40、別に泣いてなんてないんだから!!!
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だって今回の主役はカレーだけでは無いからだ。
スミレは能力を使って保存していた肉を取り出し切り分けはじめる。
能力で収納しちゃえば腐る心配も無いから、気になったのは色々と買いだめしてるのよね。あってよかった収納能力。これだけでもリューの眷属になった甲斐があるわ。
思いきって分厚めに切り分けた肉を少量の塩で下味を付ける。もちろん脂身と肉の間の筋を切ることを忘れてもいけない。筋を切っておかないとせっかくの大きな肉も硬く小さくなってしまうからだ。下ごしらえが終わればいよいよ衣付けよ。
おっと危ない。その前にもう一つ準備しておかなければならないものがあったわ。あのサクサク食感を出すためには欠かせないアレの準備が終わってない。
だけどここは異世界。欲しいものが簡単に手に入る世界では無い。苦戦することが予想された最後の食材探しだったけど、それは予想外にあっさりと手に入れることができた。
だから店に頼んで格安で融通してもらったのよ。
売れ残ってカチカチに硬くなったパンをね!
一見普通の食パンのようだけど古びてフランスパンのように硬くなってしまっていてそのまま食べたら歯を持っていかれそうだ。でも擦りおろしてしまえば話は別だ。二時間サスペンスなら凶器に使われたかもしれない硬くなったパンもおろし金にかかればまるで雪のよう。
ここまで出来れば完成はしたも同然。久々のカツカレーを目の前にして私もなんかテンション上がってきた!
「よっしゃいくぞー!!」
こっからの手順は意外と簡単。
からあげの時にも使った小麦粉をまぶして、卵を潜らせる。そして荒く削ったパン粉を豪快に肉にまぶす。
後は溶かしたラードの海にゆっくりと放り込んで、じっくりと揚げていくだけだ。一見難しそうにも思える揚げ物料理だけど、やってみると手順は案外シンプルなのよね。
ぱちぱちとはねる小気味の良い油の音が私の気分を更に高めていく。
音が激しくなっていくと共に衣は少しずつこんがりときつね色に変わっていく。
「わ〜〜!!きれいです〜!!」
普段は冷静で大人っぽいコモモちゃんだけど、初めて見る揚げ物にとても興味津々だ。
でもコモモちゃん以上に興味津々なのがそこにいる。
「これがカツカレーというやつか……!」
「違う違う。これはトンカツね。まだカレーといっしょになってないから」
「トンカツ…。同じ揚げた料理のようだがからあげとは全く違うのだな」
「きっと食べたら驚くわよ〜こんな楽しい食感この世界のどこを探しても存在しないだろうから」
味もさることながらトンカツにはからあげとは明確に異なる部分が存在する。
それは食べた時に感じる心地良いサクッとした食感と音だ。あれは絶対にからあげには出すことができないフライならではの唯一無二の特徴でもある。
「なら早く食べさせろ!もう我は我慢できないぞ!!」
両足をバタバタさせてまだかまだかと急かしてくる。
「もうすぐ揚がるからもうちょっと待ってなさい」
トンカツが揚がりきる前に他の準備を済ませておこう。
「コモモちゃん。鍋の蓋を開けてもらっていいかな?」
「はい!」
コモモが鍋の蓋を開けると、蒸気と共に炊き上がった米のほんのり甘い香りが広がってくる。
「いい香り〜〜!」
炊けた米は艶々と光りなら、程よく粒感が残っていて水加減も完璧。今日もまた上手く炊けたことがとても嬉しい。
炊けたご飯を皿に半量盛り付けたら、じっくりと煮込んでいたカレーをそこにかける。
「お〜〜!!久々のカレーだ!しかも今回は米と一緒に食べるのだな!」
「これぞ日本のカレーライスよ。でも今日はこれだけじゃないんだから」
いよいよ、真の主役の準備が整ったようだ。衣もこんがりと色づき、箸で触っただけで衣のサクサク感が伝わってくる。これだけでもう美味しそう。これにキャベツの千切りだけでもあればそれで十分。でもここまできたら振り返るな!今日のトンカツの相棒はもう決まってる。
トンカツに勢いよく包丁を入れて切り分けたら、それを躊躇なく、そして豪快にカレーの上にのせる!
