48、白竜の城
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城の中は全く明かりなどは無く辺りは真っ暗。しかし窓越しからは僅かな月明かりが差し込んでいる。この微妙に明るい感じがより気味の悪さを増している。
「マジで出そうなんだけど……」
「安心しろ。中にそれといった気配は感じない」
「本当に?」
「こんなことに嘘を吐く理由など無い」
それは私だってリューがこんなことに嘘を吐くとは思ってないけど、どうしてもこの雰囲気のせいで最後まで信じられないのよね。
「コモモちゃんは怖くないの?」
「全然」
「当然だろ。コモモは身を隠す為に一人でダンジョンに入る事も多かったと聞いた。この程度で怖気付く訳が無い」
言われてみればそれもそっか。私が初めて会った時も、モンスターに襲われそうだったのにコモモは涙一つ流してはいなかった。
それに比べて私と来たら……。
「そうよね。私がこんな所で怖がってちゃいけないわよね」
こんな情けないところ二度と見せるものですか。私はカズハの分まで背負ってるんだから。
「ん?気配が変わった?……」
これからはビクビクした私じゃなくて、頼れるカッコいい姿を見せなくちゃ!
「よーし!コモモちゃん後は私に任せて!!」
「スミレお姉ちゃん…」
「大丈夫。雰囲気に呑まれて怖がってたけど、実際は幽霊なんかいるわけないんだから」
「スミレお姉ちゃん。後ろ……」
「え?」
張り切る私の様子にコモモは気まずそうに後ろを指差す。
「待って、後ろ?……」
なんか嫌な予感がする。急に寒気みたいなのもしてきた気がするし……いやいや、そんなのあるわけない。きっと気のせいに決まってる。
でも、急になんだか辺りが明るくなったような。
「コモモちゃん冗談言っちゃだめよ。後ろに何かいるわけが……」
振り返った先に待っていたのは、眩しい程にキラキラと輝くオーラを纏った白いドラゴンだった。
「で、で、出たーーーっ!!!」
私は大声をあげて必死な形相をしながらリューの側にまで逃げ込む。
「ゆ、幽霊!?やっぱり出たじゃない!!」
「落ち着け。あれは幽霊などではない。ドラゴンだ」
「そうですよスミレお姉ちゃん。リュー様と一緒です!」
ドラゴンは怯える私を嘲笑うかのように辺りを自由自在に飛び回っている。
「で、でも、ふわふわ空を飛んでるし、足も無いじゃない!!」
「ドラゴンは普通に空を飛ぶだろ」
「じゃあなんで足が無いのよ!リューは足があるのに!やっぱり幽霊なのよ!!」
「最後まで我の話を聞け。ヤツと我とでは多少形態が違うのだ。見えてないだけで足もちゃんとある」
「本当に?でも、ドラゴンの幽霊って可能性だって」
余りの恐怖からか中々落ち着気を取り戻せないスミレ。
それを見かねてリューが白いドラゴンに向かって叫ぶ。
「聞こえてるか!お前のせいで我の眷属であるスミレがこの調子だ。いい加減揶揄うのはやめて姿を変えろ」
すると、白いドラゴンはその問いかけに頷くと自らの姿が白いモヤに包まれる。
「ごめんなさいね〜余りにもその子の反応がいいから、つい調子に乗っちゃったわ」
モヤが晴れて現れたのは、美しい白髪にロングスカートからすらっと伸びた脚が魅力的な一人の女。
「人間になった……」
白髪の輝きは白いドラゴン同様に美しいオーラのようなものを纏っているように見える。
「やっぱりアナタだった。久々ね、私はてっきり死んだものかと」
「勝手に殺すな。お前は相変わらずだなゼノヴィア」
「アナタは変わったわね。昔だったら人間を眷属にするだなんて絶対有り得なかったもの。しかも異世界人って何があったわけ?」
「あれから色々あったということだ」
誰だか知らないけどこの人、めちゃくちゃ美人ね。リューとは知り合いなだけあって、私のことも直ぐに見抜いたし一体どういう関係なのだろう。
「ねぇ、この人って人間?それともドラゴン?やっぱり幽霊だったりして!?」
「どう考えてもドラゴンだろ。さっきの見ただろ?」
「見たけど…でも、今は人間だし」
「力のあるドラゴンは姿を自在変えることも容易なのだ。不思議な事では無い」
そうなんだ。あれ?
「じゃあなんでリューは人間にならないのよ?」
「その問いに答える必要はあるのか?」
「あ、もしかしてこの人より弱いから?」
「なわけあるか!我は竜王だぞ!」
リューは食い気味で突っかかってくる。
「そんなこと言ったら私も竜王よ」
「そうなの?、なんですか?」
自分よりもお姉様だと判断して、急遽敬語に直す。
「そうよ。別にタメ口で結構よ。私そういうの苦手だから」
「え、でも、」
「いいから」
その気丈な振る舞い方。幾つもの修羅場を乗り越えて来たって佇まいだ。
「…じゃあこれからはお言葉に甘えて。どうしてリューはアナタみたいに人間にならないわけ?」
「それはね、」
「待て。お前が口を出すな!」
「いいじゃない。別に隠すようなことじゃないんだから」
ゼノヴィアはリューの口を軽々と塞いでみせる。
「コイツが人間にならないのは、私と違って自意識過剰でプライドが高いからよ」
「あーなるほど…」
なんか納得。てか分かってたような気がする。
「リュードヴルムは面倒くさいくらい自分がドラゴンであることに誇りを持ってる。だから人間のことは常に見下していて大嫌いなのよ。食べるのは好きなくせにね」
それも納得。
「私の知ってるリュードヴルムはそういうヤツだった。なのに今はどうかしら?」
「え?」
ゼノヴィアは舐め回すようにスミレとコモモをぐるぐると見回す。
「百歩譲って、この小さな竜人ちゃんは分かるとしてよ。どうしてアナタみたいな人間を眷属にしたのかしらね?
