41、魅惑のフレンチトースト
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翌日。
スミレの泊まっていた宿でコモモはひっそりと一夜を明けた。
「ふあぁ〜……なんだろこの匂い?」
部屋中に漂う甘い香りに誘われるように、かわいいあくびと共に目を覚ます。
香りのする方へと向かうと、小さなキッチンでスミレが何やら料理を作っていた。
「あの、」
「あ、おはようコモモちゃん。よく眠れた?」
「はい……」
「昨日はごめんね〜。どうかしてたって反省してます……」
深々と頭を下げるスミレの様子にコモモは慌てて首を横に振る。
「そ、そんなことないです!私もあんなに美味しい料理が食べれて嬉しかったから……」
「ありがとうコモモちゃん。そう言ってくれると私も嬉しいわ」
「いいや、もっと文句を言ってもいいのだぞコモモ」
「リュー様?…」
腕を組み偉そうにしているがリューは何故かエプロン姿だった。
「此奴があの後一晩中泣いていたせいでせっかくのカレーもおかわりをし損ねたのだからな。おかげで腹はペコペコだ!」
「だからこうやって手によりをかけて作ってるんでしょ?」
「しかしカレーが見当たらんではないか!さっきから一体何を作っておるのだ!」
宿に備え付けられている小さなコンロの上にはフライパンが一つ乗っているだけ。カレーの入った鍋らしき物はどこにも無い。
「朝からカレーもいいけど、ちょっと重いでしょ。だから久々にフレンチトーストでも食べようかと思って」
「フレンチ、トースト?」
実は昨日のお詫びも兼ねて事前に準備していたのよ。その時のリューはまだいびきをかいてぐっすりだったから気づいていないだろうけど。
「そんな物に興味は無い。それより我のカレーはどうなったのだ!?」
「後でちゃんと昨日の残りを温めてあげるから、ちょっと待ってて」
スミレに諭され、リューは鼻息を荒くしながらも大人しく待っていることに。
「ちゃんと用意するのだぞ」
「分かってるって」
取り敢えずこれでリューは良しと。せっかくコモモちゃんもいるのに、カレーばっかりじゃつまらない。それにスイーツは別腹な女の子よ。偶にはしょっぱい物より甘い物を食べたくなる時だってある。
こんなこともあろうかとパン屋で貰った硬くなったパンを余らせていて正解だった。
作り方は簡単。硬くなったパンを食べやすい大きさに切ったら、ミルク、卵、砂糖を混ぜ合わせた液体をヒタヒタにして染み込ませるだけ。
ね、簡単でしょ?
卵液を染み込ませたパンは意外と焦げやすく、火が強かったり、少し目を離していたりするだけであっという間に真っ黒に焦げてしまう。
だから、弱火から中火の間でじっくりと焼きながらこんがりと両面を色付けていくのがポイントだ。
「そろそろいいかも」
「うわ〜〜!!」
頃合いを見て片面を裏返すと、こんがりと焼けた香ばしい香りと甘い香りが広がる。
「やった。いい感じね!」
まるでお手本のような美味しそうな焼き色がついたわ。我ながら上手く焼けたものだ。
「おいしそうな香りです〜!!」
「もうすぐできるからね。あ、そこのお皿とって貰っていい?リューは食べないみたいだから、二枚でいいわ」
「分かりました」
「ま、待て。食べないとは別に言ってないぞ」
目の前で楽しそうに盛り上がる二人の様子と、部屋中に広がる美味しそうな香りにリューも気が変わったらしい。
あれだけ強気だったのが嘘のよう。
なら、ちょっといじわるしちゃえ。
「でもリューはカレーにしか興味が無いんでしょ?」
「…さっきまではな。だが今は別だ」
「でもさ、食べないと思ってたから二人分しか用意してないのよね〜」
「なっ、、」
さぁ、どうするかしら?
