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35、季節外れの七夕は奇跡を起こす

閲覧感謝です!


「ダンジョンの主である守護者を倒して、手に入ったのがただの紙切れだけとは些か考えられん。これは本当にただの紙切れなのか?」


「どこからどう見たってそうでしょ。これはただの短冊よ!」


 強いて言うならちょっといい感じの厚紙で出来てるってくらいね。そのくらいしか褒めるところが何も無い。


「短冊?ただの紙切れでは無いのか?」


「言い方が違うだけよ。私のいた世界だとね、七夕の日に短冊に自分の願いを書くとその願いが叶うと言われてるのよ。勿論ただの伝説みたいなものなんだけどさ」


「願いが叶うか…面白い。ならば試しに書いてみろ」


 私より遥かにリューの方が興味津々だ。短冊に夢中だなんてやっぱり子供みたいね。七夕でも無いのに、しかも異世界で短冊に願いを書いたって織姫様や彦星様には何も届かないと思うけど。


 まぁ、それでリューが納得するならなんでもいいか。


「書くのはいいけど、なんて書くのよ?」


「カレーだ!カレーをよこせと書け!」


「はいはい分かったわよ」


 そういえばこうやって短冊を書くなんて何年ぶりだろう。小学生の頃に学校の行事なんかでやったような気がするけど、その時なんて書いたかも覚えてないや。


「〈カレールーを沢山貰えますように〉と、これで良し」


 冷静になってみるとバカみたいな願いごとよね。こんな願いごと小学生でももっと可愛げがあってマシな願いがごとを書くと思う。


「ほら書いたわよ」


「何も起こらんでは無いか」


「だから言ったでしょ。本当ならこれで笹の葉に飾ったりするんだけど、ってええ!?」


 すると突然、願いごとを書いた赤い短冊がキラキラと光を放ち始める。


「おい光っているぞ!!短冊とはこういうものなのか!?」


「なわけないでしょ!どこのホームセンターに光る短冊なんか売ってるのよ!」


 今何が起こっているのか訳もわからぬままいると、短冊は眩い光を放ちどこかに消えていった。


「まぶしっ…さっきから一体何がどうなってんのよ……」


 眩んだ目を擦りながらゆっくりと開けると、目の前には信じられない物が置いてあった。


 異世界ではあり得ない大手通販サイトの〈bakuten〉のロゴが入ったダンボール箱だ。日本では日常のように利用していて、家にはゴミ捨ての日をジッと待っている空き箱が沢山放置されている。


 それがまさか異世界で目にすることになるなんて思いもしなかった。


「奇妙な宝箱だな」


「これは宝箱じゃなくてダンボール箱よ」


「ダンボール箱?名前までおかしな宝箱だな」


 だけどどうしていきなり〈bakuten〉のダンボールが通販とは無縁の異世界に現れたのかしら。


 様々な疑問を抱えながらもスミレは慣れた手つきでダンボールのガムテープを剥がし開けていく。中には伝票などは入っておらずプチプチが梱包材として中身を包んでいる。


「箱の中からまた奇妙な物が…どうして直ぐに中身が出てこない?」


「過剰な梱包は日本クオリティーってやつよ」


「意味が分からん。無駄なだけだろ」


「まぁそう言わずに。それにこのプチプチは中身を守る為以外にも使い道があるんだから」


 スミレは中身包んでいたプチプチをリューに差し出す。


「我にこれをどうしろと?」


「この丸いの潰してみて?」


「フン」


 随分と余裕げなスミレの様子を鼻で笑い飛ばす。


「いいからやってみて。きっとハマるから」


「だからそれがどうした…なっ!」


 半信半疑だったリューに電流が流れるように衝撃が走った。


「な、なんだこれは……!手が、手止まらん!」


 プチッ、プチッと心地の良い音色が奏でられダンジョン内に響き渡っている。


「気持ちいいよねそれ。しょうもないんだけどさ、やってみると結構ハマるのよね〜」


「スミレ、これは恐ろしいぞ……この妙な快感に我は自分を抑えられん……!!」


「気が済むまでやってていいから」


 プチプチ潰しに夢中のリューを置いて、改めて中身を確認する。


「やっぱり間違いない。私がよく使ってたカレールーだ」


 しかも中身はご丁寧に甘口から激辛までの様々なバリエーションが揃っている。これだけの量があれば何皿作れるのか…流石のリュー相手でも暫くはカレーに困ることは無さそうね。


「これってあの短冊の願いが叶ったってことよね?」


 もしそうなら、この短冊は私が思っていた以上にとんでもない代物なのかもしれない。ハズレどころか大当たりだわ!