「女の子だってたまにはガッツリ行くんだから!これぞ背徳のカツカレーの完成よ!!」
ゴロゴロとした野菜とスパイスの香しい香りがたまらないカレーの上には大ぶりに切り分けられたトンカツが豪快に陣取っている。
二種類の茶色な主役と、隣でひっそりと輝くご飯の白一点のコントラストが見た目から食欲をそそる一品だ。
「これがいつもよりすんごいカレーか……!」
「こんな料理はじめて見ました〜!!」
「ただでさえあんなに美味かったカレーにこんな美味そうな肉がのるとは、スミレも中々やるではないか!」
リューには辛口をコモモちゃんには甘口を渡す。
「それはどうも。ほら、冷めない内にお食べ」
カツカレーが目の前にくるとリューはすぐさまカレーに食らいつく。
「ちょっ、そんな焦って食べなくてもカツカレーは逃げないわよ」
「うまい…美味いぞ!!」
口の周りをカレーでベタベタにしながらも無我夢中でがっついている。その様子だと辛口のカレーも全然平気みたいね。
「トンカツの周りを鎧のように纏った衣とやらの、食感が実に面白いぞ!柔らかい肉とカレーの組み合わせが病みつきに……がっ!!」
すると突然、リューの口がピタリと止まってしまった。
「もしかして、来た?」
「か、辛ぁぁぁーー!!!」
リューーは文字通り口から火を噴き出しながらジタバタと暴れ回っている。
「あー、時間差で来るタイプか」
「口が焼けるように熱い…!前のカレーとは比べ物にならん。ふざけるな!水だ!水をよこせ!!」
「待って!水は、」
リューは私が飲もうと思っていた水のコップを横取りして一気飲みしてしまう。
「ぐあぁぁっ!!」
余りの刺激の強さにリューは更に大きな炎を上空へと向かって噴き出した。
「だから待ってって言ったのに…」
「…ど、どういうことだ!説明しろ!」
「辛い時に水を飲むと逆効果になってもっと辛く感じるのよ」
「そうと分かっているなら、なんでそんな物がわざわざ準備してあるのだ!」
「だって別に私は平気だもん。人の話も聞かずに勝手に人の物まで飲もうとするからこんな目に遭うのよ」
泣く子も黙る無敵の竜王様も辛いのはどうやら苦手みたい。あんなに苦しむリューの姿もこんなに悔しがる姿も初めて見た。どんなに強くても必ず弱点はあるってことね。
「竜王であるこの我を苦しませるとは…激辛とやらも中々侮れんな」
「激辛っていってもただの辛口なんだけど…」
「まさか、この上があるというのか!?冗談だろ!?」
「こんなのまだ序の口よ。下手したら甘いくらいなんだから」
「なんだとっ!?…」
この驚いたリューの顔。待ち受けにしておいたらなんからいいことありそう。
「上には上がいるということか…面白い!」
強がりを言うリューにスミレは少しカマをかける。
「なら今度はもっと辛くしないとね。リューも竜王なら負けっぱなしではいられないでしょ?」
「あ、当たり前だろ!そう来なくてはな。だが、暫くは中辛でいいからな…余計なことはするなよ」
いつもならここで威勢よく啖呵を切っておしまいなのに、柄にもないくらい弱気なリューがまた珍しくて面白い。
「しかし不思議だ。辛いと分かっているのに何故かやめられん!」
「それよそれ。だから困るのよ。癖になったらやめられなくなる」
ドラゴンの味覚も人間と同じ仕組みなら、その内辛さにも慣れてくることだろう。最初はあんなに辛くて苦しかったのに、気づいた時には平気になっていて寧ろこの程度の刺激じゃ満足出来なくなる。もっと痛いのを、もっと苦しめてくれって。
冷静になってみるとやっぱりヤバい。だけどヤバいって分かってるけどやめられないのが辛さの魔性たる所以だ。
「……」
ふと、コモモの方を見てみるとスプーンを持っていた手が小刻みに震えている。多分、リューが騒いでる所を見て怖くなっちゃったのかも。
「大丈夫。コモモちゃんのはあんなに辛くないから」
「ほ、ほんとう?」
「コモモちゃんのママも辛いのが苦手でね、ちゃんと好みは分かってる。だから安心して」
