46、2枚目の短冊
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その日の夜。
面倒な王子に目をつけられ、私達は疲れ切っていた。
だけど不思議と目は冴えたまま眠ることが出来ずにいた。因みにリューは豪快にいびきをかきながら就寝中。
ふと隣を振り返ると、ベッドの上でコモモはそんないびきなどものともせずぐっすり眠っている。寝顔までかわいいのは本当反則だわ。見ているだけで癒されるとはこのことだ。
しかし寝れないのはリューの大きないびきのせいでも、コモモのかわいすぎる寝顔のせいでもない。
ずっと気になっていたことがあってそれが頭から離れない。
この前ダンジョンで見つけた本当に願いが叶う短冊。ふと思ったのだ。
この短冊を使えば私は元の世界に帰れるのではないかと。だって、日本のカレールーだって手に入ったのよ。異世界に関する願いだって叶うってことだ。
そう思ってから頭の中はそのことでいっぱい。短冊に願いことを書くべきか、書かぬべきか。
もし願いが叶って本当に日本に帰れるとしたら、リューやコモモはどうなるのだろう。
リューは私がいなくなってもなんとかするだろうけど、コモモのことだけが心配だ。母親であるカズハを失って、今度は私までいなくなってしまったら。
だけどこの世界の私の目的は日本に帰ってアイドルに復帰すること。その思いは今も変わらない。
でも、一度約束したコモモのことを裏切りたくはない。
この天秤は決して釣り合うことは無く、必ずどちらかに傾く。
今朝のトラブルや溜まりに溜まったストレス。逃げれるなら逃げたいくらいだった。
そんな自分の中の甘えが私の選択に魔を刺した。
「あとで戻ってくればいいよね…」
家族に会いたい。仲間に会いたい。家に帰ってゆっくりしたい。
たった一日でもいいから日本に戻りたい。
私の気持ちが短冊にそう書かせた。
すると短冊がこの前の時のように光始める。
リューもコモモも起きる様子は無い。まだ夜は長い。起きてくるまでに戻ってくれば大丈夫だ。
「あれ?」
しかし短冊はいつの間にかその輝きを失い、短冊に書かれた文字だけが消えていた。
まるで何も無かったかのように。
「…もしかしてこの願いは叶えられないってこと?」
まさかの結果に肩透かしを喰らうこととなった。だけどこの結果に不思議とホッとしている自分もいる。
「これで良かったのかもね…」
私はそのままベッドに寝転がる。
しかし短冊の力でも日本に帰れないのだとしたら、果たして元の世界に帰れる方法なんて他にあるのだろうか。
それにしても、相変わらず枕は高くて、硬いベッドだこと。こんなんだから休まるものも休まらないのよねー。お金も貯まったことだし、そろそろ宿住まいも潮時かもね……。
あれやこれやと不安や不満は募るばかり。異世界での眠れない夜は本当に長い。
◇◇◇◇◇◇
この日の朝は不思議とスミレの機嫌が良かった。
鼻歌まじりに鏡と向き合うこと早一時間。話しかける隙すら与えず、完全に自分の世界に入り浸っている。
「リュー様。スミレお姉ちゃんが朝から変です…」
「知ってる。コイツが変人なのも知ってるが今日は更にも増しておかしいな」
「誰がおかしいって?」
「聞こえていたのか…お?」
振り返ったスミレの顔がいつもと何か変わっていることに気づく。
普段よりより肌が妙にツヤツヤしていて、目元も何かキラキラしている。いつにも増して何か色っぽい。
「…スミレ、何があった?」
「何って?」
「その顔だ。いつもと違うだろ」
「あ、気づいちゃった?」
リューの指摘に思わず嬉しそうな笑みを浮かべる。
「スミレお姉ちゃん、いつもより可愛くなってる」
「やっぱりそう思う!?」
「う、うん…」
「コモモちゃんなら分かってくれると思ってたわ!ありがとう!!」