「……なら、もう一個焼けばいいだろ!パンならそこに余っているしな」
リューは自信満々にパンを指さす。
希望の光を見つけたと言わんばかりにとても嬉しそうだ。でも残念。
「リューがそれでいいならいいけど、一から作ろうと思ったら直ぐには食べられないわよ」
「それは、暫くお預けということか?…」
「まぁ、そうなるわね。リューのが準備できるまで私達のを黙って見ててもらう他ないわ」
「なんだと……!?」
非情な宣告にリューは信じられないといった様子で肩を落とした。
予想以上にショックを受けるリューの様子にこっちが驚いている。まさかここまで悲しがるとは、少しいじわるしすぎたかも。
「もう〜ダメですよスミレさん。リュー様が可哀想です!」
「ごめんなさい…」
そんな不毛なやり取りをしている間にもう片面もいい感じの焼き色がついた頃合いだ。
こんがりと両面に焼き色が付いたら、皿に盛って粉砂糖を粉雪が舞うように振りまけば、それだけで見た目も映える仕上がりに。
「これでお手製フレンチトーストの完成よ!」
テーブルには完成したフレンチトーストと淹れたばかりの熱々の紅茶。
「これが、フレンチトースト……」
「食べてみて」
甘い香りと誘われるように少し大きめに一口。
「甘くて、ふわふわで、おいしい〜〜〜!!」
フレンチトーストを食べた瞬間、コモモのかわいい顔がとろけるような更にかわいい笑顔に変わる。
多少リアクションが大袈裟な気もするけど、これが縁起偽りの無い素の反応なのだ。こんなにかわいくフレンチトーストを食べれる女の子がいてもいいのだろうか。
天使だ。見てるだけでこっちまで笑顔になってしまう。
「スミレさん!こんなにおいしいパンは初めて食べました!」
「そう。本当に良かったわ」
マジで作って良かった。良し、これから朝食はずっとフレンチトーストにしよう。うん。それがいい。
「おいしい〜!」
コモモちゃんを見てるとついカズハを思い出す。やっぱり親子ね。本当にそっくりだ。
「実はこのフレンチトーストもカズハの大好物だったのよ」
「ママが!?」
前も言った通りカズハの家は銘菓の老舗。それもあって普段の食事も和食中心、子供の頃のおやつも和菓子ばかりでフレンチトーストも食べたことが無かったらしい。
だからフレンチトーストを初めて食べた時はすごく驚いてた。それこそコモモちゃんみたいに。
あの時は、私やテレビ用にオーバーなリアクションをしていると思っていたけど、本当は違ったのかも知れない。
「じゃあそろそろ私も、」
コモモちゃんがあんなに美味しそうに食べてる所を見て、私が我慢なんか出来るはずがない。
本当ならそのままがっつりと噛み付いてもいいんだけど、ここはお上品に切り分けて、優雅に口へと運んでいく。
「おいしい〜〜!!」
噛んだ瞬間に口の中いっぱいに広がる優しい甘み。ヒタヒタに沁みてふわふわのフレンチトーストと少し渋めの紅茶とのマリアージュが実に素晴らしい。
紅茶にトースト。よくある組み合わせだけどやっぱり間違い無い。それにカーテン越しから味わう眩しい日差しの光も気持ちいい。
なんておしゃれな朝なんだろう。なんてことのない普通の日常もこれだけで少し特別になった気分だ。
だけどリューの熱烈な視線だけがずっと気になっている。
「……」
「ほら、あげるわよ」
独り占めしてたらなんか罰が当たりそう。
「……本当に良いのか?」
「食べないの?いらないならいいけど」
「食べる!!」
「その代わりこっちの方が大きいとか、そういうのは無しだからね。いい?」
いつものリューなら「我が大きい方に決まっておるだろ!」とか言いそうだけど。
「まぁ、良かろう。感謝する」
「う、うん」
リューは恥ずかしながらも、大人しく口を開けてじっと待っている。こんなに素直だと逆に気持ち悪い。なんか裏でもあったりして?
「どう?」
リューはいても直ぐに飲み込んでしまうリューには珍しくもぐもぐと噛み締めながらゆっくりと味わっている。
「不思議な感覚だ……」
「不思議?」
「からあげやカレーを食べた時とも違う。口が幸せなのだ……」
「あー、それが甘いってことよ」
辛さも知らないリューが甘さを知るはずも無い。しかしその衝撃は辛さの時よりもはるかに上だった。
「そうか。これが人間が愛してやまないという甘味か」
「リュー?…」
「スミレ、これからの朝食は毎日これでいいからな」
「えー毎日?まぁ、別にいいけど」
よっぽど気にいったのね。あんなに尻尾が素早く動いている所を初めて見た。カレーの時でもああはならなかったのに。
きっとリューは甘党なのね。
竜王がスイーツ好きか。結構ギャップ萌えもいけるかも。
フレンチトーストも食べ終わり、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
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