」
なんか品定めされてるみたいで気味が悪い。
「それは……」
「なーんてね。本当はコイツの理由なんかどうでもいいのよ」
先程とは打って変わって満面の笑顔で微笑む。
「そんな怖がらないでちょうだい。理由がなんだろうと私はスミレちゃんのことを食べたりだなんてしないから」
「は、はぁ…」
「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私は治癒を司る竜王、ゼノヴィア。女同士仲良くやりましょう」
よく分からないけど、どうやら私はこの人に気に入られたみたいだ。
「ぷはっっ!…いつまで我の口を塞いでいるつもりだ!」
リューも我慢の限界。強引にゼノヴィアの手を振り切った。
「あら、忘れてたわ。ごめんなさいね〜」
「何が忘れてただ。どうせわざとだろ!」
「当たり前でしょ」
「…本当、お前は変わってないな」
「おかげ様でね。誰かさんのせいでまだ私は独り身よ」
同じドラゴンどうしリューとゼノヴィアさんが知り合いなのは分かった。だけど妙に距離が近いような。
「お二人とも仲がいいのね」
「「別に」」
同時に息が合ったことに二人は思わず目を合わせるが、直ぐに目を逸らす。
「ほら、やっぱり」
「やめてよスミレちゃん。コイツとはただの元カレってだけで、今は何も無いんだから」
へぇ〜元カレね〜……。
「元カレ!?」
寝耳に水とは正にこの事。多分だけど私の聞き間違いでは無い筈。でも、信じられない。
「あら、そんなに驚く?」
「驚きますよ!!まさかリューに恋人がいただなんて!」
「恋人だなんて言えるほどそんな甘い関係じゃなかったけどね。昔からの腐れ縁ついでに付き合ったってだけよ」
「そんな昔のこと今更どうでもいいだろ!黒歴史を思い出させるな!」
「勝手にこの私を振ったくせに黒歴史とは随分な言い方じゃない」
「リューの方が振った!?振られたんじゃなくて!?」
また驚いた。こんな美人を自分から振るだなんて益々信じられない。
「そうよ。信じられないでしょ〜?」
「信じられな〜い!!」
種族も育ってきた世界すら違えど女同士共感するポイントは同じらしい。
「リュー様はどうしてゼノヴィア様を振られたんですか?」
「なっ、」
純真無垢なコモモの一点の曇りもない目がリューに突き刺さる。
「こんなにお似合いなのに、どうしてなんですか?」
「いや、それは…」
子供ならではのストレートな問いかけに、リューはどう答えていいか分からず思わず瞬いでしまう。
「い、色々あったのだ…。そんなことよりゼノヴィア!どうしてお前がこんな所にいるのだ!?」
「あ、話変えた」
「照れてるのよ。昔からこういうヤツだったから」
このリューの困った顔。本当いい顔してる。
「おい!勝手な事を言う前に質問に答えたらどうなのだ!」
「あのね、それを言うならずっと前からこっちの台詞なのよ」
「なに?」
「何で許可も無く人の家に勝手に入り込んでんのよ?」
「お前の家だと!?」
「そうよ」
この豪華なお城がゼノヴィアさんの家!?待ってよそれ。おかしくない!?
「またガラの悪い冒険者か何かが盗みに来たのかと思って、わざわざあの姿になったってのに無駄だったわ。あの姿になるの結構疲れるんだからね」
「お前は昔から人間の姿ばかりに拘っているから、いざという時に体力が持たんのだ」
「アナタと違って私は繊細なの。そんなことより来るなら来るって連絡の一つくらいよこしなさいよ。それとも念話の魔法の使い方も忘れちゃったわけ?」
「なわけあるか。ここがお前の家だと分かっていたら敷居など跨ぐか」
また始まった。
「あの、イチャイチャしてる場合じゃ、」
「「イチャイチャじゃない!!」」
これまた息ぴったり。間に入ったことでまた二人と目が合ってしまった。
「リューの言う通り私達はここがゼノヴィアさんの家だってことは本当に知らなかったんです」
「じゃあどうやって?」
「それは、私が短冊に普通の家が欲しいって願ったから」
「は?」
その反応も当然よね。でもこんなバレバレな嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐く。
「信じられない気持ちは分かるけど、本当なの。ダンジョンで手に入る短冊に願いを書いたらこんな事になっちゃって…」
「ダンジョンね…あそこで手に入るのは奇怪なアイテムばっかりだから、気を付けないとこんな事じゃ済まなくなるわよ。分かった?」
「反省してます……」
本当、ゼノヴィアさんの言う通りだ。願いが叶うなんて都合の良いアイテムを手にして、自分も知らぬ間に少々調子に乗っていたみたい。これで済んだから良かったものの、もしかすれば取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
「アナタもよリュードヴルム」
「我もか!?」
「当たり前でしょ。この子の眷属なら主人としてちゃんとやりなさいよ」
「はいはい……」
「はいは一回」
「はい……」
こんなに追い込まれているリューも珍しい。
「分かったならいいわ。それより気になるのは、」
するとゼノヴィアは何かを察したようにコモモに近づく。
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