ってる人が結構多いのよね。ミレーユなんて私に泣いて頼み込んできたもの。
本当の魔法じゃないって説明するんだけど中々信じてくれないのよね〜。
まぁ、それもある意味ファンタジーってことで。
「今はまだ開店前なのでやらないって決めてるんです。それに今日のライナさんはお嬢様ではありませんから」
「じゃあ今日はお預けということか。実はちょっと楽しみにしてたんだが……」
「それなら今度はちゃんと自分のために来てください。その時は、ライナさんの為にとびっきりの美味しくなる魔法をかけてあげます!」
「ああ。次の休日は必ず行くと約束するよ」
そう言って本当に来てくれる人はほんの一握りだけ。でもなぜかライナさんは本当に来てくれる、そんな気がする。
ようやくコーヒーを嗜み始め、いよいよ本題に入る。
「それで今日はどんなご用件なんです?あんまりいい予感はしませんけど…」
「そんなこと言わないでくれ。あんな性格でも、この国の未来を背負う王子なんだ」
あんな性格だっていう割には、王子のことを庇うのね。
「だけど、きっと王子は君のそんな正直な性格に惚れたんだろうな」
「やめてくださいよ。会っていきなり私を未来の妻だとかいう人ですよ。正直この国の未来が私は心配ですよ」
「確かにあれはやり過ぎだった。王子の代わりに謝罪するよ。本当に申し訳なかった」
ライナは深々と頭を下げる。
「頭を上げてください。別にライナさんが謝ることじゃないでしょ」
「王子の為になるならこんな頭、いくらでも下げるさ」
「どうしてそこまで…」
「君にとって王子はあんな奴でも、私にとってはかけがえのない存在なんだ」
あーそういうこと。クールな見た目して案外情熱的なのね。ギャップ萌え。なんか少女マンガでも見てるみたいだわ。
「だからお願いだ。今晩行われるダンスパーティーで王子のパートナーになってくれないだろうか!」
「えぇ!?」
さっきのさっきでなんでそんな展開になるのよ!?
「一度だけでも構わない。だから頼む!王子の願いを聞いてやってくれ!」
「そんなこと言われても、無理なものは無理ですって」
「王子にはもう時間が無いかもしれないんだ」
「どういうことですか?…」
「ここだけの話、王子は幼い頃から心臓に大病を患っていて、特に最近は様子が芳しくないのだ」
何よそれ。そんなことなら聞かなきゃよかった…。
「故に、王子の願いを叶える為なら私はどんなことでもする覚悟だ」
私が何を言ってもライナは止める素振りを見せないまま執拗に頭を下げ続ける。
「…ライナさんはそれでいいんですか?」
「当たり前だ」
「本当に?」
「ああ」
「なら王子の隣にいるべきなのは私じゃない。そこまであの王子のことを思ってるなら、」
「それ以上言わないで!!」
今まで冷静な様子だったライナがここで初めて声を荒げた。言われなくても分かってるってことか。
「…もしかしてずっと黙ってるつもりですか?」
「私は王子が幸せでいてくれればそれでいいんだ。護衛である私の気持ちなど関係ない」
決して愛してはいけない存在。護衛と王子の禁断の愛ってやつ?だいぶ拗らせてるわね。マンガとかで見てる分は面白いけど、現実はただただもどかしくて仕方がない。
ったく、あの王子も王子よ。どうしてこんな近くに自分のことを思ってくれるいい人がいるのに全然気づかないのかしら。
本当どうかしてる。私がライナさんの友達ならあんなクソ男さっさっと忘れるべきだと口を酸っぱく言い続けるだろう。でもきっと、それでなんとかなったらあんな顔はしていないのだ。
「王子は君と踊れることを心から楽しみにしている。それが王子の望むこと。だからいいんだ」
分かっていても諦められない。何も叶わずとも側にいれるだけでそれでいい。そんな経験私には無いけど、なんか分かる気がする。
そんな私に出来ることは一つだけだ。
「…分かりました。今晩一度だけでいいんですよね?」
「本当か!?」
「ええ。だけど勘違いしないでください」
「?」
「私は王子の為じゃなくてライナさんのためにやるんです」
私が一肌脱いで王子が笑顔になったら、ライナさんも笑顔になる。それが本当の笑顔じゃなかったとしてもそれならやる価値はある。
「私のために?」
「女同士の友情ってやつです」
これ以上に脆いものも私は知らないが、いざという時にこれ程頼りにるなるものも私は知らない。
「その代わり約束してください。手遅れになる前に必ず自分の気持ちに正直になるって」
「……」
「私は応援してます」
「私は君のように女らしくないからな……」
そうライナはぼそりと小声で呟いた。
「もしかして、ずっとそれが気がかりだったから?」
「……うん」
蚊のように細い声で静かに頷いた。
「なーんだ。そんなことだったんだ!」
「そんなこととはなんだ。これでも私は、」
「大丈夫。私、いいこと思いついちゃった!」
「え?」
迷える子羊の背中を押してあげるのもアイドルの役目だ。
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