36、ママの名は
閲覧感謝です!
「ほら入って。遠慮しないで」
「おじゃまします…」
少し緊張した面持ちながら、礼儀正しく一礼を済ませてワイルドキャットの敷居を跨いだ。
ほんと、見た目の歳に似合わずしっかりしてるわ。きっと親御さんもこの子に似て礼儀正しくしっかりした人に違いない。
「ここならゆっくりしても大丈夫。暫くは私達以外誰も来ないから安心してね」
「あ、はい」
予めハルア達にはざっくりと事情を説明して店を開けてもらっている。勿論、竜人を連れてくるとは一言も言っていないけど、まぁ大丈夫でしょ。
スミレは慣れた手つきで手早く紅茶を淹れる。
「は〜いお待たせしました〜。どうぞ」
「ありがとうございます」
「もう、そんなに硬くならなくもいいから。もっと楽にして」
「はい…」
そう言われても簡単には難しい。そんな風に思ってるのがひしひしと伝わってくる。
「スミレ。我の紅茶はまだか」
「え、リューが紅茶?珍しいわね」
普段、食事は一緒にしても飲み物を飲む姿なんて一度も見たことがない。変わったこともあるものね。
「我だって喉を潤したい時だってあるに決まっている。早く用意しろ」
「分かったわよ」
一杯淹れるのも二杯淹れるのもさほど変わらない。温めておいたカップに熱々の紅茶を注いで渡す。
「はいどうぞ。熱いから気をつけて、」
リューは私の忠告を無視し一気に紅茶を飲み干した。
「アッツ!お前は我を焼き付くすつもりか!?」
人の話を最後まで聞かないからこうなるのよ。ドラゴンなら口から火とか出して当たり前でしょ。それなのにドラゴンが猫舌とはちょっと意外よね。
「だから言ったでしょ。熱いから気をつけてって」
「知るか。熱いと分かっているなら、冷ましてから出せばいいだろ!」
「それこそ知らないわよ。熱いのが苦手ならフーフーしてから飲むとか色々工夫しなさいよ。あ、出来ないなら私がやってあげようか?」
スミレは自分の分の紅茶を優しくフーフーすると、リューに差し出す。
「ほら、飲む?」
「飲むか!竜王である我がなぜお前に助けてもらわねばならんのだ!」
「ならいいわよ。もうやらないから」
「ま、待て。それとこれとは少し話が違うだろ」
文句言いながらも紅茶の味には満足したみたいね。しょうがないから今度は少し冷ましてから出してあげますか。
氷とかがあればアイスティーにも出来るんだけど、今のところは難しそう。
「ふふっ…」
すると少女はあの時同様、スミレ達の様子をひっそりと笑い声を漏らした。
「また笑った」
「あ、ごめんなさい…」
「なんで謝るの?コモモちゃんの笑った顔、めちゃくちゃかわいいのに」
出来ることならこの場でギュッとしたいくらい。やらないのは、それをしたら嫌われるって分かってるから。
こんなかわいい子に嫌われるくらいなら死んだ方がマシだ。
「かわいいなんて、そんなの初めて言われました…」
「そうなの!?こんなにかわいいのに!?」
驚く私を見て、コモモちゃんまで意外な顔をしている。
「コモモからしたらお前の反応の方が驚きみたいだな」
「なんでよ?」
「当たり前だろ。褒められることより、貶されることの方が慣れている。特に人間達からはな」
「だからなんでよ!?」
「コイツが竜人だからだ」
何よそれ。要するに人種差別ってこと?なんで異世界なのにそんなことで悩まされなきゃいけないのよ。
魔法もモンスターも存在する異世界なのに、そういうのはどこも変わらないってことかしら。
日本にいた頃は違う世界に行きたいって何度も想像してた。子供の頃は特に。でもこういうの見せられちゃうと、夢もへったくりもないわよね。どの世界も一緒だって現実を突きつけられてるみたい。
「しかし、竜人は百年前には完全に滅びたと我は思っていた。それがまさか生き残りがいるとはな……」
「私もドラゴンに会えるだなんて思ってもいませんでした。それも竜王様だなんて」
「竜王って言ったってこんなんよ。しかも暴食の竜王。ただ食いしんぼうなだけでしょ」
「……スミレさんっておもしろいですね」
「へ?」
何それ。面白いこと言ったつもりなんかこれっぽっちもないんだけど。
「そうであろう?こやつは面白いのだ。コモモは見る目があるではないか。気に入ったぞ」
「ありがとうございます竜王様」
「リューで構わん。いや、そう呼んでくれ」
「リュー様」
「そうだ。それでいい」
「ねぇ、だから何が面白かったわけ?」
私の疑問にはなんの答えも得られないまま、急激に2人の距離だけが縮まっていく。