コモモはスミレを信じて、恐る恐るカレーだけを一口。
「…おいしい!!」
さっきまで怖がっていたのが嘘みたいに満面な笑顔に変わる。
今度はトンカツと一緒にまた一口。
「こんなにおいしいお肉、初めて食べました!!」
子供らしくはしゃいだと思ったら、大人のように上品にカレーを口に運ぶ。
「やっぱり親子ね…」
「え?」
「その食べ方も、その笑った時の笑顔もほんとママにそっくり」
「私がママと?」
「カズハは私の作る料理が大好きだって言ってた。外に行けばもっと美味しい料理なんていくらでもあるのにさ、暇があれば私の料理が食べたいって…」
あの頃を思い出してスミレの頬に一粒の涙が伝う。
「スミレさん?…」
「あ、ごめん。ほんとなんでだろ……」
恥ずかしい。私だけは絶対に泣かないって決めてたのに…。
崩壊する涙腺を慌てて顔を隠しすようにして涙を拭う。
「食べぬのならお前の分も我が食べてしまうぞ」
「…食べるぅぅ!」
涙を抑えきれないまま横取りしようとしたリューを捕まえる。
「面倒な奴め。ならさっさと食べろ。冷めぬ前に食えと言ったのはお前だろ」
「ううっ、いただきますぅ……」
一度崩壊したダムは自らのコントロールも効かず止まる所を知らない。
悲しいのか、嬉しいのか、それすらもはっきりしないまま涙ともに辛口のカツカレーを口にする。
「ううゔぅ……美味しいぃぃぃ……」
一口目からガツンとくる数多の香辛料で彩られたカレーのスパイシーな刺激と、サックサックに揚がったトンカツのジューシーさ。それだけではない。幼い頃から当たり前のように食べてきたカレーとご飯との組み合わせが懐かしさや思い出を蘇らせて更に涙が止まらなくなる。
思い出してしまったのだ。料理がそれなりにできるようになって、初めて他人に振る舞ったのがカズハだった。
しかも、あの時カズハが食べたいって言ったのはカツカレーだったって。
本当に偶々。ただの偶然なのに、何か運命めいたものする感じてしまう。
こんなの反則だ……。
「泣くのか食べるのかどっちかにしたらどうなんだ?」
「別に泣いてなんかないわよ…!」
これだけボロボロと涙を流しているんだ。見栄を張っても無理なのは分かっているが、一度は否定したくなる。
「辛口など平気だとか言っていたが全然ではないか。見栄を張って無理をしおって、だからこんな目に遭うのだぞ」
「辛くなんかないわよ……」
その証拠に涙を流しながらもスミレのカレーを食べる手は全く止まっていない。
「だったらなんで泣いている?」
「だって、だってさ…色々と懐かしかったから〜!思い出しちゃったのよ〜!!」
スミレはもう隠すのも諦めて堂々と泣き始める。
「面倒な女だな……」
ダムは一度決壊すると中々止まらない。
自分が日本で死にかけた時も、異世界に来てドラゴンに食べられそうになった時だって一度も泣かなかったのに……この時の私は溜まりに溜まった何かを発散していくように恥ずかしげもなく大声を上げながら、カツカレーを食べ終えても尚、延々と涙を流し続けた。
「わたし、スミレさんの料理が食べれて本当に嬉しかったです。だってママが大好きだったものを私も大好きになれたから」
「コモモちゃんありがとう…私も大好き〜〜!うぅぅぅ……!!」
自分でもどうかしてると思うけど一度流し切ったと思った涙が再び溢れてくる。
とびっきりの笑顔で微笑んでくれたコモモの顔を見て、私は年甲斐も無く涙を流しながら抱きついた。
「スミレさんったら……」
これが歳上の抱擁さか。コモモはこれ以上何も言わず優しく私の背中を優しく摩ってくれた。
「やれやれ。これではおかわりもままならん……」
カズハ。
私、あなたと友達になれてよかったって心から思ってる。
どれもこれもきっと何かの運命よね。ロマンチックなのは私らしくないけど、今日くらいはそう信じることにするわ。
だから安心して、あとは私に任せて。
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