早朝とは思えない程の高いテンションでコモモに抱きつくスミレ。意味が分からずコモモはたじたじといった様子だ。
「どういうことだ?」
「実はさ、2枚目の短冊使っちゃったのよ」
「なんだと!?一体何を叶えたというのだ?」
「これよこれ」
スミレが出してきたのは大量の化粧品。それも日本では中々手が出せない高級ブランドばっかりだ。
「こんなの物の為に願いを使ったのか?」
「こんな物って何よ。カレールーなんかより全然高いんだからね!」
「そういう問題ではないだろ」
「メイク道具は女の子には必要不可欠なの。寧ろ今まで無くても平気だったのが奇跡なんだからね」
今まではなんとか異世界で手に入る物で代用してきたけど、それでは限界があった。肌は荒れるし、思ったように盛ることも出来ない。
この数ヶ月間、自分でもよく生活出来たと褒めたいくらいだ。
「やっぱりメイクするとテンション上がるわ〜」
久々のオシャレに溜まっていたストレスもどこかへと行ってしまったみたい。
今の所、元の世界に帰る方法が無い以上塞ぎ込んでいたって始まらないもの。やっぱりこの願いは正解だった。
するとメイク道具をじっと見ているコモモの視線に気づく。
「もしかしてやってみたい?」
「いや、別に……」
「本当は?」
「…やってみたい」
「そう来なくっちゃ!」
子供とはいえコモモだってれっきとした女性だ。私も同じ歳の頃には母親のメイク道具を勝手に使って怒られてた。
やっぱり女の子に生まれたからには着飾らなくちゃ勿体無いわよ。
「どれが1番気になる?」
いきなりフルメイクでもいいけど、コモモの場合素がいいからね。本当すっぴんに自信があるって羨ましい。
てことでまずはワンポイントでお試しよ。
「えっと、これ」
「流石コモモちゃん。見る目あるわ」
迷いながら指を指したのは、ずらっと並ぶ高級ブランドの中でも私が唯一普段から使っていた口紅だ。
実はこの口紅、これを最初に紹介したのはコモモの母親であるカズハだった。それまでは余りブランドに拘りなどは無かったのだが、カズハに魅力を力説されてからはずっとこれを使っている。
結構な値段するからめちゃくちゃ勿体ぶって使ってったのはここだけの秘密だけどね。
「ちょっとじっとしててね」
口紅のキャップを外してそっと唇に近づける。輪郭に沿って丁寧に色をのせながら仕上げていく。最後にリップブラシで優しく馴染ませると、色がなじんで表情が引き締まる。
メイク一つで印象はガラリと変わり、一段とかわいさは増すものだ。
思った通りのメイク映えに私は小さく頷く。
「こんな感じになりました。見てみて?」
手鏡を渡して確認させる。
「…………」
「コモモちゃん?」
手鏡を持ったまま、表情一つ変わらず動かない。
「すごい……私じゃないみたい!」
一言口を開くとようやくが笑顔が見える。
「良かった〜めちゃくちゃ似合ってるわよ!」
「ありがとうスミレお姉ちゃん!!」
私だけに見せるとびっきりの笑顔。最高。
これだけで生きてて良かったと思えるくらいだ。こんなに喜んでくれるなら残りの願いも全部コモモのために使ってしまおうかしら。
仕上げにお気に入りの香水を薄っすらと振りかけちゃおう。
「うわ〜良い香り〜!!」
「でしょ?気に入ってくれると思ってた」
盛り上がる二人にリューだけは全く興味無いといった様子であくびを浮かべる。
「あら、退屈だった?」
「まぁな」
素直でよろしい。
「しかし、こんなに見栄えを気にして何するつもりだ?仕事でも無いのだぞ。もっと楽にすればいいだろ」
リューの気持ちはよく分かる。日本にいた頃の私がそうだったから。
「休みだからこそ、今日くらいはいつもより気合いを入れて楽しもうと思って。それに家探しもしようと出かけようと思ってるしね」
「家だと!?」
「お家!?」
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