コモモちゃんは私よりリューと話している方が話しやすそうだ。それを私は少し羨ましく思いながらも、ここは大人しく黙って見守ることにした。
「しかしとっくに絶滅していたと思っていた竜人がどうしてあんなダンジョンにいたのだ?」
「実は、この街に来てすぐ人間に見つかってしまったから、あそこに逃げこんだんです」
「なるほどな。そういうことか…それで納得した」
「大変だったんだね。もう大丈夫だから」
きっと怖い思いをしたのね。まだこんな小さいのに一人でそんな目に遭うだなんて、親は一体何をしてるのよ。
「ママからダンジョンは危険だって聞いてたんだけど、でもそれなら人間達もすぐには来れないと思って……」
「利口じゃないか。流石は竜の血を受け継ぎし子だな」
「ううん。ママと比べたら私なんか全然……」
「そんなこと言わないで。自分を誰かと比べるだなんてナンセンスよ」
「え、」
昔、これと同じことを私に言った女がいる。だからこれは彼女からのただの受け売りだ。
「って、ナンセンスって言っても分からないか。ナンセンスってのはね」
「分かります。ママがよく同じことをわたしに言っていたから」
「え?」
一瞬、意味が分からなくなった。
これはことわざでも無ければ、どっかのドラマや漫画の有名なセリフというわけでもない。確かなのは私が二十数年生きてきて、こんなことを言われたのはたった一人からたった一度だけだということ。
それなのにどうして、違う世界に住んでいるこの子がそれを知っているのよ。
「なんでスミレさんはママの言っていたことを知っているの?…」
「ごめんなさい。私にも分からないわ……」
どうしてなのか、それは私が知りたいくらいだ。同じ言葉を異世界でも言った人がいるってこと?いやいや、絶対にあり得ない。いくらここが異世界だからってそんな偶然あるわけがない。
「コモモちゃん。それを言ったママって今どこにいるの?」
「ママは……もういません」
その時、頭の中で過った最悪の可能性。
「嘘だ。いや、あり得ない。そんなのあるわけがない。きっと気のせいに決まっている」
「どうしたスミレ?」
私はそれを必死に否定しようと、コモモに近づくと私は気づいた。
コモモが付けていたのはリボンの形をした緑色の小さなペンダント。わたしの知っているものよりは少し古びていてるようにも見えるが間違いない。
あれはグループ結成5周年記念で限定生産された記念グッズだ。私もそれと同じ自分のメンバーカラーである紫色のリボンを持っている。きっと私のファンも同じ物を持っていることだろう。
でも、緑色のリボンを持っている人物は一人しか存在しない。何故ならそれがグッズとして売られることはなかったからだ。
グッズ製作時には勿論売る予定だった。しかし、間も無くしてそのメンバーはスキャンダルで問題を起こしグループを卒業したため、グッズが世に出ることは無かったのだ。
「ねぇ、そのペンダントってどうしたの?……」
「ママがくれたんです。ママが大切にしてる物だから、今度は私に持ってて欲しいって」
「そう……」
しかもコモモが付けていた緑色のリボンには発売した商品には無かった星柄がプリントされている。あれは企画当初の試作品だ。没になったことで他は廃棄されたと聞いている。
そもそも正規品に緑色は存在しないから緑色のリボンが作られたのは企画当初のその試作品だけ。
それを持っているのは私が知ってる限り、あの時試作品を記念にと持ち帰った彼女だけだ。彼女はそれを見て嬉しそうに喜んでたことを今も覚えている。
「あのさ、ママの名前って分かる?……」
「うん…」
「教えて」
聞きたくないような、聞きたいような。でも聞かなきゃいけない。そんな気がした。
「カズハ。タカマキカズハです」
「やっぱ、そうなんだ……」
ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。
よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!
少しでも「面白そう!」「続きが楽しみだ!」
などと思っていただけましたら、下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントも入れてくださるとめちゃくちゃ嬉しいです!
次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。




