38、人と竜
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「父親の名前が何か分かるか?」
「ごめんなさい。私が生まれた時にはもうパパはいなかったので…」
「そうか……」
アイツとの縁などそうそう繋がるものではないか。
「でも、前にママが言ってました。パパの翼はとっても綺麗だったって!」
「翼か……」
「どう、何か分かった?」
スミレも気が済んだらしいな。こちらの話もちゃんと聞いていたとは。
「いいや、それだけではなんの心当たりも思いつかん」
ただの思い過ごしだったのかもな。
「そういえば気になったんだけど」
「なんだ?」
「コモモちゃんの父親って、もしかしてドラゴン?」
「当然だろ。竜人なんだから」
「やっぱりそうなんだ……」
なんとなくそんな気はしてたけど、未だにまだ信じられない自分がいる。日本じゃまずこんなことフィクションの世界以外じゃ考えられないから。
「竜と交あったことが信じられないか?」
「ちょっと!」
私は慌ててリューの口を塞ぐ。そっとコモモの方を確認すると、熱々の紅茶をフーフーしながら飲んでいてこっちのことは全く気にしていない。
「…子供がいる前なんだからそういうのやめてよね」
しかも私一応アイドルなんだしさ。
「何故だ。竜も人も子を成す為の方法は一つしかないのだぞ」
「だーかーらー!」
もしかしてリューのやつ私みて良からぬこと考えてたりして……いやーもうっ!信じられない!このスケベ!
今まで見たことのない顔でスミレはリュー睨みつけている。
「…さっきから意味が分からん。それにこれは過去の話だぞ」
「そういう問題じゃないのよ」
「昔の竜と人の関係は今と違って対等なものであった。故に人と竜の距離が遥かに近かったからこそ起きた事なのだ。今では有り得んから安心しろ」
「…それって昔はリューもそうだったってこと?」
リューがこうやって私と一緒にいるのはかつて同じように生活を共にしている人がいるから。もっといえばその間に子どもがいたっておかしくない。
「…昔から我にそういう趣味はない」
「本当に?この際だし別に隠さなくていいのよ」
「思い出せ。我がお前と出会うまでは人間を食っていたのだぞ。そんな奴と仲良くできると思うか?」
言われてみればそうだった。私だって喰わるところだったっていうのに、もう昔のことのように忘れてた。今のリューを見てるとあの頃からは考えられない。
「それもそうね」
「そもそも我は人間が嫌いなのだ。喰らうのは好きだったがな」
「笑えないわよ」
結局、人と竜が共存できたのはたったの数百年程度だった。
人は竜の血や素材に価値があると分かると、次第に態度は変わっていた。
やがて竜は人のその傲慢さを嫌い、竜が人を喰らうようになった。
それからだ。竜と人が争う関係になったのは。あれだけ上手くやっていた筈の竜と人の関係はあっさりと崩れ落ちたのだ。
その結果、竜人は人からも竜からも嫌われることとなり、居場所を失い、生きる権利すらも奪われた。もう人と竜の関係が交わることは決してない。誰もがそう断言していた。
それが今はどうだ?
我は人間と生活を共にし、一緒にメシまで食っている。それどころか、滅んだと思っていた竜人ともこうして再会している。
長く生きることは退屈でしかないと思っていたが、こうしてみると案外長く生きるのも悪くないと思えるものだ。
カレーやからあげといった大好物も見つかったしな。
「じゃあ私のこともきらい?」
スミレはいじわるをするつもりであざとい笑顔で敢えてリューに問いかける。
「なんだいきなり」
「いいから答えてよ?」
「…それを聞いてどうするつもりだ?」
「たまには私も褒められたいのよ」
聞いたか?やっぱり女とは面倒な生物だ。あの時代、多くの竜が人の女に惚れていた。事実我の知り合いにも人の女に惚れた奴がいたからな。だがその気持ちが我にはよく分からなかった。
「……知るか」
少し間はあったものの、リューはそれ以上何も答えることは無くそっぽを向いてしまった。
「(なーんだ。つまらないの……)」
だけど、よくよくリューの後ろを見てみると尻尾が少しだけピョコピョコと小刻みに動いている。
「ふふっ…(リューってば素直じゃないんだから。実は意外とツンデレだったりしてね)」
スミレの笑い声にリューが食いつくように振り向いた。
「おい、何が面白い?」
「別に。リューがちょっとかわいかっただけよ」
「は?……」
ぐ〜〜〜〜……
音が聞こえて、ついコモモちゃんの方を見てみると恥ずかしそうに顔を覆っていた。お腹を空かせた音も、その仕草すらもかわいくてしょうがない。
「ごはんたべよっか」
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