「その箱の絵、カレーではないか!?」


「そうよ。本当にリューの願いが叶っちゃったみたい」


「竜王である我の願いが叶うのは当然だろう」


 そんなこと言われてもプチプチしながらだと全然説得力が無い。


 あーー…そう思ったらカレールー程度に願いを使ってしまったのがめちゃくちゃ悔やまれる。分かってればこんなこと貴重な願いは使わなかったのにさ。


 まぁ、まだ4枚あるし残りは落ち着いて考えればいい。


「あの、」


 コートの袖を引っ張り少女は小声で私に問いかける。


「ん!?」


 しまった。私としたことが、宝箱に夢中になり過ぎててこの子のこと忘れてたわ。


「どうしてわたしを助けようとしてくれたんですか?自分が死ぬかもしれなかったのに…」


「あ、ほんとだ。そうね、確かにどうしてだろう?」


「え?」


 言われたら自分でもよく分からない。あの時は本気で慌てて自分でも何を考えていたかよく覚えてない。ただ、気づいた時には勝手に体が動いていた。


「ごめんね。私もよく分からないや」


「分からないのに助けてくれたんですか?だって私はあなたと違って人じゃないのに……」


「違うよ。それは関係無いから」


 助けた理由を聞かれても、カッコいい事は答えられないけどそれだけははっきりしてる。


「私はアナタを助けたいと思ったから助けたんだと思う。目の前で誰かが死ぬところなんて見たくないでしょ」


 それに私からしたら角が生えてる女の子がおかしいとは思えないのよ。だってここは異世界だし。それに、目の前にドラゴンがいるんだから今更角が生えてる程度では驚かない。


「ほんとうにそれだけの理由で……?」


「それだけってこれだけあれば十分でしょ。他に何か必要?」


 フード越しからでも少女が不思議そうな顔をしているのが伝わってくるようだ。


「私、なんか変なことでも言った?」


「はい……」


「え、マジ!?ごめんなさい、全然気づかなかった。どうしよう、恥ずかしいんだけど……」


 まさかの即答にスミレは不安でいっぱいになる。


「諦めろ小娘。スミレにこの世界の常識は通じない」


「ちょっと何よそれ。人を常識外れみたいに言わないでくれる?」


「みたいじゃない。そう言ったのだ」


「だからそれをやめてって言ってるのよ!」


「ふふっ……」


 またつまらないことで揉めるスミレ達の様子を見て少女はつい、かわいい笑い声を漏らす。


「笑った……!」


「あ、いまのもわすれてください」


「無理。あんなかわいい笑い声を忘れたくても絶対無理だから」


 一瞬の笑い声は天使が微笑んだように私には聞こえた。聞いただけで耳が幸せになるような笑声だった。


「もう分かったと思うがコイツは普通じゃない」


 手当たり次第にプチプチを潰し続け、もう音も聞こえなくなっていた。そのおかげかリューはなんだか満足気だ。


「普通では無いからこそスミレは竜王である我の眷属になれたのだ」


「りゅうおう……!?」


「そうだ。何があったかは知らんがスミレはお前が知っている人間とは出来が違うから安心しろ。大抵のことでは驚かん」


 リューのヤツ、聞いてれば好き勝手なこと言っちゃって。


「あのさ、さっきから私のこと褒めたいのか貶したいのかどっちなわけ?」


「さあな」


「なによそれ」


 リューは知らぬ顔でそっぽを向く。


 自らを竜王と名乗るドラゴンとそれと対等に話す一人の人間。人間とドラゴンは決して相見えることの無い絶対な関係。


 ずっとそう思っていたし、嫌と思うほどそれを思い知ってきた。そんな少女にとって目の前で広がる光景は、ずっと思い描いていた幻想であり唯一の理想だった。


 それが今、目の前にある。幻想と理想が現実に変わり、少女に勇気ある一歩を踏み出させた。


「この姿をみても驚きませんか?…」


「……かわいい」


「え?」


 キュートなピンク髪に生えた小さな両角。キリッとした目元と口元には薄らと牙のよう物も見える。


 可愛らしいルックスにクールな面持ち。控えめに言ってどストライクだわ!


「推せる。最高に推せるわ!!」


「え、あの……」


 異様にテンションが上がっているスミレの様子に少女は終始戸惑っている。


「やはり我の予想通り竜人〈ドラゴニュート〉であったか」


「……はい」


「まさかこの時代に生きた竜人と出会えるとは。しかもまだこんなにも幼いとはな」


「ねぇ、色々と気になるの分かるけどここじゃあれだからさ、ひとまず場所変えない?」


 このままだとそこそこ長い話になりそうだ。それをこんな何もない物騒なダンジョンの中では安心して話すことも出来ない。さっきみたいな妙なモンスターに邪魔でもされたら敵わないわ。


「そうだな。お前もそれで良いな?」


「あ、はい」


「そうだ。そういえばまだ名前を聞いてなかったわね。私はスミレ。それでこのドラゴンが」


「竜王リュードヴルムである。まぁ、竜王様でもリュー様でも好きな方で呼ぶがいい」


「こ、コモモです」


「コモモちゃんか。いい名前ね、かわいい見た目にピッタリの響きだわ」


 だけど異世界にしては日本ぽい古風な響きをした名前よね。まぁかわいいから別にいいんだけど。


「じゃあ行こうかコモモちゃん」


 名前は決して自分では付けられない。それを付けた者が必ず存在する。しかしこの時の私はそれを知ろうともせず気にも止めなかった。


 それもその筈だ。まさかこの出会いがとんでもない縁で繋がっていただなんてこの時の私には知る由も無いのだから。


ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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